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第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第326話 剣王試験編ー㊹ フランちゃんの覚悟/ルナティエVSヒルデガルト


《フランエッテ 視点》



「はぁはぁ……た、体力が、もう、キツイのじゃ……!」


 妾は王都の街の中を走りながら……徐々に減速して、息切れを起こしてしまった。


 そんな妾を嘲笑うかのように、背後から、嗤い声が聞こえてくる。


「フハハハハハハハハハハ!! 異端者!! どうやら、貴様の運命が潰える時がきたようだなぁ!! 我が姫君の名を騙るだけでなく、我ら吸血鬼の領域を侵し大罪人よ!! このアルザード・ハイゼンベルクが、貴様に誅をくだぁぁぁす!!!!」


「くっ……! あの変質者、どこまでも追ってきおって……!」


 後ろを振り返る。


 すると、何故かアルザードも疲れた様子で、のろのろと歩いていた。


 その姿を見て、妾は思わずツッコミを入れてしまう。


「って、お主も疲れてるんかぁぁぁぁい!!!!」


「我輩は……魔術師(ウィザード)……よって肉体労働は……得意分野ではない……!」


「吸血鬼って、アンデッド系の魔物と思うておったのじゃが!? 死者に体力なんてあるのかの!? やっぱりお主、吸血鬼じゃないじゃないかのう!? せっかくだから煽ってやるのじゃ! やーいやーい、あほぼけなすー!! おしりぺんぺんなのじゃー!!」


「……ん? おぉ、そうであった。我輩は吸血鬼。本領を発揮する夜間ではないといえ、昼間でも、己の肉体をコントロールすることなどわけない。よし。魔法で呼吸を停止させ、疲労を感じている脳の一部を機能停止させてみるか。————【限界解除(リミッターオフ)】」


 その瞬間、アルザードの顔から疲労の色が消え、奴は軽快な足取りで妾の元へと走って来た。


 妾はその光景を見て、走りながら悲鳴を上げる。


「余計なことを言ってしまったのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! そんなことができるなんて、思わなかったのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ムハハハハハハハ!! さぁ、その首をねじ切って、我が姫君の供物として捧げてやろう、異端者ぁ!!!!」


 妾は重い足を無理矢理動かして、キョロキョロと周囲に視線を向ける。


 師匠(マスター)は、言っておった……!


 たとえ格上の相手だろうとも、周囲の状況を的確に判断して策を練ることができれば、勝利することはできるのだと……!


 まずは、冷静になるのじゃ……!


 今、妾が持っている力は、物質を薔薇に変化させる魔法【ダークフレイムインフェルノ】……じゃなかった、【変成(トランス)】と、それを解除する魔法【解放(リリース)】。そして、低い確率でしか発動できない、相手の重力を増加させる魔法剣【次元斬】。この三つ。

 

 何とも使い辛い能力ばかりといえるのじゃ。だけど、今文句を言っても仕方がない。これらの力を使ってで、妾は、あやつを撃退せねばならぬのだから。


 今、ここには、師匠(マスター)もロザレナもグレイレウスもルナティエも、おらぬのだから……! 妾がなんとかせなばならぬのじゃ……!


『―——良いですか、フランエッテ。貴方には、演技力……人を欺く才能があります。それは、旅芸人として培った、貴方独自の能力と言えるでしょう。人を騙すという一点において、貴方は策士であるルナティエを上回っているものを持っているかもしれない。だって貴方は、強者揃いの剣神たちに対して、本当の実力を疑われずに今まで過ごすことができているのですから。それって、本当はとてもすごいことなのですよ』


 脳裏に、裏山で特訓していた時の、師匠(マスター)の言葉が蘇ってくる。


『その欺く力を、戦いにも応用なさい。敵を欺き、翻弄させ、その不思議な能力で敵の虚を突くんです。それが、貴方が目指すべき戦い方です。相手を、自分の舞台の上へ引きずり込んでやるんです―――自分の舞台の上なら、貴方は負けなしのはずでしょう? 天才旅芸人、冥界の邪姫フランエッテ・フォン・ブラックアリア?』


