第10章 二学期 第344話 剣王試験編ー終章 エピローグ 空を翔ける箒星 ②
「さぁ、中断した準決勝戦の続きといきましょう! 【剣王】ロザレナ・ウェス・レティキュラータスVSルナティエ・アルトリウス・フランシアの戦いです!!」
司会者の男がそう口にした瞬間、観客席から、大きな歓声が上がった。
「ハッハッハッハッハッハッ! ついにこの時が来たか! ルナティエよ、容赦することはないぞ! エルジオの娘をケチョンケチョンにしてしまうと良い! ハーハッハッハッハッ!」
「ち、父上! レティキュラータス家の御当主様もいらっしゃるのですから、そんな挑発するようなことを言ってはいけませんよ! それに、ロザレナ殿は、マリーランドを救ってくださった人の一人で―――」
「今、そのことは関係ない! 私にとってレティキュラータスは……いや、エルジオは、長年の宿敵! 父に代わってそやつを討て、ルナティエ! フランシアの威光を示すのだ!」
おいおい……あの親父も相変わらずだな……。
ったく、ルナティエにとってお前の期待は重すぎる鎖だっていうのに……一番成長しなきゃいけないのはあんたなんじゃないのか、フランシア伯……まぁ、貴族の中では珍しいめちゃくちゃ聖人な奴なんだけどな。
俺は観客席の下にある壁に背を預けて、上の方で騒いでいる親馬鹿親父のルーベンスに引き攣った笑みを浮かべる。
すると、ルーベンスとセイアッドが座っている席から少し離れた席で、声が上がった。
「ロザレナちゃん。容赦することはありませんよ。フランシアの息女を叩きのめしてやりなさい」
「は、母上!?」
何と、ロザレナの祖母、先代当主メアリーが、ロザレナにそう声を掛けたのだった。
その発言に、ルーベンスは「ほう」と口にして、目を細めた。
「レティキュラータス先代当主か……随分と舐めたことを言ってくれるではないか」
「舐めてなどはいませんよ。ただ……うちの孫娘は【剣聖】になる女です。ならば、フランシアなどで止まるわけにはいきません。ふふっ、前から腹が立っていたのですよ、貴方には。エルジオはこういう性格ですから、何も言い返しませんが……よくも長年レティキュラータス家を馬鹿にし続けてくれましたね。レティキュラータスを……舐めるんじゃないですよ! 私はキュリエールの代から、フランシアが嫌いです!」
「は、母上! 良いですから! 私とルーベンスくん……いえ、フランシア伯は、平和的な同盟を結ぼうと話し合っている段階ですから! 余計な横やりを入れないでください! ……だから母上がここに残るのは嫌だったんだ……お爺様やナレッサ、ルイスと先に屋敷に帰っていて欲しかったのに……」
「エルジオ! 貴方、当主として、父親として、恥ずかしくないのですか! だからフランシアなどに舐められるのですよ!」
メアリー様は、何というか……相変わらず血の気が多いな……。
やっぱり温厚なレティキュラータス家の一族の中では、あの人が一番、好戦的なロザレナに似ているんじゃないかな……。
「ええい! 腹の立つ婆さんだ! 良いか、ルナティエ! 絶対にエルジオの娘……いや、レティキュラータスの娘に敗けるでないぞ!」
「良いですか、ロザレナ! 絶対にキュリエールの孫娘……いえ、フランシアの娘などに、敗けないように!」
もしかして、レティキュラータスとフランシアって、三代に渡って犬猿の仲だったりするのか?
