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[2-6-2]日記。わたくしを買われた方の事

まとめなので飛ばしてもいいです

 わたくしはペリータ様という方に買われました。

 ペリータ様はお優しくて、強くて、それでいて可愛らしいお方です。

 水魔法を得意としていらっしゃり、その素晴らしい魔法技術はこれまで他に見たことがありません。

 魔法を使えないわたくしには感動し感嘆を漏らすことしかできません。


 初めての日は手のひらから水を勢い良く飛ばし、またたく間に部屋の一室を綺麗に洗浄してしまいました。

 飛ばした水は別の手のひらに集め、そして投げ捨ててしまうのです。

 わたくしは魔法には詳しくありませんが、二つの事象を起こしかつコントロールなさるのはきっと素晴らしい技術と鍛錬が必要であったことは想像するにたやすいでしょう。

 

 その次の日には、崖にこびりついたきのこを水魔法で剥がしてお採りになられました。

 剥がしたきのこは水球に入れてわたくしに次々と渡していくのです。

 わたくしの元までくると水球はぱしゃんと壊れ、わたくしの手には回収したきのこだけが残りました。

 道の途中には大きな岩が落ちていました。

 これはきっと不甲斐ないわたくしを少しでも活躍させるために、お優しいペリータ様が用意してくださったものに違いありません。

 わたくしはそれに答え、そっと岩をどかしました。しかしわたくしは焦っていました。解決を急いでしまったので、その方法は崖下に突き落としてしまいました。これは良くなかったと思います。ペリータ様も苦々しい顔でわたくしのことを見ておられました。岩を落とす行為は配慮が足りなかったと反省しております。次の機会では時間はかかっても粉々にする方向で考えたいと存じます。


 その次の日には、干ばつを起こしている広大な畑に雨を降らせました。

 その一言だけで、いかにペリータ様が魔法使いとして偉大であり、まさに大魔法使いと呼ぶにふさわしいかおわかりいただけるでしょう。

 魔法と言うものは漠然と、手から発するものだと思っておりました。

 その日のペリータ様は自分の手のひらをじっと見つめ、ふぅと一言息をつきました。

 その後、上を向き、空を見つめたと思いましたならば、風が吹き、真っ青だった空に白い雲が生まれ、それはだんだんと灰色へ黒へ変わっていきました。

 ものの数分で干ばつを起こしていた畑に雨が降られ始めました。

 魔法とかここまでできるものなのかとわたくしは驚きを隠せませんでした。

 わたくしにも魔法が使えたならば、父上を、領民を助けられたかもしれません。


 何も手伝いとして役に立たなかったわたくしの様子を見て、ペリータ様はわたくしのその身体をわたくしの手で運ぶように命じられました。

 そしてわたくしにペリータ様を姫と呼ぶことを許されたのです。

 ペリータ様はわたくしの心なぞお見通しなのでございましょう。

 ペリータ様に気を使わせてしまうのはわたくしの不徳ながら、これからも補助をさせていただこうと存じます。


 次の日からはわたくし達は街を出ました。

 ペリータ様は帰郷なさるということです。その際にはペリータ様の師匠と呼ばれる方に会い、さらにわたくしの故郷へも寄ってくださるとのことです。

 わたくしは初めての遠出に気合を入れました。入れすぎてしまいました。

 ペリータ様を担いで軽く走ったところ、ペリータ様はその馬のごとく速さに慣れておられないようで、小さな身体を震わせておりました。

 ペリータ様がおっしゃるには、わたくしのこの力も一種の魔法であるとのことです。わたくしもこの力の魔法の制御をペリータ様のように自由に操れるようになりたいと思います。


 ペリータ様は野宿の際にはわたくしを床といたしました。

 わたくしの身体の上ですぅすぅと小さな寝息を立てて睡眠を取られました。

 わたくしはペリータ様の騎士としてそのお体を魔物の手から守りました。

 できるだけ、静かに、わたくしの首を狙ってきた魔物の頭を掴み、遠くへ投げ飛ばしました。

 魔物も知能はありますので、一匹恐ろしい目に合わせれば他は逃げていきます。腹を空かせた狼より相手をするのは楽です。狼が相手の時は同時にわたくしはペリータ様を担いで起きて、回し蹴りでまとめて粉砕いたしました。そしてペリータ様に心配されぬよう、そっと元の寝格好へ戻りました。

 ペリータ様はわたくしに活躍の場を作ったに違いありません。ペリータ様は寝たふりを続け、翌日にわたくしを褒め称えてくださいました。


 ペリータ様の師匠にお会いした時は、失礼をしてしまいました。不覚にもその姿を見て嘔吐してしまいました。

 ペリータ様の師匠なるお方は人間ではありませんでした。その姿はグールが一番近いでしょう。

 ペリータ様には自身の能力により師匠なる方の姿を見ることはできないとのことで、わたくしがその様子を伝えると笑っておられました。

 人間離れした魔法の力を持つペリータ様ともなると、師匠となればまさに人間離れしていてもおかしくないのではとわたくしは冷静に考えました。

 そして実際、師匠なる方の話す姿は理知的で、アンデッドとは程遠い存在と考えを改めました。

 師匠なる方と話すペリータ様は本当に楽しそうでございました。


 その次の日にはわたくし達はペリータ様の故郷へと着きました。

 ペリータ様の故郷は農村と言うには遥か広大で、人の数も小ないながら、肥沃な大地と活気のある場所でした。

 ここでも雨は降っていないようですが、干ばつの影響はないそうです。

 なぜなら、村には第二の村の水姫様なる方が誕生したそうです。

 ペリータ様ほどの魔法ではないようですが、小さな身体で一所懸命に手のひらから水を出し、畑に撒いておりました。

 ペリータ様はその子の頭を撫でて、この村でもすでに私の存在は必要ないかとぽつりとおっしゃっりましたが、それは勘違いであると思います。

 村では総出でペリータ様を歓迎の祭りの準備が始まっている様子です。

 ペリータ様は急な帰省であるしそういうことは後で良いとそれを制しました。

 すると村はすんと静かになりました。

 これほどの影響力は、領主にもございません。

 ペリータ様は間違いなく、慕われていらっしゃいます。

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