[2-13]森を歩けば賊に当たる
【悪い奴をやっつける戦闘内容として表現したかった程度の描写があります。一応今回から「残酷な描写あり」タグを追加しました。】
前回までのあらすじ:冒険者を始めた思い出に町に行ったけど、ペリータには良い思い出は残ってなかったので早々に旅立った。
ペリータとエルシュは大きな街道から外れ、森の近道を通っていた。
そこへ男たちが立ちふさがった。
「なにかと思ったら賊か……」
「ペリータ様! お下がりください!」
エルシュが剣を抜きペリータの前に出る。
「いいねぇ……今日の獲物は上玉じゃねえか」
「へへっ……今夜は楽しめそうだ」
賊の中で下卑た笑いが広がる。
「お前ら命乞いするなら今のうちだぞ? 抵抗なく武器を捨てるんだ」
と言ったのはペリータだった。
賊が一瞬シンとなるがすぐに笑いが広がる。
「俺らのセリフが嬢ちゃんに取られちゃったぜオイ! 強気でいいねえ! ああいうのを黙らせるのがいいんだ!」
男がずいと一歩踏み出す。
「オイオイあんまり傷つけるなよ! 売れなくなるぞ!」
「どうせ傷物にするんだ、かまやしねえ」
「親分にぶっ飛ばされるぞお前」
と言いつつ止める奴は誰もいない。
ふぅ、とペリータは一つ息を吐く。
エルシュが剣を抜き、その男と対峙する。
「まずは侍女が相手か? くく……いたぶって沢山かわいがってやるよ」
シュっと放たれた投げナイフをエルシュは剣でカンと弾いた。
「ヒュウやるねえ」
賊達は殺さぬよう麻痺毒で傷つける事を狙っていた。
そのため一気に襲ってくることはしなかった。
しかし、メイド服を着た者を攻撃したことで、虎の尾を踏んだことには気づいていなかった。
気づく前にその男は水に撃ち抜かれて死んだ。
「私の天使に手を出したな」
賊達はまだ何が起こったのか状況が把握できていない。
倒れた男は額に穴が開いていた。
何が起こったのか理解できないが、男が目を見開いて倒れている姿は死んでいるように見える。
男が倒れてコンマ秒、頭が動いた賊がまず大声で叫んだ。
「魔法使いだ! 一旦下がれ!」
賊は一度体制を整えて再度奇襲するために一度身を隠す命令を飛ばした。
後ろ足に下がる一歩目を踏み出そうとしたが、足元が滑り、ケツを着いた。
ケツが着いた場所は沼になっており、身体がゆっくりと沈んでいく。
「おい! 誰かあの小さいのを射れ! 魔法を止めろ!」
木の上の三方向から矢が放たれた。
もはや捕らえる事を考えていない躊躇無く殺す一撃。
しかしそれは当たる直前で水の膜のようなもので弾かれた。
ペリータは木の上を見るが、見えたのは正面の一人だけだった。
次の弓を継ごうとしていた射手に向けて手から水を発射する。
距離が遠いため、木の上でよろめかせただけだ。
「エルシュ、二人頼めるか」
「おまかせください」
エルシュは賊達を沈めている沼の魔法をジャンプ一つで飛び越え、よろめいた射手のいる木を殴りつけた。
ズゴンッとものすごい音を立て木が揺れた。賊が木の上から落下した。
落下して呻く男の両足を踏みつけて粉砕し、弓と矢を奪った。
木の上の残りの二人の賊はもう一度、エルシュに向かって矢を放つ。しかしそれも無駄に終わる。
矢の発射位置を確認したエルシュは、そこへ向かい弓が限界まで引き絞り放った。
ビシンッとおおよそ弓が放つ音ではない音を立て、射手の腹の奥深くまで突き刺さった。
最後の一人の方を見ると、そこには巨大な水球が浮かんでいた。
水を操れるからこそのシンプルな魔法攻撃。賊は逃れることのできない水球の中で呼吸ができず暴れ苦しむ。
パンと魔法が解除され水球が弾け飛ぶと、賊は木の上から落下した。
「あと何人いる? 答えたらお前だけは助けてやろう」
目の前で沼で沈みかけている賊の男にペリータは話しかけた。
「ひっ……奥の洞窟に親分と控えが……あと伝令がきっと呼びに……早く助け……」
「エルシュ、木から落ちた射手を潰したら、こいつを引っこ抜けるか?」
「かしこまりました」
森の中でぐしゃりと音が一度だけ響き、エルシュが戻ってきた。
そして今答えた比較的賢そうな男を引っ張り出し、地面に立たせた。
「ほ……本当に助け……」
「私は優しいんだぞ」
エルシュはにこっと笑う。しかし目は笑っていない事に賊の男も気づいている。
今なら殺れる位置なのでは? と、賊は考えた。
おそらくここで仲間を見捨てて生き残ったとしても親分をピンチにしたら殺される。
殺されるならまだしも死ぬより辛い遊び相手にされるかもしれない。
それなら今、この魔法使いを倒せば残ってる奴らが助かる……!
