ウォリアーズ・ハイ
マズいなぁ、本当にマズい。
「はぁぁぁぁ!」
「おぉぉぉぉ!」
何がマズいって、こいつらが強いのがマズいんだよなぁ。
傷を負っても一向に戦意の衰えない俺を見て、サイス達は更に戦意を昂らせて俺に迫る。
サイスとスカーレッドが俺にベッタリと張り付くような距離を維持しながら攻撃を仕掛け、ゲオルクが時々に応じて、サイスとスカーレッドの位置を入れ替えたり、自分が入れ替わって二人の身を守っている。
「そこだ!」
真正面に立つサイスの風の刃を叩き落すと、即座にゲオルクがサイスの位置を俺の背後を取っていたスカーレッドと入れ替え、入れ替わると同時にサイスが背後から俺の背中を風の刃で斬りつけてきた。
背中から出血し、俺は僅かに前によろめく。
「本当にマズいなぁ」
俺の前に立つスカーレッドが俺に向けて短剣を振り下ろす。
俺が防御の姿勢を取ろうとすると、その瞬間スカーレッドとゲオルクの位置が入れ替わり、ゲオルクが盾を構えながら体当たりをして、俺を防御の上から突き飛ばす。
背中も痛いし、思いっきり体当たりを食らったのも痛い。
ダメージの蓄積で俺の足が僅かによろめく。
「トドメだよ!」
ゲオルクの背後からスカーレッドが俺に迫ってきた。
スカーレッドはゲオルクの背中を蹴って跳躍すると、頭上から俺に向かって襲い掛かる。
背後にはサイスがいる。迂闊に下がるのは危険と判断し、俺を足を止めて迎撃の態勢を取る。
跳んできたスカーレッドをハイキックで叩き落とそう。俺は即座にプランを決めるが、その瞬間スカーレッドとサイスの位置がゲオルクの魔具によって交換される。
「終わりだ!」
位置の交換による一瞬のタイミングのズレによって俺の蹴りは外れ、サイスは勝利を確信して叫んだ。
スカーレッドは俺に突っ込んでくる状況であり、その慣性は位置が交換されたサイスにも生きている。サイスはスカーレッドの勢いを残したまま俺に向かって、そのまま頭上から俺に突っ込んできた。
完璧に回避するのはは難しいか?
直感がそう伝えて俺はサイスの刃を受け入れて直撃を食らう。ただし、致命傷にはならないように僅かに身を捻って。
「いっ──っってぇっ!」
左の肩口に風の刃が突き刺さる。だが、その程度じゃ人間は死なねぇよ。でもって俺は人間じゃねぇからな。なおさら問題なしだ。
俺は体重をかけて刃を肩に刺してきたサイスを思いっきり蹴り上げる。すると、俺の蹴りを食らったサイスが真上に飛び、落ちてくるが、サイスは受け身を取って、すぐさま体勢を立て直すと、構えを取って俺を見据える。
「あぁ、クソ。本当にマズいぜ」
サイスとスカーレッドが休むことなく俺に向かって距離を詰め、その後ろでライドリックが隙を狙って、距離を保ち、サイスとスカーレッドの接近に合わせてセレインが魔術を撃ってくる。
魔術によって生み出された火球が俺に向けて放たれ、俺はそれを避けるために駆け出すと、俺が駆け出すのに合わせてライドリックが加速する。ライドリックの移動した先は俺の駆け出した先で、俺の行く手を遮るようにライドリックが先回りする。
そして次の瞬間、俺の行く手に先回りしたライドリックがゲオルクと入れ替わり、ゲオルクが盾を構えて俺に向かって突っ込んでくる。
「だから、本当にマズいんだって、そういうのはさ」
目の前からゲオルクで背後にはサイスとスカーレッド。
その上、俺の背後で着弾した火球が破裂し、それが無数の小さな火の玉に分かれて俺に向かってきている。
あぁ、マズい。本当にマズい。
何がマズいかって、こいつらが思ったよりも強くて、思いもがけず好きになりすぎて──
「ここまでだ!」
背後から迫るサイスの声が聞こえた瞬間、俺のスイッチが入る。
その瞬間、俺の視界の全てがスローモーションに変わり、俺の眼に未来が映る。
あぁ、クソ……イっちまったぜ。
興奮しすぎたし、楽しくなりすぎたぜ。でも、しょうがねぇじゃん、コイツら強いし必死に頑張ってるんだぜ。その表情を見て昂るなってのが無理だろ?
