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片付けるべきこと

 

 マー君が青神がいると指をさしたのはソーサリアの街中に張り巡らされた水路だった。


『青神はこの街を流れる水に溶けている』


 その後の説明はこんな感じだ。


『この街の水路を流れる水は全て街の中心にある『賢聖塔』と呼ばれている塔から流れ、街中巡り塔へと戻る』


 そんなことをマー君は言っていたが俺はそんな塔は見たことが無かった。

 しかし、そんな俺の答えを予想していたようにマー君は続けて説明を付け加える。



『その塔は普段は見えない。だが、俺はそれを実際に見ている』


 そう言ってマー君が俺とゼティに語るのは二か月ほど前との話だった。

 その話を聞く限りでは、だいたい二か月前からマー君はこの世界にいたことになるが、まぁ滞在日数は今は重要なことでもないんで気にすることじゃないな。


『賢聖塔はだいたい数か月周期で現れるらしい。そして俺はそれが現れる場面に出くわし、賢聖塔にいるというこの街の支配者だという賢者の姿も見た』


 普段は姿を見せないくせに支配者とか、どういうことなんですかね。

 気になったけど、俺は口を挟まなかった。なぜなら、もっと気にすべき重要な話がすぐに出てきたからだ。



『賢聖塔が現れる時、賢者は民衆の前に姿を現し、この街の人間は街を治める偉大な魔術師の姿を一目見ようと集まる。俺も気になって見に行ったんだが──』


 魔術の街だけあって、優れた魔術師が高い地位を得るっていう文化なんだろう。

 それはまぁ、いいや。で、続きは?


『──その賢者から神の気配を感じ、そして賢聖塔から賢者が水路へと流す水を魔術によって生み出す儀式を見た』


 マー君が神の気配を間違えるわけはないだろうし、その話を聞く限りではこの街に青神がいるのは間違いないだろう。

 まぁ、青神と断定できる情報は無いんだけどね。青神と決めつけているのは神の気配と水って情報を結び付けただけだしさ。


 でもまぁ、なんにしても賢聖塔って所を探る価値はあるだろうって情報だった。

 なら、さっそくその場所を探ろうと俺達は思ったのだが──


『塔は普段は隠れていると言っただろうが。それ以前に賢聖塔があるソーサリアの街の中心は魔導院の研究院がある場所だ。街の中心は研究院の建物に囲まれ、厳重な警備がされていて立ち入ることは不可能だ』


 俺達が探りを入れたい賢聖塔はソーサリア魔導院の研究院に囲まれている。

 そして研究院は厳重な警備がされていて侵入は難しい。

 研究院に侵入できないと、そこに囲まれた中にある賢聖塔には近づけない。

 そんで俺の推測だが、賢聖塔を隠す仕組みは研究院にあって、迂闊に研究院に侵入すると賢聖塔は隠れたまま姿を現さないってことをしそうだよな。


『まぁ、お前のことだから何とかする方法くらいは思いつくだろう。だが、俺に迷惑をかけない範囲でやってくれ』


 たいした情報をとりとめもなく提供しただけでマー君は自分の仕事を果たしたような様子だった。

 なんで青神の力じゃなく青神がソーサリアの水に溶けてるのか、そしてそれを口にして何の影響も無いのかとかマー君は何も教えてくれていないんだが、まぁそこらへんはマー君にとって必要以上の協力って認識なんだろう。

 核心に至るような情報ではないし、どういう目的を持って青神がこの街に根を下ろしているのかは分からないが、とりあえず行動の指針となるものができただけ良しとしよう。


 やるべきことは賢聖塔って場所に行って青神がいるのか調べるってだけだ。

 賢者がどうとかは置いておく。まぁ、おそらくその賢者ってのが俺と青神が戦う際に邪魔してきそうだけどな。フェルムの時のメレンディスみたいにさ。


 それはそうとマー君は賢者の姿を見て、そのうえ神の気配も感じたっていうのに、どうして倒してくれなかったんだろうか? それについて聞いてみると──


『あのな、俺はお前と違って無闇に喧嘩を売らないんだよ。それにその時は戦う理由が無かったからな。今も無いが』


 最後に念押しでマー君は俺達が青神を倒すことに協力するつもりは無いと言う。

 そして、ついでの情報として──


『ちなみに賢聖塔が現れた時、僅かに使徒の気配を感じたぞ。向こうも俺の気配に気づいたようで、すぐに気配を消したがな』


 ちなみにって感じでするような話じゃねぇよなぁ。結構、重要な話じゃない?

 状況的に賢聖塔の警備をしてるような感じだし、俺の使徒が青神の側についてるってことなんだろうか。

 訳の分からねぇことばかりだし、もしかしたら使徒と戦闘になるってことだよな。


 数カ月周期でソーサリアの街の中心に現れる賢聖塔に研究員と使徒の厳重な警備を掻い潜り、青神に会って倒す。やるべきことはそんなもんだ。





「──さて、どうするべきか」


 マー君の話を聞き、今後の行動について方向性が見えたのが昨日の夜。

 今朝の俺は修行をしながら、何から手を付けるべきか考えていた。


「どのみち、塔が現れるまで時間はあるわけだしなぁ」


 それまで何か準備でもするか?

