[3-14]運命の力は輝きと共に
前回までのあらすじ:誘拐犯の三人〈モグラ穴〉〈熊の手〉〈爆炎〉をちょっと脅したら仲間になった。
久しぶりにペリータとエルシュがぐだぐだーと会話して話しが進まない回です。斜め読みでいいです。
ゴトゴトと豪華な馬車が街道をゆく。
前後には、馬に乗った護衛が付いている。
さらにその後ろに、馬に乗った魔法騎士と、ヒョロい男とデブとチビが並んで歩いている。
「それで三人はモグとクマとバクでいいのか?」
「ええそれでいいですアネさん」
「誰がアネさんだ」
魔法騎士ゾルトが剣の鞘で三人をせっつく。
「変なこと考えたら直ちに斬るからな」
「もう誘拐なんてしないっす!」
「でぶぅ」
次の町はフニャシー王都の隣なので結構大きいようだ。
ところでエルシュに「フニャシー王国?」と言ったら「フニャシア公国ですよ」と正された。
よくわからないが、違うらしい。
エルシュの曽祖父の初代フニャシー・エルシュが怪力者の力でもってここ一帯を征圧し、王国から公爵領として任されたようだ。
つまり他国から攻められるような場所だから守り続けてねって事らしい。
ここからどうでもいい話しだ。
私が王国と呼んでいたのは「トラヴィニア王国」で、帝国と呼んでいたのは「メイマス帝国」だそうだ。
ついでに「トラヴィニア王国」の首都は「テヴィルテ」と言うらしい。
とりあえず固有名詞なんてめんどくさいのでぶん投げる。
王国じゃなくて公国なら都は公都? と聞いたらそれはなんか違うらしい。
とりあえずフニャ都と呼ぶことにした。
と、まあ馬車の中でお勉強してたらフニャ都の隣町へ無事に着いた。
無事でも無かったな……と、馬車を降りて誘拐犯三人組を見て思い出した。
地下空間に閉じ込められた事を思い出すと、ぷるぷるしだす。
よくよく考えたら私達を誘拐しようとするような奴だ。実行犯もそれなりの人選するに違いなかった。
知っての通り、私は他人の魔力を色で見ることができ、その揺らぎで感情も少し把握できる。
彼らが私達を傷つけようとは本気で思ってなかったので助かった。
「見てくださいこれ、フニャシー家の紋章ですよー」
と馬車を指さしたらビビりまくっていた。
根は悪い奴らではないのだろう。
ただ冒険者のついでに金のためにちょっと悪いことをするだけだ。
つまり私と同じような奴らだ。
土魔法のヒョロはモグ。
怪力者のデブはクマ。
火魔法のチビはバク、と呼ばれるようになったようだ。
魔法騎士のゾルトは「アネさん」といつの間にか呼ばれていた。
私もこっそり「アネさん」と呼んだら静かに「やめてくれ」と言われた。
そんなに本気で殺気を出さなくてもいいじゃないか……ぷるぷる。
この町もでかいけど大して面白いものはなかった。
どうやら元々砦で、そこに街がくっついたようだ。
おそらく昔にこの土地を奪い合っていた者たちが造ったのだろう。
そういう場所ゆえか、戦士が好きそうなもの、男が好きそうなものばかりだ。
私のようなぷりちーな少女がふらりと出歩いてはいけない街だった。
エルシュの目も塞いでおかなくては。
そもそも着いたのは日が傾いた頃なのだ。観光してる時間もない。
ここにも温泉があったのでジャポンヌした。
そんで寝るかーと思ったら元誘拐犯の三人が手招きしていた。
何さり気なくVIPな宿に入り込んでるんだよ。
そして話しかけてきた内容は、「やっぱり誘拐されないか?」ということだ。
誘拐対象に誘拐されないかと聞くやつがあるか。
王族に関係するのは金髪美人の方で、ちんちくりんのお前は無関係なんだろ? とのことだ。
なるほど確かに。
「でも、私に何かあったら金髪美人は私を助けにくるぞ」
彼らは私がメイドに見えるが、実際はエルシュがメイドなのだ。
エルシュは私に何かあったら助けますと言っている。
そしてその時、誘拐犯のこの三人はミンチになるのだ。
「私は優しいけど、金髪美人は優しくないぞ」
エルシュの行動を見てて思う事がある。あの子容赦ないよね。
そりゃ私だって自分の身を護るためなら相手に気遣うつもりはない。
虻がたかってきたなら叩き潰す。
それにしてもエルシュは手加減などしない。
いや、手加減などしなくていいのだが、エルシュの魔力は人外だ。
エルシュは街中で人間語を介する美人でかわいい、中身ミノタウロスだ。