賊はナイフを抜きペリータに襲いかかる!
「ペリータ様!」
ドサッと音が響く。
エルシュが動く前に男は地面に這いつくばった。
「お? 降伏のポーズか? 私はいいと思うぞ、うん」
賊の男は身体を動かそうとするが、押さえつけられているようで上手く動かせない。
「抵抗は普通の人間じゃ無理だ。知ってるか? 人間って水でできてるんだ。私は水を操れる。わかるな」
「流石ですペリータ様!」
賊の男は首を縦に振ろうとしたが上手く動かせなかった。
「さあ、その洞窟まで案内して貰おうか」
「わ、わかった……」
賊の男はよろよろと森の中を歩き出した。
「さて新しいコレクションが追加されっかな」
と、ヒゲモジャで割と丹精な男はまだ来ぬ次のペットへの調教を思い浮かんでいた。
先の斥候から縄張り内に幼いお嬢様一人と長身の侍女の一人が迷い込んだと連絡があった。話しではかなりの上玉との事だ。
こんなところにいる理由はわからないが、侍女がお嬢様を抱えて運んでいるようなので、馬車でも壊れたのだろう。
子供でも使えるが一回使うと壊れてしまうので、お嬢様は売り飛ばした方がいい。
侍女の方は楽しみだ。おそらく俺と同じように力があるものだろう。
それならば少々乱暴に扱ったところで中々壊れない。
おそらく組み付いて来るだろうが、そこを叩きのめして屈服させるのがまた快感だ。
前哨戦を楽しんでいる中、先発隊がその二人に返り討ちにあったと報告が伝えられた。
10人ほどのチームで射手も3人いたはずだ。
「思ったよりやるな」
侍女の方は思った通り、俺と怪力の力を持つ者のようだ。
それよりお嬢様の方が魔法使いで、何かと飛ばしたり、巨大な沼で一網打尽にしてやられたらしい
俺は危険を感じ、立ち上がる。
「おい! 洞窟は危険だ! 外に出んぞ!」
号令が飛び、賊達は武器を取り慌ただしく外へ向かう。
「おう兄弟! 沼を使う女は知ってるか?」
「ああ兄弟。思い当たる奴はいくつかいる。最近この辺りじゃ見ないがあいつだな」
「勝てるか兄弟」
「怪力女に邪魔されなければな」
作戦は決まりだ。
俺が突っ込み侍女を捕らえる。兄弟が魔法使いを固める。
「うっわー……うんこ色がいる……」
まだ位置は遠いが、はっきりとうんこ色の魔力のモヤが映った。
「はっはい……?」
さすがのエルシュもペリータのそんな表現に戸惑う。
「緑もいるな。若干青が入った緑か。土魔法使いだな」
「ペリータ様なら負けないですよね!」
「どうかな……エルシュ次第だな。うんこ色は頼むぞ。おそらく奴らのボスだ」
「はい! がんばります!」
「親ぶっ……ぐっ……ごはっ」
大声を出そうとした賊の男の顔を水球に沈めた。
全く言うことを聞かない奴だ。
「えっと、この方はどうしますか?」
「助けてやるという約束だからな」
「ペリータ様お優しいです!」
ペリータは水球をパチンと消してやり、頭を踏んだ。
「しかしさっきからいちいち抵抗するからな。抵抗できないようにしてやれ」
「はい」
ペリータは探知魔法を使い警戒して進むが、伏兵とかはなさそうだ。
それどころか親分らしき男は洞窟の前で堂々と待ち構えていた。
筋骨隆々としたタイプではなく、せいぜい狩人の男くらいの普通の体格だ。
それがまたうんこ色の魔力の強さを裏付けている。それでもうんこ色程度なのだが。
「お出迎えご苦労」
「ああ気にすんな。うちの奴が迷惑をかけたようだな」
ペリータは無視して左右に広がった賊20人ほどを見た。
どうやらこいつらは襲ってくる様子はなさそうだ。緑の奴以外は。
「そんなところに混じってないで出てこいよ土魔法使い」
「ふんっやはり水影のペリータか」
杖を持ったローブの男がぬっと一歩前へ出た。
「あら? 知っていただけてるなんて光栄ですわ」
「相変わらずふざけた女だ」
「ところであなたはどちらさまで?」
「名乗るほどのモンじゃないさ」
魔法使いの男は手に持った木の杖を地面に打ち付けた。
ペリータとエルシュの足元の土がバカンと割れて広がり穴ができた。
「おいおい兄弟! メイドは俺の獲物だぜ!?」
「この程度で倒せたら元々兄弟の相手にならんさ」
「そりゃ言えてるわ!」
二人が落ちた穴はガゴンと鳴らして閉まった。
「一発で決まっちまったな」
「いやこれで終わらんだろう兄弟。出てきたところを捕まえてやれ」
ペリータは穴の中でエルシュに抱きかかえられていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ……だけどどうするか」
