第10章 二学期 第332話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星③ ルナティエVSルクス
《ルクス 視点》
「馬鹿が……だから【鋸挽き】はやめろって言ったんだ。あれは確かに強いが、全身に闘気を纏う分、自滅は免れねぇだろうに。それに、【瞬閃脚】を使える速剣型相手にアレは、自殺行為も良いところだろうが……。磁力の中で素早く動ける相手にさらに磁力を強めてどうするってんだ。加護じゃなくて、闘気を温存して真っ向から戦えばまだ勝算はあっただろうによ。加護の力を過信しやがって。だからテメェは三番手止まりなんだよ」
そう言って、キリシュタットは、闘技場に横たわるクローディアを見て舌打ちをする。
私はそんな彼を一瞥した後、グレイレウスへと視線を向けた。
彼は、腕を組み、足を組んで、偉そうに椅子の背もたれに背中を預けて座っていた。
「こんな、呆気なく……しかも、トレーニングの延長としてクローディアを相手にしていた、だと……!? 認められない……認められるものかッ!!!! 神聖な決闘の場を貴様は何だと思っている!! グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロス!!!!」
私は、彼へと詰め寄ろうとする。
すると、アレフレッドとロドリゲスが道を阻み、止めてきた。
「ま、待つんだ、ルクス! 彼は、決闘人がいる公式の場でクローディアを降し、剣王の称号を奪い取った!! 怒りを鎮めろ!! 彼はもう、剣王だ!!」
「そうだぞ、ルクスボーイ。落ち着きたまえ。クローディアの脱退は、最早私たちに言えることはない。決闘とは、そういうものなのだ」
「お前たちはそいつがその席に座っていることを、何とも思わないのか!? 奴は公式の場で、クローディアをコケにしたのだぞ!? その男は、剣王に相応しくない!!!! 他の箒星の連中もそうだ!! あいつらは、私が立ち上げた剣王試験を台無しにした挙句、正式の場で剣王を侮辱した!! 到底、許されるべき行いではないだろう!! 奴らはただいたずらに人々に混乱を招くだけだ!! どう見ても、誠実な剣士の行いではない!!」
私がそう怒鳴り声を上げると、グレイレウスはフンと鼻を鳴らす。
「くだらん。剣王とは、お前の好み、裁量で決定することなのか? ……あぁ。確かお前はメリアに毒を飲ませた張本人だったな。なるほど。お前たちは自分たちに都合の良い者ばかりを剣王に引き入れていたというわけか。残念だったな。もう、お前たちの好きにはならない。お前たちの時代は終わりだ。オレたちが変える」
「き、さまぁ……!! 面へ出ろ!! 私が、お前から剣王の称号を剥奪してやる!!」
「馬鹿か、お前は? お前を倒すのはオレではない。あいつだ」
グレイレウスは闘技場へと視線を向ける。
そこには、担架で運ばれていくクローディアと、闘技場に落ちているガラクタを拾う聖騎士たち……そして、今しがた、闘技場の上へと上がってきたルナティエの姿があった。
ルナティエは屈伸して、腕を伸ばし、準備運動をしている。
そんな彼女は、私と目が合うと……不敵な笑みを浮かべてきた。
「……ふん。確かに、お前とロザレナは強い。認めよう。だが、アレはただの落ちこぼれだ。ルナティエに、剣の才はない。多少、色々な型の技術は身に付けたようだが……所詮、付け焼刃にすぎない。私は未だに、ヒルデガルトの方が決勝に進むべき才を持っていたと思っている」
私のその発言に、グレイレウスは突如、笑い声を上げた。
「クッ……ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「何が可笑しい!!」
