[3-7-2]奴隷商館副店長サドレーの策
「何故だ……? どこから誤った……?」
王都の奴隷商館の副館長サドレーは、店長、そしてオーナーに呼び出された。
場所は王都一等地の屋敷。
サドレーの足取りは監獄へ向かうがごとく重い。
応接間へ通されてもソファに座ることはできなかった。
サドレーが待っていたのはわずかな時間だろう。しかし彼には一刻ほどに感じた。
店長とオーナーが部屋に入り、サドレーの前へ座った。
二人の表情は緩やかなものだが、サドレーは下唇を噛んで口を閉じていた。
「さて……例の件だが」
店長があごひげを触りながらまずは口を開いた。
「どうするんだ?」
いきなり求められたのは問題解決についてだ。申し開きすら与えられない。
「監視役……は殺されましたが、別の監視役が潜入済みです。彼に接触し金を握らせれば解決できます」
サドレーが依頼したゴンズは、別の知らない裏稼業の男に殺された……ようだ。
報告によるとその男の名はジョバーニと言うらしい。
おそらくゴンズが雇った協力者ではないかと思われる。
内輪もめをしたか、原因は分からないが、現在かの御方にはその男が付いているようだ。
しかしその男はゴンズに裏で依頼した内容の「かの御方を王都へ連れ戻す」ことを知らない可能性が高い。
ゴンズを殺したのは彼だが、今は彼に接触してゴンズの役目を引き継がせるのが得策だろう。
それが彼の狙いで殺したのかもしれない。
「それで?」
店長はあごひげを一本抜き、ふっと吹いた。
「〈鳥貴族〉の鳥使役魔法で、現地の〈鼠〉に封書を届けます。〈鼠〉から潜入者に指令を出します」
〈鳥貴族〉はすでに二人の監視を頼んでいる相手だ。
鳥を使った遠隔監視が可能で、さらに鳥の姿を消す魔法も使えるため、非常に役に立つ男だ。
しかし唯一にして最大の欠点としてこの男は馬鹿だった。
まさに鳥あたまの男だ。
店長は腕を組み、笑顔のままサドレーを睨みつけた。
「それで?」
「かの御方とその所有者は片時も離れないようですので、まずは毒を使って二人を離します。そして所有者を誘拐して、王都へ連れ戻します」
「対象を直接誘拐した方が早くないかね」
オーナーが気だるそうに初めて口を開いた。
「ご冗談を。それができるような御方でしたら、英雄エルシュの名をしていないでしょう」
約100年ほど昔、一人で帝国の侵略を防いだと言われる英雄の豪傑エルシュ。
今でも吟遊詩人に歌われている。
その曾孫の〈かの御方〉はその英雄と同じ名を与えられた。
「して、その所有者の名は?」
「ペリータ。裏稼業では水影と呼ばれていた女です」
「ペリータ……水影……知ってるか?」
「知りませんな」
店長とオーナーが、木っ端な冒険者、裏稼業としても小さい仕事しかしていな女の名など知るはずもなかった。
しかし彼らほどの男らだ。
一度聞いたその名をもう二度と忘れられることはないだろう。
「ペリータか。王都に帰って来たならば歓迎してやらねばならぬな」




