[3-1]力なきものは運命に抗い死ぬ
これまでのあらすじ:私ペリータはロリっ子水魔法使い。人の魔力が色で見ることができるの。すごいでしょ! ある日、奴隷を買いにいったらまぶい子を見つけちゃった。その子の名前はエルシュ、私の黄金の天使ちゃんよ。メイド服を着せてイチャイチャしていたら、いつの間にかこの国は干ばつが原因で戦争の危機だって、たいへーん! 私はエルシュに乗ってグロテスクなお師匠様に会って故郷に帰ったりしたの。故郷では私の水姫を継ぐ者、泡姫という幼女がいたわ。そしてエルシュの故郷を目指していたら、とある町でロリコン変質者に襲われたの。ロリコン変質者をやっつけたー! と、思ったら次の日また現れたー!? さらにエルシュの兄のラディウスが謀反を起こしてフニャシー領を帝国領にしてしまったんだって! いったい私達はどうなってしまうのー!?
フニャシー家の現当主、スラローは力無き者だった。
力とはそのままの意味でフニャシー家を象徴する腕力の事だ。
スラローはごく平凡な男だった。
フニャシー家初代当主、フニャシー・エルシュはその腕力を持って多大なる戦果を与え、王よりこの地を与えられた。
フニャシー・エルシュの息子スポトヌスが二代目を継ぎ、領地を豊かにした。
三代目はスポトヌスの長男、ノルシュは初代当主に及ばぬながら、腕力に優れていた。しかし西の戦地にて早死にしてしまう。
次男スラローが四代目を継ぎ、20年が経った。
スラローは平凡な男な事を自覚していた。領地を息子に継がせることだけに注力した。
その間に無能とも没落貴族とも呼ばれるようになった。
長男ラディウスは全てが優秀な男だった。ラディウスは22になる。スラローが家を継ぐ事になった歳と同じだ。
今まで私の補助をさせていたが、そろそろ家督を継がせるつもりだ。
それよりも気がかりなのが歳の離れた息子のエルシュだ。
初代と同じ名を付けたエルシュは、初代のように凄まじい力を持っていた。
スラローはエルシュが政治利用されぬよう、次男は隠して育てた。
全ては帝国と王都と挟まれたこの地を守るために。
「兄上が謀反を起こすなんてありえません!」
私は興奮するエルシュを宿の部屋に連れ帰った。
「ならば嘘なのだろう」
「嘘……やはりそうですよね!」
ベッドに腰掛けて、私はエルシュの頭をなでなでする。
「ああ。フニャシー家が帝国に付くための嘘だろう。そう見せかけたかあるいは本当にそうしたかも」
「兄上が父上を裏切るなんてありえないです……」
「ならば父が兄に裏切るように言ったならば?」
「え……?」
エルシュが目を白黒とさせている。
裏切るように言うとはそれは裏切りなのだろうか、と混乱を起こした。
「フニャシー家は王国を戦前で守り続けた家だ。その家が『今日から王国を裏切って帝国に付きます』と言っても上手くいくまい。エルシュの兄は帝国から誘いを受けたふりをして、父を討つふりをして、フニャシー家は帝国に入ったんだ」
「ほっ本当ですか!?」
「憶測だが……エルシュが奴隷となって王都へ送られた事を考えると一番自然なんだ」
「わたくしが……? 何か関係が……?」
エルシュは戸惑いながら私の言葉を待つ。
「兄が謀反を起こした時、エルシュがフニャシー領にいたらどうする?」
「えっ……困ります……兄上を止めるかもしれません……」
「そしたら計画は失敗だ。それが理由の一つ」
私はぴっと人差し指を立てた。
「でもそれならば事前にわたくしにも教えてくだされば邪魔はしませんよ?」
でもこの子は抜けてるからなぁと思いつつそれは私は黙っていた。
私は続いて親指を立てた。
「二つ目、帝国領となったフニャシー家にエルシュが残っているとフニャシー家が強すぎる」
「そうですか? そんな事はないと思いますが……?」
エルシュは首を傾げた。
「そう。エルシュが自覚が無いのも危うい。帝国に好き勝手扱われちゃうぞ」
「そんな事されませんよぉ……」
「現に私に好き勝手されてるし」
エルシュをベッドに押し倒してほっぺをむにむにした。むにむにむに。
「ペリータ様は別です!」
「まぁとにかく、奴隷としてエルシュを王都に送る意味があったんだ」
「奴隷として……あっ」
「そうだ、奴隷となったからエルシュはもうフニャシー家ではない。今回の内乱とは無関係な存在となる」
「わたくしがフニャシー家のままでしたら、わたくしを旗印に王国がフニャシー領を取り返しに行くことになっていたということですね」
「その通り」
エルシュはやっぱり賢いなぁと頭をなでなでした。
今までピンと来なかったのは当事者だったせいだろう。
「あれ……でもあれ……? 戦争はどうなるんです?」
「さあ? 私はエルシュが奴隷として売られた理由が気になって考えていただけでそこまでは知らないぞ」
そういえば村で見た予知夢のようなものでは、私が帝国に付き王都が燃えていたような。
「エルシュはどうするんだ? 兄が帝国側になってしまったが、戦争となったらどちらへ付く?」
「わたくしは……ペリータ様に付いていきます!」
「そうか……そうだな」
私は当初の予定を思い出す。
「ならばまずはエルシュの兄に挨拶に行くか!」
と、思ったものの、方法が思いつかない。
「でも……領に入れないのですよね?」
問題は山積みだ。
フニャシー領は帝国領になったので敵国だ。
元から警備が厳しかったが、今ではさらに安易には入れない。
私達は王都からも監視されている。
この町で鳥が見えなかったのは、見せたくないから隠したと考えるのが自然だろう。
鳥を使った遠距離からの監視魔法と、それを悟られないように鳥を隠していると思われる。
フニャシー領の前当主のエルシュの父はエルシュに居て欲しくないために奴隷にして王都に送ったのだし、王都もエルシュを王都に隔離しておきたいと思っている。
どう考えても私達が素直にエルシュの兄に会える状態ではない。
「こうなったら……正面突破か」
「おおい! 待てや!」
ドン! と扉を開きジョバーニがずかずかと部屋に入ってきた。
勢いよく入ってきたわりには律儀に扉は閉めている。
「乙女二人の部屋に何のようだロリコン変質者!」
「正面突破もこそこそ隠れて入るのも無理だろう……大人しく王都へ戻ろうか」
私は「むぅ……」と顔を膨れさせた。
こいつの言うことを聞くのは面白くない。
「ジョゴンズの言うことを聞くのは面白くない」
「面白くないって……おい名前混じってる」
エルシュはああやっぱりという顔をしている。
一応学習して今回は察していても黙っていたようだ。
「ジョバンズなら侵入するならどうする?」
「こいつはジョバーニだ! まあそれは置いといて、侵入か……。そうだな……他国に入るなら宣教者や医者やら武器商人やら、他国に入ってもおかしくない職に幻術で化けるしか。でも警戒されているからすぐにバレるぞ」
やはり幻術か……。
「宣教者か……ん? 天使ならいるぞ」
私はエルシュを指さした。
「それはお前に取ってはだろ。まあ確かにかわいらしいが」
「私の天使に色目使うな!」
思わず私はジョバーニゴンズに奥の手の目から高圧水流発射をビッと出した。
「ぐえー!」
ジョバゴンズはばたりと倒れた。
「やっちゃった」
やっちゃった。




