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第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第342話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星⑬ 妾は、人々に笑顔をもたらす魔法剣士となる

《フランエッテ 視点》




 アルザードは笑みを浮かべながら、こちらへと近付いてくる。


 妾はそんな奴に対して、不敵な笑みを浮かべながら左手を顔に当てると、右手に持った剣でヒュンと空を切ってみせた。


「貴様がいくら強くなったところで、妾には関係ない。妾は最強の魔法剣士、なのじゃからな」


(心の声:や……やばいのじゃぁぁぁぁぁぁ!! なんかあやつ、本気モードになっているのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ピンチなのじゃぁぁぁぁぁぁ!!)


 妾にはもう、市場で盗ん……借りた物資の武装は残されていない。さっきの模造剣でラストじゃった。


 今、妾の手にある変化属性魔法で変えた武装は、薔薇に変えた投げナイフ5本のみ。


 これで、周囲のゾンビから無限に傷を回復するあやつの動きを完全に止めるのは……不可能に近いかもしれぬ……のう……。


 な、なるほど。だから、あやつは妾と戦う場所をここに選んだ、というわけなのじゃな。


 周囲のアンデッドたちは雑兵となるし、奴の回復の供給源ともなる。


 いや……待て。それなら奴は、何故、関所の中にいる人間たちをアンデッドに変えた? 普通に考えれば妾への脅し……なのじゃろうが……多分、アルザードも、まだ、全快の状態ではない、ということか?


 いずれにしても、奴の夜になれば無敵(・・・・・・・)という言葉が真実なのであれば、全快であろうとそうでなかろうとも、体力に大きな変化は無さそうじゃな。


「さて……貴様の首をここでもぎ取ってやろう、偽りの姫君ィイイ!!!!」


 地面を蹴り上げ、アルザードが向かってくる。


 妾は手を伸ばし、声を張り上げた。


「待て!」


「何だ!」


 律儀に足を止めるアルザード。やはりこやつ、馬鹿じゃな。


 妾は笑みを浮かべて、続けて開口した。


「良いのか? このまま戦えば……貴様、ただでは済まされないぞ?」


「いったい何を……言っている?」


「妾には……隠していた奥義がある。それを使えば、貴様はひとたまりもないということじゃ」


「ほう……? まだ魔法を隠していたのか。良いだろう。見せてみろ」


「え゛」


「やってみろ」


「……」


 時間稼ぎをして奴への対処法を考えるつもりだったのじゃが……ええい! 仕方あるまい! やってるやるのじゃ!


 妾は剣を下方へと構える。


 そして――――一気に、斜め上へと切り上げた。


「とくと見よ! これが我が奥義――――【次元斬】じゃ!」


 しかし――――――何も起こらなかった。


「……」


「……」


「……」


「…………馬鹿にしているのか、貴様ァァァァァァァ!!!!」


「ぎょええええええええええええ!! なのじゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 妾は即座に剣を構えて、臨戦態勢を取った。


 そして、ゴクリと唾を呑み込み、こちらへと向かって走ってくるアルザードを睨み付ける。


(やはり、あやつの速度は大したことがない。速剣型ではない魔術師(ウィザード)相手であるのならば、妾の剣でも対応できる範囲じゃ……! 目で追うこともできる……!)


 妾よりも先に箒星に加入した三人の弟子たちの修行を見てきたから分かる。


 あの三人に比べれば、力も、速度も、知恵も、奴にはない。


 アルザードは魔術師(ウィザード)であるというのに、わざわざ接近戦をしかけてきている、阿呆じゃ。


 先程力推しでは負けていたが、純粋な接近戦であるのならば、一応は剣士である妾の方が上……!


「【トランスバット】」


「なっ……!?」


 アルザードは突如、身体を蝙蝠の群れへと変えた。


 妾は剣を振るが、空を斬り、アルザードに斬撃は当たらなかった。


「【血爪(ブラッドクロウ)】」


「……ッ!?」


 背後から聞こえてきたその声に、即座に、妾は横へと飛び退く。


 その瞬間、頬が斬れ、血が舞っていた。


 先ほど妾が立っていた場所には、長く伸びた爪の姿があった。


「存外、素早いな、逸脱者」


 魔法の名称を唱えた瞬間に咄嗟に飛び退いていなければ、妾の頭は今頃、串刺しにされていた……!!


