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[4-3]石玉は王国のために

前回までのあらすじ:村で頼まれた仕事は、石の玉を造る仕事だった。主人公出さないでよくわからないぽっと出の男の話しで展開大丈夫?と思いながら今回も岩を削るのであった。

 石玉職人の朝は早い。

 分不相応な大きさの家の、これまた大きなベッドで、日が昇る前の時間に俺は起きる。

 庭の井戸で水を汲み、顔を洗う。

 農村の家の庭に専用の井戸がある事で、いかに権力のある者の家かわかるだろう。

 しかし、俺は間借りしているだけで、村の権力者ではない。

 俺はただの石玉職人だ。


 石玉職人というものを知っているだろうか。

 石玉その名の通り、石から玉を造り上げる仕事だ。

 と言っても占い師の使うような水晶玉のような大きさではない。大人二人が両手を広げて一周するくらいの大きさだ。

 石玉の製造は、まず素材となる岩を岩山から切り出す所から始まる。

 これには爆発魔法を使う。

 爆発魔法の担当は<アネさん>だ。<アネさん>は茶髪でくせっ毛の背の高い人で、一見まるで男のようだ。

 太陽が一番高い場所に来る頃、昼の合図のように村に発破音が響く。

 砕かれた岩は、怪力者のクマという男によって大雑把な形に削られる。

 そしてそれを、土魔法使いのモグという男によって作られた斜面を転がし、地面の窪んだ作業場に移動させる。

 そこで俺が玉の形にしていくのだ。


 このごつごつとした岩を、乙女の肌のように滑らかにつやつやにしていく。

 見てくれよこの輝きを。まるで芸術品だろう?

 最初こそ戸惑ったものの、今や俺はこの仕事に生きがいを感じている。

 玉を造るために俺は産まれてきたと言っても過言ではない。


 石玉はこれで完成品は十玉目だ。

 一つ造るごとに玉造りの腕が上がっていくのを感じる。

 俺はまともな仕事を得て初めて職人の楽しさを知った。


 ところでこの石玉を何に使うかって?

 それは俺にもわからない。



「ごきげんよう」


 俺が石玉を愛おしく撫でていると、突然背後から話しかけられた。

 気配は感じられなかった。俺は驚き振り返る。

 そこには、美しいドレスを来た少女が二人いた。

 クリーム色の長いウェーブ髪で、赤い、真紅の薔薇のようなドレスを着た少女だ。

 その高貴な姿は、まるでどこかの国のお姫様のようだ。

 もう一人はもっと幼く、姉妹のようにも見える。

 こちらは薄い水色のストレートの髪で、白い民族衣装のようなドレスを着ていた。

 小さい少女もお嬢様のようだ。


「誰だか知らないが、こんな所きたら危ないぞ」


 俺はこれでもできるだけ丁寧な言葉で返した。


「あらありがとう。でも平気よ。わたしはあなたより強いですわ」


 別に喧嘩を売ったわけではないのだが、戦闘民族なのかこのお姫様は。

 この巨大な石玉を見て素直に危険を感じてほしい。


「はじめまして。私は泡姫です。この村の水魔法使いです」


 ぺこりと少女は頭を下げた。

 こっちの子はまともそうだ。


「水姫様の依頼を受けた方ですね。挨拶が遅れ、申し訳ございません」


「いやこちらこそ。俺は<石の弓>という」


「わたしはシュカよ! 仕事に励みなさい!」


 そこをお前に邪魔されたのだが、とは口には出さない。

 きっとこれは関わってはいけないタイプだ。


「どうも。で、なんのようで?」


「これであなたの仕事は終わりよ」


「え?」


 そんな……やっとこの石玉造りに慣れてきたというのに……。


「そろそろ始まりそうなの。だからそれを運び出すわ!」


「わかりやした!」


 いつの間にか、モグ、その他が側にいた。


「運び出す? どこへ? どうやって?」


「それは俺らの仕事さ。君の仕事はこれで終わりだぜ」


「待て! 待ってくれ! 最後まで関わらせてくれないか」


 一同が顔を見合わせた。


「どうする?」


「どうします?」


「いいんじゃないかしら? この程度で計画に支障が出ることはありませんわ!」


 計画……? 一体何が行われているんだ……?


「そうね、まずは自己紹介いたしますわ!」


 少女はクリーム色の髪をばさりとかき上げた。


「わたしはフニャシア公国領主一族のテイサ・フランシシュカですわ! そしてあなた達はわたしの家来ですわ!」


「フニャシア……?」


「あらご存知ありませんの? 王国が戦争をしようとしている相手ですわ! 今は敵国ということですわね!」


 なんということだ。

 俺は敵国のために、これを作っていたのか……?


「安心なさい! これは王国のために使うのですわ!」


「それってどういう……」


「もちろん! 王国をめちゃくちゃにするためですわ!」


 俺はがくりと膝を地に付けた――。

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