「妾は……相手を騙すのが……本領……!」


 その時。王都の路地裏へと続く細い道を妾は見つける。


 妾は急ブレーキをかけると、そのまま路地裏の中へと転がり込んだ。


「どこに行っても、貴様の運命は変わらぬぞ!! 異端者ぁぁぁぁぁ!!」


 当然、アルザードもついてくる。


 妾はくねくねと細道を曲がりつつ、肩に掛けてある髑髏をモチーフにした黒い鞄の中に手を突っ込み、ゴソゴソと漁った。


「ど、どこに仕舞ったかのう……! こ、これじゃない……これでもない……!」

 

「我が血を槍へと代えよ―――【ブラッドリーランス】!」


 突如、背後から血の槍が飛んできて……妾の肩を貫いた。


 その瞬間、妾は痛みに、悲鳴を上げてしまう。


「ぐぎゃあ!? い、痛い痛い痛い……痛いのじゃ……!! 泣きそうなくらい、痛いのじゃ……!! よくロザレナたちは剣で斬り合って平気でいられるの!! こんなの、耐えられないのじゃ……!!」


 妾はぐすんと涙を堪えると、肩に突き刺さった血の氷柱を無視して、鞄の中を漁り続ける。


「だけど……妾も、もう、ちゃんと剣士になったから……泣くことはしないのじゃ……! 妾だって、箒星の門下生なんじゃから……!」


 妾は鞄の中から、地図を取り出す。


 そして、妾はその地図の内容を、必死になって頭に叩き込んだ。


「うむ。やはりこの先に、大通りがあることは間違いないようじゃ」


 鞄へと地図を仕舞うと……妾は路地を抜け、大通りへと出て、露店が並ぶ通りを走って行った。


 ここは、城門前の活気溢れる通りとは異なり、中古の品が並んでいるフリーマーケットのような場所。妾の予想が正しければ、多分ここには、アレがあるはず……!