「これは傑作だ。お前は何も分かっていない。ルナティエに才がないだと? オレはお前よりも……あいつの方に脅威を感じているのだがな。確かに、毒を飲ませるという下種な手段は、あいつと似たようなものだったが……あいつだったらその先にもさらに策を用意していただろう。簡単に、オレたちに情報を渡しはしない。口を割りそうな配下の行動の先も読んでいたはずだ。あいつはそこまで詰めが甘くない」
「はっ。何を言うかと思えば……。馬鹿なお前たちに先に言っておこう。私があの亜人に毒を飲ませた証拠は何処にもない。人から伝え聞いた話を簡単に信じ、騙されているお前たちこそが、滑稽だという話だ。まぁ……仮に、だが? 仮に私が亜人を排除しようとしたとして、何か問題でもあるのか? セレーネ教において、亜人は魔物と同義とされている存在だ。そんな悪しき存在が、万が一にでも剣王になったのなら、大変な話ではないのか? この国において、私を責める人間など何処にもいない。私の行いこそが、正義そのもの、だからだ」
「フン。話にならんな。自分の目で判断せず、他人が決めたルール、宗教に基づいて己の正しさを決めているとは。やはりお前は、剣王上位三人の中でも、最も剣王に相応しくない男だ。己の目で見て、己の考えに順じて生きているクローディアの方がまだ、剣士としては正しい。まぁ、殺人だけは許容できるものではないがな」
「なんだと……ッ!!!!」
私が怒りに肩を震わせていると、背後から、拍手の音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには、面白そうに口の端を吊り上げたキリシュタットが手を鳴らしている姿があった。
「はっはっはっはっ! 陰気臭い男かと思ったが、思ったよりも面白い男じゃねぇか、グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロス! 俺はそこのルクスと違って、強者は歓迎する性質だ! お前が今日から剣王になることに異存はない!」
「キリシュタット!?」
「だが、そう煽るな。そう生き急ぐな。お前は確かに剣王に相応しい力を持っている。しかし……賢くはない。賢く生きる気ならば、抜き身の刃みたいに、周囲に喧嘩を売ってんじゃねぇよ。せっかく座ることができたその席から、降りたくはねぇだろ?」
「その賢く生きる方法というのは、お前にへりくだれ、ということか?」
「そういうことだ」
「何故、自分よりも弱い存在に媚びへつらわなければならないのだ? オレは今……剣王上位一位にいると思っているのだが?」
その瞬間、剣王たち全員に緊張が奔った。
そんな中、キリシュタットは面白そうに、盛大に笑い声を上げる。
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!! 面白れぇなぁ!! 面白れぇよ、お前!! おい、グレイレウス。お前の……いや、お前たちの師はいったい誰なんだ? 俺に教えろよ」
「貴様たちに教える必要性が感じられないな」
「俺は、これでもマフィアの頭でなぁ。王都のゴロツキどもの情報は、全て俺の耳に入ってくるんだ。春先だったか……俺の手下どもが、元フレイダイヤ級冒険者のディクソン・オーランドに雇われて、人攫いを行ったそうだ。倉庫に貴族の従者を閉じ込めておくだけの簡単な仕事だと聞いていたが……翌日、俺が見に行ってみると、倉庫は倒壊し、更地となっていた」
「……」
「他にも、異常な事態が散見されている。目立っているものといえば、そうだな、暴食の王か。巷ではあの怪物を倒したのは、アレフレッドだと言われているが……アレフレッド如きが剣聖をてこずらせた相手を倒せるはずがない。考えられるとすれば、弱った暴食の王に、アレフレッドがトドメを刺した説だが……本人は気絶していて倒れていたと言っている。剣聖・剣神たちは自分たちが倒したことを否定し、第三王女エステリアルに至っては民たちにアレフレッドが倒したと吹聴して回っていた。なぁ、わけが分からねぇだろ? まるで俺たちが知らない誰かが、暴食の王を倒したみたいだ」
