学院復帰
エルディエルに襲われてからは特に何事もないまま時は過ぎ、俺とマー君の謹慎期間は終わり、俺達は学院に復帰することになった。
「停学とか慣れてるから何とも思わないんだけどね」
「俺は人生初だよ、クソが」
なら、マー君は登校する際に遠巻きにコソコソと話しながらこっちをチラチラと見てくる学生達の視線に晒されるのは初めてなのかな?
俺は慣れてるから気にならないけどな。何処に行っても注目される人間なもんで、慣れっこさ。
気になるようだったら、追い払ってやろうか?
「オラァっ!」
俺は唐突に声をあげて近くにあったベンチを蹴り飛ばした。すると、俺達を見ていた学生たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から一目散に逃げ去っていく。
「あはは、見たかよ? 情けねぇ連中だぜ」
ちょっと脅かしただけでビビッて逃げていくとか、根性なさすぎ。
キミらは誇りある魔導院の学生なんだから、むしろ向かってくるくらいであって欲しいね。
「なんで目立つようなことをするんだよ。テメェの脳は味噌の代わりにクソでもつまってんのか?」
「自分の頭を開いてみたことがねぇから、分かんねぇなぁ」
こんな感じで俺とマー君は連れ立って登校している。
周囲の雰囲気は悪いけれども、別に気にしない。
注目されるのに慣れてるのと同じくらいに歓迎されないってのも慣れっこなもんでね。
「──それで、どうするんだ? テメェに言われた通りに準備はしておいたが」
マー君が今後の計画について話題を振ってくる。
俺が頼んでおいた仕掛けはしておいてくれたようだ。
「なら、問題ないさ。後は俺に任せておけって」
「それが嫌なんだよ」
キミに嫌な思いはさせないから大丈夫だってのにマー君は心配性だねぇ。
話している内に俺のクラスの前に到着したので、俺とマー君はここで別れる。詳しい計画は話してないが後は流れで何とかなるだろ。
「おはよう」
俺は爽やかな笑みを浮かべながら教室の中に入る。
すると、それまでそれなりに賑やかだった教室の中が静まり返る。
「おいおい、困っちまうなぁ。みんな、俺に見惚れてるのかい?」
イケメン過ぎるのは罪だなぁ。
……まぁ、そんな訳はないけどな。
「なんだい、なんだい? 俺がいるところじゃ話もしたくないって?」
俺は近くにいた名前も知らないクラスメイトの男子に近寄って馴れ馴れしく肩を組む。
「ひっ」とかいう小さな悲鳴が聞こえてくる。そりゃあ、転校してから暴力事件を起こしまくっている奴と関わり合いになりたくないよな。
「そんなに怖がるなよ。ぶん殴っちゃうぞ?」
殴るわけねぇけどな。
でもまぁ、上下関係をハッキリさせるために威圧はしておく。
誰が上かってのを分からせておいた方が楽だからね。
「す、すいません」
「は? 何に対して謝ってんの? 俺がキミを殴るとでも思ってんの? 俺はキミを殴る理由が無いんだけど、キミは何か思い当たることがあるんだね? 俺に殴られても仕方ないことをしてたってことか? へぇ、そうなのか? なんか俺の不興を買うようなことをしたのかぁ」
「い、いえ……」
そんなに怖がらなくても良いのにね。
俺が悪い奴みたいじゃん。まぁ、悪い奴なんだけどね。
俺は肩を組んでいたクラスメイトを放してやる。
なんか、自分は関係ないって感じになってる連中が多いようなんでね。
「あ? なに見てんの? なに、もしかして皆、自分は関係ないって感じ? 冷たいなぁ、クラスメイトが困ってるってのにさぁ!」
困らせてるのは俺なんだけどね。俺は声を荒げて近くにあった机に蹴りを入れる。
少し大きい音がするだけで済むかと思ったら、机は思いのほか脆くて簡単に砕け散る。
「挨拶がなってねぇんだよなぁ! 俺が教室に入ってきたら俺が挨拶するより先にテメェらが挨拶するのが筋ってもんだろうが!」
何で? 自分で言っていて何でって思うけど、こういう時に大事なのは勢いだ。
誰がこの教室のトップなのか上下関係をハッキリさせるためには勢いが大事だ。
「俺がこのクラスのボスだ。分かってるか?」
番長とかいるような学院だったら良かったんだけどね。
いない以上、自分で宣言するしかないから間抜けだが、こうしてハッキリと口にした結果、教室内にいたクラスメイトが俺に対して明らかに委縮した態度を見せる。
いいね、良い感じにコントロールできそうだ。
俺の言いなりになるかどうかは難しいところだが、俺にハッキリと文句を言ってくる奴は少なくなっただろう。
「うわ? どうしたの?」
不意に教室の入り口から声がした。
そちらを見るとジュリちゃんが戸惑った様子で怯えたクラスメイト達を見て、それから俺を見ると──
「えっと、やめた方が良いと思うよ?」
俺を注意するジュリちゃん。
怯える様子が全く無いのはここ数日で俺と会話したりして俺のことを知ってるためだ。
そのことを知らないクラスメイト達は、俺みたいなヤバい奴に意見したジュリちゃんはこの後ヒドイ目に遭うと思ってるんだろうが──
「しょうがねぇなぁ、ジュリちゃんが言うならやめとこうか」
俺は素直に従う。
まぁ、そもそもクラスメイトに関しても脅しをかける以上のことをするつもりも無いからな。
そんでもって俺がしたかったのは、俺とジュリちゃんのやり取りを他の連中にも見せつけることだったので、計画通り。
俺はクラスメイト達に向かって、虫を払うような身振りをしながら──