ペリータ自身も土魔法はそこそこに使えるので、閉じられていても脱出は容易だ。
魔法で強固に固められていたらエルシュがこじ開ければいい。
「向こうは私を知っているようだったからなぁ」
魔法使い同士の戦いはお互いを知らなかったら五分だとして、片方が知っていたらそちらが八分優勢といったところか。
当然ながら情報を持っている方が有利だ。
私はいつも人の魔力を見る力で有利に立っていたが、手の内を知られているなら魔法次第となるだろう。
「わたくしがやりますか?」
「いいやエルシュはボスをやってくれ。おそらく穴から出たら一撃を入れてくる」
「わかりました! 粉砕します!」
エルシュなら本当にしそうだな……。賊なんかやってるやつとは格が違うだろうな……。
実力があるやつが好き勝手生きてるというパターンもあるが、うんこ色だし。
「ひとまず脱出するか」
「はい!」
ペリータは塞がった穴を広げ、エルシュがそこを駆け上がった。
「オルァ!」
そこを見計らって、空からうんこ色のボスが殴りかかってきた。
「ハァ!」
エルシュがボスの拳にカウンターの拳を入れた。
グァン!とおよそ人の拳が殴り合ったとは思えない鉄のハンマーで岩を叩いたような音が響いた。
その後メキィとボスの右腕が吹っ飛ぶ。
「ペリータ様、この方弱いです」
「あ、うん」
知ってはいたがエルシュは規格外だった。
賊のボスの右肩から先が消滅していた。
黄金の天使と、うんこ色の賊じゃ、月とすっぽん、天使とうんこくらい違う。
土魔法使いは土の塔を創り、その上に立っていた。
試しに土の塔に水魔法を撃ってみたが、そうそう壊れるものでもなさそうだ。
しかし土魔法使いも、一撃で腕が吹っ飛んだ賊の親分を見てビビっているようだ。
今度は相手に直接水魔法を撃ってみたが、塔から壁が伸びて防がれた。
うーん完全に手が出せない状態だ。魔法選で籠城すんなや。
そして向こうは一方的に魔法で攻撃してきた。地面に穴を空けたり、沼にしたり、壁で封鎖したり、植物で足を取ったり。クソ嫌らしいな土魔法。でもそれを撃たれたのは私ではなく、エルシュへ向かって放たれた。
エルシュはボスの腕を吹き飛ばした後、つかつかと歩み寄ろうとしたところ、横から妨害された。
ペリータはじーっと土魔法使いの事を見ていた。
「(さてどうするか……)」
「(ペリータ様は私に活躍の場をくださっている!)」
あるいは魔力を温存しているのかも、ともエルシュは思った。
ともかくさっさと二人共潰してしまうべきだろう。
エルシュは妨害の中、もはや怯える子山羊のようにぷるぷるしている盗賊の親分を掴み、それを土魔法使いに全力で投げ飛ばした。
土魔法使いはとっさに土壁を作る。
バカンと音を立てて壁は破壊され、盗賊の親分が土魔法使いにぶち当たった。
土の塔が維持できなくなり、砂となって崩れ去る。
賊の親分と土魔法使いはそのままの勢いで洞窟の岩肌に激突して、絶命した。
蜘蛛の巣を散らすように逃げ出そうとした賊の雑魚どもは、エルシュが同じようにちぎっては投げちぎっては投げを繰り返し、二人ずつ倒していった。
「(もうあいつ一人でいいんじゃねえかな……)」
と、ペリータはその光景を眺める。
「終わりましたペリータ様!」
いい運動したという顔でエルシュが戻ってきた。
「あ、うん」
さすがのペリータもこの時ばかりは引いた。
評価やブックマークありがとうございます。
初めて戦闘を書いてみました。もっと色々してたのですが表現を若干マイルドに直してアップしました。
「残酷な描写あり」タグは迷っていたのですが、戦闘がある話ではみんな入れているようなので怒られないように今回から入れました。
普段あとがきは書いていないのですが、これを書いていた時に自分の中で考えてた事を色々書いていたので、ついでに載せます。
・沼の魔法を緑さんに使ったら:土魔法で固められてカウンターされる
・目からビーム強すぎじゃね?:近距離なら
・人を直接操作強すぎね?:強すぎ。でもうんこボス程度でもパゥワーで対抗されたら抑えられない程度
・ペリータとうんこボスが戦ったら:正面からなら3:7。奇襲不意打ちなら9:1くらいの想定。
・なんで正面からいったの?:舐めプ
・そもそもなんで潰しにいったの?:天使に害なすものには死を
・エルシュ強すぎじゃね?:魔法を超えた純粋な強さ、それがパワーだ
・ペリータ弱くね?:か弱い可憐な農サーの姫だから
・ソロだったらどうしたの?:幻術の魔法で姿を消して土魔法使いに近づき頸動脈に水噴射の一撃を入れて、親分は水没。汚い、さすが水影汚い。