 詠唱破棄するだけで、ここまで、魔法の発動スピードが上がるのか……!


 頬から流れる血に触れた後、妾の足が、がくがくと震えだす。


 これが―――――命を賭けた、本当の戦い……!!


「震えているな。怖いのか?」


「武者震い、という奴じゃ」


「ハハハハハハハハハ!! では……容赦なく貴様を縊り殺してやるぞ!!」


 こちらへと向かって、連続で爪を突いてくるアルザード。

 

 妾はその爪を、剣を使って器用に防いでいった。


 やはり、スピード自体は、大したことがない。


 加えて、ロザレナのような強者の圧も感じない。


 この男が魔法で戦うことを主軸としているのは明白。


 数度打ち合った後、妾はアルザードの爪を弾き、後方へと下がると……投げナイフを投げた。


 アルザードはそのナイフを、爪を使って、器用に弾き飛ばす。


「変化属性魔法がかけられたものではなかったか。ふん、どうやら、貴様の種も底を尽きたようだな……! 逸脱者ァ!」


「我が身を鳩と化せ……【トランスピジョン】!」


 妾は身体を無数の鳩に変化させ、空に飛び立った。


「逃がすとでも思っているのか!? 【トランスバット】!」


 鳩になって空へと飛ぶと、アルザードも蝙蝠となって追いかけてくる。


 くっ……! 周囲の建物の上に行き、変化魔法の材料を探しに行こうと思ったのじゃが……それもできぬ、か……! 妾と奴は同じタイプの魔法使い……端から逃げられるはずがないんじゃ……!


 最寄りにあった建物の上に降り立ち、元の姿に戻ると、アルザードも目の前に降り立ち、蝙蝠から元の姿へと戻った。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 そして笑い声を上げながら、両手の爪を伸ばし、妾に襲い掛かってくる。


 妾は再び剣を使って、その攻撃を防いでいった。


「先ほどまでの威勢はどうしたんだぁ!? 逸脱者ァ!! 偽りの姫君ィイ!!」


「何故……貴様は、妾のことをそんなに恨んでいるのじゃ……!! 妾がいったい何をしたというのじゃ……!!」


「貴様は、我らが吸血鬼の長の名を騙った……吸血鬼の名を穢す不届き者だァ!! だというのにッ!! 帝国でのんきに暮らす馬鹿な同胞どもは、高位人族(ハイエンシェント)が支配するこの世界を良しとしている!! 許し難しィイ!! 貴様も同胞も高位人族(ハイエンシェント)どもも許せん!! 許し難し大罪人だァ!!」


「ようするに、妾が吸血鬼の姫の名を騙ったのに腹が立ったということなんじゃな!? というか、高位人族(ハイエンシェント)って何じゃ!? 何のことなんじゃ!? まったくもって言っている意味が分からんのじゃ!!」


「貴様らが崇めているあの聖女とかいう女のことだ!! あの女が姫君を卑怯な手を使って地の底に封印したのだァァァァァ!!!! うぐるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!(許し難しィィイイ!!!!)」


「聖女!? それって、未来視で王国を救ってきたという……セレーネ教のトップのことか!?」


「未来視で王国を救ってきた? 違うな! あの女は、自分の望む方向に未来を捻じ曲げている(・・・・・・・)にすぎない!! 未来視だと? 笑わせてくれる……!!」


「は……? 捻じ曲げている……?」


「自分たちが崇めている存在が何者かも知らぬとは、哀れだ!! 貴様たち眷属どもは、自分たちが産み出された意味も把握せずに、今までのうのうと繁殖して生きてきたのだからなァ!!」


「お前は何を……いったい何を言っているのじゃ……?」


「―――――――いずれ、貴様たち眷属は滅びゆく。それは避けられない定めだ」


 そう言って、アルザードは、上段から大振りで―――爪を振り降ろしてきた。


 妾はそれを寸前で回避してみせ、アルザードの横を通り過ぎながら、奴の肩を剣で斬り裂いてみせた。


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ッ!?」


「はぁはぁ……妾は体力は少ないが……それでもお主よりもスピードは上じゃ……! そもそも、お主は剣士ではない。ただ無鉄砲に爪を振り回しているだけの素人じゃ。攻撃を避けること自体は、容易いこと……!」


