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[4-7]アラキア平野の戦い―3

前回までのあらすじ:シュカが暴れて、ペリちゃんは指揮官暗殺に失敗して、人間カタパルトで空を飛んで攻撃しろと言われた。肉体労働して酒を飲んで眠い状態で書いた展開を一体どうするのか。




 エルシュが私を抱え上げた。


「ちょっとお待ちになってあなたたち! 死ぬわ!」


 思わず私の口調がおかしくなる。


「ペリータ様なら大丈夫ですわ」


「いけますわ!」


「いけないよ!?」


 私は石玉じゃないぞ!


「やってみないとわかりませんわ!」


「わかるよ!」


 この脳筋少女め!


「雷とか落とせませんの? そしたら恐怖を味わえさせられますわ!」


「どこぞの王族と違ってこちらは一般人ですので」


 そんなおかしい力は持っておりませんの。


「ペリータ様は雨雲なら作れますよ! 敵軍に雨を降らせてしまいましょう!」


「雨かそれはいいかもな。動きが鈍くなる」


 エルシュの発言にゾフィアが頷いた。


「雨雲か。今日はなんか調子悪いんだよな」


 さっきもちょろっとしか水が出なかったし。

 エルシュに抱えられたまま、お見合い状態になってる戦場に向けて、雨雲の魔法を使ってみる。

 あめあめふれふれ。

 湿った風が流れ始め、王国軍の陣の空に雲ができ始めた。

 あれ、いつもより調子いいな。


「そのままどんどん発展させれば雷雲になりますわ!」


 やったことないけどやってみよう。

 もくもくもくもく。

 雲が縦に伸び、発光しはじめゴロゴロと空が唸りだした。

 あ、できはじめた。


「なんかできた」


「ペリータ様凄いです!」


「やるじゃない! 敵に雷を落とすのよ!」


 そんな制御できそうにないが、敵に雷落ちろと願ってみる。

 ズゴォォォォォオオン! と爆音と共に、猛烈な光が戦場に輝いた。

 悲鳴と共に敵兵が乱れ始めた。

 ドォオオオォオオオオン! と雷の二発目が落ちる。

 装備を脱いで逃げ始める者が出てきた。

 土を土台にした氷の塔が、敵陣の中央に魔法で創られた。

 ガアァアアァァアン! と雷の三発目はそこへ落ちた。


「あら。もう対策されちゃった」


「少々お待ち下さい」


 よいしょ、とエルシュが石玉を持ち上げ、氷の塔へ投げつけた。

 敵に抵抗される事なく、石玉は塔にぶち当たり、それを破壊した。

 そして次々に石玉を投げ飛ばしていく。

 敵兵は混乱で散り散りになっていった。


「ペリータ様! トドメを差しましょう!」


「よし!」


 ドガアァアアァァアアアアン! と、十連発くらい連続で落としてみる。

 大盛りサービスだ。ちょっと耳が痛い。


「やりすぎじゃありませんの?」


「ちょっと気持ちよくなっちゃって」


 てへぺろ。


「しかし敵は前進しているな。ふむ、雷を巻き添えにする位置まで接近して使わせないようにするつもりか」


「それなら炎の壁を作ればいいですわ!」


「さすがお嬢様」


 ゾフィアが部隊に命令をし、雨の切れ目に魔法の炎の壁を作らせた。

 雷と炎、まともな生物なら恐怖で近づいてくるはずがない。


「わたくしも援護します!」


 エルシュはひょいひょいとフランシシュカが葬った敵兵の剣を拾い上げ、それを投げつけた。

 炎の壁を切り裂き、敵兵に突き刺さり悲鳴が次々に上がる。

 私も手を止めていた落雷を、少し貯めてでかいのをお見舞いした。

 ズガアアアアアァァアァァアアアン! とひときわ大きな音と光を立てて、敵軍ではなく敵の本陣に突き刺さった。

 ちょっと狙いがずれちゃった。


「あっこれは逃げますね」


 一度近付こうとしてきた敵が、今度はさあっと転進していく。


「本陣への攻撃が効いたようだな」


「最初からそうすればよかったのですわ」


 王都から近い場所とはいえ、大部隊であるから、その後ろには本陣が敷かれている。

 本陣には物資他食料や後詰めの兵がいるわけで、前を塞がれ後ろをやられたらどうしようもないということだろう。

 これにて戦いは終わりということだろうか。


「なんかこうもっと、エルシュ並の力を持った巨大な獣人とか最後に出てくるかと思ったぞ」


「そんなのいたら最初から出してくるはずですわ!」


「ペリータ様の雷が凄すぎたのです!」


 エルシュに抱きかかえられ、肩車された。


「ほらペリータ様! 勝鬨を上げて下さい!」


「え? 私が? おっおお?」

「オオォオオオォオオ!」


 私が戸惑っていると、先にフランシシュカが両手の剣を振り上げて叫んだ。

 兵たちから「オオォオオオォオオオ!」「フニャシアに栄光あれ!」と声が上がった。







 賑やかだった王都の通りは今は静かになっている。

 通りを歩いているのは野良猫と、一人の肥えた男だけだ。


「どうなっている! 公国の姫はどうした! 他の奴隷は!?」


 奴隷商館に怒鳴り込んできたのは、この一帯の商売を牛耳るオーナーだ。

 奴隷商館の店長は応接間のソファに落ち着いて座っている。

 使用人も誰もいなく、副店長のサドレーがお茶を煎れている。


「まあまあ落ち着いて下さい旦那」


 店長はあごひげを撫でながら、オーナーに座るように誘った。


「かの方は王国の勝利に必要だと言ってあるはずだ。どこへやったのだ!」


「まずは順を追いましょう」


 店長はサドレーが置いたお茶をずずっと飲んだ。

 オーナーはそれを苛立った表情で眺める。

 店長はことりとカップを置いた。


「不味いなサドレー。メイドからやり直すか?」


「ご冗談を」


 そう言ったサドレーの手は震えている。

 オーナーはいぶかしげな表情でそのやり取りを見た。


「さて、では商品の奴隷たちですが、他の町に移動させました。ここはもうじき戦火となりますので」


「そうはならん! かの方が入ればこちらの勝利は確実だ!」


 ドン! と机が叩かれた。


「……そう予知に出たのですか?」


「そうだ。それでかの方はどこにいる?」


 店長はあごひげを一本抜き、ふっと吹いた。


「このサドレーがミスをしでかしましてね。公国に取り入れられ、逃したようです」


「は!? そんなこと処刑では許されぬぞ!」


 オーナーはガンッと立ち上がった。

 そのままサドレーに掴みかかる。


「ぐっぅ……」


「まあまあ。俺が何も考えなしに生かしているわけがないでしょう」


「そうか。どう使う? 間者か?」


「囮です」


 店長は素早くオーナーの首にナイフを当て、引いた。

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