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遭遇

 

「追え、追え! 逃がすな!」


 学院の中は大騒ぎ、とてもじゃないが正気とは思えないね。

 まぁ、騒動の中心にいる俺が言えたことじゃないけどさ。と、俺は学院の屋上に寝転がりながら校舎内の喧騒に耳を傾ける。

 戦う相手が途切れないのは良いけど、続けてると飽きも出てくるんで、こうしてインターバルを挟みつつって感じだ。


「しっかしなぁ、俺を倒せば研究院に入れるって?」


 よくよく考えるまでもなく、袋叩きで俺を倒したら誰が倒したか分からないし誰に評価をあげたらいいのかも分からないんじゃない?


「あんまりマトモじゃねぇよなぁ、ここもさ」


 思えば、俺とマー君が戦った時だって、勝った方が学院に残れるみたいなトンデモルールだったし、この学院って、教育の方向性が戦闘方面に偏りすぎな気がするぜ。

 そんなに戦いを意識させてどうするのかね? マー君も言ってたけど魔術ってのは戦闘に使う物ばかりじゃないんだし、戦闘の技術だけ鍛えても仕方なくない? この学院の教育方針が分かんねぇなぁ。


「見つけたぞ!」


 おっと、考え事をしてたら、見つかっちまったよ。

 今度の相手は……今度も白服達か。やっぱり不自然に魔力が多いよなぁ。


「今度は何処のどちら様?」


 俺が訊ねると白服の学生達は腕章を俺に見せつける。


「我々は風紀委員だ。貴様の存在が学院の風紀を乱していることは明らか。ここで始末させてもらう」


「転校生が現れて一ヵ月も経たないで乱れる風紀って、それって既に根っこが腐ってたんじゃないですかねぇ」


 俺がやったことと言えば喧嘩をしてたくらいだぜ?

 まぁ、それが問題なのかもしれないけどさ。


「でも、なんだろうな、この違和感。喧嘩ばっかりしててマトモな学院生活を送る気も無い俺が言うのもなんだけど、どうにもこの学院は薄っぺらいんだよなぁ。魔術士の育成が目的? なんだろうね、今の状況を見てる限りじゃイマイチ、その目的を達成できるカリキュラムじゃなさそうな──」


「何をゴチャゴチャ言っている!」


 俺の思考を遮るように風紀委員の学生が俺に向けて魔術を放つ。

 一人がシンプルな火球の魔術だ。俺はそれを横に軽く跳んで避けると、着地した足場に魔法陣が現れ、底から伸びた魔力の縄が俺を拘束しようとする。とはいえ、魔力で作られたその縄の動きは呆れるほど遅くて、俺が即座に飛び退くだけで簡単に回避することができた。


「速いぞ!」


「キミらが遅いんだよなぁ」


 風紀委員の学生達は続けて俺に魔術を放つ。

 火球だったり、空気を圧縮した弾丸だったり、岩の塊だったりが、俺に向けて放たれる。

 流石に数が多いからか弾幕は絶え間なく、俺の方は躱すだけで、なかなか前に出ることは出来ず、自然と屋上の端へと追い詰められる。


「追い詰めたぞ!」


「残念、そりゃ間違いだ」


 トドメのつもりで放ったと思しき火球を後ろに跳んで回避する俺。

 屋上の端ってことは後ろには何もないわけで、そんな状況で後ろに跳んだ俺は当然、屋上から飛び降りる形になり──


「落としたぞ!」


 スゲェな、喜んでやがる。転落死上等で攻撃したとか、ここの学生怖いわ。

 まぁ、実際は落ちてはいないんだけどね。

 俺は屋上から飛び降りると、落下する中で下の階の窓枠を掴み、その窓に体を滑り込ませる。そして校舎の中に戻ると、別の窓から飛び出て、壁を伝って屋上に戻る。


「はい、残念」


 飛び降りてから一分もかからず屋上に戻った俺は、俺に魔術を撃った学生たちの背後に回り込み、その背中に飛び蹴りを叩き込む。不意打ちで全く防御の態勢が撮れてなかった、その学生はマトモに食らった蹴りの衝撃で前のめりに倒れこみ、顔面を強く打って起き上がらなくなる。


「こいつ、どこから!」


 即座に反撃の魔術を撃とうとする残りの学生達、俺は狙われるよりも早く駆け出し、屋上から再び飛び降りる。


「逃げたぞ!」


 残念、逃げてません。俺は飛び降りたと見せかけ、屋上の端に指をひっかけ、ぶら下がっていた。

 そこに俺の行方を探そうと学生が屋上の端から身を乗り出し──


「やぁ、どうも」


 ──俺の眼が合う。

 そいつが声をあげるより速く、俺はそいつの襟首を掴んで屋上から引きずり下ろす。

 流石に投げ落としたら死ぬかもしれないんで、片手は屋上の端に指をかけつつ、もう片方の手は学生の襟首を掴んでいる。


「は、放──」


 放したら死んじゃうだろ? そっちは殺す気でも俺はキミらを殺す気が無いんでね。

 俺は片手で自分の体を支えた状態から、学生の顔面を校舎の壁に叩きつけて、意識を奪った後で、下の階に投げ込み、俺もその窓の中へと滑り込む。


「覚えてよかったパルクールってな」


 人間だった時から階段を使わずに建物の上下階を移動する練習はしてたし、実際にやってたわけだが、その経験が生きてるぜ。

 俺は別の窓から這い出て、校舎の壁を昇って屋上に上がると、全く見当違いの方向を探していた学生を背後から殴りつけ、即座に屋上から降りて姿を隠す。そして、再び俺の姿を見失った奴らを同じような流れで、ぶん殴り、意識を刈り取る。

