[4-5]アラキア平野の戦い―1
前回までのあらすじ:ついに王国と公国の戦争が開戦した。砦を拠点にし、陣取る王国軍。圧倒的に数で劣る公国と帝国の連合軍。しかし公国には一人で圧倒的な戦力を誇るエルシュがいた。エルシュが石玉を投げ、砦を破壊した。次に敵部隊の敵将に向けて投げ込んだ。王国軍はその二発で遁走し、残りの石玉で砦は破壊、町は開門された。
フニャシア公国の兵は100人。彼らはなんのためにいるんだ俺らという顔で進軍している。
しかしもちろん必要な部隊だ。
エルシュが圧倒的な力を持っていたとしても、伏兵がいたり、奇襲されたりする恐れはある。
魔法使いが絡め手を使ってきたら、何もできずやられてしまう可能性もある。
彼らは重要な人員だ。
一方帝国軍騎兵の10人は、帝国にフニャシア公国の強さを伝えてくれればいい。
エルシュを欲しいとも思わないほどの、恐ろしさをだ。
手を出さなければフニャシア公国は帝国属州だから逆らわないと思って貰えればいいのだ。
三日かけて次に大きい町スレメボに着いた。
私の故郷から最も近い町だ。
ここでも戦闘になると思ったが、何も見当たらない。後詰めはいなかったのだろうか。
下がらせて王都の軍と合流したのかもしれない。
スレメボの町には壁の外に自警団がいるだけだった。
自警団には大男の冒険者であるゲオルゲがいた。
私は彼に近づき、声をかけた。
「やあ。門を開けてくれないか」
「水姫様は公国に付いたのか?」
ゲオルゲは腕を組んで、私を睨んだ。
「王国のためだ、と言っておこう。最小限の被害で戦争を止めるために必要なことだ」
ゲオルゲは首を振った。
「わからんな俺には」
「そうだな……、受け入れるならゲオルゲの友の、石魔法使いの右手を治してやろう」
「うん?」
「黄金の天使の噂は本当だ」
エルシュと石魔法使いを私の横に立たせた。
「<石の弓>!」
「俺の右手が治るというのは本当か……?」
「ああ。できるんだよな? エルシュ」
「はい。でももう一度腕を斬り落とした方がいいかもしれませんね」
「だ、そうだ。ゲオルゲ、斬ってくれ」
ゲオルゲと<石の弓>はお互い目を合わせ、<石の弓>は頷いた。
ゲオルゲが剣を抜き、<石の弓>の右腕の肘を斬り落とした。
「んぐッ!」
エルシュが腕を取り、治癒魔法をかける。
すぐさま腕から流れる血が止まった。
「欠損を治すには時間がかかると思います。宿で続ける方がよろしいかと」
「町に入れてくれるな?」
「……ああ」
ゲオルゲの令で町は開門された。
宿の一室に集まり、治癒魔法を続けている。
腕は綺麗なピンク色の状態で、右腕の切断部分から今は生えている。
「この戦争は、どうなるんだ……?」
正面に座ったゲオルゲが私に話しかけた。
「王が降伏すればすぐ終わるよ」
王国への道中、王国軍はアラキア平野という場所で、横に広く陣を敷いていた。
こちらの数がごく少数のため、囲み込むつもりだろう。
本来なら撤退するべきなのだろうが……。
「腕が鳴りますわー!」
お姫様はやる気満々だった。
すでに口上で前に出て、ぶっつぶしますわーとか言っている。
エルシュが前回と同じように、石玉を放り投げた。
しかしドウンと氷の壁にぶつかり、石玉は途中で落とされた。王宮魔法使いの氷魔法使いだ。
「すでに対策されてしまったか」
「どうしましょう?」
私達の目的は、敵の被害を最小限にしつつ王都へ乗り込む事だった。
しかし、抵抗されるなら仕方ない、本気で突破するしかないだろう。