「お前はいったい、何が言いたいんだ?」
「何処かに、実力を隠している強者がいるかもしれないって話だ。それが……お前たち箒星の師なんじゃないのか? なぁ、グレイレウス」
グレイレウスは、不愉快そうに目を細める。
私にはいったい、彼らがどのような話をしているのかは分からない。
ただ、グレイレウスは自分の師のことを突かれるのを嫌っていることは、察することができた。
キリシュタットは続けて口を開く。
「俺の師は、聖騎士団団長、ゴーヴェン殿だ。噂だと、王宮晩餐会以降、あの御方はある人間にご執心らしい。……なぁ、グレイレウス。お前たちの師匠は、第二次試験であの山を割った奴、だよなぁ? それって―――――」
キリシュタットは口を閉ざすと、突如、ラピスへと視線を向ける。
そして、次の瞬間―――――――彼は剣を抜き、ラピスを斬り裂いた。
「なっ……何をしている、キリシュタット!?」
「こんな状況で、いつまでも馬鹿みてぇに幻影を置いて覗き見しやがって。俺が気付いていないとでも思ってたのか? ラピス」
斬られたラピスは、驚いた顔のまま、霧のように霧散して消えていった。
キリシュタットは肩に剣を置いて、ペッと、唾を吐き捨てる。
「この場にいた奴の身体は、ずっと幻影だった。本体は何処か別の場所にいる」
「……何のために、だ?」
「ろくなことではねぇだろうな。大方、俺かお前に対して何か仕掛けようとしていたんだろう。あいつは、俺とお前に対して、嫌悪感を隠していなかったからなぁ」
「奴は、亜人に対して極端に庇う姿勢を見せていた。もしや亜人に関すること、か?」
「かもな。まぁ、どうでもいい。あの女がどれだけ暗躍しようとも、俺の敵じゃない」
まったく……クローディアが脱退してグレイレウスが剣王になっただけでなく、まさかラピスが私とキリシュタットに敵意を向けてくるとはな。この決闘が終わり次第、剣王のメンバーを浄化し直さなければならないだろう。少なくとも……グレイレウスとラピスの剣王の称号剥奪は確定だ。
(直接的にグレイレウスを倒すことができないにしても、称号を奪う方法など山ほどある。例えば……奴の親族を使う、とかな)
私が頭を巡らせていた、その時。決闘人の声が聞こえてくる。
「―――――――――まもなく、試合を始めます! 防衛側、ルクス・アークライト・メリリアナ様、闘技場の上にお上がりください!」
決闘人ヨーゼフの言葉に、私は前を振り向き、闘技場へと向かって歩いて行く。
そんな私に対して、横を通り過ぎる間際、キリシュタットが声を掛けてきた。
「敗けたらブッ殺すぞ、ルクス」
「敗ける? 誰にものを言っている? この聖剣ルクス、あのような半端者に敗北する理由がない」
私は青いマントを翻すと、ガチャガチャと白銀の甲冑を鳴らして、闘技場へと向かって行った。
まずは立場を理解せずにこの場に立っているあの凡人を分からせてやらなければならない。後のことは、それからだ。
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《ルナティエ 視点》
屈伸や肩伸ばし、手首の回旋などをして、闘技場の上で準備運動をし終えた後。
わたくしはふぅと短く息を吐き出し、パチンと頬を叩いた。
すると、その時。背後、闘技上の外に立つロザレナさんが、声を掛けてくる。
「敗けんじゃないわよ。敗けたらぶっ飛ばしてやるんだから」
「誰にものを言っているんですの、ゴリラ女。わたくしは栄光あるフランシア家の息女、ルナティエ・アルトリウス・フランシアですわ。本家の人間として、分家の人間に敗けるはずがなくってよ」
わたくしは結んだツインテールの髪を靡き、前へと出る。
すると、向かい側から、ルクスもこちらに向かって歩いてきた。
その紫色の瞳は、自分がここで敗けるはずがないという、確固たる自信が宿っていた。
