[3-19]二人のメイドと黄金の天使
前回までのあらすじ:ロリっ子のペリータは大人だと思われなかった。そしてエルシュの代金の支払いのために金貨50枚を持って王都へ戻る事となる。ついでにエルシュの従妹のフランシシュカもおまけで付いてくることになった。
そういうわけで、私達はのんびりする間もなく、早々にフニャ都を発つ事になった。
命令で「捕まえるなよ!」と言っても、そうはできない方たちもいるらしい。
そりゃ治癒魔法使いを捕まえて帝国本土に連れて帰る事ができたら、辺境の地で暮らすより良いわな。
また〈モグ〉の力を借りてこっそり城から抜け出した。
魔法騎士のゾルトが普通の馬車を用意してくれていた。
ゾルトと誘拐犯三人組も橋の砦まで同行した。
フランシシュカが三人組を「誰こいつら」と剣でつんつんして虐めていた。
出国はすんなりできた。
ゾルトもいるし、なんなら王族の従姉妹のフランシシュカもいるのだ。
橋の砦は王国側には存在しない。がばがばだ。
さて、橋の先の街はナトーネと言ったか。
ここの宿には荷物が預けてある。
宿酒場のドアを開けて開くと見知った顔があった。
「げ」
「よっ。久しぶり」
「誰よこいつ」
フランシシュカはスラリと腰のレイピアをチンッと抜こうとした。
決闘の時に使っていた大剣は邪魔なので置いてきたようだ。
「はじめましてお嬢様。ゴンズといいます」
「知らない男だ。斬っていいぞ」
「わかりましたわ!」
「おいおいおい!」
「シュカ待ちなさいっ」
剣を抜こうとしたフランシシュカをエルシュが抱きかかえて押さえた。
「お久しぶりですゴンズさん」
「ああ。お前たち王都へ戻るんだろ? 俺も一緒の馬車に――」
「断る」
「ええ……」
私はぷいっと顔を背けた。
「甘いものあげるから」
「なら許す」
お菓子をくれるなら飲まざる得ない。
女の子にとって甘い物は何よりも重要なのだ。
「ところで、随分慌ただしく戻ってきたようだな」
「ああ、色々あってな」
どっこいせと、椅子に座った。
こんな汚い所には座れませんわと騒ぐお姫様はエルシュの膝の上に座った。
コラ! そこは私の席だぞ!
ちょっと強い酒を頼もうとしたら「子供にはまだ早いわよ!」と、取られた。
子供じゃないもん……年長者だもん……。
夕飯のお肉をもぐもぐしながら、ゴンズにかいつまんで話した。
フニャシア公国の領主ラディウスが刺された事も話したが、驚かれなかった。
「あれ? 知っていたのか?」
「ああ、噂でな。それで王国は開戦を前倒しにして進めているようだ」
「あらま」
王国は収穫時期を狙って帝国に戦争を仕掛けるつもりだったようだ。
その前に、王国と帝国の間のフニャシア公国が帝国に寝返ったため、戦争を仕掛けるとしてもまずはフニャシア公国を取り戻す必要があった。
そこで領主が刺されたとなったら、チャンスと思うに違いない。
フニャシア公国に入り込んだ帝国民をさくっと追い返せして城を取り戻せばいいのだ。
「だからこの街に物資や兵が集められているぞ。その状況下で公国からやってきたお前たちは注目されている」
「つまり、戦争やめてと交渉しに来た者と思われていると?」
「まあだいたいそんな感じだ」
「あらま」
「それならそうに思わせた方が動きやすいぞ」
「なるほど」
「どういうことですの?」
フランシシュカは少し下品に肉を食べながら聞いてきた。
ちなみに冒険者と思われるように、上品に食べるなと言ってある。
エルシュはかわいいのでそのままで良い。
「姫様、もっと上品に召し上がりなさい」
「えっ? ええ……。あなたが下品に食べなさいと言いましたのでは」
「状況は常に変わるのですわ、姫様」
「その姫様って何……、ああそういうこと」
ふふんっ、とフランシシュカが胸を張った。
「やっとわたしを慕うつもりになったようね!」
「姫様、私達は交渉のためにお忍びで来ているのですよ。もう少し静かにお話ください」
「え? まあお忍びではあるけど……交渉?」
「そうです。あっ宿に先に預けておいた荷物を受け取らないといけませんねエルシュ」
そういうとエルシュは少し察したようだ。
「あっはい。なるほど。では着替えてまいりますね」
エルシュがすすすっと店の奥へ消えた。
「一体なんなのですの……」
クッションになっていたエルシュがいなくなったので、渋々と木の椅子にハンカチーフを敷いてフランシシュカは座った。
私はヒソヒソっと耳打ちした。
「姫様、あなたは兄が刺されて倒れたので、王国に戦争はやめてくださいとお願いしにきたのです」
「え? そうですの?」
「そうなりましたの」
「ふうん?」
しばらくして、エルシュがメイド服姿が戻ってきた。これで私とダブルメイドだ。
「あら兄様、メイド姿も素敵ですわ」
「おかえりニーサ」
「え? ニーサ? あ、はい。わたくしはニーサなのですね」
「兄様は兄様ですわ!」
「ニーサです姫様」
「そうですニーサです」
「ニーサ? 兄様?」
フランシシュカはきょとんとしている。
そんな中、見知らぬ質の高い衣装を纏った男が現れた。
私も知らない男だ。
「お待たせいたしました姫様」
「ん? んん? あらあなた見覚えありますわ……確かラディウス兄様の側にいらした……」
「ニコラエでございます。姫様」
「そうそう! そんな名でしたわ! いつも城にいるのに、こんな所へどういたしましたの?」
「私も姫様にご同行いたします」
「そう、よろしくですわニコラエ」
ニコラエはフランシシュカの手を取った。
まあ中身はゴンズなんだけど。
しかしこいつは領主の側近にまで化けられるのか。
「ニコラエ様。私は侍女のペリエッタ、それにこちらは侍女のニーサです」
「ニーサ、ニーサですか」
「そうよ! 兄様よ!」
「ニーサ」
「兄様」
「ニーサ」
「ニイサ」
フランシシュカはハッとしてエルシュの顔を見た。
「なるほどですわ! 兄様はニーサでしたのね!」
なんだかわかってなさそうだけど、納得したみたいなのでもういいか。
「そしてこちらが黄金の天使のフランシシュカ姫です」
「え?」
「え?」
フランシシュカとエルシュが同時に私の方を向いた。
ニコラエゴンズはにやりと笑った。
「それではよろしくお願いいたします、黄金の天使様」
「わたしはフランシシュカですわ?」
「黄金の天使様」
「おうごんのてんし……わたしが? そうでしたの?」




