[3-7]毒
前回までのあらすじ:魔法騎士ゾルトは目を見た対象の魔力を把握できる能力を持っていた。ペリータは魔道具で魔力を隠蔽していたので、魔力感知されなかった。されなかったゆえにゾルトに警戒された。そんな中、ペリータはお腹を壊し、ゾルトに助けてもらう。恩を感じ、ゾルトを信じ始めたペリータ。しかしさらなる問題が起こる。それは屋敷の娘のマリシアが黄金の天使を街の案内をしたいと言い出したのだった。
本名(?)と偽名まとめ【ペリータ:ペリエット】【エルシュ:黄金の天使】【ゴンズ:ジョバーニ】【ゾフィア:ゾルト】
黄金の天使を中心にして、私が右腕、屋敷の娘のマリシアが左腕、そして魔法騎士のゾルトが私達の後ろに立つ。
この陣形で街中を歩くのだからそりゃ目立つ。
遠巻きで立ち止まり見てくる者も多い。
私の嫁は美人だからな。ふふんっ。
こちらがなんとかの店で、あちらがなんとかが美味しいです、などマリシアが黄金の天使に話しかけている。
屋敷の子なのに市井の店に詳しい。
やけどした後は引きこもりだったようだが、元々はやんちゃな子だったのだろうか。
ライトブラウンの髪はまだ切らずにそのままだが、以前とは違い左右に流し顔を出している。
高価な黄色いワンピースドレスをひらひらとさせている。
ゾルトは今日は胸当てをしていない。
私は今日もメイド姿のペリエッタだ。
いつもなら「人の嫁にちょっかいを出すな」と引き剥がすところだが、今の私は奴隷メイドのペリエッタ。
下手な行動はすることができない。
ゾルトが見張っているから下手に水魔法でちょっかいかけることもできない。
悔しい……。
そしてまたお腹痛い。
黄金の天使の右腕をくいくいと引っ張ってお腹なでなでを催促した。
なでなでなでなで。
ふぅ……もはや天使のお腹なでなでがないと生きていけない身体になってきた。
なぜか私に対抗して、マリシアもお腹なでなでを催促している。
君はお腹を壊していないだろう。
お腹なでなでの権利があるのはお腹がドラゴンストーム起こしている私だけだぞ。
私は黄金の天使に抱えられ、近くの食事処の店に入りトイレを借りた。
二人はテーブルで待たせた。
トイレは照明がなく、窓も小さく薄暗い。
ふぅ、と落ち着いたところでエルシュに話しかけた。
「この腹痛……毒を盛られた可能性がある……」
「どっ毒……!」
エルシュはそれを聞き焦っている。
おそらく治癒魔法では毒は治せないだろう。
治せているのならば私の腹痛はとっくに治まっているはずだ。
「なんの毒ですかっ!? げっ解毒剤を探さなくては……」
「これは……お腹いたいたいの毒だ……」
「おっおなかいたいいたいの毒……!?」
そうだこれはお腹を痛くする毒に違いない。
そして盛られたのは私だけだろう。なぜならお腹が痛くなっているのは私だけだからだ。
つまりお腹が痛くなっているのは私だから、標的は私だったのだ。
私を狙う人物……つまり犯人は……。
「やはり……あの魔法騎士か……」
私を怪しんでいた目……実はあれはドSロリコンの目だったに違いない。
私のお腹を痛くして、それを苦しむ姿を楽しもうと仕向けたのだ!
だから早朝に、私がお腹が痛くてトイレに向かうことを知っていたから、部屋の外で待機していたのだ。
そして私を苦しむ姿を間近に見ながら好感度を上げる完璧な作戦だったのだ。
まただ。また人を信じていたのに裏切られたのだ。
そうだ、いつだってそうだった。
裏切られ、裏切る事を覚え、私の性格は歪んでいった。
「ペリエッタ……あの……昨日食べ過ぎただけでは……」
そう。人を信じるという事は自分を捨てるという事なのだ。
自分がどうなってもいい、信じるという心はそう思える相手だけに持つべきだ。
私はエルシュだけを信じている。
「そうかな……そうかも……」
エルシュを信じている、エルシュの言う事を信じるならばやはりこれは食べ過ぎなだけか。
お肉が……お肉が美味しかったのが全て悪いのだ!
ふぅ……落ち着いてきたぞ。
人は苦しみに陥ると、どうやら頭が馬鹿になるようだ。
苦しみから逃げるための生存本能だろうか。
いまさっきまでわけわからない思考をしていたような気がする。
恐ろしい……。
「なでなでして」
すでに大分落ち着いているが、念の為にエルシュにお腹なでなでしてもらう。
お腹なでなでしてもらうのが癖になっているわけではないぞ。なっているけど。
ふぅ……気持ちいい……。
「あれ……?」
店内に戻るとしーんとしており、なぜかみんな寝ていた。
甘い香りが漂っている……。
この匂いは知っている。
「!? 毒だエルシュ! 外へ!」
「はいっ!」
簡潔に支持を出すと、エルシュは私を抱えて駆け出し、店のドアを開け店の外へ出た。
「大丈夫ですかペリータ様」
「ああ……少し吸ってしまったが……」
眠りの魔法だ。
薬品を拡散させる水魔法であり、吸った者を昏睡状態にする。
少量ならば即座に気を失うようなことはない。
「このままドアを開けて換気をしよう。しかし……犯人と目的はなんだ……?」
可能性が高いのは強盗だろうか。
だとしたら客がもっと入った後の時間にするはずだが。
「ペリータ様、マリシアちゃんがいませんっ」
「なぬ」
店内を覗き見たエルシュが私を抱き抱えた。
ゾルトと一緒にいたはずのマリシアの姿がない。
なるほど……これは……。
「マリシアが犯人か!」
「拐われたのではないでしょうか」
「なぬ!?」
マリシアの姿がないのは、マリシアが犯人ではなく、犯人がマリシアを拐ったからだと言うのか!
なるほど……流石は私の嫁、賢い。
「頭がくらくらする」
ちょっと毒を吸いすぎたのかもしれない。
なぜか手足もしびれてきた。
「換気には時間がかかりそうです。ゾルトさんをひとまず外へ運びましょうか」
エルシュはハンカチを口に巻いた。
シュタッと店内に入り、ガバッとゾルトを抱え、タタタッと外へ戻ってきた。
ふむ……熟睡している……。
これならイタズラしても起きなそうだぞ。
ほっぺぷにぷに。ぺちぺち。
しかしまつ毛長いな……こうして見ると女の子みたいだぞ。
眠りの魔法は毒の一種だ。体に害が出る可能性がある。
念の為、様子を見てみる。
さわさわ……。
ぷにっ。
「なっ!?」
「ペリータ様! 寝ている相手にセクハラはダメですよっ」
「こいつ男の癖に私達よりおっぱいがある!」
「え!?」
本日は12時、18時にも別視点を投稿します。ちょっと他の時間帯にも新着しようかなと思ったのです。




