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[2-15]薬草摘みは寝転んで

前回までのあらすじ:エルシュの故郷であるフニャシー領に入ろうと思ったら厳戒態勢になっていた。ペリータ達は一旦近くの町まで引き返したところ、謎の男ハナホジリヌスが現れた。

 ペリータはエルシュを連れ、色々とお弁当などを用意して、昼近くに西門から街の外へ出た。


「この辺りに薬草があるのですか?」


「さあな。詳しくないからまずは探索だ。もし見つかったら摘んでいこう」


「はい! かしこまりました」


 ペリータはピクニック気分で鼻歌混じりで歩いている。今は旅の時のようにエルシュに抱えられてはいない。


「この辺りでいいかな」


 ふんふふーんとエルシュが運んでいた荷物の袋を開けた。


「どうなさるのですか」


 ペリータは厚手の布を草が少し禿げていた場所に広げていた。

 小高い丘の上、景色のいい場所だ。


「見つかるまでお弁当タイムにしよう」


「はいっもうお昼の時間ですね」


 正確には少し早い時間だったが、ペリータ様は身体が小さいからお腹が空きやすいのでしょうか、などとエルシュは考えた。

 ペリータはパンにハムやチーズを挟んだものをバスケットから取り出しかぶりついた。


「ご飯を食べたら薬草を見つけましょうね!」


 エルシュはむんっと気合をいれた。


「天使は真面目だなぁ。いいんだよこんなの適当で。食べたら昼寝しよ」


 ペリータはごろんと寝転がった。

 冒険者とは思えないかわいらしい姿です……! なんてエルシュは思っていた。


「はい! ご一緒いたします!」


 ペリータは本当にエルシュとごろごろしていた。

 ぼーっとしながら、空の雲を見て、あれは水車に似ているとか、酒場の親父のヒゲに似てるなどと言って二人で楽しんだ。

 ペリータ様はこうしていると本当に幼い子のようですね、とエルシュは思った。実際には幼い、とは言えない方なのでしょうが。それでも無邪気にはしゃぐ姿は可愛らしく思っていた。


