[3-12]温泉に入ろう
前回までのあらすじ:馬車の中でゾルトは女だとカミングアウトした。女性三人かしましくぶっちゃけ話しをしていると、ゾルトが何やらフラグを立てだした。
ゾルトが凄く意味深な事を言いだしたが、何事もなく宿場町へ着いた。
話しによると三日ほどでフニャシー領の都に着くようだ。
冒険者酒場とは違う、高そうな宿へ案内され、フカフカなベッドで横になった。
すやー。
では話しは旅の途中に戻るとする。
今は馬車で街道を行くだけののんびりした旅だが、旅で重要な事を知っているだろうか。
【飲食】
当然ながら人は水も食料もなしでは生きていけない。
特に水は旅の中で綺麗な清流が見つかるなんて早々ない。
だから革袋に酒を入れて持っていく。
途中で動物を狩って血を呑めたら幸運だ。
だけどその点は私は水魔法使いで、いくらでもじゃぶじゃぶ魔法の水を出せるので問題はない。
なので冒険者は水魔法使いが多いのだ。
旅の昼食(太陽が南東くらいの頃)は旅食ではなく、ふかふかパンを持ち込んだ。
休憩がてらにゾルトが火を起こし、塩スープを作った。これはあまり美味くなかった。
干し肉とビスケットを入れただけのやつ。
これはあれだね。馬車の前後の騎士が旅食に持っていた残りだね。
ちなみに前後の騎士の護衛は、ヨーゼフとヨアヒムと言った。
ヨから始まって四文字で同じような暗い髪色の短髪で、わかりにくいなこいつらと思ったので、青のヨーゼフ、黄のヨアヒムで覚えた。
色はいつもどおり魔力の色だ。
そして青のヨーゼフの方が先導している方だ。
日が沈む前には宿場町へ着いたので、旅中での食事はその一度だけ。
宿では血のスープとパイをもぐもぐした。
【寝床】
毎回綺麗で安全な宿に泊まれるとは限らない。
野宿でも、雨を防ぎ、火を起こす事は重要だ。
陽が傾く前に場所を決めて早々に準備しなければならない。
何も知らない初心者冒険者は、外套にくるまってブルブル震えながら死んでいく。
私には今では最高のベッドがある。
エルシュの上でくっついて寝るのだ。
エルシュは時々火の番でもぞもぞっと動くが、私はひっついている。
エルシュは将来いいお布団になるよ。
【トイレ】
乙女のトイレの話しをするのもどうかと思うが、旅でうんこは重要だ。
うんこをする時は無防備であり、危険だからだ。
うんこする時は必ず二人一組で、一人が背後を警戒するのが鉄則だ。
うんこは適当な場所で穴を掘ってするのが一般的だ。
掘って埋めて隠す事を怠って、魔物や野生動物に狙われ命を落とす初心者冒険者も多い。
穴を掘る時は土魔法でさっくりと。
しかし私は土魔法は使えないので、水と土の混合魔法でちっちゃい沼を便器にする。
そこへ水魔法で水の壁を創り上げる。水の壁は流動させている。
これで乙女も安心簡易トイレの完成だ。
水が揺らぐ幻想的な空間に、水が奏でる音で快適な空間を提供いたします。
使用後は水魔法でお尻を綺麗に洗い流します。
はじめは照れていた黄金の天使さまも、その心地よさにすっかり病みつきになっておられます。
しゃわわわわ。
もちろん人の目を気にする必要はありません。
私の完璧な水魔法の操作で、飛び散る心配もございません。
しゃわわわわ。
ほらそこの男装魔法騎士もいかがです?
トイレは素晴らしい? ありがとうございます。
でもお尻洗浄機能はいらない?
何をおっしゃいますか、これこそ私が提供する最新の機能でございますよ。
ぜひお試しくださいませ。
しゃわわわわ。
お代は小銀貨一枚ですわ。
え? 金を取るのかって? この素晴らしい体験に対価が支払えないと?
そうです、素直にお布施なされればいいのです。
トイレの加護がございますように。
水魔法の洗浄が素晴らしいって?
そうでしょうそうでしょう! そりゃあ我がトイレ魔法の最大の売りですから!
是非またご利用くださいませ。
ということで、また新たな顧客をゲットいたしましたわ。
これからは〈トイレの音姫〉として売っていこうかしら?
【お風呂】
旅をする時でも身体を清潔にすることは重要だ。
水浴びができない時は泥浴びをする。
もちろん水魔法が使える私はそんなことしたことはない。
やはり水魔法は最高だね!
一家に一台水魔法使い。
さてこの宿場町。ただの宿場町にしては大きいと思ったら温泉があるようだ。
いつでも清潔ピチピチぼでーの私でも暖かいお風呂は嬉しい。
火山の近くのおなら臭いやつではなく、太陽と大地で温めたやつのようだ。
それに温度調整で火魔法使いも使っている。
火は出せないけど熱で暖められる魔法使いの人気職のようだ。
ちなみにボイラー室はサウナだ。
温泉行こう! とエルシュに飛びついたけど、エルシュは戸惑っていた。
なぜかおろおろしている。急がないと日が暮れてしまって湯が冷えてしまう。
混浴が恥ずかしいのでは、とゾルトが声をかけた。
なるほど、大衆風呂なので湯は分けられていない。
そこへエルシュのような美人が入ったら大変な事になってしまう。
御付きの方の偉そうな方のヨーゼフにごにょごにょと話すと、上流貴族用の温泉を用意してくれた。
それでもエルシュは前を隠していた。なんでだろう。
ゾルトも護衛という立場なので、一緒にいた。
せっかくだから一緒に入ろうと誘う。
お湯がもやもやしてるので探知魔法も使いやすい。
水魔法の探知魔法は、空気中の水分で感じ取るので、水場では効果が高い。
逆に荒野ではろくに効かず、洞窟の探査でも土魔法の方が便利だ。
と、そんな話しは置いておいて、温泉に入ってからエルシュはずっと私を抱えている。
ラブラブなのはいいのだが、泳ぎ回ったりしたいぞ。
ちなみに湯船に入る前には身体を洗うのがマナーだ。
温泉の水を水魔法でザボンと浮かせて、自分の身体に当てて、ジャボボボボと洗う。
ついでに服も、水魔法で空中に渦を作り、ジャボボボボと洗う。
エルシュはもう慣れたようだが、ゾルトは「あふぅ」と変な声を出した。
私の水魔法で変な気持ちにならないでいただきたい。
もぞもぞっとエルシュの腕からすり抜けて、ぷかーっと浮かんだ。
水に浮くのはただそれだけで楽しい。
ゾルトが「その体勢で水魔法を使ったら浮くのか?」と聞いてきた。
変なことを言うやつだと思ったが、気になったので試してみた。
私の下にある温泉を上に持ち上げる……。
すると、水が台になり私の身体が持ち上がった。あら便利。
次はエルシュが「そのまま立てそうですね」と言ったので試してみた。
エルシュが言うならできるに違いない。
できた。
水の上で腰に手を当ててはっはっはと笑う幼女が塀越しに観測されたらしい。
それを見た管理人は、私を神と見間違え礼拝したとかなんとか。
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