人と人との諍いの中で、ミノタウロスが全力を出しちゃダメだろう。
エルシュはそれを私のために行う。
私がこの三人を「潰せ」と命じたら、刹那で人間だったものが出来上がるだろう。
あの森の中での賊のように。
私はエルシュのためにも、火の粉は払わないといけないと思っている。
と、いうことで三人に「絶対に手を出すなよ……」と念を押しておく。
本当だぞ。本当にどうなっても知らないからな。
「あ、でもフニャ都に行った後なら王都に帰るかも」
「ならその時一緒に帰りますかい」
「君たちはゾルトの部下にでもなったほうが良いんじゃないか?」
「アネさんが雇ってくれるならそれがいいんすけどね」
「でぶぅ」
そもそもこいつらが失敗してるのはバレてるだろうし、王都行っても意味ないだろうな。
「ああそうそう、桃メイドちゃんはうちらと同業みたいなもんなんすよね?」
「まあそんなところだな」
「王都に連れ戻されそうになるなんて、何かヤバイ事したんすか?」
ヤバイ事……したかな?
「記憶にございません」
ぽりぽりと頬を撫でた。
おそらくエルシュ絡みだと思うけど、何なんだろうな。
「まあそれならそれでいいすけど、俺たちは何も関係無いって事にしてくだせい」
「わかった……ところでその変な敬語はやめていいぞ」
モグはきょとんとしたあと、にへらとした。
「優しいなぁペリちゃんは」
「いいこいいこするっす」
「でぶぅ」
「いややめろ! 子供扱いするな!」
バシャンと水をぶっかけて宿の部屋に逃げ込んだ。
「と、言うことなんだが」
いつものようにベッドの縁に座るエルシュの膝の上に座り、エルシュにも誘拐について話してみた。
「ペリちゃん……ふふっ」
「やめ、そこじゃない」
エルシュの頬をむにむにする。
「つまり、わたくし達が兄上と会う事を良しとしない方が王国にいるということですか?」
「私がエルシュを王都から連れ出した事が大きな問題だったようだな、つまり」
王国は干ばつの飢饉に備えて帝国を攻めて奪いたい。
そのための後ろ盾として、フニャシア公国の領主直子のエルシュを王都に置いておきたかった。
それにより……それにより?
何があるんだ?
「エルシュが王都にいると王国に何か良いことあるのか?」
「わたくしの力が目当てでしょうか?」
「いやエルシュの力は知らないはずだ。そうでなければ最初から外に出さない」
奴隷商館の副店長は、エルシュがフニャシー家ということくらいは知っていただろうが怪力者としての力は知る様子はなかった。
「それなら最初の通り、わたくしが兄上と会うことを良く思われないのでは」
その可能性はある。
しかしエルシュを奴隷として王都へ送り込んだのはフニャシー家の方なのだ。
それが家に戻ったら不都合というのは前提がおかしいはずだ。
その観点だとむしろ、フニャシー家の方がエルシュが戻る事が不具合な気がする。
あれ? だとすると私達が向かってるのって良く思われてない?
豪華な馬車を用意してくれたから歓迎されてると思ってたけど!
「それってやはり戦争と関係しているのでしょうか」
王国は戦争がしたい。
したいためにエルシュを王都に置いておきたい。
いや、本当にしたいのか、という事を疑うべきか。
「エルシュは交渉カードになる?」
「カード……になりますか?」
エルシュは確かにフニャシー家の直子だが、奴隷となり性が外された。
交渉のためというのは違う気がする。
いや、そもそも――
「エルシュを使ってどうこうするつもりなら、私に奴隷として売って自由に行動させてない?」
「そう言われてみればそうですね。副店長も売るつもりは無かったみたいですし」
つまり私はイレギュラーだったのだ。
でも問題はないと思われ、私がエルシュを奴隷として手に入れた。
問題が起こったのは私がエルシュを連れ回したからだ。
連れ回したきっかけは、王国の干ばつで、私が故郷の村を見に行った事だ。
そしてその干ばつは、奴隷商館の副店長の依頼がきっかけだ。
辻褄がどうも合わない。
「だとすると……副店長はバカ?」
何も考えずに私にエルシュを売って行動させちゃいましたてへぺろ、ってことか。
いやいや待て、そんな愚かな男だっただろうか。
そうかもしれないが、ここは相手を賢いと思うべきだ。
「副店長さんはマヌケだったのでしょうかね」
エルシュまでそう言ってる!
