第10章 二学期 第330話 剣王試験編ー終章 空を翔ける箒星① グレイレウスVSクローディア
《グレイレウス 視点》
「それでは、改めまして―――トーナメントは一時中断して、若き剣士が【剣王】へ挑む決闘……『騎士たちの夜展』の開催をここに宣言いたします!!」
司会者の男……ヨーゼフのその言葉に、観客席はワーッと盛り上がりを見せる。
「果たしてここに、新たな【剣王】が誕生するのか……! まずは【剣王】に挑む挑戦者の登場です! 剣王試験で最も好成績を修めた若き剣士、グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロス―――っ!!」
その紹介と共に、オレは手袋の端を引っ張りながら、闘技場へと立つ。
そんなオレの背後から、ロザレナとルナティエが声を掛けてきた。
「絶対に勝ちなさいよ。敗けたりしたら許さないんだから」
「ええ。敗けたらその長くてうっとおしい前髪、引きちぎってやりますわ」
「……フン。貴様らはそこで黙って見ていろ。箒星で一番最初に【剣王】になる、オレの姿をな」
オレはそう言って闘技場を進み、司会者の前で立ち止まる。
「続いて、防衛者側! 【剣王】三番手にして戦闘狂のシスター、信仰と破壊、二面性を持つ殺戮者―――【断罪剣】クローディア・アイゼンスター!!!!」
司会者の言葉と同時に、クローディアは高く跳躍して、闘技場の上へと着地する。
そして奴は肩に巨大なノコギリ刀を載せると、上体をのけぞらせ、舌を出して盛大に笑い声を上げた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!! ちょうど良いぜ!! 見物も飽き飽きしていたところだッ!! 戦闘の機会を設けてくれたこと、感謝するぜぇ、イカれ三馬鹿どもッ!! あたしは長く戦闘を愉しみたいんでねぇ、簡単に壊れるんじゃねぇぞぉ? 童貞坊やァ? Death!!!!」
クローディアは、中指を立てて、オレに敵意をアピールする。
オレはその姿を見て腕を組み、鼻を鳴らした。
「……フン。下品な女だ」
オレと同様、観客席にはあの女に嫌悪感を抱いている様子の者も散見された。だが……どうやらあの女には熱狂的なファンが多いようだ。彼女に声援を送っている人々の姿もある。そのどれもが、モヒカン頭やスキンヘッドと、ガラの悪い恰好をしていた。
「クローディア様ァァァァ!! ぶっ潰してくれぇぇぇぇ!!」
「圧倒的なまでの殺しを見せてくれぇぇぇぇ!!!!」
「生意気な無名のガキを、分からせてやって、クローディア様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「Death!!!! Death!!!! Death!!!! Death!!!!」
ガラの悪い連中が、中指を立てて手を振り、クローディアへとしきりに声援を送る。
「何だ……アレは……?」
その光景を見て、オレが首を傾げていると、クローディアが口を開いた。
「あいつらは、あたしの殺しに魅入られた、反グレ連中さぁ!! デェェェェェェェェスッッッ!!!!!! 血祭りだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クローディアは観客に応えるようにして、頭を上下に振り、両手で中指を立てる。
それに呼応して、観客席にいたガラの悪い連中は奇声を上げた。
「よく分からんが……あいつらはこの女のファン、と言ったところか」
逆に、無名のオレを応援している者は、観客席には殆ど見受けられないな。ひかえめに手を振り上げているヘーゼルくらいのものか。
完全にアウェーと言っても良い状況。当たり前か。相手は剣王として長らく君臨してきた女で、オレは今回初めて表舞台へと立った剣士、なのだからな。
だが―――お前の……いや、お前たちの栄華も、今日限りだ。
今日を持って、剣王上位三名の座は、箒星がいただく。
「さ、さぁ……会場も温まったところで……さっそく試合を開始させていただきます! ルールは基本的にトーナメントと変わらず『スタンダード』が適用されております! どちらかの剣士が敗北を認めるか、場外に落とされた時点で試合終了です。ですが……これは試験ではなく、称号を賭けた本物の決闘。誤って殺害された場合も、敗北となり、試合終了となります。その点はご注意ください」
