[3-10]誘拐は捕まらず
前回までのあらすじ:赤髪セミロングメイドを偶然論破した
【主観がいつも以上にころころ変わります】
「疑ってすまなかった」
赤髪メイドは集まってきた衛兵に引き渡された。
ゾルトが魔法騎士所属の証を見せて、状況を說明した。
店内に眠りの魔法が使われ、屋敷の娘のマリシアが誘拐された事を聞くと、衛兵の一人が走って各地に伝えに行った。
「俺は君たちの護衛で残るが、先程の様子だとその必要もなさそうだな」
「誘拐、怖いです。ぷるぷる……」
ぷるぷるしてみた。
「下手すぎる演技は不快だぞ」
「なっ」
失礼な!
「それに君たちの関係も少し変わっているようだが?」
「ふむ……もう隠してもしょうがないか……黄金の天使は私の嫁だ」
「うん……うん?」
ゾルトは首を傾げた。
「えっと……君は……ペリエッタは男なのか?」
「どう見ても美少女だろう」
「女同士で婚姻……うん?」
エルシュがなぜかオロオロしている。
「私の村では、三日続けて肌を重ねて同じ宿に泊まったら、結婚となる」
「あ、ああ……」
「だから黄金の天使は私の嫁だ」
ゾルトがわたわたしてるエルシュを見た。
「君はそれでいいのか?」
「えっはい。ペリエッタがそういうなら」
やった! エルシュにも認められたぞ!
「まあ二人の仲がいいのはわかった。それで――」
ゾルトの眼光が輝く。
「ジョバーニが誘拐に関わっているとはどういうことだ?」
「どういうことだ〈水影〉。失敗とは」
怪力者の〈熊の手〉は間違いなく桃色の髪の少女を捕まえてきた。
「後はこいつを王都へ運ぶだけだろ? 本番はこれからじゃないか」
俺たち裏稼業の四人〈モグラ穴〉、〈熊の手〉、〈爆炎〉そして〈水影〉に依頼された内容は『桃色の髪の少女を王都へ連れてくること』だった。
ターゲットの入った店に〈水影〉が眠りの魔法をかけ、〈熊の手〉が店内に駆け込み桃色の髪を捕まえて戻ってきた。
そして俺、〈モグラ穴〉の土魔法で土中移動をし、すばやく店の裏側へ移動。
〈爆炎〉はそこをあらかじめ見張っていた。
宿の裏に用意しておいた馬車まで裏道を通り、桃色の髪の少女を樽に入れて後は脱出だ。
〈水影〉は『用事がある』と言い残しふらりと出かけ、戻ってくるなり『依頼は失敗だ』と頭をかきながら言った。
「俺たちに依頼を告げた赤髪が捕まった」
「なにぃ!?」
「なっクソぅ、あいつ下手くそかよ」
「でぶぅ」
3人が同時に声を上げた。
首謀者がゲロったらその時点で終わりだ。
「今ならまだ間に合う。三人は何事も無かったかのように馬車を出してくれ」
「でももうバレてたら馬車は町を出る時に止められてしまうぜ?」
「ターゲットを置いて行けば、調べられても何も出ないだろう?」
俺は驚愕した。まさかこいつ!
「おめえ、俺たちを逃がそうっていうのか」
「でっでぶぅ……」
「ああ、俺ならなんとかできる。その間に逃げてくれ。マヌケのせいで俺たち全員が捕まる必要はないだろ」
「ちっ……カッコつけやがって……」
「でぶぅ……」
「いいのか? 本当に」
〈水影〉は静かと頷いた。
「そうと来たらとっととずらかる準備だ! 〈熊の手〉、樽を降ろせ!」
「でぶぅ!」
桃髪の少女の入った樽が宿の裏にドスンと降ろされた。
「生きて会えたらまた仕事しようぜ」
「でぶぅ」
「すまない、見知らぬお前に泥被りを任せて」
「いいんだ」
俺は町の門へ向かって馬車を走らせた――
「さて、と」
俺は樽を開けて、少女の幻術を解いてライトブラウンの髪に戻し、気付け薬を嗅がせた。
「ん……? ふぇ……? くっさぁあ!」
少女がキョロキョロと辺りを見回した。
「え? なにここ? どこ?」
「はじめましてお嬢様。助けにまいりました」
俺は胸に手を当て、礼をする。
「何があったのかしら?」
「お嬢様は悪者に誘拐されておりました」
「え!? 誘拐!?」
少女はビクンと身体を震わせた。
悪そうな奴はどこにも見当たらない。
「ありがとう。あなたが助けてくれたのね」
「左様です」
俺は手を差し出し、少女は俺の手を掴んだ。
そして少女を樽から引っ張り出す。
「ここは宿の裏通りになります。その小道を行けば大通りに出られますよ」
「一緒に来てくださらないの?」
「俺は誘拐犯を追います。それでは」
「あのっ! お名前を……!」
俺は答えず、すっと姿を消した。
「それで、その褐色の男はいなくなったわけですね」
屋敷の少女マリシアが宿の前で見つかり、衛兵が魔法騎士ゾルトを呼んだ。
私とエルシュもそれに付いていき、ひとまず屋敷へ戻った。
誘拐の事を聞いた屋敷の主人のガライ・メハイは、顔を真っ赤にして「誘拐犯を絶対に見つけ出せ!」と興奮したので、どうどうどうと安静して落ち着くようにメイドに退室させた。
今は応接間にマリシア、ゾルト、エルシュとそれに座っている私、それに信頼できるメイドだけが部屋に残っている。
「はい、とてもかっこいい方でした。ぽっ」
「気の所為ですよお嬢様」
あれはかっこいいと言われるような男じゃなかったはずだが。
間違いなく怪しい下品な男だ。
「異国の佇まいと言いますか、憂いを秘めた瞳に確かな強さがあって、名乗らずに行ってしまいました。なんという方でしたのでしょう……」
「ジョバーニだな」
「ジョバーニですね」
「あらご存知ですの? ジョバーニというのですか。またお会いしたいですわっ」
いや多分一生会えないだろうね……。赤髪メイドが接触した男とバレてるし。
「衛兵達と屋敷の私兵にお嬢様誘拐実行犯を命じております。その際に見つかるかもしれません」
実行犯側として、とは言わない。
「そうですか。それならいつでも会えるように身支度をしておきませんと」
赤髪メイドの吐いた情報では、実行犯は四人。
土魔法の使い手、痩せ型の男〈モグラ穴〉
怪力者、太った男〈熊の手〉
火魔法の使い手、背の低い男〈爆炎〉
水魔法の使い手、異国の褐色の男〈水影〉
それを聞いて私は「うん?」と思った。
ゴンズの奴、勝手に人の異名を使ってやがる!
今度会ったら踏みつけてやる。
そして一週間が過ぎたが、ジョバーニや他の実行犯が見つかる事はなかった。
その日、フニャシー家の紋章が入った馬車が屋敷に前に止まった。
区切れ目で久々にあとがきっぽいあとがき。
街中トラブルといったら誘拐だよね!と思って書いたのはいいのですが、主人公達に最適行動させたら事件になりませんでした!
本当は違う展開を一度書いたのですが、「なんか違うなぁ」となって書き直したので、「え?これで終わり?」って感じになりました。相変わらず山場が来ない方たちです。
登場人物が増えるとごちゃごちゃするので、これでジョバーニが一旦退場となります。
代わりにゾルトさんが付いてきます。
ゾルトさんもまた面倒くさい性格してるので、さてはてどうなることやら……。