「フフ……フハハハハハハハハハハ!!」


「な……何がおかしいのじゃ!!」


 妾は振り返ると、剣をヒュンと振り、構える。


 アルザードに目を向けてみると……何故か、先ほど剣で斬り裂いた場所に、斬り傷が見当たらなかった。


 妾はその光景を見て、思わず目をパチクリと瞬かせてしまう。


「……は? なんで……お主、無傷なんじゃ……?」


「言ったであろう。我輩は、夜になれば、無敵だと」


「無敵、じゃと……? そんな意味の分からぬ能力があるわけなかろう! 師匠(マスター)も言っておったぞ! どんなに強い者でも、必ず弱点があると!」


「我輩の身体に宿る加護……【夜の支配者】は、あらゆる攻撃を無効化する。吸血鬼が最強の種族と言われる所以の力だ。確かに、近接戦闘においてはお前の方が上のようだが……いくら剣を振っても斬れない相手を倒すのは、不可能だろう? さぁ……!! お前の罪を清算する時だ……!! 逸脱者ァ!!!!」


 妾は、思わず引き攣った笑みを浮かべてしまう。


 あらゆる攻撃を無効化するって……妾は、いったいどうやってあやつを倒せば良いのじゃ……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《フレーチェル 視点》




「鼠……! 鼠はいったい何処に行ったの……!?」


 私は関所の中を隈なく探し、テーブルや棚をどかしては、鼠の行方を捜していた。


 だが……どこを探していても、鼠は見つからない。


 途方に暮れていた、その時。窓の外で、キィンキィンと剣をぶつけ合う音が聞こえてきた。


 外に視線を向けてみると、そこには、建物の上で剣と爪をぶつけ合って戦っているフランエッテさんとアルザードの姿があった。


 見たところ、フランエッテさんの方が劣勢。体力を大きく消耗しているのか、全身に斬り傷を作りながら、彼女はフラフラになりながら戦っていた。


「フランエッテさん!!!!」


 彼女だけにこの奈落の命運を託しているこの状況が、恨めしい。


 私にもっと力があったのなら……戦いに加勢できるというのに……!


「うぐぁ!?」


 爪の斬撃に弾き飛ばされたフランエッテさんが、地面に横たわった。


 そんな彼女に対して、アルザードは余裕そうに両手を広げて近付いて行く。


「どれだけ息巻いていたとしても、所詮は下等生物。貴様ら眷属どもは、始祖には勝てない。それは、この世の宿命だ」


 私は窓を開けて、叫び声を上げた。


「フランエッテさん!! 逃げてっっ!!」


「……」


「貴方だけでも!! お願い!! 死なないでください―――ッ!!!!」


 私のその言葉に、フランエッテさんは額から流れる血を拭うと、立ち上がった。


 彼女の足はガクガクと震えていたが……その顔に、恐怖の色は見て取れない。


 【剣神】フランエッテは、不敵に笑みを浮かべていた。


「に……逃げる、じゃと? 馬鹿を言うな、小娘。妾は……どんなに怖くても、もう逃げないと……そう決めたのじゃ。妾には夢がある。それを叶えるまでには……死ぬわけにはいかないッッ!!!! どんな時でも諦めない!! 夢のために前へと進む!! 箒星の門下生は、皆、そうであったから……!! じゃから、妾も……最後まで……演じて(・・・)いくのじゃ。自分が理想に思う、最強の自分を……!!」


 そう言って剣を構えるフランエッテさん。


 その目には、強い覚悟が宿っていた。


「最後まで……諦めない……」


「魔法とは、願いじゃ!! 自分がそうなりたいと、願う、力……!! 良いか、アルザード!!!! 妾は退かぬぞ!!!! 妾はここでお主を倒し、理想の自分へとまた一歩近付いてみせる!!!! ここからは――――覚悟の強さが勝敗を決めるッッ!!!! 冥界の邪姫フランエッテに挑む覚悟は良いか、アルザードよ!!!!」


「何を言うかと思えば……ハッハッハッハッハッハッ!! 覚悟だと? 何故、我輩が覚悟を決めなければならない? 覚悟を決めるのは……ボロ雑巾となっている貴様の方だッッ!!!!」


