33 愚か者達の輪舞曲2
「は? 今何と言った?」
「だからぁ~ルパート様と結婚したいんですッ。セイブリアン家はおんなじ派閥だし、彼って嫡男だから後継でしょう? 侯爵家ならウチと家格も釣り合うし?」
「「「は?」」」
ルミアの言葉にフォルセット公爵はスパークリングウォーターの入ったグラスを傾けるのをやめ、夫人はナフキンを持ったまま動きを止めた。
ルミアの兄は驚いた拍子に手に持っていたアミューズをポロッと取り落としたが、皿に落ちたのでギリギリセーフ。
口が開いたまま塞がらないのが減点ポイントだろう。
「ルミア? 一体何を言ってるのかしら?」
母である公爵夫人が硬直からいち早く復帰して、美しく成長した娘の顔を見ながら眉根を寄せて、まるで子供に言い聞かす様にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ルミア。セイブリアン家の御嫡男は3年前から婚約者がいらっしゃるのよ? 貴女の気持ちだけではどうにもならないのよ?」
その言葉に実に可憐にいかにも可愛らしく首を傾げたルミアは一言、
「だって、私ルパート様に昨日純潔を捧げたんですもの。きっと責任を取ってその方との婚約は破棄して、私と結婚して下さるわ」
うっとりとした表情で手を合わせているルミアを他所に、夫人が卒倒した。慌てた公爵がその妻を支えて侍従に『医者を』と指示し、兄は慌てて執務室に走っていく。
その日のフォルセット公爵家の晩餐は急にお開きになった。
×××
「申し訳ありません」
セイブリアン侯爵夫妻に向けて嫡男ルパートは突然頭を下げる。
「一体どうした、ルパート?」
「そうよ突然。何があったの? 晩餐の時間にもいなかったし」
夕食後の夫婦の一時をパーラーで過ごそうと、セイブリアン侯爵夫妻がソファーに座ってメイドの運んで来るお茶を待っている最中に、晩餐の時間に食堂に現れなかった嫡男ルパートがやって来た。
「その、実は。フォルセット公爵家のご令嬢のルミア嬢の事なのですが」
若干顔色の悪い息子に首を傾げる侯爵夫妻。
「ああ、最近やたらと呼び出されているようだが。どうした?」
「その、同衾を・・・」
実に言いにくそうに口を開くルパート。
「「は?」」
「デート中に湖に落ちまして」
「「はあ?」」
「服を乾かしたいと言われてホテルで」
「「・・・まさか?!」」
「すみません! 喰われましたッ!」
45度のお辞儀をするルパート。
「おい? 待て、お前童貞だったのか?」
――そこかよ親父。
「はい」
バツの悪そうな表情をする息子に、憐れむような視線を向ける顔の父。
何だろう色々と違う意味でいたたまれない気持ちになる父・・・・
「アナタッ! 当たり前でしょうッ」
「「・・・」」
侯爵夫人が手に持っていた、扇をへし折った。
「フォルセット公爵家のルミア嬢といえば第3王子殿下の婚約者候補だったにも関わらず、素行の悪さで辞退したという噂の娘さんですわ。きっとウチのルパートを毒牙にかけようと付け狙っていたのですわ。許せませんわッ!! 抗議の手紙を書かなくてわッ!!」
「いや、おい待て。相手は家格が上の公爵家だぞ。しかも童貞を奪われたって抗議するのか?!」
激高する妻を宥めようとする侯爵と、
「いえ、あの母上、ルミア嬢は素行云々より頭が・・・いえ、成績が振るわず辞退しただけですよ」
と、火に油を注ぐルパート・・・。
「バカってことじゃないッ!! しかも貴方はアガスティヤの御令嬢と婚約してるのよ? 政略婚なのよ? どうするの~~ッ」
「その縁組は公爵直々に音頭を取ったんだぞ? 何でその娘がそれをぶち壊すようなことをしたんだ?」
困惑の表情で頭を押さえるセイブリアン侯爵。
「その娘の頭が悪いからよッ!!」
夫人の叫びがパーラーに響いた・・・