「あひゃひゃひゃひゃ!! だってよぉ、童貞坊や。今のうちに敗北を宣言しとくかぁ? あたしに殺されても、文句は言えねぇってよぉ?」
「それはこちらの台詞だな。もう一人のお前の善性に賭けて、無論、殺さないよう手加減はするが……絶対ではない。自分の身が大事なら、今ここでオレに剣王の称号を明け渡し、棄権することをおすすめする」
「……お前……ははっ、あはははははっ!! 本気であたしのことを、剣王を舐め腐ってんなぁ!! いいねぇ、いいねぇ!! そうこなくっちゃ!! 最近はキリシュタットやルクスの馬鹿のせいで、骨のある奴が挑んで来ないからねぇ。あたしも殺し合いでイけなくてなってムラムラしてたんだ!! あぁ……もう胸がドキドキして止まらないよぉ……!! それだけイキッているお前が、どんな顔をして絶望して死んでいくのか……今からそれを見るのが愉しみだぁ……!! 想像するだけでイきそうになっちまう……!!」
「くだらん妄想は口に出さず、お前の頭の中でだけにしていろ。気色悪い」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」
「そ、それでは、試合開始のカウントダウンを始めます!! 30!! 29―――」
ヨーゼフがカウントを開始し始めると、クローディアは妖しく目を細めた。
「なぁ、童貞坊や。せっかくだから教えてヤるよ。あたしはね、首狩りのキフォステンマ先生から、生き方を教わったんだ」
「……生き方、だと?」
「そうさ。本能のまま! 快楽のまま! 自分がやりたいように生きるってねぇ!! ……あんた、奈落の掃き溜めがどんなところか、知っているかい?」
「王国において人間扱いをされていない貧民たちが、ひっそりと堀の底で暮らす場所だということは知っている。衛生環境がとてつもなく悪いという話もな」
「その通り。あたしの親は元は小領貴族の出でねぇ。馬鹿なことに、バルトシュタイン家に歯向かった結果、両親共々ありもしない罪で斬首されてしまった。行き場を失った一人娘は、気が付いたら奈落の掃き溜めにいたってわけ。それも奈落の中でも特別治安が悪い北区域ときた。幼い少女がそんな地獄で平穏に生きるには、娼婦になるか、誰かに飼われるかしかなかったのさ。貧弱なもう一人のあたしはどちらの道も選びたくなくて、日々、奴隷狩りの手から逃げて、恐怖し続けた。そうして……クローディアというひ弱な少女の中に、あたしという、防衛人格が産まれたのさぁ」
「……くだらん不幸自慢か? 生憎、貴様に同情する気はない。世の中、どんな地獄の中でも真面目に生きている者たちがいる。貴様が殺しに悦びを見出しているのは、環境のせいではない。自身の罪を環境のせいにするな」
「あははははは!! 勿論、同情してくれだなんて、言わねぇよぉ? お前の言う通り、あたしはあたしさ。あたしは奈落の底で、生きるために、殺して殺して殺し尽くした。あたしを利用しようとする大人どもも、チ〇ポ突っ込もうとするクソどもも、全員、総じてぶっ殺して食ってやった。あいつらを殺した瞬間……とっても……気持ちよかったよ……あたしをガキだと舐めて襲い掛かってくる大人どもを屈服させ絶望させてやる、その瞬間は、これ以上ないほどの快感だったぜ!!!!」
そう言ってうっとりとした表情を浮かべた後、クローディアは再びオレに目を向けてくる。
「で、その時、思ったわけ。弱いということは、罪であるってなぁ。あたしの両親は、自分の力量も分からず力を見誤り、ゴーヴェンに挑み殺された。弱い奴っていうのは、草食動物と同じさ。ただ、肉食動物に喰われるためだけに存在している。脳みそがねーんだよ、弱者ってのはなぁ!! その心理に、あたしは、12歳の頃に気が付いたのさぁ!!!!」
「……」
「そんな時だ。あたしは、偶然、奈落の掃き溜めで、上層で殺した死体を処理しているキフォステンマ様と出会ったんだ。あの御方は、あたしに闘気や歩法のことを教えてくれて、よりスマートな殺しのやり方をレクチャーしてくださった!!!! 感激だったねぇ、あたしと同じ思想を、あの御方は抱いていたのだから!!!! この世は食うか食われるか!! 他者を屈服させる瞬間こそ、最もエクスタシーを感じる瞬間!! それを、力の頂点である剣神キフォステンマ様は理解しておられた……!!」
