[4-2]村でのその男の仕事は
俺の席の目の前の大男、<猪の牙>に話しかけたのは桃色の髪の小さい少女だった。
「その頼みを聞く前に紹介してもいいか」
<猪の牙>はその少女に俺の事を話した。
冒険で右手を失った事。仕事先に困っている事。そして少女の故郷の農村で仕事を与えたいという事。
一通り話してから、少女は一言「ふむ」とだけ言った。
「俺は<石の弓>だ。畑仕事は苦手だが、石魔法を扱える。仕事を紹介してくれるならありがたい」
と言っても、こんな少女に頼んでどうにかなる話しとは思えないが。
「この子は<水姫>様と言ってな。その村では実質トップの立場にいるんだ」
村では村長を差し置いて、魔法使いが一番の権力者として扱われる事もある。
なるほど、水魔法使いなら農村でも重要な立場だろう。
しかし、そうなるとなぜ冒険者をしているのかますます不思議だ。
「よろしく」
俺は右手を差し出し、慌てて左手に替えた。
「うん、よろしく」
<水姫>様はその手を取らなかったが、木製のジョッキを掲げたので、俺はそれにジョッキをぶつけた。
「で、<水姫>様の頼みとはなんだったんだ?」
「そうか、そうだったな」
<水姫>様は頬に人差し指を当て、少しの時間、視線を上に向けた。
そして、<猪の牙>に向き返った。
「それより、そこの石魔法使いの、村までの案内はゲオルゲがやってくれないか」
「ああいいだろう」
「それと、他の冒険者も村に向かわせるから、それらも一緒に頼む。五日後くらいに出発できるか?」
「うん? そりゃあ……」
この街の砦建築の仕事を放棄して行けるか、ということか。
この姫様は随分とせっかちなようだ。
「それと、これは依頼ではないので金は支払えない。できるのは、住む所とそして村での仕事の斡旋だ」
「俺はそれで構わない」
村と言っても<猪の牙>が言うには町ほどの規模になっていると言うほどの場所だ。
紹介状を貰いそこの一員としてくれるなら、この腕でも真っ当な仕事にありつけるだろう。
「わかった。それではまたここで落ち合おう」
「また」
桃髪の小さな少女が手をひらひらさせて去っていった。
「急な話になっちまってすまねえ」
「こっちこそ手間かけさせちまって悪いな」
「いいってことよ。どうも俺はやはり拠点の町のスレメボに縁がありすぎて離れられないようだ。ハッハッハ!」
五日後の早朝、この酒場で<猪の牙>と三人の男と落ち合った。
彼らは背の高い男のモグ、身体のでかいクマ、そして背の小さいバクと名乗った。
彼らが俺の他の村までの同行者のようだ。
徒歩で四日ほどかけて、目的の村に着いた。
全員で村長に会いに行き、<猪の牙>が水姫様から受け取った手紙を渡した。
村長は封蝋を切り、手紙を広げた。手紙は二通あった。
村長は一通目を読み頷き、二通目を読み首を傾げた。
その後、村長と一人の壮年の男に、豪華な一軒の家に案内された。
話しによると、この家は水姫様の家らしい。
水姫様が普段は外に出ていて、家を使わないからと、一時貸し与えてくれるようだ。
本来は余所者を入れるような所ではないが、そうするように手紙に書かれていたとのことだ。
あの小さな少女は本当に、村で一番の権力を持っていたようだ。
荷物を家に置き、村長から二枚目の手紙に付いて聞かれた。
「仕事を斡旋すると言われただけで、内容は聞いてないが」
手紙に書かれていた仕事の内容が、おかしなものだと言う。
俺に与えられた仕事は、共に来た冒険者三人と共に、岩山から球体の岩を作り上げるというものだった。
大人二人が手を広げた直径のものを何個か急ぎで造るという、確かに首を傾げるものだ。
村を守る兵器なのかもしれない、と思った。
もしここを攻められた時に、岩を転がせばかなりの脅威となるだろう。
次の日から俺は、岩から球体を造り上げる日々となった。
石魔法の使える俺がメインで、他の三人がサポートとなっている。
<猪の牙>は村での仕事を再開するとのことだ。彼は元々、ここでの仕事を請け負っていた。
モグは土魔法使いなので作業場の整地をし、クマは怪力者なので邪魔なものをどかしていく。
バクは火魔法使いのようだが、特にできる仕事はないようで、安全の確認をしてもらっている。
「しかしこれは、岩を切り出す者がいないな」
俺は岩魔法を扱えるが、でかい岩を切り出すとなると分野が違う。
俺とクマで削っていったとしても、時間がかかるだろう。
その日はちまちまと岩山を削るだけで終わった。
次の日には中性的な女性が協力に入った。
他の三人から「アネさん」と呼ばれており、彼らは既知の仲のようだ。
その<アネさん>は火魔法使いであり、岩山を爆発魔法で砕いた。
これなら作業は捗るだろう。
その日は岩玉の素材となる岩を切り出して運び、ざっと形を作ったところで終わった。
ここまでくれば、細かく削るのは俺の岩魔法で作業を進める事ができる。
明日には一玉出来上がるだろう。
そうして俺は岩玉を造り上げていった。