 でも俺って、そういうのそんなに得意じゃないんだよね。

 夏休みの宿題とか最後までため込むタイプだしさ。まぁ、俺は夏休みの宿題なんてやったことなんてないんだけどね。夏休みの宿題に限らず宿題自体やらなかったし。


「修行しつつ遊んで暮らすかな」


 俺の神としての力は弱まっているが、マー君に良いようにやられたのはそれ以前の問題だ。

 ぬるい敵とばかり戦っていたせいで完全になまっている。

 賢聖塔に使徒がいることへの対策だけじゃなく、今後も戦いが激しくなるなら自分自身を鍛え直していくのは必要だよな。

 幸い生活費なんかはラスティーナがいるから問題ない。

 衣食住にかかる生活費、嗜好品や娯楽の遊興費もラスティーナに出してもらおう。

 つーか、既に代金はラスティーナにツケてもらってる店もあるし今更だぜ。

 他人の金で遊びながら修行できるとか最高だぜ。


 ──だが、世の中そんなに上手くいくわけもないということ、俺はすぐに思い知らされることになる。


 俺がラスティーナの金で遊んで暮らそうと思ったと同時に唐突に酒場の入り口に人影が現れる。


「何してんのよ」


 現れた人影はリィナちゃんであった。

 フェルムでの一件の後に教会の手先であることがバレてしまったリィナちゃんは、そのことネタにラスティーナに強請られ、二重スパイをやらされ、そんでもってリィナちゃんは俺とラスティーナの連絡係も不本意ながらやらされている。


「見て分かるだろ、修行だよ」


 俺がねぐらにしている酒場だった廃屋に不快感を隠さずに入り、そして質問してきたリィナちゃんに俺はそう答えた。

 風が吹いただけで崩れるくらい不安定に椅子や机を積み上げた上に俺はつま先立ちで立っているだけだが、それが修行だ。

 バランス感覚を養う修行であり、無意識に出来ていることが重要なんで集中していない方が修行の効果としては高いからこそ色々と考えていたってわけだ。


「そうじゃなくて、アンタの無駄遣いの請求を殿下に回してるってことの方よ」


 いつの間にかラスティーナを殿下と呼ぶようになったリィナちゃん。上下関係に気を遣うタイプなんだろうね。まぁ、リィナちゃんの社会の歯車として誰かに使われて生きていくことの適性について今は論じるている時じゃないみたいだね。


「必要経費だから無駄じゃないぜ?」


 嘘だけどな。無駄遣い以外の何物でもないぜ。


「だったら、使い道をちゃんと報告しろって。何に何の目的で使い、その結果がどのような効果が得られたのか、経費であるなら正しく報告しろって。言っておくけど、殿下の方には何処から何の請求が来ているか情報は行ってるわよ」


 ごまかしは許さないとリィナちゃんが俺を睨む。

 参ったね。俺は金遣いが荒いから何に金を使ったとか憶えてねぇんだよな。


「リィナちゃんの方からごまかすってのは?」


 何か買ってあげるからさ。ラスティーナの金でさ。

 二人でアイツの金を使い込もうぜ? 俺と共犯になれば良い思いできるぜ?


「……私を買収しても無駄よ。アンタが私を買収する気配を見せたって報告するだけで私は殿下からお小遣いを貰えるんだから」


 まぁ、読まれてるよな。

 さて、そうなるとどうするべきか。


「とにかく殿下はアンタが遊ぶ金を出すつもりはないってこと。本当に必要な経費だったら殿下は出すし、それ以外にも報酬は払ってるんだから文句は無いだろうとも言っていたわ。だけど──」


 だけど?


「金銭面において当座の支援は停止、遊ぶ金は自分で働いて稼ぐように。そう殿下は言っていたわ」


「ふざけんな。こっちはテメェの金をあてにして生きてんだぞ」


「報酬は渡したって言っていたわよ」


「そんなもん、その日の内に使い切ったっての」


 こちとらニューヨーク生まれの東京育ちの江戸っ子だぞ。

 宵越しの銭なんか持たねぇんだよ。貯金なんか人間時代からしたこともねぇぜ。


「は? そこらへんの一般家庭が一年は遊んで暮らせる額を渡したって殿下は言っていたんだけど」


 そんなはした金、博打と酒に使う分でなくなったぜ。

 他人の金で遊ぶ博打は負けても懐が痛まないから楽しいよな。

 負けてすっからかんになっても悲しくないし、俺に勝った奴は懐が温まって楽しい。

 幸と不幸のバランスで幸がプラスになるんだから良いことだと思わねぇか?


「とにかく、殿下はお金を出すのを控えるからアンタは自分で稼ぎなさいよ。アンタが殿下のツケにしたものも殿下は全部アンタに払ってもらうって言っていたわよ」


「はぁ? そんなことされたら、俺の修行しつつ、それ以外は遊んで暮らすって計画が崩れるんですけど?」


「そんなの知らないわよ。つーか、そもそもそんな計画立てんな」


 最後にそう言ってリィナちゃんは帰っていった。

 俺の言い分を何も聞かずラスティーナの一方的な決定だけを俺に伝えて。

 その結果、残された俺は今後の方針について大幅な変更を余儀なくされることとなった。


「とにかく生活費を稼がねぇといけないってことか」


 こうして俺は青神がどうとかいう問題よりも、もっと身近な問題に追われることになったのだった。




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