耳障りなことをまくしたてやがって。まったく共感できない話だな。
「ほら、見てみろよ!!!! この戦利品の数々を!!!!」
クローディアは修道服の前を開けると、服の裏にあるたくさんの耳を見せつけてきた。
「これは、全て、あたしが殺し、喰らってきた人間の耳だ!! これも、殺した人間の首をコレクションするキフォステンマ様が教えてくださったこと!! 喜べ、童貞坊や!! お前は、あたしが喰らうに相応しい敵だ!! 記念すべき120匹目の獲物として……敵の力量も分からず強者に挑んだ断罪すべき弱者として、その名を刻んでやるよ!!」
「……お前のような殺戮者が、騎士団に属しているとは驚きだな」
「ゴーヴェンは、強者には寛容だ。仕事さえしていれば、ある程度は目を瞑ってくれるのさぁ」
「そうか。よく分かった」
オレは短く息を吐くと、クローディアを見つめ、再度、開口する。
「お前は……幼い頃から変わらず、人間が怖いんだな。だから、誰かを傷付けたくて仕方ないんだ。自身に敵意を向けてくる人間を全て始末しないと、気が済まないのだろう」
「……………………は?」
オレのその言葉に、意味が分からないと、首を傾げるクローディア。
オレは続けて、口を開く。
「お前が生きてきた環境は、恐らく、オレが想像もできない本物の地獄だったのだろう。だがオレは先程も言った通り、お前に同情などしない。どんな過酷な状況の中でも、相手から奪うことをせずに、真面目に生きている人たちがいるからだ。お前はただ、駄々をこねて周囲に悪意を振りまいている子供でしかない。お前は……ただ怖くて仕方がないから、虚勢を張っているだけの子供にすぎない」
「あ……あひゃひゃひゃ!!!! あばばばばばばぁ!!!! なーに言ってんだぁ、お前……!! あたしが人が怖いだってぇ? 何を根拠に言ってるんだぁ? あたしの話、聞いてたぁ? 馬鹿すぎて意味分からねぇーよ?」
「―――15、14、13」
「お前は両親をゴーヴェンに奪われたと言っていたな。それなのに……何故、ゴーヴェン本人を倒しに行かないんだ? あまつさえ、お前は親の仇であるゴーヴェンの手下に成り下がっている。その理由は?」
「……馬鹿かぁ? あたしは死んだ馬鹿親なんてどーでもいんだよ。聖騎士団に所属しているのは、単に、都合が良いからで……」
「違うな。キフォステンマという自分を肯定してくれる新たな親……自分の道を示してくれる宿り木を失ったお前は、ゴーヴェンを恐れ、奴の下についたんだ。お前と話していてよく分かった。お前はキフォステンマとは違う。キフォステンマに捨てられないよう、必死に奴が喜ぶ殺戮者を演じているだけの……ただの臆病な女だ。最初、奈落の掃き溜めで犯した殺人は……生きるために必死でやったことだったんだろう? お前は、根っからの快楽殺人鬼ではない。根っからの殺人鬼は、生きるために人など殺さない。殺したいから、殺すんだ」
「……」
「―――0! 試合開始です!」
「あひゃ……ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!! 舐めた口効いてんじゃねぇぞぉ? ルーキィィィイイイイ!!!!!」
試合開始と同時に、クローディアは地面を蹴り上げ、姿を掻き消す。
「【縮地】か」
オレは同じく【縮地】を発動させ、宙に舞った。
「見えてんぞぉぉぉぉぉ!? ヒャッハァァァァァァァ!!!!!!!」
オレの進行方向に姿を現したクローディアは、血の跡が染みついたノコギリのような刀に、闘気を纏った。
「【斬首刑】!」
オレに目掛け振るわれるノコギリ。
オレはそれを、身体を逸らすことで避けてみせる。
だが―――――――――。
「……何?」
何故か、身体が重く、思ったように動けなかった。
オレの首元には、浅い斬り傷が作られる。あと一歩動くのが遅ければ、オレの首は切断されていただろう。
「よく避けたなぁ!! もっと、もっとだ!! もっとあたしを楽しませろ!! ―――【絞首刑】!!」
クローディアがオレに目掛け、手を伸ばす。
すると奴の袖の下から、鎖が、オレに目掛け飛んできた。