俺の目の前からゲオルクが迫るが、引き伸ばされた時間の中でその視線が僅かに俺の後ろから迫るスカーレッドに向いているのが分かる。そして、体の傾き、皮膚の伸縮、筋肉の軋み、骨格の連動、その全てを俺の眼は捉え、次の瞬間のゲオルクの行動を予測させる。
入れ替わる──そういう確信を抱き、俺はゲオルクがスカーレッドに替わる一瞬を待つ。
そして次の瞬間、俺の予想通り、ゲオルクとスカーレッドが入れ替わるが、俺はスカーレッド無視して、真横に振り向くようにして蹴りを放つと、そこにはゲオルクがいた。
俺の蹴りを腹にマトモに食らったゲオルクが吹き飛ぶ。その瞬間のゲオルクは何が起きたか全く分かっていないようだった。そりゃそうだ。だって、そこには一瞬前までサイスがいたしな。
俺はゲオルクを蹴り飛ばすと即座にその場にしゃがみこむ、すると次の瞬間、サイスの刃が俺の頭の上を通り過ぎ、俺は刃を放った直後のサイスに足払いをしかけて転ばせる。
そして俺の真後ろから忍び寄って斬りつけようとしてくるスカーレッドに向けて鳩尾に肘打ちを叩き込み膝を突かせると、俺は左の拳を真上に向けて突き上げると、そこにはサイスがいて吸い込まれるように俺の拳の直撃を受けて、吹っ飛んでいく。
サイスが吹っ飛ぶと同時に分裂した火球が俺に向かって放たれるが、俺は無数に迫るそれを左手で軽く全て叩き落として、次の攻撃に備える。
俺は軽く身構えると、その場で膝を突きあげた。次の瞬間、加速したライドリックが俺の膝に激突し、体をくの字に曲げて、その場に膝を突く。
「何がマズいって、手加減が出来なくて殺しちまいそうなんだよ」
サイス達が立ち上がり、態勢を立て直そうと俺から距離を取る。
一瞬で、全員ぶっ倒されたのに、戦意は依然高いまま。
いいね、そうでなきゃ。そうじゃなければ、俺の気持ちが収まらねぇよ。
「悪いな、スイッチが入っちまった。こうなると上手く手加減できねぇんだ」
話ながら俺はサイス達の様子を伺う。
俺を警戒してるのか立ち上がったサイス達は慎重に距離を詰めてきている。
そんな中で極限まで過敏になった俺の感覚が、目に映る全てを過剰に把握する。
サイス達の呼吸、目線、姿勢、皮膚の動き、筋肉の揺れ、骨格の軋み、服の皺、靴の向き、それらのミリ単位の動きまでも俺の感覚は全て認識し、認識した情報を脳が統合し答えを俺の無意識のうちに出す。
『ウォリアーズ・ハイ』
戦闘時に起きる一種のトランス状態。
戦いの中での興奮が極限に達する中で脳が過活動を起こし、脳内物質の過剰分泌が脳のスペックを極限まで高まる。それによって情報認識能力の拡大と未来予知の域にまで達する情報処理能力が生じ、そして陶酔感と恍惚感が俺の意識を奪う。
「超光速だって止まって見えるぜ」
ライドリックが動き出すが、動き出しと何処に来るのか完全に分かる。
視線と足の向きが0.1ミリほど動いており、そこから俺はライドリックの動きを予測して足を出していた。
ハイになってる時は体が勝手に動くような感じなるから手加減が難しいし、そのうえ最高にテンションが上がってるからな、もうどうでも良いかって気分にもなるぜ。
俺の蹴りが雷の速度で動くライドリックを完璧に捉え弾き飛ばす。
もっとだ、もっと意識を散らせ。
一点に集中するのでなく、その集中する先を散らし、全てに意識を向ける。
