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37 愚か者達の輪舞曲3

 王都中心部にある紳士クラブに、どこぞの派閥の何処かの貴族、恐らく爵位はバラバラな紳士達が数人現れ入口を潜る。


 夕刻の茜色の空が段々と紫色に染まり始める時刻になると、彼らは個別になっている内の1つの喫煙室へと集まり始めた。


 派閥の総会のようなものだが、表立って出来ない内容の場合は社交の(てい)を保ちながらこういった場所で行われるが、繰り広げられる会話は雑談のような会話で進む所謂(いわゆる)密談である――



「困りました」



 ある紳士がポツリと呟く。



「いや本当に」



 すぐ前の場所に陣取っていた紳士がコーヒーを飲む手を止めると、



「まさか、ここにきて頓挫ですか」



 離れた場所にいた初老の紳士達が眉根を寄せて葉巻を咥えた。



態々(わざわざ)身内を外戚に預けて外国籍まで取らせたんですよ? それをこんな形で裏切られるとは思いませんでした」


「公爵はこの計画をご存知ない?」


「いえ、薄々は」


「知っていて流れに乗った?」


「そんな所でしょうな。放置とでも?」


 

 口々に紡がれる言葉を遮る者が1人。



「このままですと、こちら側としては不利になります」


「確かに。婚約を白紙撤回されても文句は言えまいよ」



 ここで誰かが大きな溜息をついた。



「例のご令嬢は純潔を捧げたと言っとるが、本当なのか?」



 呆れたような口調で初老の紳士が宙に視線を彷徨わせながら言うとそれに答えるように入口近くの席に座る紳士がそれに答えた。



「護衛の話では妙に手慣れていたとか」


「頭は弱いが、悪知恵は回るな。余程令息に御執心といった所か?」



 忌々しそうな口調の老人が呟く。



「美男子が好きなだけでしょう。学園では他の令息も侍らしているらしいですから」


「学園に通ってたのか?! 見たことがないとウチの息子が言ってたが?」



 その声に驚いたような声が返された。



「早退と休みの繰り返しらしいですな」



 若い紳士が答えた。



 「「「「「「「・・・」」」」」」」



 全員が一瞬だけ押し黙る。



「王位継承権保持者との婚約が派閥にとってどういうモノなのかが理解(わか)らないのか? いや、何でだ?」



 詰まりながら誰かが唸ると、



「頭の出来が・・・」



 ボソリと誰かの呟きに大勢が思わず



「「「「花畑か?!」」」」



 と思わず口にする。



「しかし、令息の方も随分浮名は流れていましたし・・・」



 と誰かが苦言を呈すると、



「それが童貞だったらしくて奥方が訴訟を起こすと息巻いているらしい」


 「「「「「「・・・」」」」」」



 妙な沈黙が流れた。



「男の貞操が奪われたと訴えるんですか?!」


「止めましょう」


「そうだな。やめていただこう。そもそも令息の外聞が余計に悪くなると思わないのかね?」


「男の沽券が・・・ちょっと・・・」



 誰かがまたもや溜息をついた。ちょっと憐れんだ空気が流れる・・・



「休み中の出来事ですから、噂は広がりません。今のうちならまだ・・・」


「無理です! 既に同派閥内であの2人が深い仲だという噂が出回っています!」



 少し若い紳士が思い出したように声をあげる。



「「「「え?」」」」


「何でも、中立派の御婦人達の噂の的だとか」



 それに対して離れた場所にいた紳士が首を傾げていたが、急に思い出したように



「あ、私も妻に聞きました。何でもご令嬢のお相手はアレ(ルパート)らしいと。いつものただの噂だろうと笑っていましたが、まさか本当にそうだとは思いませんでしたが」


「あ。私も妻から聞いた気が」


「あぁ、そういえばウチの娘がカフェでイチャイチャしていたと。相手がまさか筆頭公爵家の次女とは思わなかったらしく・・・」



 どんどん証言が上がり始めると初老の紳士が葉巻を灰皿に押し付けながら一度額を押さえた後で



「何でッ! 報告しないんだ!?」



 と、周りを見回すが、



「男の方はいつもの事ですしなぁ」



 のほほんとした声が上がった。



「令嬢が誰か分からなかったらしいです。娘は今年入学したばかりです。学園生ではないだろうと」



 若い紳士がそう言うと



「なんでそうなる?!」



 驚く初老の紳士。



「見たことがないらしくて・・・」



 困ったような声の答えに全員が、



「「「「「欠席と早退かッ?!」」」」」



 と同時に声を出した。



「とにかく噂の火消しは・・・」


「御婦人方に既に広がっているんじゃないか? アレらは噂好きじゃから」


「筆頭公爵家は何をしとるんじゃ・・・そんな調教もせずに町中に暴れ馬を放つなど・・・」


「言い過ぎですよ~・・・」



 もはや雑談では無く、会議のようになってきた。密談じゃなかったのか?? 誰も彼もがその疑問を何処かに追いやったようだ。



「あの御令嬢は王族ですから例のご令嬢のような奔放な真似はなさらないでしょう。ですがこの際()()()()()()()()()()()()、アチラも文句は言いますまい」


「どういう事だ?」


「もういい加減第3王子の失言を利用したのだぞ? これ以上の手は・・・まさか」


「この際影を使いましょう」


「駄目ですよ、バレたら内乱になります」


「偶然を装い・・・」


「王弟殿下が本気を出したらどうするんじゃッ!! 公爵家が黙っておるまい。儂らのことじゃてもう既にバレとるかもしれんのだぞッ」



 一番老齢の紳士が怒鳴る。



「若いもんは知らんだろうが、儂は絶対反対じゃ!! アガスティヤが牙を剥いたら一族郎党が路頭に迷うわッ!」


「しかしこのままですと・・・」


「ええい、解散じゃ! 兎に角筆頭公爵家がどうするかに任せるしか無いッ。そもそも調教の出来てない公爵家のジャジャ馬(ルミア)の教育義務責任じゃ!! ルパート(令息)も色に流されおって!」


「「「「「「えええぇ~」」」」」」


「解散じゃーーー!!」



 額に青筋を立て顔を赤くした老紳士が叫んだ・・・















 会議? は踊る――


 そして爺さんの血圧が心配である。



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