[4-6]アラキア平野の戦い―2
前回までのあらすじ:平野にて王国軍は公国軍を囲うように陣を取った。公国軍は展開される左翼右翼ともに瓦解させる。中央ではフランシシュカが一人で暴れていたが、氷魔法の氷の槍で腹部を貫かれてしまった。
「うぐっ……」
フランシシュカはうめき、倒れた。
腹部には氷の槍が突き刺さっている。
王国軍から歓声が上がった。
そして倒れたフランシシュカから炎が巻き上がる。
腹部の氷が溶け、傷口が再生されていく。
ボワッっとひときわ大きく炎が立ち上がり、炎が翼を作ってフランシシュカは浮き上がり、そして着地した。
「ふふっ……今のは痛かったですわぁ!」
氷魔法を放った魔法使いに向かって、炎が纏った大剣を投げつけた。
氷魔法使いが防御の氷の壁を作ろうとしたが、薄氷の壁を造るまでしか間に合わなかった。
大剣は壁を貫通して、氷魔法使いに突き刺さり、炎が湧き上がり周囲を炎上させた。
歓声から一点、王国軍の中央から混乱が生じる。
「ははは! 剣をお借りしますわ!」
フランシシュカは敵兵のロングソードを両手に持ち、敵軍に突撃していく。
海が割れるかのように、王国軍中央に道ができた。
「なにあれ……おかしくないあの子……」
「シュカは傷を負うと興奮してしまうんです」
「いやそうじゃなく……いやそれもだけど……」
もうあいつ一人でいいんじゃねえかな……。
ぼーっとその様子を眺めていると、地面から呼ぶ声がした。
「ペリちゃん準備できましたぜ」
「出番か」
地面から現れたのは〈モグラ穴〉ことモグだ。
手っ取り早く戦いを終わらせるには、指揮官を潰せば良い。
お察しの通り、地下通路をモグに作らせたのだ。
そこへエルシュが入り込み、ドーンと現れグシャっとすれば終了だ。
完璧な作戦だろう。
「ペリータ様! わたくしシュカを止めに行かないといけません」
「えっ」
作戦失敗!
「じゃあうちら二人で行きますか」
「ええー私こわいぷるぷる」
「頑張って下さいペリータ様! ではわたくしは行き過ぎたシュカを連れ戻してきます!」
「ぷるぷる」
暗い穴の中をカンテラの灯りで歩いていく。
モグラになった気分で気持ち悪い。
空気とか大丈夫なのかこれ。
しばらく進み、モグが足を止めた。
「ちょっと音を聞きやす。……動いてないここですね」
「で、どうするんだ。生き埋めにでもするのか?」
「そりゃもちろん、ペリちゃんがやっちゃう感じで」
「私が殺っちゃう感じで……」
気が乗らないなぁ。
「じゃあ行きますよ」
「えっ」
「はいっ!」
ズッと目の前の土が沈み込んだ。
そして、光とともに豪華な兜を被った男と、豪華な装備を纏った男が目の前に現れた。
あっどうも。
「なっ!?」
とりあえずやらねばならなそうなので、水魔法を発動した。
しかし思ったようにドバッっと出ない。
「むっ?」
地下だからか、それとも他の要因なのか。
ともかく、水で埋めてしまえばいいと思ったのだが失敗し、私は敵指揮官の側近に槍で突かれた。
「んにゅあー!」
私は敵の足元に沼を作ってバランスを崩させ、必死に避けた。
沼も大きく広げる事ができなかった。
だめだ、エルシュがいないと力が出ない……。
「モグ! ダメみたいだ!」
「ペリ! 俺もダメだ!」
私達は慌てて逃げ出した。
私達のケツに炎が襲いかかる。
「うあっちゃ! ケツに火が付いた!」
水魔法を使ってジュワワと火を消した。
「塞げ! 道を塞ぐんだ!」
「ハッ! なるほど!」
ゴウンと音を立てて、通路に土が狭まる。
ひとまず逃げ切れたようだ。ハァハァ。
「なんだよペリちゃんダメダメじゃんか」
「急すぎるよ!」
しかも思ったように魔法が使えなかった。
というより、本来の私? くらいの魔法だ。
最近調子がいいから、なんとかなるかなと思ったけどならなかった。
「しっ……。おっと近くにお嬢様がいるぞ」
ボコボコボコと穴の天井が削れて、床がせり上がっていく。
光が見えた瞬間、炎が頭上を通り、モグの頭が燃えた。
「うあっちゃ! 頭に火が付いた!」
水魔法を使ってジュワワと火を消した。
「あら? 敵ではないですの?」
「私だ私」
「あら? ごめんあそばせ」
地上に出ると、そこは敵軍から少し離れた、戦場の中心だった。
エルシュがシュカを連れ戻したようだ。
「ペリータ様、作戦はどうでした?」
「むぅ……いいところまではいったよなモグ」
「惜しかったなペリ」
お互いうんうんと頷き合う。
「あら……ならば今度こそわたくしが行きましょうか」
「もう警戒されてるだろうしなぁ」
同じ手が通じるとは思えない。
エルシュならどうとでもしそうではあるけど。
「それより、敵の士気はボロボロなのにまだ撤退しないのかな」
「そうですね」
「まだ戦い足りないのではないですの? わたしが楽しませてあげますわ!」
駆け出そうとするフランシシュカをエルシュは抱き上げて止めた。
そして魔法騎士のゾフィアがどこからともなく現れた。
「撤退しても王都となるからな。下がれないのだろう」
「ふむ? 篭ったほうが得策に思えるが」
「こちらには人力攻城兵器があるからな」
エルシュの方を見た。なるほど。
「『絶対勝てない』と思わせるような手があればいいんだが」
「地上、地下でダメでしたら、空がありますわ!」
「空……」
ゾフィアがフランシシュカの言葉に首を傾げる。
「兄上がペリータを投げて、空から攻撃すればいいんですわ!」
何言ってんだこいつ。