「もういいわ、お前らは好きにしてろ」
すると即座にジュリちゃんが俺を注意する。
「そういう言い方は良くないと思うよ」
「そうかなぁ。別に問題無いよなぁ?」
俺が近くにいたクラスメイトに視線を向けて問うと、そのクラスメイトは首が取れるんじゃないかってくらいの勢いで首を縦に振る。
「あの通りさ、ほら座ろうぜ」
もう目的は果たしたしな。
上下関係をハッキリさせたいのは俺とクラスメイトだけじゃない。
ジュリちゃんとクラスメイトとの上下関係もハッキリさせておいた方が良い。
俺がトップなのは変わらない。だけど、トップの俺と仲のいいジュリちゃんが俺の次ってのは俺達のクラスメイトにも分かっただろう。
俺がトップ、俺の友人のジュリちゃんが二番手、それ以外の連中は順番もつかない、その他大勢で俺達の遥か下って感じな。今後このクラスはそういう体制で行くことになったから。
俺の中でクラスの体制が決まり、クラスの殆どがそれを何となく理解した頃、ちょうどよく教師が教室に入ってくる。
「みんな座れ──って、みんな座ってるな。一体どうしたんだ?」
驚いた様子の教師は転校初日から俺に迷惑をかけられている教師だ。
どうやら俺が問題を起こしすぎるってことで監視の名目で担任みたいな仕事を押し付けられているとか。
話を聞く限りでは魔導院というのはクラス担任というのは基本的には存在しないはずなので、担任というのは特例みたいだ。まぁ、担任と言っても俺が問題を起こした場合の責任は全て担任にありますと学園側の保身のために用意されたポジションみたいだけどね。
「ちーっす。ジョニセン、元気ぃ?」
俺はジョニーという名前らしい担任教師に親し気に声をかける。
すると、俺の存在に気付いたジョニー先生ことジョニセンは嫌悪感を露骨に顔に出す」
「げ、今日から復帰なのか──」
「嬉しいだろ? 今日から賑やかな日々の始まりだぜ?」
「賑やか? 面倒なだけじゃないか。というか、登校したならまず教官室に挨拶に来て、『反省しました』とでも言っておくべきだろう」
「反省してねぇもん。無理」
俺の答えにジョニセンが大きく溜息を吐く。
「もういい、出席確認したら授業を始めるぞ──」
そう言って教室内の学生を確認しようとしたので俺は──
「その前にさぁ、ちょっと良いかい?」
「……いや、良くないんだが……というか敬語を使うつもりは全く無いんだな……」
敬語って言ってもさぁ。
俺はこれまで生きてきて敬語なんか殆ど使ったことねぇんだよなぁ。
ジョニセンには悪いけど、ジョニセンよりも遥かに敬うべき地位にいる奴にもタメ口をきいてたのに、ここでジョニセンに敬語を使うってどうなのかって話だと俺は思うね。
ここで俺が敬語なんかを使うと俺が今までタメ口聞いてた奴らよりもジョニセンの方が上ってことになるじゃない? それは良くないと思うから、俺は誰にも敬語を使うわけにはいかないんだよね。今まで会ってきた連中に悪いと思うからさ。
「やめなよ、アッシュ」
おっと、余計なことを考えてたら、ジュリちゃんにも注意されてしまいました。
偉いねぇ、友達のことをちゃんと注意できるとか素晴らしいぜ。でも、だからって言うことを聞くわけじゃないんだけどね。
「昇級の方法について聞きたいんだけど?」
俺はジュリちゃんを無視して話を続ける。
「……後でじゃ駄目なのか? ……まぁいい、何が聞きたいんだ?」
「俺が話を聞いた限りじゃ、定期試験の他に上位のクラスの奴と大勢の見届け人がいる場で勝負をして勝てば、昇級の審査をしてもらえるとか聞いたんだが、当たってるかい?」
マー君情報なんだけど、どうですかね?
「その通りだ」
「そのことで聞いておきたいんだけど、勝負の申し込みってのはどうやればいいのかなって聞きたくてさ」
「そんなもの当事者同士で話し合って……お前まさか、復帰してそうそう面倒ごとを起こすつもりじゃないだろうな?」
なんだよ、俺が上のクラスの奴に喧嘩を売ってくるとか思ってんのかい?
「俺は起こさねぇよ。俺は上のクラスには興味は無いからさ」
ジョニセンが疑わし気な眼差しを俺に向けてくる。信用がねぇなぁ。
「言っておくが勝負を挑んだとしても断られるのが大半だ。上のクラスの奴らとしては下のクラスの奴らと勝負をするメリットが無いからな。上のクラスの連中は勝って当然しかし無様な戦いを見せたら評価が下がるんで勝てるにしても下のクラスの連中とは戦わない」
ジョニセンが言ってるのは一つ上のクラスとかの話だろ?
でもさぁ、そいつらは勝負しないことのデメリットが無いじゃない? だから、勝負しないって選択肢も取れるけど、果たして勝負しないことのデメリットが勝負することのメリットを上回るとしたら?
勝負したところで得られるものは大して無いにしても、勝負しないことで失う物の方が大きかったら?
そういう連中は勝負を受けてくれると思わないかい?
そして俺が狙う連中はそういう奴ら──白服という魔導院の最上位クラスの連中さ。
誇りある魔導院のトップにいる連中が格下の挑戦を受けないわけにはいかないと思わないかい?
受けなかったら、俺があることないこと言いふらすし、俺以外の連中も格下相手に逃げたって思うだろうよ。だから、白服の連中は逃げられない。自分たちの立場が逃げることを許さないからな。
お膳立てが充分すぎるぜ。
後はちょっと突っつけば俺の思い通りの展開になるだろうよ。
ジュリちゃんとシステラの勝負、それはもうすぐだ。




