[2-8]水姫
前回までのあらすじ:運営に「えっちなのはダメ」と怒られたので真面目に触診だけをした。
早朝、外で魔力を感じ顔を出したら、畑にぴゅーと水を撒いてる水姫様が見えた。
「大変そうだな」
と、ペリータは話しかける。今のペリータなら村全体に雨雲を作って終わりだ。そして歓迎の祭りの準備をめちゃくちゃにする。
「はい! でもこれが水姫の仕事ですから!」
少女はそう答える。
ペリータはそうだったかな……と考える。椅子に座ってお菓子を食べるのが仕事だったような……。
少女がとてとてと駆け寄ってきてお辞儀をする。先代に礼をする良い子だ。水姫ポイントを1ポイントやろう。10ポイント貯まると初代水姫様から直々にあだ名が付けてもらえるぞ。
「ふふっ小さくてかわいらしいですね」
エルシュがにこっと少女に笑いかけた。
なぬっ!? こいつ実はロリコンか! ……そうかそうだったな! 自らの意思でロリっ子の私の所有物になっているんだもんな!
ペリータはうんうんと頷く。そうだ私もかわいらしいぞ。妬いているわけではないぞ。
しかし何か間違いがあると困るからエルシュに抱きついて所有者アピールしておこう。ぎゅっ。
「水姫様のお名前はなんとおっしゃるのですか?」
エルシュがそう尋ねると、少女は首を傾げた。
「ふふっ面白い事を言うお方ですね。あたしの名前は水姫ですよ」
いえそうではなく、と口にする前にペリータが口を出した。
「水姫の名は水姫だ。前の名は捨てる。いらないからな」
「そんな……どうしてですか」
エルシュの名は偉大なる初代当主である曽祖父から名付けられた。エルシュにとって名とは大切なものだった。
「村の者がそう求めたからだ。まあそうしたのも私だが」
「ではペリータ様の名は幼少期のものなんですね」
「言っただろう前の名は捨てた。昔の名は覚えていない。待て、そんな悲しそうな顔をするな」
ペリータは背伸びしてエルシュの頭を撫でようとしたが、手が届かなかったため肩に手を置いた。
「この村に取って私の存在はそれほどのものだったのだ。生みの親であろうと独占することも特別視することも許されない」
「え? そんなことは私はありませんが」
少女はキョトンとしている。
「あれ? そうだっけ?」
ペリータは記憶を思い出そうとしてうーんうーんと悩む。
「はい! パパもママも大好きです! 私は水姫となっただけです!」
「ペリータ様、大丈夫ですか……」
そうかな……そうだったかも。なんか記憶が曖昧だ。
「うむ。エルシュをからかっただけだ」
そうことにした。
「しかしあれだな。畑の成長はいまいち普通だな。原因は知っているか? 私は知っているが」
「知って……えっ? 知っているんですか!? 教えてくださいませんか? 前の水姫様と違って普通だねって言われるのです。あたしもあなたのように活躍できるようになりたいのです」
少女はぐっと拳に力を入れた。
「残念だがお前は私ではないのでそれは無理だ。偉大なる初代の私のようになるのは絶対に無理だ」
ペリータは両手を腰に当ててはっはっはと高笑いをする。
少女は悲しそうな顔をした。
「ペリータ様……あまりいじめになられないほうが……」
「いじめてなどいない。少女よ、お前は特別な力を持っているか? ここにいる天使をどのように見えるか?」
「えっと……背の高い美しい女性に見えます」
「その通り! 美少女でついでにちんぽも付いてる」
ペリータはガバッとエルシュの裾を持ち上げた。
少女はきょとんとした顔でエルシュのそれを見た。その後に信じられないものを見たという驚きの表情で顔を隠した。
エルシュは顔を真っ赤にしてバッと隠した。
「そして私には黄金の天使に見える。こう見えて天使は力持ちなんだぞ」
ペリータはエルシュに催促して身体を持ち上げさせる。
エルシュは片手でひょいと持ち上げて見せた。
少女は驚いて両手を口に当てた。
