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第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第335話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星⑥ 餓狼剣


《ロザレナ 視点》





「―――――――……では、カウントを開始します! 30、29、28―――」


 カウントと同時に、あたしは背中の大剣を抜いて、構える。


 キリシュタットも腰から剣を抜き、構えた。


 見たところ、キリシュタットが使っている剣は……刀だ。


 大剣、太刀使いは、剛剣型であることが多い。


 ということはあいつはあたしと同じ、剛剣型、ということなのかしら。


 あたしがキリシュタットを睨んでいると、キリシュタットは口の端を吊り上げた。


「まさか、レティキュラータス本家の娘が、この俺に喧嘩を売ってくるとはな。これも数奇な運命という奴か?」


 そう言って、キリシュタットは「ククク」と笑い声を溢すと、続けて口を開いた。


「俺は一応、分家のオルベルフ家出身だが、不義の子でな。本妻の子供じゃねぇんだ。だから、なかなか子供を作れなかった本妻との間にガキが産まれた瞬間、お払い箱になったってわけさ」


「オルベルフ家っていうのは、確か、お婆様と家督争いで敗けた、お婆様のお兄様の家……よね? あんたの妹のアイリスからそんな話を聞いたわ」


「その通りだ。アイリスは、本妻との間に産まれた、オルベルフ家の娘だ。あいつから聞いているかもしれないが、オルベルフ家っていうのは、レティキュラータス本家に並々ならぬ憎悪を持っている。いや、祖父グウェンの憎悪を、洗脳教育で刻み込まれてきた、といった方が正しいか」


 そういえばお婆様がレティキュラータスの家督を取ったことを、アイリスはすごく気にしていたわね。あたしにとっては、お婆様が優秀だった、というだけの話だと思うのだけれど。


 あたしは首を傾げて、口を開く。


「……で? あんたもアイリスと同じで、本家の娘であるあたしに恨みを持っているわけ?」


「いいや? 別に? 俺はもうオルベルフの人間じゃない。レティキュラータスとオルベルフの家督争いなどどうでもいいさ。ただ、こうしてレティキュラータスの娘とオルベルフを追放された俺が戦うことになった運命を、皮肉だと思っただけだ」


 そう言って肩を竦めた後、キリシュタットは目を細める。


「……最後通告だ。ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。俺の下に降れ。お前は青臭い夢を語る馬鹿だが、才能はある。その才能、この俺が使ってやるよ。世の中には序列ってモンがあるんだ。俺が先に行き、お前は後だ。……悪いようにはしない。強者には敬意を払う、それが俺の流儀だからな」


「前から思っていたけれど……あんたたちって、つまらないやり方をするわね」


「何?」


 あたしはため息を吐き、やれやれと首を振った。


「クローディアって奴は剣王の座に就いてもただ殺しを楽しんでいるだけだし、ルクスとかいう奴は亜人だからと言って、真剣に夢に向かって進もうとしている子を邪魔するし。それで? あんたは、派閥を作って、格下を支配して支配者気取り? つまらない。ほんっとうに、つまらない。夢ってもっと、自由であるべきのはずでしょう? あたしは、誰もが自由に夢を追いかけられる世界こそが、本当の剣士の世界だと思うわ」


「お前は現実という奴を知らないから、そんな甘っちょろいことを言えるのさ。俺もかつては……お前のように【剣聖】になってやると、豪語している時期があったものだ。最強の剣聖アーノイック・ブルシュトロームの伝記を読み漁り、自分もあの英雄のように、成り上がってやろうと言う時期が、な」


「それって……」


 もしかして、あたしと……一緒?


 もしかして、キリシュタットの始まりは、あたしと同じなの?


「しかし……すぐに、現実というものを思い知った。力の無い奴が息まいたところで、強者に潰されるのが必然。俺は、当時、剣王最強の座に君臨していた女に歯向か

い、こんな身体にされてしまった」


 そう言ってキリシュタットは、左腕の袖を破り、腕を露出して見せた。


 その腕は……義手となっていた。


「利き手だった左腕を斬られ、もう、剣士としての未来を望むのは絶望的な身体にされてしまった。だが俺の中にある憎悪は、剣聖への渇望は、このまま腐ることを良しとはしなかった。俺は、その時、この国で一番力のある奴の弟子になることを決めたんだ。ゴーヴェン・ウォルツ・バルトシュタインの元に下り、力を得ることを、な」