エルシュがそう言うなら本当にそうなのかもしれない!
いやきっとそうに違いない!
「副店長はバカでマヌケだったから私を誘拐して連れ戻そうとした?」
「そうですね、バカでマヌケだからペリータ様を誘拐しようなんて考えたんです!」
な、なんだってー!?
何か考えがあるに違いないと考えることこそ、マヌケの手のひらに踊らされてたっていうことか!
おのれマヌケめ!
脳への栄養と時間を返せ!
「あっわかりました!」
エルシュが私の両手をバンザイと持ち上げた。
「わたくし達を王都から離れないようにしなかったのに、連れ戻す理由がわからないんですよね」
「そうそう」
要するにそういう事なのだ。
「もしかして、副店長さんもわからないのではないでしょうか?」
自信満々の顔をしているエルシュ。
それを下から上に見上げたため、口がぽっかり開いた。
「なるほど、さすがエルシュだ!」
いいこいいこと頭を撫でる。
なるほどなー、よくわかってないからよくわからないのかー。
さすがエルシュ賢い!
……え? どういうことなの……。
いやしかし、エルシュが言うことなのだからきっと正しいのだろう。
エルシュがアホの子だから変なことを言い出したわけではないはずだ。きっとそうだ。
副店長はバカでマヌケではなかったが、事の重要性を知らなかったのだ。
なので、エルシュを私に売って、自由に行動させた。
だけどそれは大変な事で、「お前何やってんの!」と怒られたので、慌てて連れ戻そうとした。
いや、そもそも知ってたけど、ゴンズを付けてたから大丈夫だろうと思っていたのかもしれない。
しかしゴンズは死んでしまった。
そこで新しい手として、誘拐を企てた。
「ということは、エルシュを王都に置いておきたいのはもっと上の考え?」
そもそも戦争に関わるほどの事なら、一奴隷商館の副店長の思惑で済む話しではないだろう。
それを命じた店長も、もしかしたら詳細は知らないのかもしれない。
一番上となるとやはり、王だろうか。
エルシュが王都にいると戦争に勝つぞ! と、王が言った?
……なにそれ。
「わたくし達を王都へ置いておくこと自体が目的なのかもしれませんね」
よくわからないけど、エルシュを王都に置いておきたい?
お守りみたいな感じ?
「あっ」
私は一つ思い当たってしまった。
「さすがエルシュ、そうなのかも!」
ぐいっとエルシュをベッドに押し倒した。
押されて倒れるような力差ではないが、エルシュは「わぁ」とばたりと倒された。
「予知能力だ!」
「予知能力ですか?」
王の周りには、自分のため、国の命運のために未来を予知する予知能力者が召し抱えられている。
予知能力者が『このままでは国が危ない』と予知したとする。
もしかしたらフニャシア公国が帝国領となること知っていたかもしれない。
だとしても、起こり得る大きな事を起こらなくするには、大変なズレを起こす必要がある。
なのでそこは許容し、先のために別の手を打つことにした。
それは、『エルシュを王都に引き止める事』だ。
しかしそれも運命としてずらす事はできなかったのだろう。
そしてエルシュに直接干渉するのではなく、『エルシュの奴隷主人であるペリータを誘拐する』ことにしたのかもしれない。
「もし今から王都へ帰ると言ったらどうする?」
「えっと、もうすぐ着くのにですか?」
エルシュはもじもじと言いづらそうに答えた。
「ペリータ様がそうおっしゃるなら従いますが……、ここまで来たのですから兄上と再会したい気持ちがあります」
そんな困った顔して言われたら、やっぱり行くしかないじゃん!
運命はやはり決められていたのだ。
「ならちょっと会ったら帰ろうか」
「はい! ありがとうございます!」
うお! まぶし!
と、エルシュの眩しい笑顔から顔を逸して、もぞもぞとエルシュの胸の上を枕にした。
投稿一ヶ月経ちました。
こんなに続くはずではなかったのにおかしいですね。
そろそろ終わるかもしれません。終わらないかもしれません。