【縮地】を発動させて距離を取ろうとした瞬間……オレの小太刀が、何故かクローディアの傍へと引っ張られて行く。
「なっ……!」
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」
鎖が、俺の首に巻き付こうとしてきたが……オレは寸前で頭を下げて、それを回避してみせる。
そして、クローディアに目掛け、小太刀を振った。
キィィィィィィンと金属の音が鳴り響き、剣と剣が衝突する。
お互いに睨み合う、オレとクローディア。
オレは即座に小太刀を引こうとしたが……驚いたことに、オレの小太刀は奴のノコギリに張り付き動かなかった。
「何……!?」
「隙だらけだぜ!!!!」
オレの足に目掛け、蹴りが放たれる。
オレは小太刀から手を離すと、背後へとバク転して蹴りを避け、クローディアと距離を取った。
「魔法……いや、詠唱している様子は見られなかった。何かの……加護の力か……?」
オレが、小太刀を持っていた右手を見つめてそう独り言を呟くと、クローディアが馬鹿にしたように笑みを浮かべる。
「正解だぁ、童貞坊や!! さぁて、あたしの加護はいったい何なのか、分かったかぁ?」
「……初撃の時、回避しようとしたオレの身体が、何故か重くなった。そして、三撃目の白兵戦。オレが振った小太刀がお前のノコギリに張り付いて落ちないところを見るに……お前の能力は、恐らく、磁力、か」
「へぇ? そこまで分かるのかよ? お前、洞察力だけは一端だねぇ。そうさ。こいつは、【磁力の加護】だ。あたしは、貴金属の磁力を操作できる」
心底感心した様子でこちらを見つめるクローディア。
……磁力の加護、か。
恐らく奴は、手に触れた金属に磁力……磁場の力を与え、自在に操作できるのだと思われる。
結果、剣などの貴金属は、強力な磁場によって、奴のノコギリや鎖に引き寄せられるようになってしまう、か。
―――――――――これが剣王三番手の力。強力な加護を有している。
相手が剣士である以上、奴の近くに近寄れば剣が磁力によって引き寄せられる。結果剣の軌道はずれ、磁力によって身体は動かなくなってしまうだろう。重い甲冑を着ている鎧騎士などは奴にとって餌でしかないな。
「いや……貴金属は、衣服にも使われている、か……」
オレは自身の制服に付いている三つのボタンを引きちぎると、それを地面へと投げ捨てた。
すると地面に落ちたボタンは、磁力によって引っ張られ……クローディアの足元へと引き寄せられ、転がって行く。
予想通り、貴金属であれば何であれ、自分の元へと引き寄せるようだな。
剣でだけでなく、先ほど上手く動けなかったのは、こういった衣服の装飾品が影響していた可能性もありそうだ。
「ボタンを引きちぎったところで、何も変わりはしねーぞぉ? 剣を持っている時点で、お前はもう、速剣型の歩法は封じられたも同然だ。そして、あたしは、闘気も歩法も使用できる。残念だったなぁ……! これでお前に勝利の目は無くなった! ―――ちっ。イキッてた割には所詮こんなもんかよぉ。つまんねぇなぁ」
「フン。何を勝手に勝利宣言している? オレにはまだ、小太刀の一本が残っているぞ?」
オレは左手に持っている小太刀をクルリと回転させると、逆手に持ち、構えた。
そんなオレの姿を見て、クローディアはため息を吐いた。
「もう勝負は見えてんだよ。あたしの磁力に敗けて得物を失っている時点で、お前の敗北は既に確定している。もう一度挑んだところで、さっきと同じ結果になって終わりだ。見たところ……お前は特別な加護を持っていないようだしな。良いか? 加護っていうのは、神に選ばれし力のことだ。この先、剣王から上の存在は、殆どが加護を持っている。加護を持っていない凡人が、挑む世界じゃないんだぜぇ? ファァァァァック!!!!」
「くだらん。だからどうしたというのだ? オレは加護の力などいらん。地力で剣の頂へと挑戦してみせる」
「ハッ。だったら……口先だけじゃなくて、見せてみろや!! この窮地をどう乗り越えるかをなァ!!!! 【処刑台】!!」
クローディアはノコギリを持っている右手ではなく、鎖が絡みついている左手を伸ばし、クイッと指を引き寄せるようにして動かした。
その瞬間―――オレの剣が磁力に引っ張られ、オレは、奴の前に引きずり寄せられた。
「……!!」