そしてわたくしたちは向かい合うようにして立ち、その間に、決闘人であるヨーゼフが立った。
「さぁ、今度の決闘は、四大騎士公フランシアの血を引き、剣神キュリエール・アルトリウス・フランシアの血を引いた、両者の戦いです! まずは、挑戦者の紹介をさせていただきます! 多種多様な技を使って相手を翻弄し、剣王試験では第三位の成績を納めた……若き策略家、【箒星】門下生、ルナティエ・アルトリウス・フランシア――――――――!!」
「オーホッホッホッホッ!! 天才美少女剣士であるこのわたくしの伝説の幕開けを、とくとご覧になるとよろしいですわ――――!!」
わたくしは観客席に向け、高笑いを上げます。
ですが……まぁ、案の定、ルーキーを応援する声はありませんでした。
仕方ありませんわね。わたくしたち挑戦者側は、無名も良いところなのですから。
「ルナティエ!! メリアに毒を飲ませたそいつは、徹底的にボコボコにしなさい!! いいわね!!」
ロザレナさんから、そんな声援(?)が聞こえてくる。
「……フン。せいぜい頑張ることだな、クズ女。醜態を晒して我が師の名を穢したら、オレが貴様を斬るぞ、ルナティエ」
剣王の席に座るグレイレウスから、そんな声援(?)が聞こえてくる。
まったく……あの二人は……というか、グレイレウスはまず服を着てくださいまし。恥ずかしい。醜態を晒して師匠の名を穢しているのはそちらではなくって?
お馬鹿さんな兄弟弟子二人からの声援にため息を吐いていると、観客席にいるお父様が立ち上がり、声を張り上げました。
「ルナティエ―――っ!! 頑張るのだぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ち、父上、いい加減にしてください!!」
またしてもセイアッドお兄様に取り押さえられるお父様。
しかし、お父様は敗けじと、続けて口を開いた。
「お前は、いずれこの王国に……いや、世界に名を知らしめる天才児だ!! 栄光あるフランシアの末裔である、ルナティエ・アルトリウス・フランシアこそが王国最強の剣士であることを、存分に世界に轟かせるが良い!! お前ならできる!! お前なら成せる!! 次代のフランシア家当主として……その名を刻んで来い!!」
「お父様……はい! お任せくださいまし!」
わたくしはお父様に向けて、コクリと、強く頷きを返した。
無名の挑戦者だとしても、応援してくださる人はいる。
わたくしは一人ではない。ここにいない師匠もきっと……わたくしのことを応援してくださっているはず。
すると、その時。前方から、苦笑する声が聞こえてきました。
「フッ……まだフランシアの当主、ルーベンスは、お前を天才だと思っているのか。滑稽だな。お前がただの凡人であるこを知っている身内は、未だに、亡きお婆様と私だけだとは。ルーベンスの頭の悪さには落胆せざるを得ない」
「お父様のことを悪く言うつもりなら、許しませんわよ」
「実際、その通りだろう。お前の父親は、お婆様の言うことを聞かず、平民などと結婚をした。その結果、産まれたのがフランシアの才を持たない出来損ない二人だ。セイアッドとルナティエ。お前たちは、お婆様が理想としたフランシアの末裔とは程遠かった。だから当主候補から外された」
「……」
「信仰系魔法を極めた、高潔な聖騎士。それがお婆様の目指すフランシアの騎士だというのに……お前は何だ? 姑息な真似をして勝利を手に入れ、父親や兄の期待に応えるべく、必死で天才を演じてきた。そんな出来損ないが、聖騎士の名門フランシアの末裔だとは笑わせてくれる」
「……」
「どうした? ぐうの音も出ないか? 私は、お前とは違う。分家メリリアナの嫡子でありながら、フランシア家の当主に代々受け継がれる正当な加護を引き継ぎ、キュリエールお婆様の元で修行を重ねた……本物の聖騎士だ」
ルクスがそう口にするのと同時に、ヨーゼフがルクスの方に手を差し示し、口を開いた。