メアリーとキュリエール、エルジオとルーベンス、ロザレナとルナティエ……。
だとしたら、いったい何年喧嘩してんだ、この四大騎士公ども……。
俺が呆れた様子で見つめていると、闘技場の中にハインラインとジャストラムが入ってきた。
「おぉ、ちょうど試合前に戻って来ることができたか。良かった良かった」
「街の方も落ち着いたし、メリアも大丈夫そうだったし、これで安心して試合を見ることができる。もぐもぐ」
鯛焼きを貪るジャストラムは、俺と目が合うと、何故か俺の横に立った。
ハインラインも同様に、ジャストラムの隣に立つ。
「また会ったね、メイドの子」
「かっかっかっ! 第三次試験開始前に会って、今度は試験終了後にまた会うとはのう。奇遇じゃな、レティキュラータス家のメイドの……アネット、だったか」
「ジャストラム様、ハインライン様、こんばんわ。どうしてお二人はここへ?」
「あやつらが、試合後に戦うという話しを聞いておったからのう。個人的に気になって見に来てみたのじゃ。あやつら箒星は……期待のルーキーじゃからのう」
「私は、あの子たちの強さの秘密が知りたいから来た。【心月無刀流】とかいう面白い技使ってたし。もぐもぐ。一体誰から教わったんだろうね。不思議」
「え? 【心月無刀流】……?」
「あのルナティエとかいう娘が、我らの師であるアレス師匠しか教えることができなかった技を、使ってみせたんじゃ。今王国でアレを使えるのは、ワシとリトリシアだけだったはず、なのだけれどな」
「え゛。そうなん……です、か……?」
た、確かに、無刀と残刀は珍しい格闘技だということは知っていたが……アレ、現代だとハインラインとジェシカしか使えない代物だったのか……?
だとしたら、ルナティエにあれを教えたのは……ミスだったのか……?
いや、教えたことがミスじゃないな。
俺が事前に警戒していなかったのがミスだった。
ということは、目ざといジャストラムの奴が不思議に思ったのも当然というわけか……。
「? メイドの子、何か汗すごい。大丈夫?」
「だ、大丈夫です大丈夫。はははは……」
やっぱりジャストラムはやりにくいぜ……気を付けないといけないな。
「では、これより試合開始のカウントダウンを開始します! 30! 29! 28――――――」
「ほっほっほっ。さぁて、新しき剣王たちは、どちらが勝つのかのう。楽しみじゃわい。ジャストラム、お主はどちらが勝つと思う?」
「普通に考えたら、レティキュラータスの子だと思うけど? もぐもぐもぐ」
「まぁ、のう。単純な実力だけで考えれば、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスとグレイレウス・ローゼン・アレクサンドロスが、別格であることは間違いないのう。あの二人を超える実力を持っている者は、今の剣王には間違いなくおらんな。じゃが……」
ハインラインは面白そうな様子で、自身の髭を撫でた。
「ワシの好みは、ルナティエ・アルトリウス・フランシア、じゃな」
「ハインライン、ロリコンだったんだ……牢屋に入っても忘れないよ」
「アホ! そういう意味の好みじゃないわい! ワシは剣士として、あの娘を気に入っておるんじゃわい!」
「何となく言いたいことは分かるけど。ハインライン、ああいうタイプの剣士、好きだよね。努力家というか、頑張り屋というか。正直、私にはよく分からない」
「まぁ、そうじゃろうな。お主は努力というものを嫌い、最短でゴールを目指す性質じゃからな」
「ハインライン……あの子と自分を重ねているんでしょ? レティキュラータスの子は……アーノイックだとでも思ってる?」
ジャストラムのその言葉に、ハインラインは目を細めた。
「そうじゃなぁ。ワシは、遅咲きじゃったからなぁ。若い頃は何度もアーノイックの奴に挑んでは、返り討ちにされておった。……あのルナティエという娘は、ロザレナをライバルとして見ておる。恐らくあの様子から察するに、何度か、敗けておるのじゃろう。ワシとしては、若い頃の自分に似ているあの健気な娘を応援したくなるのう。暴走しがちな二人の兄弟弟子をまとめ上げているところも、ワシにそっくりじゃわい」
「そういえば、第三次試験前にも同じようなことを言っていたね。あの三人を昔の私たちに当てはめるのなら、自分はルナティエだって。確か私は……あのマフラーの子……グレイレウスのポジション、だっけ?」
そう言ってジャストラムは、遠くに立っているグレイレウスを見て、怪訝そうに眉を顰める。
