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27 幼き奏鳴曲1

 『求婚するには爵位が低すぎる』



 この言葉はリリーにとって呪いだ――



 アガスティヤ家は 公爵家だ。


 当然貴族の中では最も高い爵位であり、その娘であるリリーの伴侶にもそれ相応の高位貴族の子息であることが求められる。


 後は王族だ。



 この条件は自国他国問わず同様であって、そこにリリーの意志は全く関係がない。


 身分の高いものは、その生まれついて与えられるモノに対する責任を取らなければならない。


 これもまたノブレス・オブリージュ――富める者の義務なのだ。




 ×××




 恐らく7年程前、つまり彼女が10歳の頃だ。


 婚約者の釣り書きが集まりだしたというのを執務室で両親が話し合っていた所にリリーは偶然出くわした。


 その頃は学園に入学する前であり、まだまだ活発な女の子だったリリーは朝食前の朝稽古を日課にしていたが、その日に限って自室に練習用の剣を置き忘れ取りに戻る途中だった。


 いつもならこの時間に通ることも無い執務室のドアに隙間があり、そこから漏れ聞こえてきた両親の会話に自分の名前が出た事で思わず立ち止まった。



「伯爵家の息子しかも()()()()の嫡男ですわ? (ワタクシ)のリリーちゃんに求婚してくるなんて厚かましいのにも程がありますわ」


「確かに王位継承権を持つあの子の婚約者に相応しいかと言われれば微妙な所だね。婚姻を結べば継承権は放棄するとはいえ、現段階では首を縦には振れないねぇ」



 怒った口調の母に対して温厚な父の宥めるような声――



 その時の事は余り覚えていないが、爵位の低い家柄の子息との婚姻は出来ないのだと、ボンヤリとではあるが彼女なりに理解した。



 ――伯爵家でも釣り合わないのなら侯爵以上と言う事なのかな?



 婚姻に対する興味がなかった彼女は将来の伴侶と言われてもピンとこないまま、時だけは流れて行く。


 その後の個人授業で、公爵令嬢としての心構えを家庭教師に教わる中で自分の不自由とも言える立場をどんどん理解していくリリー。



 ――私はお兄様のように伴侶を選べる立場ではないのだわ・・・高位貴族の子息や王族に選ばれ無ければ意味がないの?



 幼馴染達と仔犬のようにはしゃいで庭を転げ回って遊んでいた頃の自分の価値観と、置かれた立場の乖離はリリーにとっては重苦しい物となって行ったのだ・・・



 男の子顔負けに勇ましい自分と、家庭教師達の求める淑女としての身の振り方の違いに悩んだ彼女はどんどん自分に対する自信を失っていく。



 どうしたって自分が誰かの貞淑な妻になることは想像が出来ない。


 あんな真っ白で美しいウェディングドレスなんて私みたいに背の高い色黒の肌の女に似合うわけがない。



 リリーは自分が女性であることがどんどん嫌になっていく。



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