18 やったね! 日本で家族ができるかも?
田中さんの話を聞けば、どんな神社にも宮司はいるらしい。
「どんな神社にも宮司はいるよ。管理者が宮司だからね」
宮司とは神社の責任者を務めている神職で、実は日本全国には8万ほどの神社があって宮司は1万しかいないとこのと。
つまり7万の神社がこういった無人神社で1万の宮司さんが無人神社の宮司を兼任しているらしい。
「だからこの社も宮司がすなわち神主にもなる。その神主の私でもこの神社が、私のもっている他の神社の本社だったとは思ってなかったよ」
「他にもここの支社が一杯あるぞ」
おキツネ様が胸をはる。
「本当ですか? どうみてもそんな風には……」
「ボロいと言いたいのか?」
「いえ、別に……」
田中さんが笑う。
「神様が顕現してそうおっしゃっているのならそうだろう。人間が作った箱物の立派さなんて本質とはなんの関係もないんだよ」
確かにそうかもしれない。さすが神主さんだ。
「まあ誰かが管理をほーったらかしにしといたからワシはずーっと神体の中から出れんかったんじゃがの」
「うっごほごほ……」
やっぱこの神主さんちょっと怪しいぞ。
「まあ宮司や神主なんて世襲なんですよ。ご先祖様からもこの社が特別だとは聞いていませんでした。本当に申し訳ない」
「まあ、おかげでリョウタがワシの使いになったんじゃから良しとするか」
なるほど。田中さんもこの神社が特別だって知らなかったのか。
「ははは。自分だったら絶対に異世界を救うなんて無理だったことでしょう」
「え? 田中さんは俺が異世界行ってしたことを知っているんですか?」
「もちろんだよ。毎日毎日、おキツネ様から君の冒険譚を聞いていたからね」
「えええ? そうなの?」
おキツネ様はどうして俺のことを田中さんに話してしまったのか?
「ああ、君の話を聞いてたのはね。おキツネ様から君を家族として預かって欲しいって頼まれたからなんだよ」
え? なんだって?
「ある夜、急に不思議な女の子が現れてね。それがおキツネ様だったんだ。自分は神職しているのに神様とか幽霊とか本当にいるとは信じていないタイプだったんだけどね」
それはそれで問題があるような。
「幽霊はワシもおらんと思うぞ……いや絶対にいないんじゃ」
おキツネ様がプルプルと震えている。
「ともかくキツネのような耳と尻尾を持っている少女が、お前の神社の神だと名乗ってね」
「それを信じたんですか?」
「いや~それは信じるだろう。こんなに可愛いんだもの!」
やはり少し心配になってきた。
「その神様が君の話をずーっとするんだよ。リョウタは偉い、カッコイイと」
「そ、そうだったんですか?」
俺はおキツネ様を見る。顔を赤くしてそっぽと向いた。石を蹴っている。
「し、知らんわ。そんなの記憶に無いの……」
「どうやらおキツネ様は君をウチの家族にして欲しかったみたいだよ。キミはその……行くところがないんだろう。是非うちに来てよ」
マ、マジかよ。それにおキツネ様がそんなことも頼んでくれていたなんて。凄く嬉しいが、でも……。
「本当にいいんすか? そんな簡単に……」
「来てくれないと困るんだよ。おキツネ様だけじゃなくて娘にも頼まれていて」
「へ? 娘?」
「高岬高校の2年B組に田中アオイって子がいたろう。アレは私の娘だよ」
「クラス委員長のアオイが田中さんの娘?」
「そうだよ。リョウタくんが学校にこなくなって凄く心配していたらしいんだ」
俺は両親が死ぬ前から高岬高校に通っていた。施設に預けられた後もしばらくは。そこで同じクラスだったアオイの親父さんが田中さんだったとは。
まあ昔のアパートも施設も高校も神社もすべて自転車の範囲内だ。
あり得ない偶然というほどでもない。
「ともかく一旦はキミがウチに来てくれないかな。おキツネ様にも面目が立たないし、娘にも怒られてしまう。人助けだと思って来てくれないだろうか?」
「い、いやとんでもない。行くところもないのでお願いします」
「おお! ありがたい」
俺とおキツネ様と田中さんの三人で山を降りる。
「いや~実は私には男の子がいなくてねえ。妻もアオイを産んで早くに他界してしまったから」
そういえば、アオイはお弁当を自分で作っているとか聞いたことがある。
「どうだろう? ゆくゆくは私の後を継いで、アオイと一緒に神社を管理してくれないだろうか?」
「おーそれはいいのぉ~」
おキツネ様は気軽に賛成するが、俺は今、恐ろしいことを言われたのではないだろうか?
「それってアオイと結婚しろって意味っすか?」
「そうだ」
さっきはそれはいいと言っていたおキツネ様が手をバタバタして暴れる。
「なに~ならんぞ! それはダメじゃ! それはダメじゃ!」
神主の田中さんは神様の反対を全く意に介さない。
「キミを家族にするのは娘も大賛成だったし、憎からず思ってくれていると思うんだが」
「そ、そうなんですか?」
「うむ。娘も私もおキツネ様からキミの話を聞くのが毎日の楽しみでね」
げ……。おキツネ様はあの冒険をどう話したんだろうか。
「娘なんか、WEB上の小説投稿サイトでキミを主人公にした話を掲載してな。大人気らしいぞ。悪役令嬢モノよりも人気が出たとかなんとか」
「な、なんですか? それ……」
あのアオイがそんなことをしていたとは。恐ろしい。
とにかくしばらくは田中のオジサンの家に厄介になるしかないな。
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次回ももうちょっとだけ日本編をやって異世界に戻ります。