「何で……上半身裸? あれが、私? 納得できない」
「変わりモンなところがそっくりじゃろう。あと、速剣型なところもな」
「納得できない」
まぁ、俺も、ハインラインの言いたいことは分からないでもない。
俺がロザレナ、ハインラインがルナティエ、ジャストラムがグレイ。
俺の弟子たち三人は、過去の俺たちと似ている部分が少なからずあるのは間違いない。
「メイドの子は、誰が勝つと思う?」
ふいに、ジャストラムにそんな言葉を掛けられる。
俺は笑みを浮かべ、闘技場の上に立つ二人を見つめながら、口を開いた。
「そうですね。私は――――――」
あいつらは俺が鍛え上げた自慢の弟子たちだ。答えは既に決まっている。
「……分かりません。私はあの二人は同格だと、そう思っていますから」
「同格? ルナティエという少女は、ロザレナやグレイレウス程じゃないと思うけど? あの子には、突出した闘気も速度もない……って、まぁ、メイドである君に言ったって分からないか。今の無し」
俺は何も答えずに、ただ笑みを浮かべて、二人を見つめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《ロザレナ 視点》
「―――――――――15! 14! 13!」
カウントダウンが進む中。
あたしは、手に持っている闘気石をジッと見つめていた。
これは、キリシュタットにベルトを斬られた、最後の闘気石。
これのおかげで、あたしの闘気の貯蔵量のリミッターは外れ、多くの闘気をチャージできるようになったんだ。
キリシュタットの奴に無理矢理ひとつ外されたのは悔しかったけれど、どっちみちあのレベルの剣士相手に闘気石を付けたまま【覇剣】を撃ったところで、勝ち目が無かったかもしれないから……結果オーライ、かしらね。
「……それ、付けるんですの?」
手に持っていた闘気石を見つめていた、その時。
ルナティエが、そう、あたしに声を掛けてきた。
そして彼女はツインテールの髪を靡くと、続けて口を開いた。
「このわたくしでさえも修行の一環だと考えているのならば、どうぞ? 付けてくださいまし? その油断でわたくしの勝率が上がるのならば、こちらも願ってもないこと。わたくしはどんな状態であろうとも、貴方を―――」
あたしはルナティエが最後まで言い終える前に、闘気石を場外へと放り投げた。
その瞬間、地面に落ちた闘気石は「ドシャァァァァァァァァァァァン」と巨大な土煙を巻き上げ……地面にめり込んだ。
その光景を見て驚いているルナティエに、あたしは笑みを浮かべる。
「あれはもういらないわ。だって、あたしは――――あんたやグレイレウスと戦うためだけに、今までずっとアレを付けていたんですもの。もう、枷はいらない。もう、闘気の貯蔵量を増やす必要もない。ルナティエ・アルトリウス・フランシア。あたしは全力を以って、貴方を―――倒すわ! 貴方は、あたしが今まで戦ってきた誰よりも認めている、剣士だもの!!」
「ロザレナ……さん……」
あたしのその言葉に、ルナティエは一瞬、呆けた顔を見せる。
そして彼女は手の甲を口元に当てると、高笑いの声を上げた。
「オーホッホッホッホッホッ!!!! よくってよ!!!! ようやく……わたくしを敵として認識したのですわね、ロザレナさん!! そうですわ!! 同じ門下生ですが、わたくしと貴方は元は敵同士!! お互いに級長の座を賭けて戦った春のあの日から……わたくしはずっと、貴方にリベンジしたいと思っていたんですの!! ようやく念願叶ったり、ですわ!! わたくしを一度倒した雑魚として見ているのだとしたら、足元を掬われましてよぉ!!」
「ようやく敵として認めた? 一度倒した雑魚? 何言ってるの? あんたは、あの時からずっと、あたしのライバルでしょう? あたし、あんたはすごい奴だって、最初から分かってたけど?」
「……は?」
「だって、あんたは天才なんでしょう? 分かってるわよ、そんなこと。あんたはあたしと【剣聖】の座を奪い合うに相応しい剣士よ、ルナティエ」
「貴方、は……」
ルナティエは一瞬目元に手を当て、何かを拭い取った。
そして、彼女はまっすぐとあたしを見つめる。
「貴方は本当に……お馬鹿さんですわね、ロザレナさん」
「うっさい。馬鹿馬鹿言うな。あたしだって多少は考えたりするようになったんだから!」
