[4-4]岩巨人
前回までのあらすじ:石玉を造り続ける男がいた。石玉を作らせていたのは国の敵の者たちだった。一体どうなってしまうのか……。しかしそろそろ主人公を書かないといけないのではないかと私は気づいた。
川沿いの平原に部隊が陣を作った。
フニャシア軍100人。帝国軍騎兵10人。
戦争というには明らかに数が少ない。
一方王国軍の砦には農兵含め2000人ほど集まっていた。
局所的には小規模だが、拠点を守るためには十分だ。
王国に取っては、予知で見えた未来を避けるために現時点では守るための戦いであり、公国に取っても攻められないためにちょっかいを出しにきたのだ。
ゆえに、お互い消極的に届かない距離で矢を撃ち合う程度になるだろう、と思われていた。
部隊を指揮するのは、忠臣であるが若く地位も低い一介の魔法騎士の女だ。
さらにフニャシア公国の新領主の従妹が側に立っている。真紅のドレスを着た姫のような存在だ。さらにその隣には熊のような男が大剣を抱えていた。
お飾りのような存在だろう、と周りは思っているに違いない。
しかし、私は直接戦ったので知っている。彼女の強さは英雄に近い存在だ。
さてこの戦い、実にお遊びだ。
王国民をいかに殺さないかという、慈悲を与える戦いだ。
よって口上も、死にたくなければ撤退を奨めますわという舐めたものになっている。
王国はもちろんそんなものは嘲笑しかしない。
攻城戦には3倍の戦力が必要と、部隊長の魔法騎士のゾフィアが言っていた。
戦力を兵力の数だけでいうならば、約20倍ほど負けている。
しかし、兵力の数なんて戦力には無関係だと、私と、公国の者は知っているだろう。
なぜなら公国には、エルシュがいるからだ。
「さて、残念ながら開戦されるようだ。エルシュ頼んだぞ」
「はい! ペリータ様!」
もうすでに私の奴隷ではなくなっているのだが、エルシュは私を慕ってくれている。
私、この戦いが終わったらエルシュと結婚するんだ……。
「死者は出るだろうが、ある程度の犠牲はしょうがないな。一撃でできるだけ逃がすようにしよう」
「やはりペリータ様はお優しいです」
ゾフィアから石玉隊に攻撃命令が下される。
部隊には、大人二人が抱きかかえるくらいの大きさの石玉が10個並んでいる。
エルシュは石玉を一つ、軽々と持ち上げた。
兵たちから「おおおー……」と感嘆と驚きが漏れた。
帝国兵はその姿から焦りと畏怖を感じ、それが馬に伝わり何頭か馬が暴れだした。
ズシンズシンとエルシュが石玉を担ぎ、砦へ歩む。
王国兵には何が起こるかいまだわかっていないだろう。
それとも岩巨人を知っているだろうか。
今から起こるものは、まさにそれだ。
エルシュが足を上げ、身体を反らし、大地を踏みしめた。
「むんっ!」
石玉が放られ、空に放物線を描く。
石玉が砦にぶち当たり、一撃で崩壊させた。
王国から悲鳴と混乱が広がる。
「やりました!」
エルシュが笑顔で喜びを見せる。
かわいいなぁ、私の嫁は……。
公国軍も帝国軍もドン引きしている。まぁわかるけど、うん。
帝国軍騎兵を呼んだ理由はわざわざこれを見せつけるためだからいいんだけどね。
王国軍はまだやる気のようだ。
エルシュが次の石玉を抱えあげる。
すると王国軍は思わずたじろいだ。
「次はどこを狙いますか?」
「そうだなぁ、できれば指揮官を狙いたいが」
「でしたら後ろの豪華な鎧で馬に乗ってる辺りですね」
軍の後方にいる辺りは貴族達も多いはずだが……まあいいだろう。
やっておしまいなさい。
そして二発目が放たれた。
ズドンと石玉の音が鳴り響く。命中したかはちょっと遠くてわからない。
しかし確実に混乱を起こしているだろう。
王国兵が散り散りになって逃げていく。
もはやそれを抑える事もできないようだ。
いえーいと私達はドン引きの視線の中で喜びあった。
「うまくいきましたね!」
「呆気なかったな。次が本番になりそうだけど」
「ちょっと兄様! わたしの出番が無くてつまらないですわ!」
フランシシュカが真紅のドレスを揺らしてプリプリと怒った。
「ごめんねシュカ。次は楽しもうね」
やはりフニャシー家は戦闘狂か。英雄エルシュの血は怖いな……。
「王国には恐怖を与えて被害少なく降伏して貰うのが目的なのだから、君たちが直接虐殺したら意味ないじゃないか」
「でも戦士は戦うものですわ!」
「シュカが暴れまわっても恐怖を与える事ができると思いますよ! ペリータ様も一緒にどうですか?」
「まあ、考えておくよ」
水魔法で恐怖を与える方法なんて思いつかないけど。
砦に石玉をおかわりして徹底的に破壊した。
そして砦に逃げ込んだ者を追い出した。
ナトーネの町は抵抗なく開門された。
次は、私が冒険者となった町、スレメボだ。