 再び戦い始める二人。


 私はすぐに窓から離れ、鼠探しを続行する。


 そうだ……諦めちゃいけない。フランエッテさんが頑張っているのだから、私は私の戦いに集中しなければ。


 今ここで彼女を心配するのは、彼女の覚悟に対して泥を塗る行為だ。


「……ちゅー」


「あ……いた……!!」


 私と目が合った瞬間、鼠は廊下を通り、別のフロアへと移動しようとする。


 私は壁にかけてあった燭台を手に取ると、鼠の進行方向へと投げてみせた。


 行く手を塞がれた鼠は、慌てて、足を止める。


 私は手に持っていた騎士の剣を上段に構えると、不格好ながらもそれを振り降ろし―――――鼠へと当てた。


「え……?」


 だが、不思議なことに、鼠に当たった剣の先が折れ曲がってしまった。


(いったい、どういうこと……!? 何で攻撃が当たっているのに、鼠は無傷なの……!?)


 鼠はこちらを馬鹿にするように、こちらに顔を向けながら、じりじりと燭台の方へと後退して行く。


「ま……待って!! 行かないで!!」


 あの鼠を倒さなきゃ、関所の中に平和は訪れない……!!


 せっかくフランエッテさんが命を懸けてアルザードと戦ってくれているのに……!! 私は結局、お飾りの御姫様のままだというのですか……!!


「行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 手を伸ばして叫び声を上げた……その時。燭台が周囲を照らしている光の範囲に、鼠が足を踏み入れた瞬間……鼠は悲鳴を上げて、身体を硬直させた。


 私はその光景を見て、驚きの表情を浮かべると……すぐに鼠へと近付き、折れた剣を振り降ろした。


 すると鼠は真っ二つに切れて……肉片のようなものへと変わっていった。


「こ、今度は倒すことが、できた……? ま、まさか、アルザードは光に……弱いのですか……?」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《フランエッテ 視点》




「とりゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 妾は二本の薔薇を左右に旋回して、投げ放つ。


「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】!」


 二本の薔薇はナイフへと代わり、アルザードへと向かって飛んでいく。


「小賢しい!!」


 両手の爪でナイフを弾き飛ばすアルザード。


 妾はそんなアルザードに、声を掛ける。


「足元を見よ、アルザード!!」


「む?」


 アルザードの足元のタイルの隙間に、薔薇が突き刺さっていた。


 あれは、ブラフ。ただの薔薇じゃ。


 じゃが、妾の薔薇はイコール変化魔法という認識が残っている奴にとっては、ブラフかどうかなど分かるはずもない。


 妾は一瞬できたその隙に、死角から、アルザードへと詰め寄っていく。


 だが―――――――――。


「フフフフ。無敵の身である我輩が……貴様程度の攻撃を恐れる必要が何処にある?」


 アルザードは薔薇を踏みつぶすと、振り返り、爪で斬り裂いてくる。


 妾はそれを剣で受け止めるが……体力も魔力も減っているせいか、弾き飛ばされ、地面をザザザザッと転がってしまった。


 何とか顔を上げ、妾は、アルザードへと目を向ける。


 奴は笑みを浮かべながら、優雅な所作でこちらへと向かって歩いて来た。


「貴様も理解しないものだな、逸脱者ァ。何度挑もうとも、我輩は無敵。この身体は、どんな攻撃も受け付けない。それだというのに……お前は何故、何度も向かって来る? 馬鹿なのかね?」


「妾は……諦めぬのじゃ……諦めたら、妾が民衆にかけた魔法が解けてしまう……妾は嘘を本当にすると、誓ったのじゃ。だから、妾は諦めぬ。妾が思い描く、そしてエルルゥが焦がれた冥界の邪姫は、こんなところで膝を折ったりせぬのだからな……!!」


 妾は荒く息を吐き出しながら、震える身体を持ち上げて、立ち上がる。


 怖い。怖くて仕方がない。


 妾は、ロザレナ、グレイレウス、ルナティエとは違う。


 あやつらのような、強者に嬉々として挑んで行く性格をしてはおらん。


 妾は、ただの小心者じゃ。ただの旅芸人じゃ。嘘が得意な、観客を楽しませる道化師じゃ。


 だけど……ここで逃げたりしたら、エルルゥとの約束を裏切ってしまう。


 妾は現実という舞台の上で、虚構を現実にするのだと、誓った。


 この世界にいる人々を……笑顔にするのだと、誓ったのじゃ。


 逃げたりするものかッッ!!!! 妾にだって……こんなどうしようもない妾にだって、命を懸けて夢を追いかける覚悟はあるッッ!!!!