 そう口にした瞬間、キリシュタットの持っている刀から、妖しいオーラが漂い始める。


「あの男の弟子になるのは、条件があった。それは―――自分が一番大事にしているものを奴に捧げること。俺は、逡巡したが……自身の夢を叶えるためであるのならと、覚悟を決めた。俺の大切なもの、それは、仲間だ。家を追い出されてから苦楽を共にしてきた、ゴロツキの仲間たちだった」


「……」


「俺は、奴に捧げた! 友も! 恋人も! 恩人も! 総じて、奴の実験体となり、魔道具(マジックアイテム)に変えられたッ!!!! だが、俺は力を手に入れることができた!! 鉱山族(ドワーフ)が造った特別な義手に、剣の技術!! 加護の使い方!! 俺は……自分の夢のためならば、なんだってやる男だ!!!! お前もそうなんだろう、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス!! お前は、俺と同じ、夢のためならば何だって捨てられる奴なのだろう!?」


 ―――――――――想像してみる。


 もし、あたしが、仲間を売らなければ剣聖になれないのだとしたら。


 あたしは、自分が剣聖になるためだったら……グレイレウスやルナティエ、フランエッテを……売る、の……?


 一瞬、その光景を思い浮かべようとしたら、アネットの後ろ姿を幻視した。


 あたしは首を横に振って、口を開く。


「――――――あたしは、仲間は売らないわ。剣聖には、自分自身の力だけでなる。誰かに媚びへつらってまで、力なんて求めない!」


「それはお前が現実というものを理解していないからだ。お前も四肢を失えば、否が応でも俺と同じ道を辿るさ。匂いで分かる。お前は、青臭い面をしているが、その本質は俺と同じだ。夢のためならば何だって捨てる、悪、なんだよ」


「―――――――――3、2、1……0! 試合、スタートです!」


 ヨーゼフが試合開始を宣告した、その時だった。


「シャアァッ!!」


 突如、キリシュタットは目を見開き、あたしへと間合いを詰めてくる。


「速い……!」


「ヒィアァァァッッ!!!!」


 叫び声を上げ、あたしに目掛けて、回し蹴りを放ってくるキリシュタット。


 あたしは胸を逸らして、その蹴りをギリギリで回避する。


「読めてるぜぇ! その動きはァッ!!!!」


 次の瞬間。闘気を纏ったキリシュタットの右腕が伸び、あたしの首を掴んできた。


 キリシュタットはあたしの首を掴んだまま、持ち上げ、瞳孔を開いたまま笑みを浮かべる。


「この程度かァ!? 弱い、弱すぎるぜ、本家!!!!」


「こんの……っ!!!!」


「このままお前の首をへし折るのは簡単だ。もう一度、問おう。俺の元に下れ。でなければお前の夢はここで終わりだ」


「ふざけるな!!!!」


 あたしは身体を半回転させ、キリシュタットへと蹴りを放った。


 キリシュタットは手を離して、後方へと下がり、その攻撃を避ける。


 そして、彼は剣を振り、あたしの右脚を切り裂いた。


「ッ!?」


 あたしは距離を取り、大剣を中断に構えた。


「どうした? 随分と息が上がっているじゃないか」


 あたしはいつの間にか、ゼェゼェと、荒く息を吐いていた。


 何故だろう……すごく、喉が、乾く。


 あたしは額の汗を拭う。


 すると、キリシュタットは肩に剣を置いて、口を開いた。


「見てみろ――――お前の足を」


 キリシュタットは、あたしの足へと指を差す。


 その先に視線を向けてみると……あたしの右脚が、痩せこけ、棒のようになっていた。


 その光景を見て、あたしは思わず、目を見開き驚きの声を上げてしまう。


「な……なに、これ……!?」


「俺の加護……【飢餓の加護】は、剣で斬った者の肉……筋力を奪う。意識が無くなるまで俺をぶっ倒したら治るかもしれねぇが……まぁ、そいつは無理だな。お前はもう、この先、まともに歩くことすらできないということだ」


 あたしはよろめき、そのまま地面に倒れ伏す。


 キリシュタットは肩に剣をポンポンと当てながら、そんなあたしの元へと近寄り、声を掛けてきた。


「どうだ? これが絶望だ。現実だ。こんな呆気なく終わるとは、思ってもみなかっただろ? お前の夢なんて所詮、この程度だったということだ。同じ門下生が他の剣王に勝って調子付いたのだろうが……俺に喧嘩を売った時点で、お前の敗けは確定していたんだよ。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 腕に力を入れて起き上がろうとするが、起き上がれない。


