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[2-17]全てはこの日のためのプロローグ

前回までのあらすじ:ロリコン変質者ジョバーニはロリっ子ペリータにぶっかけられる幸せな拷問を受けた。

「うぅうぅ……おっぱいがしぼんでいくぅ……エルシュのおっぱいがぁ……ハッ!」


 日が昇る前、ペリータはエルシュの胸を触りながら覚醒した。


「とんでもない夢を見た……天使のおっぱいが無くなってしまう夢を……」


 すかっすかっ……。


「はぅあ!?」


 本当に無くなっている! 一体どういうことだ!

 自分の胸も触ってみる。


 すかっすかっ……。


 なんということだ! 私達のおっぱいが無くなってしまった!


「ん……ペリータ様は元から幼女体型ですよぉ……むにゃむにゃ」


 はッ! そうだった……。

 私も天使も元からおっぱいは無かったのだった。

 残念ながら私はきれいなぺたんこおっぱいだったのだ。

 私がロリっ子体型なのはおそらく、私を創造した神がロリコン変質者か、小さい頃から水魔法を使っていた影響だと思われる。

 私の独自の研究と統計結果から、火の魔法使いはボインという結果が出ている。

 火の魔法……つまり赤の魔力はおっぱいを成長させる力があるのではないかと私は考えている。

 そうすると火と相反する属性、つまり水はおっぱいが成長しない力があるのかもしれない。


 むぐぐ……と私は悲しみに顔を歪めた。

 思わず涙が出る。水魔法使いの私が涙のコントロールができなくなった。人生で泣くのもこれで三度目か。

 泣いて感情が落ち着き頭が少し冷静になる。


 いや、待てよ、青の反対色は黄のはずだ。

 と、すると貧乳になる力は……赤の反対の緑かもしれない。

 ああそうだ、私の魔力は碧眼の瞳のように青でも緑よりだ。

 緑は、土魔法は母なる大地の魔力のはずなのに、なぜおっぱいを小さくなされてしまうのか。

 大地神の女神はぺたんこなのか、それとも大地神がぺたんこ好きなのか……。

 いずれにしても緑の魔力がおっぱいを小さくしているに違いない。


「これが逃れられぬ運命というやつか……」


 この世界には運命というものが存在する。それを証明しているのが予知の力だ。

 青の魔法には予知の力もある。

 実は予知というのは、予知者が「予知しなかった場合の未来の姿」だ。

 つまり、予知した時点で実は未来の運命は変わっている。

 ならば予知の力とは何なのかと言うと、可能性のある未来の一つではなく絶対ではないということだ。

 予知者が予知をするほど確定していたはずの未来からずれていく。

 権力者が予知能力の魔法使いを大金で囲い込む理由がこれだ。

 自分に取って不具合な未来が予知されたならば、沢山の予知者で「可能性」を増やし行動をずらし未来をずらすのだ。


 しかし変えられない運命というものは存在する。

 例えば、一週間後に王が老衰で死ぬとする。

 それを逃れようとした王は予知魔法使いに寿命を伸ばす策を講じさせた。

 その結果、王は一週間と一日後に死んだ。

 確かに寿命は一日伸びて予知の結果からはずれたが、死という運命からは一日しか逃れられなかった。

 確定していることは大きく動かせないのだ。


 しかし逆に小さな出来事で予知の結果を大きく変える事がある。

 それが「ワイバーンの飛翔」というやつだ。

 ワイバーンの島でワイバーンが飛んだ時の風の影響で、遠く離れた大陸にハリケーンが発生しているという話しだ。

 例えば今、私の目の前ですやすや寝ているエルシュを私が殺したとしたら、この国の未来は大きく変わるだろう。

 もちろんそんな事はしないけどね!