「……くだらん。フレーチェルとは違ってお前はつまらないな、逸脱者。我輩は、貴様が泣いて悔いて絶望の底で死んでいく姿を見たかったのだが……興醒めだ。お前を殺すことに、まったく面白さを見いだせない」


 そう言ってアルザードは妾の前に立つと、爪を上段に構えた。


「終わりだ。姫君の名を騙ったことを、詫びながら死んでいけ、逸脱者」


 妾はここで……死ぬのか?


 いや、死なない!! 何度だって妾は窮地を乗り越えてきたはずじゃ!!


 師匠(マスター)も言っておったじゃろう!!  


 そう、妾は―――――――――めちゃくちゃ運が良いと!!


「……って、最後まで運頼みなのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「死ね」


 爪が額に向けて振り降ろされそうになった……その時。


 突如、アルザードが、カハッと青い血を吐き出した。


 そしてそれと同時に、アルザードの胸に空いていた小さな穴からも……青い血が流れていく。


「これ、は……!?」


 妾は即座に後方へと飛び退き、剣を構える。


 何かよく分からぬが、助かったのじゃ……! 何かよく分からぬが……!


 妾の幸運値、最強なのじゃ!! ……正直運のスキル最強って何か複雑だけど。


(……いや、待つのじゃ。あやつの胸の穴、それって、関所に送った鼠によるものでは……)


「放て!」


 その時。

 

 アルザードに向けて、空から火矢が飛んできた。


 アルザードは即座にバク転をしてその場から離れて、矢を避けていく。


「あれは……」


「フランエッテさん! 大丈夫ですか!」


 声が聞こえてきた方向に目を向けると、そこには、隣の関所の屋上に立っている……鼠を倒すように言った少女と聖騎士、そして奈落の民の姿があった。


 少女は先頭に立ち、妾に向けて声を張り上げる。


「フランエッテさん! アルザードの弱点は、光です!」


「光!? 火じゃなくて、光なのか!?」


「恐らくそうです! 鼠は火に当たって弱ったのではなく、光に当たって弱っていましたから! なので……光を当てることができたら、無敵状態を解除できます! あの吸血鬼の弱点は、信仰系魔法です!」


「そうなのか!」


「はい! 信仰系魔法を使ってください!」


「そうなのか!」


「はい! ……って、あ、あの。お聞きしますが、フランエッテさんは、信仰系魔法は……」


「使えぬ!」


「炎熱属性は……」


「使えるぞ!」


「おぉ……!!」


 妾は手を伸ばし、不敵な笑みを浮かべる。


 するとアルザードは、先ほどとは打って変わって、焦燥した様子を見せた。


「き……貴様ァ……!」


「アルザードよ。貴様の命運もここまでだッッ!!!! フフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 妾は、フランエッテ・フォン・ブラックアリア! 冥界の邪姫にして、真祖の吸血鬼である!! 我が漆黒の炎へと消えよ!! 闇の業火よ、舞い上がれ!! ―――――【ダークフレイムインフェルノ】!!!!!


 ―――――――――しかし、何も起こらなかった。


「……」


「……」


「……」


「……うむ。魔力が枯渇していて今は使えなかったな。うむ」


 すっ転ぶ、少女と聖騎士と奈落の民たち。


 エルルゥよ。何故お主が妾の憧れていた特一級魔法【ダークフレイムインフェルノ】を使えたのじゃ。ずるいのじゃ。何故妾には炎熱属性も闇属性もないのじゃ。変化属性って何なのじゃ。意味分からんのじゃ。


