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12 真夜中の刺客

 その後、俺とリリスはこの世のものとは思えない豪華な夕食を振る舞われ、大浴場でお風呂に入ってからそれぞれの寝室へと向かった。

 リリスは同じ部屋じゃない事が不服だったようだが、まあ仕方ないだろう。

 寝室も相変わらず無駄に立派だ。さすが王の住む城ってとこだな。


「さてと」


 俺はふかふかなキングサイズのベッドに横たわりながら考えた。

 とりあえず明日国王が良い方向に決断してくれれば全て収まるのだが、仮にリリスの言葉を信じなかったらどうすればよいのだろうか。

 色々考えを巡らせながら窓から外の景色を眺めると、雨が降ってる事に気付く。

 そして一瞬だけ空が光り、破裂音のようなものが辺りに轟いた。

 雷か。急に天気が悪くなったな。


 何度か雷鳴が鳴り響いた後、部屋の扉がゆっくりと開いた。


「……リョウタ様」


 そこに立っていたのは怯えたような表情のリリス。


「どうした?」

「いや……その、雷が……」

「怖いのか?」 


 リリスは頬を赤く染めながら少しだけ顎を引く。


「ほら、こっちこいよ」


 俺はベッドをポンポンと叩く。


「いいんですか?」

「当たり前だろ」

「おじゃまします」


 リリスはゆっくりと俺のベッドによじ登り、隣でよこになる。

 同時に雷鳴が轟いた。


「きゃっ!」


 小さな悲鳴を上げて俺に抱き着くリリス。柔らかいものが二の腕に当たってむにゅっと潰れた。


「す、すみません……急に抱き着いたりしてしまって」

「気にすんなって。誰でも怖いもんはあるだろ」


 そう言いながら、俺はゆっくりとリリスの頭を撫でた。


「……本当にありがとうございます」

「そんな大げさな」

「いや、リョウタ様には何度も何度も助けられてしまって……本当にどうお礼をすれば良いのか」

「気にすんなよ、好きでやってるんだから。ただのお人よしだ」

「リョウタ様……」


 リリスは俺をより強く抱きしめる。

 そして俺たちはそのまま眠りについた。


◆◆◆


「……り……様」


 朦朧とする意識の中、聞き覚えのある声がする。

 ゆっくりと目を開くと、リリスが俺の顔を覗き込んでいた。


「リョウタ様、起きてください」

「んん……んんっ、どうしたんだ」


 辺りはまだ真っ暗。朝になった訳ではないようだ。


「誰かの足音がします」

「多分見回りかなんかだろ」

「いえ、見回りをしてた兵士のものとはまるで違う……まるで気配を隠そうとしているような足音です」

「なるほどな」


 俺は起き上がり、部屋の扉を僅かに開けてリリスと共に廊下を覗いた。


「……っ」


 すると、何やら怪しげな人影がこちらへと向かっていた。

 マントに身を包んだその男は、確実に衛兵ではないだろう。


 ふと、俺たちの部屋に入ってくるのかと思って身構えたが、男は俺たちの部屋を素通りする。


「どうします?」

「どう見ても怪しいな。後をつけてみるか」

「はい」


 もちろん、俺たちは隠密行動の知識はないので、ここは575の力に頼る事にした。


「二人とも 後を追う為 透明に」


 たちまち俺たちの体は透けていき、ついに全く見えなくなった。

 自分の体が見えないと言うのは不思議な感覚だ。


「すごいです、リョウタ様」

「なんてことないって。ただ、音までは消せないみたいだから気をつけろよ」

「はい」


 そして、俺たちはマントの男を尾行した。

 男は衛兵の目を避けながら城の奥へと進んでいき、大きな塔のような場所へとたどり着くと、そこにある階段を上っていく。

 そして塔のてっぺんにある大きな扉の前にたどり着くと、物音を立ててその扉を護っていた衛兵たちの気を逸らし、中へと忍び込んだ。

 透明になっていた俺たちも便乗して扉を通過する。


 その先にあったのは、王の寝室だった。


「まさか……」


 マントの男は懐から一本の短刀を取り出すと、ぐっすり寝ていた国王へと近づいていく。

 こいつ、王を殺す気なのか!


 俺はすぐさま575を唱えた。


「重力が その殺し屋を 束縛だ」


 たちまちマントの男は何かに押さえつけられたように地面に突っ伏し、動けなくなる。


「くっ……なんだこれは」


 その音で目が覚めたのか、王は驚いてベッドから飛び上がった。


「なっ、何事だ! 衛兵、衛兵はどこだ!」


 たちまち部屋の警備をしていた兵士たちが駆けつけ、マントの男を取り押さえる。

 同時に、俺も透明化を解除した。


「大丈夫ですか、王様」

「お主は――」


 地面に押さえつけられて動けないマントの男に目を向けてから、王は俺に尋ねる。


「お主が助けてくれたのか」

「たまたま廊下でこの男を見かけて後をつけたんです」

「そうか。すまぬ、助かった。しかし、一体誰がこのような輩を……」

「直接聞いてみましょうか」

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