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ちんちくりん魔法使いと黄金の天使  作者: ななぽよん
黄金の天使編っぽい
30/66

[3-4]不死身の男は燃やされる

前回までのあらすじ:帝国領となってしまったエルシュの故郷へ入るために計画を練る三人。エルシュは治癒魔法使いの黄金の天使として、ペリータは奴隷少女のペリエッタとして、ゴンズは怪しい男ジョバーニとして侵入する計画を立てる。計画の中で治癒魔法は快楽効果があることが判明する。ペリータは「エルシュに私の初めてを捧げれば痛みなく快感を与えてくれるのでは!?」と計画とは関係なくこっそり妄想するのであった。

「おい待てそこの三人。ここは帝国領となった。今は立ち入ることはできん」


 フニャシー領の川の橋を渡ろうとしたところ、案の定ペリエッタ達は兵士に呼び止められた。


「知っております兵士さん。オラたちはここで内紛が合ったと聞いて駆けつけて来たんだす」


 ジョバーニは変な言葉遣いで応対した。

 ジョバーニの姿は黒髪褐色で怪しい男だ。怪しい男ゆえにきれいではない言葉を使った。


「知ってて来ただと? 怪しい男だな……」


 兵士はじろっとジョバーニの姿をつま先から頭のてっぺんまで見た。

 怪しさゆえに急に追い返すことはしないようだ。

 ただの虫なら追い返せば良いが、害虫ならば駆除しなくてはならない。


「聞いて驚くべえ兵士さん。ここ、こちらにいる方、黄金の天使の生まれ変わりでさぁ」


 黄金の天使がフードをちらりを上げた。

 美しい顔がちらりと見えて、後ろの兵士から「ひゅぅー」と口笛が上がる。


「黄金の天使だぁ? 知らんなぁ。誰か知ってるか天使様をよぉ」


 兵士達は黄金の天使の名でゲラゲラ笑った。


「それで? 黄金の天使様を連れてきてどうしようっていうんだ? 俺たちに夜の奉仕をしてくれるのかい?」


 兵士はべろりと舌なめずりをした。

 嫌悪感に思わずペリエッタは殺そうと考えるが黄金の天使の後ろにすっと隠れた。


「おやおや天使様はこんな小さい少女の奴隷を連れ歩いているようだぞ? 奴隷は人間のものだ、天界のものじゃないぞ。それともそっちの子もサービスしてくれるのか?」


 兵士たちにゲスな笑いが湧き上がる。

 もはや害虫ではなく今夜はごちそうだと思い込んでいる。


「いえいえ兵士さま。そんな事より黄金の天使様はもっと凄いんだす」


 ジョバーニはニカッと笑った。

 凄いと聞いて兵士はますます股間を固くした。


「黄金の天使様は傷を治す事ができるだす」


 ジョバーニは腕をまくって引き攣りの傷痕を見せた。

 兵士たちはその言葉に笑いを止め、先頭で対応していたゲスの兵士は顔を近づけてじっと傷を見た。


「ただの古傷を見せてなんだってんだ。そんなもの俺の身体にもあるぞ」


「オラは黄金の天使様に助けて貰ったでさぁ。黄金の天使様はみんなの傷を治しにここへ来たわけさぁ」


「ならこの傷を治してみろ」


 兵士はザッと剣を抜き、ジョバーニの身体を斜めに切り裂いた。

 ジョバーニは半歩下がり、致命傷は避ける。

 黄金の天使の方を見ながら口を開けてその場に倒れた。


 兵士たちに歓声が湧き上がる。

 胡散臭い男は殺した。後は美人を捕まえるだけだ。


 兵士が手を伸ばす前に黄金の天使はジョバーニに駆け寄り、傷に手を当てた。

 魔力が光輝くように見えるのはペリータだけなので、兵士たちには何をしているのかわからない。ただ悲しんでいるように見える。


「傷は治ったか? なら次は俺たちを楽しませろ」


 兵士が黄金の天使の腕を掴もうと手を伸ばした。

 が、その手は半身起き上がったジョバーニに止められた。


「治りましたぜ兵士さん。見るべか?」


 兵士は思わず後ずさる。