「き……貴様ァァァァァァァ!!!! どこまで我輩を愚弄すれば気が済むのだァァァァァァァ!!!!」


 こちらへと走って来るアルザード。


 妾は地面に突き刺さっている火矢を抜くと、魔法を唱えた。


「我が手にあるものよ、クラブへと姿を変えよ―――――【変化(トランス)】」


 ボンと煙が舞うのと同時に、矢はジャグリングのクラブへと姿を変えた。


 爪が振り降ろされる。


 妾は即座にその場から飛び退いて爪を避けて、走りながら火矢を拾っていった。


 そして、火矢を拾い集めながら、それらをジャグリングのクラブへと変えていく。


「貴様……いったい、何をしている……!!」


「さて……何だと思う?」


「第二矢、放て!!」


 少女の掛け声と共に、再びアルザードへと矢が放たれる。


 アルザードは矢を回避しながら、奈落の民たちがいる関所の屋上へと手を伸ばした。


「チッ。下等生物どもめが。全て、血の槍で串刺しにしてくれる……! 【ブラッドリーラン―――――」


「させると思うておるのか?」


 妾はジャグリングをしながら、クラブのひとつを、アルザードへと向けて投擲した。


 そして、そのクラブは、アルザードが伸ばした腕へと命中する。


「ぬっ……!?」

 

「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】!」


 そう詠唱を唱えると、クラブは火矢へと姿を変える。


 火の光に当たったアルザードは、苦しみ始め、矢は腕に突き刺さった。


「くっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「そこ!!」


 妾は続けて、クラブを投擲した。


「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】!」


 ナイフへと変化したクラブはアルザードの腕へと突き刺さる。


 続けて二投目のナイフを頭部に投げてみたが……やはり、光が当たっている箇所しか、攻撃は通らないようだった。頭部に弾かれたナイフは、カランと音を立てて、地面に落ちて行った。


 アルザードは火矢を引き抜くと、憤怒の表情を浮かべる。


「き……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「お主が奈落の民たちに夢中になっている間に、ナイフと火矢をミックスさせて、クラブへと変化させたのじゃ。さて……どのクラブがナイフなのか火矢なのか、お主には分からぬじゃろう? これで、不用意に妾に攻撃できなくなったのう、アルザード」


 やはり、旅芸人の道具として慣れしたんだ物ならば変化させることができるのじゃな。ジャグリングはお手の物じゃ。


「ふざ……ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 突進してくるアルザード。


 妾はクラブのひとつを、アルザードに目掛けて投擲する。


 それを腕で弾き飛ばそうとした瞬間、妾はクラブを火矢へと変えた。


「ぐっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】!」


 苦しむアルザードに、走りながら、3本のクラブを投擲する。


 クラブはナイフへと姿を変え、腕へと突き刺さる。


 そして妾は最後のクラブを剣の姿に戻すと……アルザードの懐へと入り、奴の右腕を切断してみせた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「撃て!!」


 アルザードの背中に火矢が刺さる。


 妾はニヤリと笑みを浮かべた。


「終わりじゃ」


「ふざ……ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


「ぬっ!?」


 アルザードは魔法を詠唱させ、腕を巨大化させた。


 「我が腕を巨人の拳へと変成せよ! 【巨人の一撃(タイタンフィスト)】!!!!」


 妾は即座に、後方へと飛び退いた。


 アルザードは残った左腕を巨大化させてみせた。


 あれは……市場で見た、建物を破壊した、腕を巨大化させる変化属性魔法……!!


「こうなったら……全て……全て潰してくれるぞ!! 逸脱者ァァァァァァァァァァ!!!!」


 妾は関所を背後にして、剣を構える。


 ここで妾が退いては、彼らは間違いなく死んでしまうだろう。


 故に……妾は、ここであやつの攻撃を食い止めねばらならぬ。

 

(妾が使用できる魔法で、あの攻撃を防ぐことのできるものは……ひとつしかない……!)


 しかし、その魔法は、発動するかどうかも分からない代物。


 確率は半々。50パーセントの確立で、妾や民たちは死ぬ。


 じゃが……これに賭けるしか……今、ここを乗り越えることはできぬ……!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 妾は剣を構えて咆哮を上げると、魔力を貯める。


 ベルゼブブ・クイーンを止めてみせた、あの魔法を、今、ここに―――――!!