「黄金……そのお方は金色おじさんと同じ力なのですね」
「そう。そして私は人の魔力が色として見える。水魔法が使えることなんかほんのおまけだ」
指からぴゅーっと水を出してみせた。
「まずそれが一つだ。そう落胆するな。自分でも知らない特異能力を持っていて、いずれそれに気づく事があるかもしれないぞ。そういう奴も沢山いる。例えばそうだな。私が出会った中で産毛野郎というのがいた。そいつは突然『おっ産毛が輝いてるねー』とおかしな事を言うやつだった。なのでみんなからは産毛野郎と言われていた。それで誰かがその意味を聞いたんだよ。そしたら『ほら、産毛は光るものだろ?』とか言って酒場は大爆笑さ。でも私はピンと来た。それはおそらく産毛野郎の特異能力で、他人の産毛が光る事で魔力か何かを感知しているいるんじゃないかと。面白かったので優しい私は教えないであげたが」
「教えないんですか!?」
思わずエルシュはツッコミを入れた。
「さて、次が決定的なのだが、お前の魔力の色は青紫だ」
少女は顔いっぱいに???を浮かべた。
「お前の魔力は水は出せるがそれだけだ。土に影響を与える魔力は緑でな。私は青だが、緑に近いんだ。だから私の水魔法は水分を上げるとともに植物に祝福を与えるようなものでな。だからお前は私には絶対になれん」
「……!?」
少女はぎゅっと口を閉じて地面を向いてしまう。
「だからそう落胆するな。青紫は結構珍しいんだぞ。占術に長けていてな。捜し物を見つけたりするのに役に立つぞ」
ペリータは「♪探しものはあれですね。目の届かないところですよ。ならば私が見つけてみましょう」と歌う。どこかの街で聴いた、吟遊詩人をしながら占術をしていたパフォーマーが広場で歌っていた歌だ。
「あとはそうだな、足跡が光って見えたりするようだぞ」
「え!? それって普通じゃないんですか!?」
少女は驚く。足跡は光って残るもの。少女にとってそれは常識だ。
「ほらな。自分の常識が人とはずれていたりするものだ。そういうのが青紫の魔力の力だ。あ、ちなみに暗殺とかにすっごく向いてる」
ペリータは余計な事を言って少女をビクンとさせる。ペリータは少女の頭にぽんと手を載せた。
「だからな、私とは違うから私を目指さなくていいんだ」
少女は頭に手を載せられたまま頷いた。
「探知やら占術やら、私のちょっと植物がでかくなる水なんかよりよほど役に立つ魔力だぞ。王宮で高い給金で雇われ丁重に扱われ悠々自適に沢山の美少女を侍らせて暮らせる奴だぞ。くそっ羨ましい!」
そしてじゃばーとペリータは少女に水をぶっかけた。
「あばばばばば」
少女はあぷっあぷっとする。エルシュはうろたえる。ペリータは笑う。
「やっやめでくだざいー」
「……ほんと水の扱い苦手なんだな……。水姫止めたら?」
ペリータは水をかけるのを止める。
「そっそんな……」
「水姫なんて呼ばれてるから私と比べられるんだ。そうだな……水影なんてどうだ? お前みたいなチビっ子に私と同じ姫だなんておこがましい。影で十分だ。今日からお前の名は水影だ。暗殺者らしいいい名前だろう。嫌なら私の水を止めてみろ」
ペリータはふたたびじゃばじゃばと水をかける。
「やっやめでくだざいー」
少女は再び水をぶっかけられた。
「よし、承諾と見なす」
「ペリータ様、ちょっと無茶がすぎます」
「そうか……? そんなに水影は嫌か?」
「ちょっと嫌です」
ペリータはうーんと考えた。
そういえば水影は外での私の異名の一つだった。裏の名前の一つだ。
「姫の方じゃなくて水の方を変えてほしいです」
「そうだな。水が付いてるから水魔法が得意みたいに思えるんだもんな。賢い!」
ペリータは少女の頭を撫でる。
ついでに水分を飛ばして乾かした。
「占術のイメージと言えば球だ。そして水で球と言ったら泡だ。ならば今日からお前は泡姫だ!」
この村に二代目水姫様改め、泡姫様が誕生した。
泡姫様バンザイ!