そうこうしているうちに、土魔法と氷魔法によって、前方に壁や砦のようなものが構築されていく。
手元にある石玉は残り9個なので、有効に使うべきだろう。
敵兵は右翼左翼から前進している。
魔法騎士であり部隊長であるゾフィアから、そこに石玉を転がすように命じられた。
囲まれないようにしつつ、正面から当たるつもりだ。
「むんっ!」
石玉が軽装歩兵の群れの中を転がっていく。
左右の部隊には魔法使いはいないようだ。
しかし、横に広がっているため混乱は一部だけで、構わず前進してきた。
そうこうしているうちに軽装歩兵の投げ槍の射程に入り、左右から槍が投げ込まれた。
公国軍はそれを火魔法で撃ち落とす。
公国軍は火魔法の魔法騎士団だ。
「わたしの出番ですわね!」
フランシシュカは大剣を手に取り、戦場の正面に駆けていった。
「ちょっと! お嬢様!? 前進! 前進だ!」
ゾフィアは慌てて追いかけるように部隊を前進させる。
左右から乱戦に持ち込まれ、正面から弓を撃たれる。
「飛び道具からお嬢様を守れ!」
「必要ありませんわ!」
フランシシュカは火魔法を付与した大剣を振り、炎を空に描き、矢を焼き落とした。
さらに横薙ぎの一振りで50人ほど巻き込み、敵兵をたじろかせた。
「加勢します!」
エルシュが左翼の敵兵の中に石玉を投げ込んだ。
そして、そこへ駆け込み、石玉を殴りつけて粉砕し、欠片を飛ばした。
敵兵から「ぐあ!」と悲鳴が上がる。
10人ほど地面にうずくまった。
さらにエルシュは石玉の欠片を投げつけた。
こぶし大の石が、スリング以上の速度で次々と放たれる。
もはや戦いとは言えず、的あてゲームだ。
左翼の敵兵は散っていく。と、なれば敵の包囲はすでに失敗だ。
しかし、さらに外から騎馬兵が回り込んでいた。
「やれやれ私がやるか」
騎馬兵の先に私は沼魔法を展開した。
急に沈み込むものではないが、馬の足を取ることはできるだろう。
先頭の馬の蹄がずるりと滑り、何頭か転倒した。
後続もそれにぶつかっていく。
エルシュはそこへ石を投げ込んだ。
「ペリータ様流石です!」
敵軍の左翼はあっという間に瓦解された。
かわいそうなほどの蹂躙だが、まだ右翼が残っている。
そちらはゾフィアや公国魔法兵が相手にしていた。
ゾフィアもフランシシュカに負けず劣らず、火魔法と爆発魔法で敵兵を倒している。
特に爆発魔法は、範囲が狭く殺傷力は低いものの、相手をひるませるのに効果的に使っていた。
近づいたものは剣で切り落とされていく。
公国魔法兵は一人ひとりの強さは大したことがないものの、集団で火魔法を使い、炎の壁を作り上げていた。
魔法も使えないただの雑兵ではひとたまりもない。
右翼でも左翼と同じ用に騎馬兵が外回りしていた。
回り込んだ先にいるのは、公国魔法兵ではなく、冒険者だ。
「オイラの出番っすね!」
〈爆炎〉ことバクは騎兵に向かい、爆音魔法を発動した。
ドオォォオオオォオオオン!!と戦場に爆音が鳴り響く。
騎兵の馬は音に驚き、立ち上がった。
「でぶぅ!」
そこへ〈熊の手〉ことクマが、エルシュの使っていた石玉を転がして押し込んでいく。
馬から落ちた騎兵の半分が潰された。
残りは<石の弓>が石礫を石魔法で発射していく。
これで右翼も壊滅した。
敵の中央部隊は前進し、フランシシュカとぶつかっていた。
軽歩兵がフランシシュカ一人でなぎ倒されていく。
しかし、敵の中央には魔法部隊もいた。
氷の槍が放たれ、フランシシュカの腹部に突き刺さった。