「フハハハハハハハハハハハハハハハ!! 死ね!! 偽りの姫君ィイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」




「―――――――――【次元斬】!!!!」




 剣を振った瞬間、灰色の剣閃が飛んでいき、アルザードの巨大化した左腕に命中する。


 するとその瞬間、腕は地面に叩きつけられ、地面を割った。


「なっ……!? な、ん……だ、この重さはァァァァァァァァァァ!?!?」


 徐々に倒壊していく建物。


 妾は瓦礫と共に空中を落下しながら、片手に火矢を持ち、アルザードに目掛けて剣を振り降ろした。


「終わりじゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


「なんだ、これはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!! あり得ぬ、あり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!! 変化属性は、目に見えるものだけを変えられる魔法のはずだぁぁぁ!!!! それなのに貴様、概念(・・)を変えたというのかぁぁぁぁぁ!?!? おかしい……何なんだお前はァァァァァァァァァァ!!!!」


「ああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 火矢でアルザードを照らしながら、奴の胸へと剣を突き刺した。


「妾はここでお主を超えて行く!! 妾こそが……この時代の新しき、フランエッテ・フォン・ブラックアリアじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!! 偽物がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!! 許し難し許し難し許し難し許し難し許し難しイイイイイイイ!!!!!!」


「妾は、人々に笑顔をもたらす魔法剣士となるッッ!!!!」


 ドシャァァァァァァァァァァァンと、建物が倒れて行き――――――全ては、土煙へと消えていった。







「―――――――――ゼェゼェ……」


 妾は地面に這いつくばりながら、荒く息を吐く。


 何とか、瓦礫に潰されずに済んだのじゃ……幸運値最強なのじゃ……自分で言っていて何か情けなるけど……。


「身体も魔力ももうボロボロじゃ。これで奴が死んでいなければ、妾は、もう……」


「がぁぁぁ!! ぐっ、はぁはぁ……!!!!」


 前方に視線を向けると、そこには、血だらけになりながらも生きているアルザードの姿があった。


 火矢で照らしたとはいえ、光を当てた部分は胸だけ。落下ダメージはほぼないと言って良い。


 普通の人間は胸を貫けば息絶えるが、あやつは吸血鬼。


 あれでもまだ――――――殺すことができなかった……!!


 何というタフな種族なんじゃ、吸血鬼というのは……!!


「フ……フハハハハハハハハハハハハ!! 我輩の勝ちだ!! 逸脱者ァ!!」


 アルザードは笑みを浮かべて、フラフラと、妾の方へと近付いて来る。


 ちらりと背後に目をやると、そこには、不安そうな面持ちで関所の屋上に立っている民たちの姿があった。


 まだ……死ぬわけにはいかぬ……!!


 妾はボロボロの身体を無理矢理持ち上げて、剣を構えた。


 痛い。痛すぎて気絶しそうじゃ。だけど、ここで気絶するわけには、いかぬ……!


「勝敗は決まった!! 【血爪(ブラッドクロウ)】!!」


 アルザードは爪を伸ばして、妾に斬りかかってくる。


 妾も、剣を振った。


 もう、無理だと分かっていた。


 だけど……最後くらいは、恰好付けたかった。


 師匠(マスター)……妾、これで箒星に相応しい弟子になれたかのう……?


「き、来たれ、漆黒の炎よ! 我が剣に呪いの力を宿したまえ――――――ダ……【ダークフレイムインフェルノソード】……!!」


 最後は、妾が考えた剣技で、幕を下ろさせてもらおう。


 エルルゥ……すまぬ。約束、守れなかった……。






「――――――――――――――――――【覇王剣】ッッッ!!!!」






 剣を振った、その時。目の前に、隕石でも落ちて来たのかと思う程の衝撃と、天から閃光が叩きつけられた。


 その閃光の中、アルザードは驚きの声を上げながら、消滅していく。


「な……なんだ、これ、は……ッ!! ま、まさか、滅し去りし者の……ッッッ!!!!! フ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! これが全てを消し去る破壊の閃光かッ!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 我が友よ!!!! 後は全てを託すぞ!!!! 必ずや奴らに復讐を……お母さん、お母さん、起きてよ、お母さん……ゆるし……がたし……」

 

 そう叫んで、アルザードは消えていった。


 妾は、顔を上げる。


 すると、離れた場所の建物の上に……箒を持ったメイドの姿があった。


 メイドは妾を一瞥した後、踵を返して去って行った。


 師匠(マスター)……ありがとうなのじゃ……。


 やっぱり妾は、師匠(マスター)のような格好いい剣士に……なりたいのじゃ……。

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