「【斬首刑】!!」
首に目掛け、ノコギリ刀が横薙ぎに振られる。
剣は奴の腕にある鎖に引っ張られたまま。無様に腕を伸ばし続けているこの態勢では、防御もできず、そのまま首を切断されてしまうだろうな。
回避するには歩法を使用するしかないが……。
初撃で試して見たとおり、奴の磁場の影響下で【縮地】を発動させたとしても、一歩動作が遅れてしまうだろう。下手をしたら、伸ばしている腕を斬り落とされる可能性もある。
「ヒャッハァァァァァァァ!! 血をぶちまけろォ!! デェェェェェェェェスッッッ!!!!!」
「……フン。ここで使う予定ではなかったのだがな」
オレは目を伏せる。
脳裏に浮かぶのは、何か月も裏山で木に突進し続けた日々の記憶。
オレは、大恩ある師匠に反発してまで、修行を続けた。
あの技は、今のオレには早い。
オレ自身も、そのことについては分かっていた。
だが――――――ここでアレを習得できないようでは、オレは上に進めない気がしたんだ。
マリーランドで、オレは、あいつらの成長っぷりを見て非常に焦った。
ロザレナはどんどん強くなり、ルナティエも色々な技術を身に付けている。
ロザレナのような圧倒的な闘気も、ルナティエのような多種多様な技を習得できる能力も、オレにはない。
だから、オレは、誰よりも速くなくてはいけなかった。
オレは背も低く、体格もない。元々、剣士には向いていないと言われていた身。
魔法因子がないせいで帝国の家から追い出され、魔法因子がないのなら剣士になろうとしたら、今度は王国でも、オレは剣の道場から追い出された。
オレに残された道は……この小柄な身体を利用して速くなることだけだった。
だから必死になって、速度だけを追い求めた。
オレには、特別な加護も、魔法も、闘気も、無いのだから。
誰よりも速く、速く、速く。誰もオレの世界に入門できないように。
ただ、圧倒的な速度を――――――追い求めなければいけなかったんだ。
―――――――――目を開ける。
そこには、狂気の笑みを浮かべ、オレの首元へとノコギリ刀を振るクローディアの姿があった。
あと数秒もすれば、オレの首はそのまま切断されるだろう。
オレはフッと笑みを浮かべ、口を開いた。
「悪いな。オレはここでお前を超えるぞ、クローディア」
短く息を吐き出し―――オレは、地面を三回―――蹴り上げた。
「――――――――――――――――――【瞬閃脚】」
その瞬間、オレはクローディアの前から姿を掻き消した。
その光景を見て、ノコギリ刀で空を斬った後、唖然となるクローディア。
「……はぁ?」
「【黒影・裂風烈波斬】」
オレはクローディアの後方へと姿を現すと、黒緑色の斬撃を、クローディアへと向けて20発、高速で放つ。
クローディアは即座に背後を振り返ると、ノコギリ刀を器用に使って、裂風烈波斬を弾いていった。
だが、全てを捌き斬ることができず、クローディアの肩に斬撃が当たり……奴の肩口から、血が噴き出した。
「ぬぁあッ!? なんだ、これはぁぁぁぁぁぁ!?」
斬撃がヒットしたのと同時に、影が爆発し、奴の視界をモヤが覆った。
オレは即座に【瞬閃脚】を発動させ、クローディアの間合いへと入る。
「そこかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
オレの身体が斬り裂かれ、その姿を見たクローディアは、発狂して笑い声を上げた。
「ヒャッハァァァァァァッッッ!!!! 馬鹿め!!!! あたしを舐めてわざわざ間合いを詰めてきたのがお前の敗因―――――」
斬られたオレの姿が、影となって消えて行く。
その光景を見たクローディアは、呆けた声を漏らした。
「は?」
「それは影分身だ」
奴の背後から現れたオレは、クローディアの背中をバッサリと斬る。
「かはぁ!? くっ、クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クローディアは振り返ると、ノコギリ刀を振り上げる。
オレは即座に姿を掻き消し―――――周囲一帯に、影分身を創り出した。
「【瞬閃・影分身】」
「なんだよ、これ……?」
クローディアの周囲には、20体近くの分身が、高速で動いては消えてを繰り返していた。
その光景を見て、クローディアが、ギリッと歯を噛み締める。