「これでも……俺はまだ、剣神どもには届かない。フランエッテというイレギュラーが俺よりも先に剣神に到達した時は、腸が煮えくり返りそうになったものだ。何故なら俺は、この座に就いてから何年も……剣神になることができていないからな」


 腕に力を入れて起き上がろうとするが、起き上がれない。


「だが、俺は必ず剣神になり、そして……剣聖の座へと到達する。それが、幼き日にアーノイック・ブルシュトロームの伝記を読んでからずっと望んでいる、俺の渇望だからだ。腕を斬り飛ばされようが、関係ない。誰に頭を下げて媚びへつらおうとも、関係ない。俺は、この渇きを満たすまで、走り続ける。それが俺の生き方だからだ!」


 腕に力を入れて起き上がろうとするが、起き上がれない。


「さて……お前も理解しただろう? 人間という生物は、肉体を失って初めて、恐怖と絶望を味わう生き物だからな。これ以上、肉体を失いたくはないはずだ。見せてみろ、お前の顔から、夢が潰えた瞬間を―――――俺の下に付くしか、夢を追いかけられなくなったと分かった、絶望を……」


 あたしは身体をばねのようにして飛び上がると、そのままキリシュタットへと向かって飛んで行き……彼の頬の肉を噛み千切った。


「あ?」


 歯茎が向きだしとなった、自身の頬に手を当て、困惑の声を上げるキリシュタット。


 あたしは彼の横を通り過ぎ、地面の上に転がった。


 そして、その後。


 あたしは大剣を杖替わりにして、左脚のみで、何とか立ち上がった。


「ぷっ」


「……あぁ?」


「あはっ、あはははははははははははははははははははははははははは!!!!」


 右脚から血が噴き出したが、関係ない。


 あたしはただ眼光を光らせて、大剣を上段に構え……キリシュタットを見つめた。


「まさか、一撃で立てなくなっちゃうなんて……こんな力を持っている奴は、初めて見たわ!」


「……お前……何で……笑ってんだ?」


「楽しいからよ」


「楽しい、だぁ……?」


 今まで薄ら笑いを浮かべていたキリシュタットが、初めて、意味が分からないという表情を浮かべる。


「この程度の傷を俺に付けて喜んでのか? というかお前、分かってるのか? お前はもう、まともに動くことすらできねぇんだぞ?」


「そうね! こういうギリギリの状況こそ、ワクワクするわ! ありがとう、キリシュタット。簡単に剣王の座に就いても、つまらないと思っていたのよ!」


「馬鹿か、お前? ……あぁ、そうか。そうだったな。まだ、闘気石が残っていたのか。それで余裕な面見せてんのか。悪いが、俺は【縮地】を使える。お前が闘気を解放したところで、足がそれじゃあ、俺のサンドバッグになって終わりだぜ?」