 そして運命の話しに戻る。

 私のおっぱいが大きくなる事は可能性としてある未来のはずだ。

 しかしその影響を起こすためのきっかけが必要なのだ。

 それを見つけるまでは「可能性のない未来」となっている。

 つまり現時点では私のおっぱいの可能性はやはりないということなのだ。


 しかし私はくじけない。

 ラベンダーの香油で胸が大きくなるという噂を聞いた事があるのだ。

 これはないはずの未来を起こすためのきっかけと成りえるのではないだろうか。

 とりあえず私は町で手に入れたラベンダーの香油を私の胸とエルシュの胸に塗ってみる。


 そして私は可能性が生まれた未来を信じて再び眠りについた。





 エルシュが朝食を用意してくれた。

 ここは王都外れの町、ナトーネの宿酒場だ。

 メイド姿のエルシュを椅子を座らせて、私はそこへ座る。

 天使を椅子にできるのは私の特権だ。

 朝食の内容はいつもと大差なく、パンとチーズと豆のスープ……それにビスケットだ。

 私はこっそりビスケットをつつっと遠くに追いやる。これでいつも通りだ。


「あの……ペリータ様?」


「街でまで糧食のビスケットを食べたくない」


 糧食のビスケットはその名の通り、塩味でガッチガチの砂の塊のような塊だ。

 血のスープに浸して腹を満たすためだけのような存在だ。


「これ、固いやつじゃなくて甘いクッキーです。ペリータ様は甘い物がお好きのようでしたのでご用意いたしました」


「食べるぅ!」


 私は皿を引き戻りで抱え込む。

 クッキーの前では誰もが乙女は少女になるのだ。

 エルシュは優しいなぁ。いいお嫁さんになるぞ。私の嫁だけど。


「さて……おおいハナホジリヌス! いるんだろ!」


 私は階段に向かって叫んだ。


「死んだよそいつは」


 ぬっと現れたのは黒髪短髪で浅黒い肌をした男、ロリコン変質者ジョバーニだった。






 ジョバーニはがに股でのっしのっしと音を立てずにやってきて、どかっと正面の椅子に座った。


「やあ昨日ぶり」


「え? え?」


 エルシュはペリータとジョバーニを交互に見た。

 そして膝の上のペリータをぎゅっと抱きかかえた。


「ゴンズは死んだ、か」 


「ああ。俺が殺した」


 ペリータはエルシュを抱えている手をぽんぽんと叩いた。


「今後お前たちの監視は俺が続ける」


「はぁ……まったくいやらしいロリコン変質者だ」


 ペリータはやれやれと首を横に振った。


「で? ハナホジリヌスに何の用だったんだ?」


「王城の様子はどうだったか聞こうと思ってな。お前は最近城には行ったか?」


 ジョバーニはパンを一つ手に取り、親指を立てた。


「ふんっそんな場所には縁はないな。おっ美味いなこれ。メイドちゃんが作ったのか?」


 パンにはハムや卵や何かの葉っぱが挟まっている。冒険者らしくないオシャレな朝食だ。


「勝手に食べやがって。天使は私のだぞ。誰にも渡さないぞ」


「そうかすまんすまん」


 ジョバーニは手を振って謝った。しかしパンは手に持ったまま返すつもりはないようだ。


「さて、本題だ。王都の奴隷商館が用事があるってさ。戻ってきてくれないか?」


「それは急ぎなのか?」


「だろうな。メイドちゃんを外に出したくないようだ」


「なら急いで天使の父上に挨拶しないとだな」


 ジョバーニはやれやれと両手を上げた。


「戦争の準備が始まっているのは知ってるだろう。そうしたならばまず前線となるのはフニャシー領だ」


「うん? ならば王都より前線に置く方がいいんじゃないか?」


 エルシュを戦場に置くだけで戦なんて勝ったようなものだ。そこに戦略も戦術もない。

 後ろから岩を投げさせれば壊滅するだろう。高速で動く投石機だ。


「王都でのんびりしていて欲しいってさ」


「ふうん? 最大戦力を前線に置いて突き進めば帝都まで行けそうな気がするんだがな」


「脳筋だな」


「わっわたくしそこまでできませんよ……」


 エルシュが遠慮がちに口を開いた。


「それにペリータ様のご命令にしか従えません。わたくしはペリータ様の奴隷なのですから!」


 見上げると黄金の天使がキラキラしている。

 かわいいなぁ。ほっぺぷにぷにしたいなぁ。


 エルシュのほっぺをつんつんぷにぷにしながら思考する。


 それにしてもエルシュを王都に置きたい理由はなんだろう。

 威圧する存在として取っておきたいのだろうか。

 だとすると存在を知らしめるために戦場で一度は暴れさせた方がいいはずだ。

 その上で交渉材料とする。

 ならば手元に置いておく理由としたら、あとは人質か。


 ……人質……?


 私の胸の中でざわっと感情が動く。

 人質だとしたら、誰が誰にとっての?

 王都は帝国へ戦争を仕掛けようとしているのに、最大戦力のエルシュを王都へ留めようとしている。

 帝国からしたら守るのはたやすいが反撃で攻め入るのは難しくなるはずだ。

 おそらくエルシュが王都にいることでパワーバランスが保たれるのだ。

 そしてそれを求めている者がいる。戦争が激化せずに均衡することを。

 そもそも王都へエルシュを奴隷として送ったのは誰だ。

 エルシュを溺愛する父親だ。



 ガランと音を立てて酒場の戸が開いた。


「おおい! みんな速報だ! フニャシー領で内乱だ! 当主スラローが息子のラディウスに討たれた!」


 エルシュがペリータを抱えたままガタンと立ち上がった。


「そしてラディウスは帝国に付くことを宣言したぞ! フニャシー領は帝国の属州となった!」

一章(?)終了です。

シリアス展開になる雰囲気に見せかけて、変わらずのほほんと続きます。よろしくね。

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