 そうしている内にほどなくして俺を狙ってやってきた風紀委員の学生は全員、俺にぶちのめされて屋上に倒れ伏した。


「歯ごたえがないなぁ」


 俺のスペックもこいつらが頑張れば倒せる程度には落ちてるはずなんだが、負ける感じが微塵もないのはどういうことなんだろうか?

 戦闘経験の差? いやでも、こいつら戦闘関連の魔術に偏って学んでるんだぜ? それなら関連した戦術なりを仕込んで、経験を補うようにするはずなんだけどなぁ。


「良く分かんねぇな。教えることは戦闘に偏ってるくせに、徹底さが見られず手抜かりが見られる。それは敢えてそうしているのか?」


 ……まぁ、いま考えても明確な答えは出てこないし考える必要もねぇか。そんなことより、今は──


「塔は目と鼻の先なんだがなぁ」


 屋上からは賢聖塔が見える。

 そこは塔を研究棟に囲まれているだけで、俺を阻むものは無いようにも見えるが、強力な結界が侵入者を拒んでいるのを感じ取ることができる。

 結界をどうにかしなければ中に入るのは厳しいだろうが、さてどうしたものか。


 ……とはいえ、それもまぁ今はどうでもいいことか。

 重要なのは、俺が塔から目と鼻の先にある学院で、馬鹿みたいに喧嘩を繰り広げていることだ。

 さて、俺みたいに強い気配を持った奴が近くで暴れてたら、厳重な防壁の中にいる奴はどう思うだろうか?

 気にならない? それもあるかもしれないし、それなら今回は俺がちょっと楽しかっただけで終わるわけだが、幸いそういうことにはならなかったようだ。


「そろそろお出ましになる頃だろうと思ったよ」


 これだけ俺の気配を隠さずに大立ち回りを繰り広げたんだ、塔の中にいる奴は気になるよなぁ。

 そして、そいつの配下に気配を感じただけで俺が何者か分かる奴がいれば、尚更だ。塔の中にいる賢者様は俺に接触したくなるんじゃない? 自分自身が来ることはないだろうが、手下を送りつけてくるくらいはするだろうし、そうして送り付けてくる奴は──


「──邪神アスラカーズ」


 背後から俺の名を呼ぶ声がする。姿を見なくても気配だけで分かる、こいつは間違いなく俺の使徒だ。

 やっぱり来たかって感じだぜ。マー君に塔に使徒がいるって話を聞いた時から、塔の近くで暴れりゃ使徒が出てくるんじゃないかと思ったが、その通りになったわけだ。

 それじゃあ、顔を拝ませてもらおうかと、俺は振り向き、そして──


「……どちら様?」


 振り向いた俺が見たのは見知らぬ顔の俺の使徒だった。

 その姿は金色の髪を肩口まで伸ばした整った顔立ちの少女だった。身に着けている服は一見するとドレスのようにも見えるが各部が鎧で守られていて、ひらひらとしたスカートから覗く足は脚甲で覆われているのが見える。

 一言で表現すれば女騎士といった感じだろうか? だけど、こんな使徒は俺は知らないんだよなぁ。一応、使徒の中にも女騎士はいるんだけど、そいつは見た目がアマゾネスって感じだし、「美形以外の遺伝子はいらない」と言って手当たり次第に通りすがりの男の去勢を始めるヤバい奴だし、俺の目の前にいるクソ真面目そうな女騎士とは似ても似つかないんだよなぁ。

 それでも使徒の気配を感じるってことは使徒なんだろうけど、そうなるとアレかな?