「闘気石は外さないわ! いえ……外さない方がいい!」


「あぁ?」


「あたしは……この状況を、もっと、楽しみたいの! この状況の中、あんたを超えた、その時――――あたしはもっともっと強くなることができるから……!!」


 あたしのその発言に、キリシュタットは眉を顰める。


「この俺を……糧にするだと? 舐めてんのか? イカれてんのか? 俺に斬られれば、その箇所は筋力を失うんだぜ? 正真正銘の馬鹿だな、お前は」


「そうね! だけど……問題は無い」


 あたしは大剣を構えながら、キリシュタットへと飛び込む。


 やはり、右脚の筋力を失ったことで、先ほどよりも速度が落ちていた。


 それでもあたしは上段の剣を構えたまま、キリシュタットへと飛び込んでいく。


「馬鹿が」


 キリシュタットはそんなあたしの横をスライドして、剣を振り降ろした。


「まずはその左腕、貰ってやるよ」


 あたしの左腕へと向かって振り降ろされる剣。


 あたしはその剣に向けて――――わざと、左腕を伸ばした。


 ザシュ。手のひらに、刀が突き刺さる。


 あたしは完全に筋力を失う前に……刀ごとキリシュタットを自らの傍へと引き寄せた。


「捕まえた」


「なっ……?」


「お返し」


 あたしの顔を見て、ゾッとした表情を浮かべるキリシュタット。


 あたしはそのまま彼の胸に目掛けて、大剣を振り降ろす。


 ―――――――――ザシュ。鮮血が舞う。


 続けて、あたしはキリシュタットに向けて連続して剣を振っていく。


「あはははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 

 ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ。


 闘気を纏ってガードしているみたいだけれど、あたしの方が闘気の量は上みたい。


 次々と、キリシュタットの身体に、新しい傷が産まれていく。


「ぐっ、ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? て、てめぇ……!」


 キリシュタットは、あたしの瘦せ細った左手から剣を抜き、距離を取る。


 彼は血だらけの身体となっていた。


 ゼェゼェと荒く息を吐いた後、キリシュタットは、あたしを睨み付ける。


「お前……恐怖ってものがないのか……!? 自分の左腕を捨てやがって……!」

 

「恐怖? 何それ。あんたも【剣聖】を目指しているのでしょう? だったら――――」


 あたしは右手に持っている大剣をブンと振る。


「自分の身を削る覚悟が無いのは、おかしいんじゃないかしら。そもそも、腕を失ったから、何? そんな程度のこと(・・・・・・・・)で、貴方、夢を諦めたつもりでいたの? 片腕を失っても、もう一本腕はある。歯もある。武器はある。武器が残り続ける限り……あたしは戦っていくつもりだわ」


 あたしのその言葉に、キリシュタットは、目を細めるのだった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






《キリシュタット 視点》





 俺は産まれた時から―――ただ、飢えていた。


 何を食っても、何を手に入れても、俺の渇きは満たされなかった。


 理由は……自ずと分かった。俺の身に宿る、加護のせいだった。


『レティキュラータス家とオルベルフ家の血統には、レティキュラータスの加護とは別に、ごく稀に、呪われた加護(・・・・・・)が発現することがあります。その名は……【飢餓の加護】。過去、レティキュラータス家当主が神獣フェンリルを怒らせてかけられた呪いとも言われている代物です。恐らく、お坊ちゃまの飢えは、それが原因かと……』


 そう、長年オルベルフ家に仕えている執事が、ベッドの上で涎を垂らして呆然としている俺と、ベッドの横に立つ父に向けて、言葉を放った。


 父は執事の言葉にため息を吐くと、首を横に振る。


『まさか、我が息子が……呪いを受けて誕生してしまうとは、な……。レティキュラータスの一族であったのなら、良かったものを……よりにもよって分家に発現するとは、忌々しい。それで、治す術はあるのか?』


『い、いえ……加護は生きている限り常時発動するものですので……熟練した加護の使い手になればオンオフの切り替えはできるようにはなりますが、完全にオフにすることは困難を極めるものかと……』


『では、キリシュタットは未来永劫、飢えたままだと?』


『はい……』


『はぁ。ただ、飢えるだけの加護、か。食費だけ減っていくだけで、役立たずにも等しいな』


 そう言って父は、やれやれと肩を竦める。


 そして、再度、執事に声を掛けた。


『ちょうど良い。アイリスも6歳となる頃合いだ。後継者はあの子にして……キリシュタットはこのまま奈落の掃き溜めにでも捨てて来い』


『なっ……何を仰っているのです、旦那様! このような状態のキリシュタット様を奈落の掃き溜めになんて落としたら、間違いなく、死んでしまわれ―――――』


『だから良いのだろう。どのみち、この子は外で作った女に産ませた子供。本妻の子供であるアイリスが産まれた以上、用済みだ。奈落の掃き溜めに捨てて来い。良いな』


『ですが――――――!』


『お前……誰に向かって口答えをしている?』


『ッ!! ……畏まり、ました……』


 俺は剣聖アーノイック・ブルシュトロームの伝記をギュッと握りしめ、耐え難い飢えの中、窓の外を見つめた。




 ―――――――――腐肉を漁る飢えた狼に、果たして生きる価値はあるのか?