「――――――改めて……あの時のやり直しをさせていただきます。わたくし、ルナティエ・アルトリウス・フランシアは、ここに、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスへ手袋を投げることを誓います。そして……《騎士たちの夜典》の開催を、ここに宣言しますわっ!!!!」
そう言って、ルナティエは、左手の手袋を脱ぎ捨てる。
そして彼女は腰の鞘からレイピアを抜き、構えた。
「いいわ。その決闘、受け入れてあげる。決闘の賭けは何? また、級長の座?」
「当然ですわ」
「だったら……あたしは、あんたが天馬クラスに行こうとしているの、止めるから。あたしが勝ったら、あんたには副級長のままでいてもらうわ!」
「……知っていたんですの」
「ヒルデガルトさんから聞いたわ」
あたしはそう言って背中にある鞘から大剣を抜いて、構える。
「……あたし、何かを奪われるのって、すっごく嫌いなの。だから、ルナティエを天馬クラスには行かせはしない」
「でしたら……わたくしに勝つしかありませんわよ、ロザレナさん」
「そうね。だから、もう一度あたしは……あんたに勝つわ!」
そうしてあたしたち二人は笑みを浮かべて、向かい合った。
「―――――5、4、3……」
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《ルナティエ 視点》
「―――――5、4、3……」
あの日、ロザレナさんに敗けて、わたくしの剣の道は動き出した。
目を閉じると、思い浮かぶのは、あの日の……《騎士たちの夜典》の夜。
上段に剣を構えて、わたくしという獲物に迫り狂う、血に飢えた獣の姿。
あの姿を忘れたことは一度もありません。
あれが、わたくしが人生で初めて恐怖を覚えた剣士の姿。
……今までわたくしは、卑怯な手でしか勝利することができない剣士でしたわ。
だけどわたくしはロザレナさんに敗北して、マリーランドでアネット師匠の弟子となって、お婆様を倒し、自分が目指すべき道を見つけることができました。
わたくしが目指すのは、才能が無い剣士でも頂点に立つことができるのだと、証明する道。
随分と遠回りしてしまいましたけれど、わたくしが最も倒したい相手は、只一人。
ロザレナ・ウェス・レティキュラータスという、いずれ【剣聖】の座に到達するであろう、怪物ですわ。
彼女を倒して、わたくしは……自分の理想を成就させてみせます!!
己の夢も! 好きな人も! 全て、わたくしは手に入れて見せます!!
「―――――――――0! 試合開始です!」
「【縮地】!」
わたくしは、即座に【縮地】を発動させた。
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《ロザレナ 視点》
「―――――5、4、3……」
あたしが学園に入学して一番最初に戦った敵、それが、ルナティエ。
最初はただの嫌な奴だと思っていた。
貴族だからって威張って、あたしの家を馬鹿にして、卑怯な手ばかり使ってくるあたしが一番嫌いなタイプの人間。
だけど―――――あの夜、あたしはルナティエと戦って、分かったことがある。
それは、ルナティエは、剣聖を目指すあたしと長い付き合いになる存在になるかもしれないという、確信だった。
当時のルナティエはあたしを追い詰めるために、取り巻きたちを煽動してレティキュラータス家の名を貶していたけど、多分、そんなことはルナティエにとってはどうでもいいことだったのだと思う。
ただ、己が勝つために。そのためだけに打った戦略。
恐らく、本来、ルナティエは、アリスのように他人を馬鹿にすることに楽しみを見出すタイプの人間ではなかったんじゃないかしら。
彼女は……ただ勝利のためだけに、自分を曲げたにすぎない。
必死にあたしの剣に食らいつくルナティエの姿を見て、あたしはそのことに気が付いた。
そして、その時に思ったんだ。心底―――――こいつはかっこいい奴なんだって。
あたしと……同じ夢を抱き競い合うに相応しい、ライバルなんだって。
「―――――――――0! 試合開始です!」
「行くわよ……ルナティエぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
あたしはカウントの終了と同時に、大剣に闘気を纏った。
すると、地面が陥没し、ヒビが入っていく。
手加減なんて、するわけがない。
だって、ルナティエは……このあたしが認めた、ライバルなんだもの!!!!