「続いて、防衛側! 聖騎士団、異端審問隊・隊長でありながら、剣王の座に就く男……第一王子ジュリアン様の騎士! フランシアの分家出身、【剣王】二番手の実力者、【聖剣】ルクス・アークライト・メリリアナ!!!!」
「我らの剣は、正しき道の元に! 我らが騎士道に、女神アルテミシア様のご加護があらんことを!」
ルクスは腰の鞘から白銀の剣を抜くと、それを胸の前にまっすぐと構えて、天へと掲げる。
彼がその行動をするのと同時に、彼の背後……闘技場の外に並んでいた聖騎士たちが、一斉に剣を掲げ、同じポーズを取った。
「「「我らの剣は、正しき道の元に! 我らが騎士道に、女神アルテミシア様のご加護があらんことを!」」」
聖騎士たちは構えを止めると、一斉に乱れなく、剣を腰の鞘へと納める。
ゴーヴェンのような悪徳騎士が騎士団長をしているため、聖騎士としての像が揺らぎつつありますが……本来、聖騎士というのは、セレーネ教の教えに準じる者たちを差し示します。
あまり公にはされていないことですが……初代フランシア家当主アルトリウス公は、最初の騎士団長になったとされる聖騎士でした。
そう、本来騎士団長という座は、バルトシュタイン家ではなく、フランシア家のものだったのです。
キュリエールお婆様は初代アルトリウス公の信奉者であり、聖騎士の在り方を見つめ直し、正しき聖騎士を育成しようと努力していました。全ては、バルトシュタイン家から騎士団長の座を取り戻すため。
その意志を継し者が……彼、ルクス・アークライト・メリリアナです。
彼が異端審問隊隊長になってから、彼の元には、力こそが全てのゴーヴェンとは相反する、セレーネ教第一の聖騎士が集まりつつあると聞いています。
恐らくルクスは……ゴーヴェンから聖騎士団団長の座を奪おうとしているのでしょう。
ですが、それでしたらひとつ、不可解な点がありますわね。
ゴーヴェンはルクスと同じく、ジュリアン派閥の騎士ですわ。
敵対する両者が同じ陣営にいるというのは……どういうことなのでしょう?
例えば、ゴーヴェンとジュリアンは手を組んだふりをしていて、実はあまり仲が良くない、とか……? いや、その理由が分かりませんわね。情報材料が少なくて、判断することはできませんわ。
わたくしがルクスを見つめて考察していると、ヨーゼフがカウントダウンを開始しました。
「さぁ、ではさっそく、決闘開始のカウントダウンを始めます! 30、29、28……」
すると、その時。ルクスは馬鹿にするような態度で腕を組む。
「ルナティエ。お前も騎士の末裔の端くれならば、潔く負けを認めろ。そうすれば、フランシアの名誉を貶めないように、途中まで……良い試合をしたように見せてやろう」
「は?」
「確かに、お前は、昔よりは強くなったみたいだな。ヒルデガルトとの戦いには正直驚かされたぞ。まさかお前が準決勝まで上がってくるとは想像していなかった。だが……断言しよう。お前では、私には勝てない」
「……」
「私は、キュリエールお婆様の弟子であり、あの御方の意思を引き継ぎし聖騎士。そして、お前は幼少の頃にお婆様に破門された出来損ない。短い間とはいえ、同じ師の元で剣を競い合った元兄弟弟子だ。お婆様の言葉が絶対であることは、お前も理解しているだろう」
「……」
「お婆様は、七歳のお前を見限り、私の方が才能があると断定した。それすなわち……お前が私と同じ位である剣王の座に就くということは、天地がひっくり返ってもあり得ないということだ。潔く敗北を悟るのも騎士の努めだ。負けを認め、私の意向に従え。元兄弟弟子として、情けくらいはかけてやる」
「20、19、18……」
「父親にみっとない真似を見せたくはないのだろう? なら―――――」
「……全く。馬鹿らしくて、お話になりませんわね」
わたくしの言葉に、ルクスは目を細める。
「何だと?」