「お初にお目にかかります。我が主よ」


 俺が答えを口にするより先に女騎士風の使徒は俺に向かって跪く。


「使徒序列第6位アダム・アップルシードより使徒に任命されました、使徒序列14位セレシア・サングティスと申します。以後お見知りおきを」


 やっぱり、俺が選んだ使徒じゃなかったか。

 序列一桁台の使徒には暇があったら俺の代わりに使徒になる奴を見つけといてって命令を出してるから、6位のアダムが勝手に使徒に任命してるのは問題も無いし、文句も無い。

 そんでもって、そのことに対する報告が無くても良いし、俺と顔合わせもしなくてもいいってことにしてるから、こいつの存在を俺が知らなかったことも、問題じゃない。

 まぁ、そんなことやってるから顔も名前も知らない使徒が出てくるんだけど、それだって大した問題じゃない。じゃあ、何が問題かというと──


「アダム様よりお話は伺っておりましたが、この目でそのお姿を拝見できたことは光栄にございます」


「頭を上げても良いぜ。俺と使徒の関係ってのはそんなに堅苦しいもんじゃないからさ」


 俺が気にするなって感じで言うとセレシアは立ち上がり、次の瞬間、セレシアの手に剣と盾が現れる。


「ま、予想通りというか何というか、平和的な感じじゃないな」


「えぇ、申し訳ありませんが私は召喚された身ですので、召喚していただいた主の命には逆らえません」


 セレニアは剣と盾を構え、戦闘態勢を取る。

 こうなることは予想通りだ。召喚した奴の命令に素直に従う奴なら、敵対することになるだろうってのは予想通りだし、そうでなくてもアダムの選んだ使徒ならな。


「召喚者に逆らえないって理由だけかい?」


 多分、違うよなぁ? 


「はい、召喚者の命に従って貴方を排除しに参りましたが、この状況に関しては私個人の意思も少なからず存在します」


 だよね、アダムが選んだ使徒はだいたいこういうことになるから俺も分かるよ。


「先ほどから拝見しておりましたが……貴様は私が仕える神に相応しくない」


 セレシアは丁寧な口調をかなぐり捨てて俺に殺気を放つ。

 問題ってのこういうことさ。


「やっぱり、アダムの選ぶ使徒とは合わねぇわな」


 アダム・アップルシード──使徒序列6位。俺よりも長い時間を生きている共食いの吸血鬼で、使徒でも最強クラス。

 俺との関係は凄く良いし、仲良しだって自信を持って言えるんだけど、どういうわけかアダムが任命した使徒は俺との相性がすこぶる悪い。

 アダムに悪意はないんだろうが、アダム自身がマトモな感性の持ち主のせいで、選んだ使徒はクソ真面目でマトモな奴が多く、そういう奴らと俺は折り合いが悪いんだよね。


「私を見出してくれたアダム殿には申し訳ないが、私は邪悪な神の存在を許しておくわけにはいかない」


 セレシアからすれば、ここまでの俺は勝手気ままにやってる奴に見えただろうし、神様に相応しくないって思われても仕方ないかもね。

 まぁ、神に対してその程度の認識しかないって時点で、使徒になりたてだってのも分かるし、世間知らずだってことを責めるってのは好きじゃないから、俺は何も言わないけどね。


「許さないっていうけど、それならどうするつもりなんだい? プンプン怒って終わりかい? 可愛いね。それなら、俺もゴメンネって可愛く言って終わりにしたいんだけど、どうだい?」


 子供の喧嘩の仲直りみたいなことをしたいのか? そうじゃねぇだろ?

 剣を出した以上、何をしたいかは分かるぜ。ハッキリさせようか?


「当然、貴様を打ち据え反省を促し、真っ当な神となるよう力を尽くす。主の間違いを正すのも臣下の務めである以上、貴様に仕える使徒である私はその責務を果たすだけだ」


「反省しなければ?」


「殺すだけだ」


 はっ、良いね。そうじゃなきゃなぁ、俺の使徒ならさぁ!


「それなら、最初から殺し合おうぜ? 俺の辞書に反省の二文字は無いからさ」


「そう望むのなら従おう──アスラカーズ72使徒序列14位セレシア・サングティス──」


 俺の言葉を受け、セレシアが剣と盾を構えて名乗る。

 ならば、俺も名乗ろうか? だが、俺が名乗ろうと口を開くよりも早くセレシアは──


「──参る!」


 そう宣言し、一気に距離を詰めてきた。



アスラカーズ72使徒(情報整理)

・アスラカーズの手下兼遊び相手。

・72使徒だが72人いるわけじゃない。実際は30人未満

・序列の順位は強さの順番じゃない。

・順位は希望した番号を貰える。

・72使徒なのに30人未満だが、それでも順位被りがいる。

・序列は基本的には強さの順番ではないが、それでも序列一桁台の別格という扱い。


・序列一桁台の使徒は使徒を任命する権利が与えられている。

・一部の使徒は72使徒が全員埋まるように頑張って人材発掘している。

・自分で選んだ使徒以外はあまり興味が無いのでアスラカーズは良く知らない。

・アスラカーズ自身、使徒が何人いるかも良く分かってない。


・ハッキリとした主従関係があるわけではない。

・アスラカーズと使徒の関係は基本的にギブアンドテイクの利害関係に基づく。

・長い付き合いのせいで腐れ縁の悪友のような関係になっている使徒もいる。


現時点での登場(名前だけも含む)

序列3位 ガイ・ブラックウッド

序列6位 アダム・アップルシード

序列7位 ゼルティウス


序列14位 セレシア・サングティス

序列49位 エルジン・マクベイン(マーク・ヴェイン)

序列56位 シリウス・アークス(シウス・イクサス)


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