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[2-11]祭りの酒と祝福と。

前回までのあらすじ:祭りが始まりメイド服でペリータとエルシュがデートしてたら変な男たちに絡まれたので近くの家に誘ったら殺人事件が起きた。

「し、死んでる……」


 集まってきた者たちの中から一人が部屋の中へ入り、チンピラ男を診た。

5人の男が家に入ってすぐのところで倒れていた。

 おかしな事に家の中なのに全身ずぶ濡れで、溺れ死んだ様子だ。

 犯人は一体……。


「こ……これは一体誰がどうやって……。メイドの娘よ、何か見なかったのか?」


「ああ、犯人は私だ。私が魔法で殺した」


「えっ……ええ……」


 チャラーン! なんと犯人は私だった!


「ということでその辺に捨てるから誰か運んでくれたまえ」


 私の黄金天使に任せれば一瞬だが、こんな汚物を天使に触らせてはいけない。


「え? いや……ええ……?」


 男は混乱している。ああそうか、こいつも村の人間じゃないのか。

 集まった人達から一人大男がぬっと現れた。


「ちょっと話しを聞かせて貰おうか……ん? こいつはバダルじゃないか?」


「そんな名前を言ってたな。私を襲うとしてたから返り討ちにしてやった」


「だからといって殺すこたー……まあいつか死ぬとは思っていたが……」


 大男はずりずりと家からバダルを引きずり出した。

 大男は橙の魔力の色をしていた。輝きはあまり強くない。腐りかけのオレンジのようだ。


「そこのでかいの。そいつを知っているようだが町の者か?」


「ああゲオルゲという。ちんちくりんメイドの名は?」


「ちんちく……むぅ……まあいい。この村では水姫と呼ばれている」


「おっとこりゃ失礼。あんたが噂の水姫様だったか」


 ゲオルゲは頭をボリボリとかいた。


「そりゃまあうん、ここの英雄様に手を出したら死んでも当然か。おおい! 水姫様に手を出そうとしたこいつらを全員運びだせ!」


 集まってきた人達の中から8人ほど現れ、死体を外へ担ぎだした。


「悪かったな水姫様よ。俺やこいつが居たのは偶然なんだ。冒険者の依頼でよ。干ばつを逃れるために水の女神の加護を受けている村に集まってきてるから世話しろってな。そこでこんなのも紛れちまったのだが」


 ゲオルゲはそう言ってチンピラのリーダーらしいバダルの死体を蹴飛ばした。


「どうやら嫌われ者だったようだな」


「まあ死んで悲しむ奴より喜ぶ奴が多い奴だな。おっと身ぐるみを剥がし終わったようだ。ところでどこに捨てる?」


「ああ、その辺にまとめておけばいい」


 男5人が庭の一画に固めて積まれた。

 私はそこへ沼の魔法を放ち、ズブズブと死体を埋めていく。


「ヒュウ! 一瞬で証拠隠滅だな」


「ああ、便利だろ」


 平然とそんな会話が行われる。こいつも人を殺って埋めたくらいの経験はありそうだ。


「死んで大地神の糧となったんだ。クズも最後に役に立っただろう」


「ハハハ! 水姫様は面白え奴だな気に入ったぞ! どうだ? 冒険者になって俺と組まねえか?」


「残念だが私にはすでに伴侶がいるのでな」


 私はエルシュに向かって両腕を上げた。エルシュは私を抱きかかえる。


「そうかそりゃ残念だ! おおいお前ら! みんな解散だ! 不届き者が死んだだけだ! 村の者に手を出すとこうなるぞ!」


 ハッハッハ! と野次馬達を連れてゲオルゲは去っていった。中には良い奴もいるもんだ。





「水姫様、大変お待たせいたしました。こちらからステージにお上がりください」


 日が西に向かい傾き始めた頃、完成したステージ上では村人たちは笛やら太鼓やら鳴らして踊っていた。

 もうすでにみんな酒を呑んでできあがってしまっている。


「酔っぱらいしかいないぞ」


「ほんとこれは大変失礼なことで……」


 と言っても私はそんなに怒ってはいない。村で祭りと言ったらこんなもんだ。

 村長がステージ上に上がり、合図してステージ上で踊ってる村人を追い出した。

 太鼓がドンドンドンドンと音楽ではなく注目させるための叩きに変わる。

 広場で騒いでいた村人が静かになった。


「えーこれより我が村の英雄、水姫様、泡姫様にご挨拶して頂きます。今この村には周辺の村から難民が多く着ています。皆様には水の女神の天使達を覚えていただき、くれぐれも失礼をなさらぬようよろしくお願いいたします」


 もう失礼されたがな。


「それでは水姫様、泡姫様、壇上へお上がりください」


 私と泡姫、それにエルシュが袖から壇上に上がった。

 私は酒瓶を手に持って上がる。

 泡姫は緊張で足がぷるぷるしている。


「私が水姫だ。みんな見えるか?」


 と言うとみんなドッと笑った。

 見えるぞちんちくりん! と古い村人から野次が飛んできたので水魔法でビシャと水をぶっかけてやった。


「このように私は水魔法が使える。これで私は村を守ってきた。私や村に害をなす物はこのように、水の女神の代わりに私の罰を受けると知っておきたまえ酔っぱらい共」


 はっはっは! と私はみんなにシャワー状の水をぶっかけた。

 なにすんだ! とみんなが喜んでいる。


「私が可愛すぎるのでみんな私に惚れてしまったかもしれないが、残念ながら私には嫁がいる。ここにいるメイド姿の天使だ。この天使にも手を出そうとした者も畑の肥やしとなるからな」


 ヒュウ! かわいい! おめでとう! と声が上がった。


「さてもう一人。放蕩ほうとうしていた私に代わって、水姫の役割をしていた少女がいる。彼女は二代目水姫こと泡姫だ」


「みなさまよろしくお願いします」


 少女がぺこりと頭を下げる。


「いいかみんな。彼女は泡姫だ。偉大なる私、水姫とは違う。泡姫は私には成れないが、私にはできない事ができる。彼女は私の代理ではないということをみんな忘れないでほしい」


「これからもみなさまのお役に立てるように精一杯努力していきますので、ご協力お願いします」


 泡姫は少女らしくない挨拶をして深々と頭を下げた。

 賢いこの子はきっと村で私以上の存在になるだろう。


「さあ! みなに酒と私の祝福を授けよう!」


 私は酒瓶の中身をぶっかけた。

 ぶっかけた酒はみなにかからず、宙に浮いた。

 私の水魔法と合わせ、空中に霧を発生させる。

 そこへ西日が当たり、虹を作り出した。

 村人達から止まぬ歓声が上がった。





「向かないな私にはこういうの」


 壇上から降りた後、エルシュにぎゅっと抱きつき胸に顔を埋めた。疲れを天使分で補給だ。


「ご立派でした水姫様」


「ああいうのはやはり私には向かん。ああいうのが得意の奴の真似をしたが真似は真似だな」


「そうですか? とても威厳がありましたよ。この村はきっとずっと残って繁栄していくでしょうね」


「だといいな」


 祭りの火が煌々と輝く。

 太鼓と笛の音は夜が深けるまで村に響いた。

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