世界が全てこの手の中にあるように考えろ。
目に見える全てが俺の物だ。
「気をつけろ、何かが違う」
サイスとスカーレッドとゲオルクが俺に対して距離を詰めてくる。
呼吸、視線、動き、それら全てがサイス達の次の行動に対する直感を与え、俺は直感に従って動く。
スカーレッドに向けて真っ直ぐ左拳を突き出すと、スカーレッドは炎に変わり俺の攻撃を避ける。
俺は一瞬の躊躇いもなく、そのまま前蹴りを出すと、消えた筈のスカーレッドに蹴りが直撃する。
「な──」
俺の蹴りでスカーレッドが吹っ飛んだ瞬間、俺は跳躍して後ろに回し蹴りを放つと、背後から俺の足を払おうと仕掛ける寸前のサイスの顔面に回し蹴りが直撃する。
「キミのそれって単純な転送も出来るんだろ?」
俺は後ろも見ずに裏拳を放つと、そこにはゲオルクがいて、ゲオルクは盾で俺の拳を受け止める。
防いだゲオルクは即座に剣を振って、俺へと反撃するが、ゲオルクが剣を振ろうとした時には俺は既にゲオルクの剣を掻い潜る軌道で動いており、ゲオルクが剣を振る瞬間には既に懐に潜り込んでいた。
「まだまだ楽しく戦ろうぜ?」
至近距離から踏み込みと同時に放つのは崩拳。
胴体めがけて放たれる、左拳による中段突きはゲオルクの鎧に直撃するが、俺の拳は鎧を陥没させてゲオルクを吹っ飛ばす。
「殴られたり斬られたりするのも嫌いじゃねぇが、やっぱ戦いなら俺も殴ったりできねぇと楽しくねぇよな」
どうして防がれたのかと膝を突くサイス達が俺の事を驚愕の眼差しで見るが、その理由はハイになってるからとしか言いようがない。
最高にハイになった俺の脳味噌がイったテンションのまま暴走してるせいで、本来は取捨選択して捨てている情報まで拾い上げるけど、過剰分泌された脳内物質や脳内麻薬が大量の情報を処理できるまで脳を無理矢理活動させてるんだって言っても分かんないだろ?
実の所、俺も良く分かってねぇけどさ。だって、自分の頭の中を覗いたこともなければ実験して検証したことも無いし、分からねぇよ。
ただ、ハイになってる状態の今の俺が相手じゃ今までのようにはいかないぜ? でも、あれだ。この状態にさせた奴は少ないし、その点は誇りに思って良いと思うから、胸に誇りを抱いたまま死ぬのも良いんじゃねぇかな。
「なるべく殺さないように気を付けているんだが、気分がハイになってるせいで加減が難しいんだよ。それに──」
言いながら、俺は俺は右腕をサイス達に向けて構える。
「こっからは右腕も使っていこうと思うからさ」
俺の言葉と自分たちに向けられた右腕を見てサイス達は眼を見開く。
そんなに驚くことか? 今まで俺は右腕を使ってなかったろ?
呪いの罰で右腕が使えなくなっていたはずだって? そんなもん、ちょっと前に解除されてたさ。
それでも使わなかったのは、サイス達の強さを確かめるためで、ここに来て使うのはサイス達が全力で挑んできているのに露骨に手を抜くのは誠実ではないような気がしたから。まぁ、それ以前に──
「もうどうしたって、俺が勝つんだから使うか使うまいが大した差はねぇしな」
俺が普通の状態なら多少は違うんだろうが、こっちはもうハイになってるんだから、何をしたって俺が勝つんだし、わざわざ隠す意味も無いよな。
「さぁ、続きをしようぜ」
もうすぐ決着もつくだろうし、その瞬間まで楽しく戦ろうぜ?




