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[6-3]収穫祭

 帰国してから休む間もなくイベント続きでとても疲れた。


 まずフニャシア王都での結婚式、そして披露宴。

 みんなが飲み食いしているところを眺めているだけだったので、「私にも食わせろ!」とわがままを言って壇上を降りた。

 立食形式だったため、手が届かずかかとを上げてぷるぷるしていたら、エルシュに抱え上げられた。

 知らない偉そうな貴族達に微笑ましく笑われたぞ!

 ダンスパーティーも行われた。

 やはり背が届かないのでエルシュに抱き抱えられた。

 やっぱり笑われたぞ!


 そして初夜だ。むふふ。

 そうだついに私は大人になったのだ。

 フランシシュカは私に先を譲ってくれた。偉いぞ、私の嫁の正室の座をやろう。

 私の初めては、実はすぐに気を失ったのであまり覚えていない。

 エルシュの治癒魔法の痛みを消す快楽効果によって、私の小さな部分がエルシュの大きな部分で大変な痛みを生じて、それが気持ちよさに変換されたのだ。

 その時、私は天界を見た。ああほんとに天使っていたんだな……。

 ちなみに治癒魔法の効果か、私の数少ない女としての部分が綺麗に治っていた。

 その後も何度も壊されたが、私の身体は新品のままだ。

 これは永遠に処女なのだろうか、いや違うのだろうか……。うーむ……。


 私達は私の故郷の村へ戻った。

 もうこれは村というか、町だ。

 村の町の違いは、規模の大きさや人口もあるが、一番大きな違いは壁であるだろう。

 エルシュが右手を治した石魔法使いが、立派な石壁を作ったのだ。

 これはもう、うん、町だな。

 しかも、夏の収穫で新都に大きく寄与したため、故郷の立場がかなり高い。

 さらにここは、フニャシア王国の王ラディウスの弟のエルシュが領主となるのだ。

 実質的に、新王都より上だ。

 もはやここだけ独立した小国といっていいだろう。


 エルシュが領主となったことで、町はエルシアと名付けた。

 元の村民が町の名前に私の名前を付けようとしたので、黙らせた。

 この辺はちゃんと今の権力者がわかるようにしないといけない。町にはいくつか派閥ができているのだ。


 まず水姫派。

 元の村民で私をかわいがっていた層だ。


 そして泡姫派。

 干ばつの影響で周囲の村から集まってきた層だ。


 さらに王国派。

 これは旧王都から流れてきた層だ。


 一番少ないのがフニャシア派。

 一番少ないというかほぼ存在しない。

 しかし今は、フニャシア王国の王弟がトップなのだ。

 そこをわからせないといけない。

 なのでエルシュと泡姫も結婚させるのだ。


 収穫祭、と共にエルシュと私とフランシシュカと泡姫の結婚披露宴が行われた。

 歌って飲んで食う! わかりやすい宴会だ。

 この町ではすでに見知った顔の方が少ない。

 建築、農地開拓と仕事の需要も高まり、町は移住者が増えてどんどん拡張されているのだ。

 畑は外へ外へと広がっていく。

 あれこれ、水の問題はもしかして私の魔法の力を頼りにしてない?


 みな広場で騒がしくしている中、広場の端で、一人静かに黙々と酒を飲んでいる黒尽くめの怪しい人間がいた。

 みんな気づいてて触れないのか、それとも幻術で気づかれないようにしているのか。

 しかし私はその怪しい人物を知っている。

 着ているものは私がプレゼントした真っ黒のフードとコートだ。

 私は真っ黒な姿のそれに近づき、声をかけた。


「来てくださったんですね、師匠」


「ああ、来た」


 相変わらずの無愛想である。


「楽しんでますか」


「ああ、楽しい」


 楽しいんだ。

 酒を呑んでいるだけに見えるけど。


「ほら、牛肉とかもありますよ。取ってきますか?」


「あれはいまいちだった。味付けの香辛料が足りん。鶏がいい」


 意外とグルメな師匠だった。

 まともな身体を手に入れて、食事の楽しみを知ったのだろうか。

 グールみたいな身体でも酒は呑んでたけど。


「師匠、どうですかその服」


「悪くない。以前より良い」


「前は素っ裸で中身も見えてたじゃないですか」


「もっと昔のことだ」


 おそらく、師匠が人の形をやめる前ということだろう。


「師匠、わかっていると思いますが、人前ではあまり顔を出さないようにしてくださいね」


「だからこうして端にいる」


 師匠は人と話すことにも慣れたのか、かなりコミュニケーションが取れるようになってきた。

 あと口調はこんなだけど、かなり可憐な声だ。

 それもそのはず、身体を治癒魔法で戻した師匠は美人だったのだ。

 髪はプラチナブロンドで、どことなくエルシュに似ていた。

 なのでエルシュは元の姿に戻った師匠にも、あまり近付こうとしない。


「師匠、師匠って一体なんなんですか」


「我は我だ。娘が娘のようにな」


 そういうことじゃないんだが。


「エルシュの事はどう思います?」


「あれは奇跡だ」


「奇跡……あれ、師匠。信心とかあったんですね」


「娘よ。奇跡とはなんだ」


 懐かしの問いかけだ。


「そうですね。神が授ける願いですかね」


 私は水魔法使いなので、主神は水の女神だ。

 私が水魔法を使えるのは、水の女神の奇跡と言えるだろう。


「では魔法とは」


「魔法は理想を実現する力、でしたっけ」


「願いを叶える力が魔法で、願いを叶えさせる力が奇跡だ」


「ん? 同じじゃないですか?」


 私は首を傾げた。


「違う」


「そうですか、私にはよくわかりません」


 そういうと、師匠はかすかに笑った。

 エルシュはやっぱり凄いということはわかった。

 あとでなでなでしてあげよう。


「師匠、私の事はどう思ってます?」


「……」


 師匠は黙ってしまった。

 ははーん、さては照れているな? この奥手ちゃんめ。


「わかりました、私の事が好きですね?」


 私は両手を腰に当てて、胸を張ってえばった。 

 師匠は左手を軽く顎に当てた。


「そうかな……そうかも……」


「私は師匠のこと好きですよ!」


 そういうと師匠は口に含んだ酒をぶぷっと吹き出した。

 けほっこほっと咳き込んでいる。

 なんで……?

 え? なんで?

 と思いながら、私は師匠の背中をさすった。

 収まるとあの師匠が笑顔でいた。

 こんな姿の師匠初めて見た。

 いや……、今まで見えなかっただけで、結構感情豊かだったのかも?


 そしてすぐに新年祭だ。

 まだまだ忙しい日々は続きそうだ。




 おわり。

ご愛読ありがとうございました。

でももうちょっとだけ更新します。

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