[3-9]犯人は便所の床を舐める
前回までのあらすじ:なんと魔法騎士ゾルトは男装の変態だった。しかしペリータはエルシュの男装は似合いそうだなと考える。そんな中、赤髪メイドは簡単にボロを出し、さていっちょ拷問するか! と、いうところでゾルトが目を覚ました。
【しばらく会話が長くなります。あと基本的に登場人物はみんなアホです】
「どう見ても穏やかな状況ではないな……これは……」
魔法騎士ゾルトは目を覚まし、身体を起こした。
「とりあえず中入ろうか」
私達がすすっと店に近づくと、ゾルトがドアの前に立ちはだかった。
「そのメイドに何をしようと……している……?」
ゾルトはエルシュによって足を持たれて逆さになっている赤髪メイドが気になるようだ。
「ちょっと拷問を」
「それは寛容できないな」
ゾルトはすっと剣を抜いた。
「ごめんよ、寝てる間に胸を揉んだ事は謝る……」
「うん? いやそういうことじゃないだろう」
何か勘違いしてらっしゃる?
「意識が薄れゆく中、マリシアが拐われたのを見た。お前が犯人なのだな?」
剣で私を指す。
「いやこっちです」
私は逆さ吊りのメイドを指差す。
「信用できんな」
そんな……私達は解りあえた仲ではなかったのか……。
「わっ私は急にこいつらに――」
「折れ」
エルシュの握力によって両足がボキッと折られ、赤髪メイドは声にならない悲鳴を上げた。
「お前は喋るな」
「くっ……非情な奴め!」
ゾルトがギッと私を睨んだ。
もう面倒くさいなこいつ。
「この女はマリシアが誘拐された事を知っていた。聞き出さなくていいのか?」
ゾルトはちらりと息絶え絶えのメイドを見た。
「だとしても、お前の方が怪しい」
「はぁ……」
「あの、とりあえずコレに聞いてみてから判断しませんか?」
エルシュはぷらんとメイドを掲げた。
「ふんっまあいいだろう。剣は納めんぞ」
「どうぞ」
店内はまだ眠りの毒が漂っている。
私達は店の中に入り、真っ直ぐトイレへ向かう。
私はふとトイレに気配を感じ、エルシュとゾルトは待たせ先に入った。
その後エルシュがトイレに入り、続いてゾルトはドアを塞ぎ剣を構えた。
トイレに入るとすぐにエルシュは赤髪メイドの左腕を掴み、組み伏せた。
私はライトブラウンの髪をかき上げ、振り返った。
「さて、とりあえず素直になって貰おうか」
「ヒッ……イッ……」
さて差し当たってゆっくりもしてられない。
迅速に、かつゾルトが納得できるように自白させられないだろうか。
すでに右腕と両足を折られている赤髪メイドは痛みでまともにしゃべれない状態だ。
「黄金の天使様、痛みだけ消せますか?」
ゾルトがいる手前、私はペリエッタを演じる。
エルシュはこくりと頷き、腕と両足に手を添えた。
「あっふぅ……ああんっ……」
赤髪メイドがエロい声を上げる。痛みが快楽へ変わったようだ。
そう言うとただの変態っぽいな……。
「さて、これで話せるだろ? 残念ながら傷は治ってないので逃げることはできないぞ」
「はっふぅん」
赤髪メイドは身体をビクンビクンと痙攣させている。
これはこれで話せる状態じゃないな。
「正直に話さないとそこの魔法騎士様が外に出してくれないんだ。協力してくれるよな?」
「…………」
「黙っているとまた傷が痛くなっちゃうぞ」
私はエルシュに目で合図した。
エルシュは足から手を離した。
「んっ! ぐっ!!」
「さて、認めるか?」
「しっ知らない……! 本当に!」
ゾルトはじっと光景を睨んでいる。
「はぁ。ならなぜマリシアが誘拐されたと知っていた?」
「言っていたでしょう!? そのように!」
「いなくなった、としか言ってない」
「でもだって! 状況的にそう考えるのが自然でしょう!」
「状況……? 私がゾルトにセクハラしてた状況が?」
「…………」
「なぜマリシアを誘拐した?」
「知らない……私だって本当になぜマリシアが拐われたのか知らない!」
「本当にわからないのか」
「わかるはずがないじゃない!」
「いやわかるだろ」
そう答えると、赤髪メイドはきょとんとした顔をした。
「お屋敷のお嬢様が誘拐されたんだ。そんなの金が目当てだろう」
「金……?」
エルシュはこくりと頷いた。
ゾルトも「まあそうだろうな」と小さく呟いた。
「それとも何か? 他の者を拐う予定だったのか?」
「知らない……」
「そうだな……例えば、黄金の天使様の周りをチョロチョロして邪魔だった私とか」
「……言ってる意味がわかりません」
「毒を盛って動けなくなった私を拐って黄金の天使様を独り占め。簡単な仕事だな」
「毒……? なんの事かしら?」
「お腹いたいいたいの毒だ」
「……それはあなたの食べ過ぎでは?」
私は両手を前に掲げた。
指先がプルプルを震えている。
「朝から指先が痺れているんだ」
「何よそんな演技」
ゾルトがふと何かを思い出した顔をして、ここで初めて口を挟んだ。
「いや、彼女は確かに今朝から指先が震えていた。トイレのドアも開けられないくらいね」
「飲み物にでも混ぜていたのだろう。最初のブドウジュースかな」
「……知らない。私じゃないわ」
「まだ認めないか……。お前は致命的におかしい発言をしていた」
「!?」
「ゾルトの事を女と言っていた」
「え?」
「え?」
「は?」
「ゾルト、君は男だろ?」
「あっ、うん、まあそうだな」
ゾルトは一瞬目を泳がせて答えた。
「そして黄金の天使様は女だ」
「あっ、はい」
エルシュも戸惑いながら答えた。
「こいつは男と女の違いを見た目でわからないような奴だ。私をマリシアを間違えてもおかしくはない」
「な……何を言っているの……?」
「なるほど……」
ゾルトが私を見ながら静かに呟いた。
「え!? いや今の納得できるところ無かったでしょ!?」
「そうか?」
「え?」
「本当にそうか?」
私はじっと赤髪メイドを見つめる。
「髪の色も違うのに間違えるわけないでしょ」
「うん? 違ったかな?」
私はライトブラウンの髪を手に持って見せた。
「え?」
「ここは薄暗いから、見間違えても仕方ないかもなぁ」
「桃色……では? 幻術……?」
「で、髪の色がなんだって?」
「は? それがどうしたというの?」
「髪の色でターゲットを指定したなら、マリシアが『桃色の髪』をしていたら間違われると思わないか」
「何? そんなわけないじゃない?」
「そうに幻術をかけたんだ」
「そんなの誰がやったというのよ……あっ」
思い当たったのか、一瞬顔に出した。
エルシュのように分かりやすい女だ。
残念ながら向き的にゾルトには顔は見せられなかったが、雰囲気で察したようだ。
「ジョバーニをそっち側だと思って引き入れたんだろう? 残念ながらジョバーニは変態ロリコンだから少女の味方なのさ」
私はふふんっと両手を腰に当てて無い胸を張った。
「言ってない知らない! 私が正しい! 信じてくれますよね魔法騎士さま!」
しかしその声はすでに届かない。
ゾルトは赤髪メイドを冷たい目で見下していた。