「ペリータ様はわたくしの事を可愛いとおっしゃいますが、ペリータ様も可愛らしいと思います」


「そうかなぁ……」


「やぁ今朝ぶりだね君たち。僕も可愛らしいと思うよ」


 エルシュはその声を引きつった顔をした。

 天使でもそんな顔をするんだなとペリータは内心笑った。


「それにしてもここはいい場所だね。見晴らしがいい。そして何より人がいない」


 ハナホジリヌスはニッと笑った。

 エルシュの中でこの男に対する嫌悪感がさらに湧く。

 人がいないから何をしようというのか、と。


「さて、何しに来たんだお前は」


「それは君が考えている通りの理由だよ。それ以上の事はないさ」


「そうか。それならいい」


 エルシュはハナホジリヌスを笑顔のまま、じっと観察する。

 思えばこの男は今朝も今も気配を隠して近づいてきた、何かを隠して何かを狙っている、と。


「さて、君たちからは何か僕に要望はあるかい?」


 ハナホジリヌスはさっと髪をかき上げた。


「まずはその仕草をやめろ。うざったい」


「これは失礼お嬢様」


「あとうちの天使をからかうのはやめろ」


「本当に可愛らしいものでついね」


「だからやめろと言っている」


 ペリータの語気が強くなり怒りが混じる。

 エルシュはそれに反応し、ぐっと拳を握った。


「やめろやめてくれ」


 ハナホジリヌスはビクッと身体を震わせ、一歩後ずさる。


「これ以上ふざけると……同じようになるぞ」


「あれには懸賞金がかけられていたよ。いいのかい?」


「ああ。面倒だしな」


「だからと言って後処理をさせないでほしいね」


 ハナホジリヌスはチャリチャリと音を立てる袋を取り出し、エルシュの手の上に載せた。


「分前は貰っているから遠慮なく受け取ってくれたまえ」


「あ、ありがとうございます?」


 エルシュは戸惑いながら礼を言う。


「賊を倒した報酬金だよ。こいつは私達の後ろを付いてきてたんだ」


「そうだったのですか」


「わざとらしく堂々と付けてきたから呼び出したんだ」


 エルシュにもだんだんとわかってきた。

 外に出たのは薬草の依頼でもピクニックではなく、付いてきていたこの男を誘い出したのだと。


「で、監視は目的じゃないだろ。要件はなんだ?」


「正直に言ったら従ってくれるのかい?」


「お前が言うなら従わない」


「だろうね。だから俺も言えないですね。どうしたらいいんでしょうかね」


「どうしようかね」


 エルシュはふとペリータがこのような態度を取っていた男に思い当たることがある。


「あの……もしかして……」


「待て、エルシュ。それは言ってはいけない。こういう時はわかっててもわからないふりをするんだ」


「は……はい……」


「目的は監視でも、感づかれているとわかったら殺す行動に出る場合がある」


「そっ、そしたら返り討ちにしてしまいましょう!」


 ハナホジリヌスはビクンとまた一歩後ずさる。


「だからダメなんだってば。天使が本気だしたらこの前の賊みたいにミンチになっちゃうでしょ」


「はっはい」


「こういう裏がわからない男は手を出したら余計に面倒な事になっちゃうんだよ」


「わかりました!」


「俺からも言わせてくれないかい? 本当は言動に出ちゃった時点でダメだからね? ペリータは笑っていたけどね?」


「はっはぁ……」


「昨日の宿でバレバレな行動しいてただろう? んもう、天使は初心者まるだしでかわいいなぁ」


 ペリータはエルシュにぎゅっと抱きついた。


「あっもしかして昨日の会話ってこの方に言っていたのですか?」


「だからそういう事をストレートに口にしないの」


「あっ」


 ハナホジリヌスはそれを見て苦笑いをしている。


「そういうわけで俺は謎の追跡男ハナホジリヌスだ。わかったかい可愛いメイドさん?」


「わかりました!」


 素直すぎる態度にハナホジリヌスは思わず転けそうになる。






「さて、ハナホジリヌスはいつからなんだ?」


 ペリータは男にいくつか確認しておくことがあった。


「王都を出てからだね。大変なんだよ下手くそな振りをするのも」


 ハナホジリヌスはふぅと苦悶の表情をしながら髪をかき上げた。

 エルシュにも理解してきた。この男は演技でこれをやっている下手くそな演技をしていると。


「それがお前の仕事だろ。おっそうだ、向こうににこにこしながら手を振ってやれ」


 ペリータがくいと一方向に顎を向けた。

 エルシュは顔に?を思い浮かべてからペリータに言われた方向ににこっと手を振った。


「おっビビってるビビってる。幻術の魔法を今さら濃くしたぞ」


「素人をからかうのは止めてやれよ……」


「あれよりも下手にしてたのか? お前の尾行が下手すぎて私はかえって警戒しすぎたぞ」


「助かるやら困るやら、だな」


 ハナホジリヌスは慌ててキョロキョロとわざとらしい演技をした。


「こんな感じだったな昨日のメイドちゃんは」


「一緒にするな。もっと可愛かったぞ」


「からかうのはやめてくださいよぉ……」


 エルシュは昨日の夜の行動が、監視者に監視されてることに気づいた事がバレバレな行動してたことに言われて今さら気づき、恥ずかしくなった。


「いや、むしろ参考になったよ。あそこまでされると俺も誘われているんじゃないかと警戒した」


「だから天使は可愛い純真な子ですよ、何もないですよ、と教えてやったじゃないか」


「隣にいるのがペリータだから怖いんだよ。戯れに俺を殺すくらいはするだろうお前は」


「そんなことはしない」


 ペリータはぷいっと顔を背ける。まるで子供みたいな行動だ。

 エルシュにも段々わかってきた。なるほど、これも監視者を監視している者に見せているのだ。さきほど手を振った方向にいるだろう相手に。


「もうあいつ捕まえた方が早いんじゃないか?」


「止めてくれ。そしたら凄く良い報酬が貰えなくなってしまうだろ」


 わざと「凄く良い」とハナホジリヌスは強調した。

 これは聞いてくれということだ。


「どんな凄く良い報酬なんだ?」


「俺がペリータの借金を取り立てることになる」


「ほう……それは素晴らしい報酬だな。いつでも処理できるじゃないか」


「止めてくれ」


 そう言ってハナホジリヌスは両手を上げて飛び跳ねた。

 わかってから改めて見ると二人の言動は凄くおかしい劇を見ているようでエルシュは笑えてきた。

 ペリータはその様子のエルシュに指を指した。

 そしてハナホジリヌスはさきほど手を振った方向へ指を指した。

 これはその方向へ笑えということだろうか。

 エルシュは顔を向けてぷぷっと笑ってみる。


「どうするんだよバレちゃったよおい」


「バレちゃったなおい」


「え? え? それは困ったことになるのでは?」


 エルシュはおろおろと、じっとさきほどの方向を見た。


「大丈夫大丈夫ひよっこだから」


 ペリータはエルシュをぎゅっと抱いた。

 キッとハナホジリヌスに顔を向け、顔を真っ赤にした。


「もう近づくな! この変態ロリコン強姦魔!」


「わかった! わかったよ! 俺は街へ戻るから! そんな言い方止めてくれ!」


「ふんっ!」


 ペリータはハナホジリヌスに石を投げた。

 エルシュも参加した方がいいだろうかと思い、石を手に持った。

 するとハナホジリヌスは一瞬で姿が見えなくなった。


「あいつ今本気で逃げたぞ」


「一瞬で消えてしまいました……」


「ちなみにそれ振りじゃなくて投げようとした?」


「え? 投げたらまずかったですか?」


「だってほら……黄金天使が石投げたら身体に穴とか開いちゃうだろ……?」


「ペリータ様! わたくしだって加減くらいできます!」


 本当かな……あとで見せて貰おうかなとペリータは笑った。

 もちろん今は試しちゃダメだよ、と。


「しかし私の天使は可愛いなぁ」


「あっありがとうございます」


「可愛すぎるのも問題だよね、私もだけど」


「はい! ペリータ様は小さくてとても可愛いです!」


 小さいは余計じゃい! とペリータは子供のように顔を膨らませた。

次回ついに謎の男の正体が明かされる!(というギャグ)

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