「お婆様が破門した相手だから、戦う意味がないと? 戦う前から勝負が分かっていると? 貴方、さっきから何を言っているんですの? お婆様が……全て正しいとでも思ってるんですの?」
「お前の言っている意味が分からないな。お婆様は、最強の世代と呼ばれた時代の剣神。そして、騎士の中の騎士と呼ばれた聖騎士だ。お婆様の言葉に、間違いはない」
「わたくしも……元々は剣神キュリエールの元で、貴方と共に剣を習ってきた身。お婆様の言葉が絶対だ、という考えも、過去の自分を見ていれば理解できます。ですが……わたくしはお婆様を否定し、彼女を乗り越えた。マリーランドでお婆様を倒し、己の道は己で切り拓くものだと、師から教わった……!」
「いったいお前は何を言っている? たとえ妄想だとしても、お婆様を倒したなどというくだらない妄言を吐くとは……気でも狂ったか? もしくは、薬物にでも手を出したか。ふん、まぁ良い。お前は私の誘いには乗らないということで良いのだな?」
「わたくしは、誰に何と言われようとも止まりませんわ。例え誰に才能が無いと言われようとも諦めない。だって、わたくしは……誰よりも偉大なる剣士に、努力の天才だと、言われたのですから……! わたくしはもう迷わない! 己の道は己で切り拓いていく……!」
「3、2、1……0! 試合開始です!」
「愚かな……栄光あるフランシアの名を貶めたくはなかったが、仕方ない。我が聖剣の前にひれ伏すが良い、ルナティエ!」
そう叫ぶと、ルクスは剣に手を当て、詠唱を開始した。
「光の祖たる月の女神アルテミシアよ!! 我が祈りに応え、我が剣に光の加護を―――――――――」
わたくしは【縮地】を使い、ルクスへと瞬時に間合いを詰める。
そして彼が詠唱を唱え終わる前に……わたくしは彼の腹部に向けて、闘気を纏った拳を叩き込んだ。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「かはっ……!?」
「ごめんあそばせ。隙だらけでしたもので」
血を吐き出し、よろめくルクス。
そして彼は腹部を手で押さえながら、後ろへと後退した。
「き、貴様……詠唱している相手に、不意打ちするとは……! 騎士としての誇りはないのか!? 野蛮な拳を使うなど、騎士の行いではない!」
「何を言っているんですの? これ、決闘ですわよね? お遊びではないですわよね? 貴方……本気でひとつの席を奪い合う殺し合いに参加している覚悟はありまして?」
「な、に……?」
「騎士の誇り? ……あぁ。確かに、マリーランドで修行した時、師匠から格闘術を習う前のわたくしは、貴方と同じ反応をしましたわね。ですが、騎士の誇りなど、クソ喰らえ、ですわ」
「なっ……き、貴様、それでも、騎士の家の娘か……! お前の尊敬するルーベンスの前で、騎士を否定する気か……!?」
「否定はしませんわよ。ですが、これが、わたくしの騎士道ですから。わたくしは、どんな手を使ってでも勝利する。どんなにみっともなくとも、どんなに卑怯な手を使っても……わたくしは、この世界に証明してやるのです。才能がなくとも……剣の頂に立てるのだということを……!! 努力の天才でも、天才たちを倒し、のし上がることができるのだということを……!!」
わたくしは髪を靡き、レイピアを構え、ルクスへと声を掛ける。
「構えなさい、ルクス・アークライト・メリリアナ。わたくしはどんな手を使ってでも、貴方を倒しますわ。貴方のような、自分の考えで剣を持たない三流などに、剣王の座は相応しくはない。その席を、わたくしに明け渡していただきます。わたくしは、お婆様の考えなど興味はない。己の道は、己で切り拓く!!!! それこそが、わたくしの信じる騎士道ッッ!!!! 剣神キュリエールを妄信する貴方に、正しさなどはないッッ!!!!」
「ルナティエェェェェェッッッ!!!!!!」
ルクスはお婆様を否定したわたくしに対して、怒りの形相を向けるのだった。




