45 残念令嬢腹を括る
「奥様、リリー様の御衣装が出来上がりましたッ」
リリー付きの侍女の一人が、最新の男装用の燕尾服を捧げ持ったメイドを連れてオフィーリアの執務室のドアを叩く。
「お入りなさい」
女主人の許可が出たのでドアを開けると満面の笑顔のオフィーリアが執務机の前に座っているのが見えた。
何故か机の上に白い小石や砂のようなモノが見えた気がしたが、偶にある事なので彼女は気にしない。
「奥様、今回は夜会に向けての燕尾服で御座います。この美しい天鵞絨がリリー様の凛々しいお姿をこの上なく美しく見せること間違いなしです」
侍女はメイドに向かって最新の艶々と上品に輝くソレを、オフィーリアの目の前に広げて見せるように指示をすると、メイドが手に持っていた濃紺の上着を白い手袋をはめた両手で持ち上げてオフィーリアに全体が見えるように広げて見せる。
「若かりし頃の旦那様を彷彿とさせるわ・・・素敵・・・」
うっとりと眺めるオフィーリアの頬が薄っすらとピンクに染まる。
「よしッ。採用! 名前を言いなさいッ」
「はッ! オリビアでございますッ」
「オリビアの今月のお手当は20%アップ!」
手元にある手帳にサラサラとペンを走らせ、オリビアの名前の横に↑20%と書き記すオフィーリア。
「ありがとうございますッ」
45度のお辞儀をする侍女オリビアである・・・
×××
去っていく侍女とメイドの後ろ姿を見送り、閉まったドアを眺める公爵夫人。侍女の持ってきた衣装の癒やし効果でちょっぴり冷静になったようである。
「ん~~、やっぱりリリーちゃんの事をよくわかってるのはアルフィーだわ。男装で自信を取り戻させてついでに侍女の意識改革までさせちゃうんだもの・・・」
執務机を指でトントンと叩く。
「ただあの子はアレクの影にするつもりで育ててたしなぁ。多分リリーちゃんの言ってた金髪で優しいってアルフィーの事だったのよねえ~・・・失敗したわ。てっきり兄としてしか意識していないのかと思ってたから・・・」
過去、リリーにどんなタイプの人が好きかと聞いたときの返事で兄達の様な容姿が理想なのだと思い込み、アルフィーの事だとは考えなかった過去の自分を今更ながら滅したい。
なんせ彼女は大雑把な上に思い込みが激しいのだ。思い込んだら犬まっしぐらな行動をついしてしまいがちである。
「最近のリリーちゃんはアルフィーとよく一緒・・・彼は諜報部の指揮官だし。あ~どうしようかなぁ」
頭を抱えるオフィーリア。
「貰えるのは伯爵位だっけ・・・お義兄(国王陛下)ちゃんのケツを叩くかぁ?」
執務机の引き出しを開けて徐に便箋を取り出すオフィーリア・・・
「お母様ッ!!」
『バーンッ!!』とドアが勢いよく開く。
「ひゃッ!? リリーちゃん?!」
取り出そうとしていた公式用便箋が余りにも驚いてヒラリと手の中から落ちる。
気配に敏感なオフィーリアが気が付けないほどの速度で走り込んできたらしい。
「私ッ!! ルパートと婚約を破棄しますッ」
「えええぇッ?!」
あまりの驚きに持っていた羽根ペンをへし折ってしまうオフィーリア。
「それでッ! 私自由になってアルフィーにプロポーズするのッ!!」
「ええええええええぇッ?!」
手の中の折れたペンを思わず ボキボキッ! グシャッ!と丸める公爵夫人。
「お父様には許可を取りました! 1週間後の卒業パーティーで、私みんなの前で公言してやるのッ! 二度とあの派閥が私に手出しできないようにギッタギタにしてやりますッ!」
「・・・」
その時初めて、ああ、この子も私の娘だわ~、とオフィーリアは実感したらしい。