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《アネット 視点》
「行くわよ……ルナティエぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「【縮地】!」
試合開始のカウントダウンが終わるのと同時に、二人は動き出した。
ロザレナは大剣に全開の闘気を纏い、ルナティエは即座に【縮地】を発動させた。
ルナティエはロザレナの背後に現れると、後頭部に目掛けレイピアを突こうとする。
だが、ロザレナは顔を横に逸らして、その剣を避けてみせた。
(ロザレナの奴……完全に、【縮地】のスピードを見切ることに成功しているな)
闘気石を外したことにより、身体能力が向上したこともあるが……恐らくロザレナお嬢様は、俺が見ていない時に、【縮地】を使う相手と交戦し、その速度に追いつくことができたのだろう。
我が主人、我が弟子ながら、末恐ろしいな。
純粋な剛剣型であったお嬢様が、今や、速剣型の領域に踏み込みつつある。
圧倒的な攻撃力を持つお嬢様がもし速剣型の能力を手に入れることができたら……最早、【剣聖】と【剣神】以外に誰も止めることはできないだろうな。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ロザレナは、剣を突き出しているルナティエの無防備な背中に向けて、大剣を振り降ろそうとする。
その光景を見て、隣に立っているジャストラムが声を張り上げた。
「!? あんな闘気を纏った剣を振り降ろしたら……あの娘の闘気では防御しきれないよ!? 殺す気!?」
舐めるなよ、ジャストラム。
ルナティエは……そんなに弱くない。
「……!!」
ルナティエは即座にバックステップで地面を蹴り上げて、ギリギリで、眼前に振り降ろされた大剣を回避する。
ロザレナが大剣を地面に叩きつけた瞬間、とてつもない衝撃波が辺りに飛んで行き、ルナティエは後方へと吹き飛ばされた。
ルナティエは空中でクルクルと回転した後、華麗に地面へと着地する。
そして彼女は額から流れる汗を拭うと、鋭い目でロザレナを睨み付けた。
「当たっていたら……間違いなくわたくしは死んでいた……!! 何ていう威力の闘気なんですの……!!」
そう言ってルナティエは立ち上がると、レイピアを逆手に持ち、構える。
「【水流・烈風裂波斬】!!!!」
ルナティエは連続して剣を振り、ロザレナに向けて水の刃を放った。
ロザレナに向かって飛んでいく、折り重なる水の斬撃。
「……」
その光景を見たロザレナは無表情。
そして地面に大剣を突き刺すと、ポキポキと拳を鳴らす。
その後、彼女は、自身に向かって飛んでくる斬撃に対して――――拳に闘気を纏い、まっすぐと腕を伸ばして、正拳突きを放った。
「とりゃあああああああああああああ!!!!」
バンッッッ!!!!