 ジョバーニはゆっくり起き上がり服をめくりあげた。

 たった斬られた傷がすでにぐじゅぐじゅと再生していた。


「ヒッ! 不死身の化物だ!」


「違いやすぜ兵士さん。これが黄金の天使様の力でさぁ。この力、内紛で傷ついたみんなに使うために来たべさ」


 ジョバーニはニカッと笑うが兵士たちの恐怖で歪んだ顔は変わらない。


「何を騒いでおる?」


 初老の男、おそらく橋の砦の管理者と思われる人物が砦から顔を出した。


「ヴェンセル様! アンデッドです! 斬られても再生する不死身の男が!」


「ああ? アンデッドなら燃やせ。おい炎の魔法だ」


 ヴェンセルの隣に魔法使いが現れジョバーニに向かって炎の魔法を飛ばした。

 ジョバーニは水魔法で火力を調整して炎を正面から受け止めた。


 炎は一瞬で消えたが、顔に酷いやけどを残した。

 黄金の天使は再びジョバーニに手を添え、顔のやけどを治した。

 剣の傷とは違い痕をわざと残す加減が難しく、顔はかなりきれいに戻った。


 ヴェンセルと魔法使いは驚愕した。


「治癒……魔法使い……!?」


「はい、先程からそう申してますでさぁ。この兵士さん信じて貰えんと。こん方、黄金の天使の生まれ変わりさぁ」


「黄金の……天使……!?」


 ヴェンセルが驚くのも無理はない。

 黄金の天使なぞおとぎ話の存在だ。

 治癒魔法使いなんて存在したとしてもすぐに教会で秘匿されるだろう。

 本物だとしたらそれがなぜこんなところで旅をしている……?


「……どう見る?」


 ヴェンセルは隣の火魔法使いに尋ねた。


「幻術の類ではありませんね。私の魔法を直に受けてました」


「そうか。そこの兵士! さっき斬られても再生すると言ったな?」


 橋の兵士は唖然としてヴェンセルを見上げた。


「はい。俺が男を斬ったのですが、そこの女が手で触るとあっという間に傷が塞がったんです」


 ヴェンセルは「本当に奇跡か?」と動揺する心をぐっと抑えた。

 兵士たちも同じように思ったようで「奇跡か……?」「奇跡の技だ……」とざわめいている。


「オラが不死身なわけじゃあありません。黄金の天使様が傷を治してくださったのです。その力をここの土地で傷ついた者たちを治すためにオラたちはやってきやした」


 ジョバーニはヴェンセルを見上げ、胸に手を当てた。

 砦の主に「入れてください」と頭を下げるのではない。「入れないと帰りますよ」と言っているのだ。


「……その者らを通せ……。いや歓迎せよ。伝令よ! 急いでこのことをラディウス様に伝えるのだ!」







 フニャシー・ラディウス、数え歳で22歳。

 彼は若くしてこの地を継いだ。

 彼は帝国と繋がっていた。帝国から謀反を起こすようにそそのかされた。

 そして彼は父に対し兵を挙げ、フニャシー領を帝国の支配下とした。


 と、思われている。


 彼は自らの意志で父を捕らえ、父も自らの意志で捕らえられた。

 全てはフニャシー家の策略であった。

 ゆえに前当主であり父であるスラローは存命だった。

 塔に監禁され不自由な生活をしているが、決して不便ではない生活を送っている。

 そしてこの状態はスラロー自身での望みでもあった。


 ラディウスは優秀な男だった。

 彼は帝国に操られているように見せ、全て計画通りに事を進めた。

 領地が全く無傷のまま、帝国の庇護下となったのだ。

 父との軍とぶつかったときに兵に多少の犠牲は出たが、そこは止む終えないと割り切った。


 ラディウスの元に不思議な伝令が来た。

 伝令が言うには「黄金の天使がこの地に来た」と。

 ラディウスは「まさかな……」と思いつつ王族用の馬車を手配させた。

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