 それから俺は、奈落の掃き溜めに落とされ、死に物狂いで生きていった。


 ただひたすら飢えを満たすためだけに、ゴミを喰らって、死体を喰らって、ありとあらゆる汚物を喰らい続けていった。


 それでも足りない。俺はいったい、何を目指しているのか。


 その手にあるのは、いつまで経っても捨てることはできない、アーノイック・ブルシュトロームの伝記。


 飢えに苦しんでいた俺は、現実から逃れるために、英雄に助けを求め続けていた。


 絶対的な強さを持つ英雄が現れて欲しいと、自分を助けて欲しいと、そう、願っていたのだ。



 奈落に落ちて1年目。俺はそこで、ある連中と出会う。


『……貴方こそ、奈落の王に相応しい』


 そう声を掛けてきたのは、俺よりも歳がいっている、孤児どもだった。


 奴らは、俺の暴力性に惹かれ、俺を『王』と呼んだ。


 レイニー、グラスル、エンシスティア、ブレイト、バロック。


 俺は奴ら五人の頭となり、奈落を徐々に支配していった。


 そうしてゴロツキどもを屈服させて配下を増やしていくにつれ、俺の飢えが少し満たされていくのを感じた。


 そこで俺は確信した。俺は……力に、飢えていたのだと。


 そうだ。ならば、全ての力の頂点である剣聖になった時、俺は、真に満たされるのではないのか?


 そうして俺は裏では奈落の王としてマフィアを支配しつつ、剣聖を目指すために、弧月流に弟子入りをし――――【剣候】となった。


 誰だったかは分からないが、死んだ姉のためだとか言って剣士を目指している泣き虫野郎を痛めつけてもやったっけな。


 とにかく、弱い癖に吠える奴は、俺は大嫌いだった。


 俺は弱くなったら死んでいた。喰らい続けなければ死んでいた。


 弱さこそは、悪なのだ。


 そうして、その後、俺は順調に力を付けていった。


 そして14歳となり、【剣王】に挑もうとした、その時。


 俺は、当時【剣王】最強だったメリッサとかいう女に、ボコボコに敗けてしまった。


 奴は、生粋のサディストだった。


 決闘の終わり。メリッサは鎌を使って、俺の利き腕を斬り飛ばし、こう口にした。


『これでもう二度と、利き手で剣は持てないね? キャハハハハハ』と。


 俺は絶望した。その後、マフィアの仲間たちや恋人の女に世話をされて生きていたが……誰かの手を借りないと生きていけない現状が、惨めでしょうがなかった。


 また、飢えに苦しみ始めた。また、あの地獄に落ちるのかと思った。


 俺は……ある決意をした。この飢えを満たすには、この国で圧倒的な力を持つ男の弟子になって、また這い上がるしかない、と。


 15歳の頃。俺はこっそりとアジトを抜け出し、ゴーヴェンの元へと向かった。


 騎士団長宿舎に直接向かったら、案の定、門前払いをされた。


 だが、必死に建物の前に陣取り、あの男が出てくるのを待った。


 雨の日も。風の日も。


 そして―――――その執念は叶い、俺は、ゴーヴェンと出会うことが叶った。


 俺が土下座をして弟子にしてくれと懇願すると、ゴーヴェンはこう口にした。


『……お前の大事なものと引き換えに、力を与えてやろう』……と。


 一瞬、この男が悪魔のように思えた。


 だが、悪魔でも何でも良かった。俺が強くなれるのならば。


 俺は逡巡した後、こう答えた。


『お望みならば』――――――と。




 俺は、古くから一緒に過ごしてきた五人の仲間と恋人と引き換えに、ゴーヴェンの弟子となったのだった。


 

 全ては――――――――己の飢えを、満たすために。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《ロザレナ 視点》





「……そうだなぁ……! お前の言う通りだ、ロザレナぁ!!!!」


 キリシュタットは血で髪をかき上げ、笑い声を上げる。


「死ぬ覚悟のない奴なんかが、頂点に立てるわけがないッ!! 力こそが全てだ!! なるほど、お前は既にその一線を逸脱していたわけか!! だからこそ、己の身体を犠牲にしてまで、強さを引き出すことができる、か。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 面白い!! その精神性、普通じゃないな、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス!!!!」


「……」


 あたしは大剣を右腕だけで上段に構え、笑みを浮かべる。


 何故だろう。右脚と左腕がやせ細ってもう動かないのに。


 状況的には圧倒的にピンチなのに、なんでだろう。


 どんどん、力が溢れてくる。どんどん、闘志が沸いてくる。


 あたし―――――――この戦いで、もっと、強くなることができる気がする。


「いいぜ。お望み通り、殺し合うとしよう、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。お前は……俺の飢えを満たすに等しい、獲物だ」


 そう言って、キリシュタットは、剣を構えるのだった。




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