拳を放った瞬間、巨大な爆発音共に、水の斬撃が弾き飛ぶ。
そしてロザレナは、その後も全ての斬撃を器用に殴って消していった。
「……っとに、化け物ですわね、貴方は……っ!! 【縮地】!!」
ルナティエは姿を掻き消すと、ロザレナの背後に姿を現す。
そして彼女は、ロザレナの後頭部に目掛けて蹴り放った。
ロザレナはその蹴りを、首を逸らして、回避する。
そしてルナティエの足を掴むと、力いっぱいに、ルナティエを空中へと放り投げた。
「うおりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
「!?」
上空へと飛んでいくルナティエ。
ロザレナはその光景を見つめながら、地面に突き刺してある大剣を抜き、上段に構える。
そして大剣に凄まじい闘気を纏うと……空中を飛ぶルナティエに目掛け、大剣を振り降ろした。
「【覇剣】ッッッッッ!!!!」
空にまっすぐと巨大な斬撃が飛んでいき、ルナティエを消し飛ばす。
「ルナティエぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
観客席に座っていたルーベンスが、絶望した様子で悲鳴を上げる。
無理もない。あの【覇剣】に直撃すれば、彼女の実力ではひとたまりもないからだ。
だが――――――。
「ほっほっほっ。器用な娘さんじゃのう」
「……思ったよりもやるね、あの子」
ハインラインとジャストラムが、感心した様子でそう口にする。
俺は二人の言葉を聞いて、ニヤリと笑みを浮かべた。
(俺は、お嬢様を剣王に相応しい実力になるように鍛えたが、それと同様に、ルナティエも……お嬢様を倒せるように、鍛え上げたつもりだ)
あの二人は、どちらも、強くなった。
「―――――残念ですわね。貴方が消し飛ばしたのは、幻影の囮ですわ」
「!? ルナティエ!?」
「貴方の上段の剣は確かに強力なもの。ですが、高火力の威力と引き換えに、上段の剣は隙だらけであることは、間違いようのない事実」
ロザレナは即座に振り返る。
しかし、ルナティエの方が早かった。
「ロザレナさん!! 喰らいなさい!!!!」
ルナティエの剣が、振り返ったロザレナの身体を斬り裂いた。
闘気ガードが間に合わなかったのか、ロザレナの肩から首元にかけて斬り傷が産まれ、鮮血が舞う。
空中に舞う自分の血を見つめたロザレナは……ニヤリと、笑みを浮かべた。
その姿を見たルナティエは、ゾクッとしたような表情を浮かべる。
「なるほど。さっきの幻影、あたしに蹴りを飛ばしてきた時に闘気を纏っていなかったのはそういうわけか。流石ね。そうこなくっちゃ……面白くないわ」
ロザレナは、ルナティエの腹部に向けて膝蹴りを放つ。
ルナティエは【縮地】を発動させようとしたが、間に合わず……仕方なく彼女は剣に闘気を纏って防御の構えを取った。
横にしたレイピアに、膝蹴りが当たった直後。
ルナティエはその威力に耐え切れず、レイピアに圧されて、後方へと吹き飛んだ。
ロザレナは力強く足を前に踏み出して、地面を二度、後ろ足で叩きつけた。
「こうかしら」
その瞬間、ロザレナは姿を掻き消し……ルナティエの背後へと姿を現した。
「なっ……!? 【縮地】……!? そ、そんな、馬鹿な……!!」
ロザレナは大剣を上段に構える。
ルナティエは眉間に皺を寄せると、地面にレイピアを突き刺し、何とか足を止める。
そして、即座に【縮地】を発動させて、横へと逸れた。
「【覇剣】!!!!」
誰も座っていない観客席へと向かっていった【覇剣】は……ドシャァァァァァァァァァァァンと巨大な音を上げて、観客席に巨大な穴を穿った。
その光景を見て、唖然とする、レティキュラータス一家とフランシア一家、剣王アレフレッドとロドリゲス。
アレフレッドは、身体を震わせながら、口を開いた。
「なぁ、ロドリゲス……今更だけど俺たちが剣王って、何か、場違い感すごくないか……?」
「私も同じことを考えていたところだよ、アレフレッドボーイ。いや……何なのかね、あの二人は……」
闘技場の上で、ルナティエは地面に膝を突けながら、ゼェゼェと荒く息を吐く。
そして、頬から流れる血を拭い、ルナティエはロザレナを睨み付けた。
「やっぱり……貴方は一筋縄ではいきませんわね、ロザレナさん……」
ロザレナは肩に大剣を載せると、不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ……もっとあたしを楽しませなさい、ルナティエ……!! あんたはこんなもんじゃないはずでしょう? だって、あんたは……あたしのライバルなんだから!!」
「……ッ!! 当たり前、ですわよ!!」
ルナティエはそう言って立ち上がると、地面に突き刺していたレイピアを引き抜くのだった。