「おいおいおいおい……お前、さっき、【瞬閃脚】だとか言ったかぁ?」
「……」
「……あり得ねぇだろ……そいつはなぁ……」
「……」
「そいつは……【剣神】が使用できる歩法だぉぉぉぉぉぉ!?!? 【剣王】の中でそいつを使用できる奴なんて、一人もいねぇ!!!! なんでテメェ如き無名のルーキーがそいつを使用できるんだぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「オレは、いずれ【剣神】……いや、【剣聖】になる男だからだ」
クローディアの背後に現れたオレは、再び背中を斬りつけて、影分身の中へと消えて行く。
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!? ふざけんじゃねぇぞぉぉぉぉぉ!? そいつは絶対に【瞬閃脚】じゃねぇぇぇぇ!!!! お前のそれは……絶対に【縮地】だ!!!! 【処刑台】!!!!」
クローディアは影分身に向け、手を真っすぐと伸ばした。
「分身がどれだけいようとも、磁力を使えば、剣を持っている本物のお前はあたしに引き寄せられるはずだッッ!!!!」
その時。クローディアの前へと、オレは躍り出た。
その姿を見て、クローディアは笑みを浮かべる。
「ハハハハハァ!! それが本体か!! 死ね!! ルーキーィィイイ!!!! ―――――――――って、アレ? お前、剣は……?」
剣を持っていないオレを見て、驚きの声を上げるクローディア。
オレはフンと鼻を鳴らし、口を開く。
「お前が磁力を使うことは分かっていた。剣は……そのために捨てておいた」
「は? いったい、何を言って……ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
その時。突如、背後からオレの小太刀が飛んできて……クローディアの肩に突き刺さった。
クローディアは意味が分からないと、後ろを振り返る。
「なん、だ……これ……? どういうことだァ……?」
「お前が【処刑台】を発動させた瞬間、剣をブーメランのように空中へと投げて旋回させた。結果、磁力を使ったお前に剣は引き寄せられ……ノコギリを持っている腕の肩へと、突き刺さった。お前の能力は確かに強力だが、仕組みが分かってしまえばどうということはない」
「あたしの力を……逆に利用した……だとぉ!?」
「その通りだ。そして――――――」
オレは拳を引くと……クローディアの顔面に一発、拳を叩き込んだ。
「かはっ!?」
「隙が産まれたお前に、こうして真正面から拳を叩き込むことができるというわけだ。マイスが見ていたら、女の顔を殴ることにいちいち突っかかってきそうだが……オレは生憎、あの色情狂とは違い、性別で相手を見誤ることはしない。女であろうとも殴る」
「なんだァ……これはァ……」
顔を押さえながら、無造作にノコギリを横薙ぎに放つクローディア。
オレは跳躍し、そんな奴のノコギリの上に着地すると……クローディアの肩から、小太刀を抜いた。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
ブンブンとノコギリを振り、暴れるクローディア。
オレは姿を掻き消すと、再び分身を作り、周囲を駆け巡っていく。
――――――奴は、闘気を使用できる。故に、攻撃する時は、必ず、虚を突いた隙を狙わなくてはいけない。
純粋な速剣型であるオレの攻撃力は、決め手に欠けるものだ。
防御力の高い剛剣型に対しては、ヒットアンドアウェイ戦法が有効と言えるだろう。
クローディアは速剣型の歩法を使用できるが、恐らくその根本は剛剣型と見ているのだが……果たして合っているのだろうか。
「殺す……殺してやるぞ、グレイレウス!!!!!!!!」
奴は全身に闘気を纏い、地面を陥没させた。
やはり、剛剣型、か。速度で翻弄できる分、相性的には悪くはない。
「フン。貴様の剣王の座……明け渡してもらうぞ、クローディア」
「【鋸挽き】!!!!!」
そう叫んだ瞬間、会場全体からゴゴゴゴゴゴと、音が鳴り始めた。
それと同時に、闘技場の外にいたキリシュタットが、叫び声を上げた。
「おい、クローディア!! テメェ、そいつは使うなって言っただろうが!!!!」