「武器になり得そうなものは……あった……!」


 妾は、そこで、武器を売っている店を見つける。


 聖騎士駐屯区にある本格的な武器屋とは異なり、中古の歯が欠けたような剣を売る簡素な露店。大方、駆け出し冒険者を対象とした中古武器屋なのだろう。


 妾は鞄の中から素早く貨幣を取り出すと、通り過ぎる間際にそれを武器屋のカウンターに叩き付け、壺に入っている剣を抜き取り、走って行った。


「貰って行くぞ!! 釣りはいらぬ!!」


「え? え? ……って、お客さん!? お金、足りてないんですけどォ!?」


「ぬぅえ!? あ、後で必ず払いに戻るのじゃぁー!!」


 内心でごめんなさいと呟きながら、妾は、引きずるように持っている右手のロングソードへと目を向ける。


 こんな重いものを、妾が持って走っていけるわけがない。


 当然、持ち運びをするには、魔法で薔薇に変えるしかないじゃろう。


「―――我が手にあるものよ、姿を薔薇へと変えよ……【変成(トランス)】」


 魔法を唱えた瞬間、ロングソードは一輪の薔薇へと姿を変貌させた。


 妾は薔薇を懐に仕舞うと、次に、工事中の男が振り上げているトンカチを、奪い去って行く。


「……って、ええ!?」


「すまぬ!! 後で、必ず返しに戻るのじゃ!! 我が手にあるものよ、姿を薔薇へと変えよ……【変成(トランス)】!」


 トンカチも薔薇に変えて、妾は懐に仕舞う。


 露店を走り抜けながら、武器になりそうなものを取り、薔薇へと変えて行く。


「こらー! その脚立を、どこに持って行く気だー!」


「すまぬのじゃ!! 我が手にあるものよ、姿を薔薇へと変えよ……【変成(トランス)】!」


「あれ!? ここにあった林檎が入った樽、どこに行ったの!?」


「骨董品として売っていた模造剣がないぞ!?」


「剣聖リトリシア様を模した石像がない!!」


「アクセサリーの入った宝箱が!」


 妾はありとあらゆるものを薔薇へと変え、懐へとしまっていく。


 そんな妾の姿を見て、背後を追いかけて来ているアルザードが、怒りの声を上げた。


「お前ぇぇぇぇぇぇさっきから何をしているぅぅぅぅぅぅ!!!! いつまでもちょこまかと逃げおってぇぇぇぇぇぇぇさっさと死ねぇぇぇぇ異端者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! うぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(許し難し!) うごぁぁぁあああああああああ!(許し難し!)」


 突如アルザードが発狂し始める。


 そして、次の瞬間、アルザードは魔法を唱えた。


「我が腕を巨人の拳へと変成せよ! 【タイタンフィスト】!!!!」


「あ」


 それと同時に、妾は小石に躓き、前のめりに転倒する。


 その直後――頭上を、大きな影が覆っていった。


 「いたたたた」と額を押さえて起き上がると、妾の頭上には……巨大な腕が伸びていた。


「……え?」


 巨大な腕は三階建ての建物を薙ぎ倒し……妾の目の前で、ドシャァァァァンと、ゆっくりと建造物が倒壊していった。


 その光景に、妾は思わず硬直し、唖然としてしまっていた。


「嘘……じゃろ……?」


 こんな魔法、あり得るのかの? 


 あの建物にはいったい、何人の人が住んでいて……何人の人が、犠牲に―――。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 その瞬間、周囲にいた人々から、悲鳴が上がった。


 アルザードはそんな人々の姿など気にも留めず、腕をシュルシュルと手元へと戻すのと同時に魔法を解除して、腕を元通りの大きさへと戻す。


「チッ。意図的に避けたのかどれとも幸運に守られて転倒したのかは分からぬが……今ので死んでいたら良かったものを……!」


「お主……この光景を見ても、何とも思わぬのか……?」


 阿鼻叫喚の悲鳴が舞い、逃げ惑う人々を背景に、妾は立ち上がる。


 そんな妾が投げた問いに対して、アルザードは首を傾げた。


「? ただ、高位人族(ハイエンシェント)の眷属どもが……人間どもが、逃げ惑っているだけのことだろう? 何を思えというのか」


「人々が、悲しんでおるじゃろう! 恐怖しておるじゃろう! 妾はこの世界に笑顔をもたらすために、剣を握ったのじゃ! こんな世界は、妾の求めている世界ではない! ふざけるのも大概にせよ!」


「グハハハハハハハハハハ!! いったい何を言うかと思えば、笑止!! 我輩や盟友殿にとって他者の悲鳴というのは、他にはない甘美な悦である!! 人々を笑顔にしたいだと? 吸血鬼はそんなことは言わぬ。吸血鬼にとって高位人族(ハイエンシェント)の眷属というのは、餌にすぎぬからだ!!」


「……よく分かった。お主は、妾の敵じゃ、アルザード」

 

 こんな奴に勝てるわけがないと、頭の中でもう一人の自分が言っている。


 だけど、見逃すわけにはいかない。妾の目指す理想の吸血鬼の姿に賭けて。


「覚悟せよ、吸血鬼。箒星、四番弟子、冥界の邪姫フランエッテ・フォン・ブラックアリアが……貴様を討つ」


「ようやく……やる気になったか。いいぞ、来い! その四肢を斬り刻み、じっくりと貴様を縊り殺してやる!」


「……じゃが、まずは……逃げる!」


 妾は再び走り出し、王都の中を走り抜けて行く。


 そんな妾に対して、アルザードは怒りの声を上げた。


「貴様……またかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 二度も我輩を愚弄しおってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 アイテムは一通り揃ったが、まだじゃ。こやつを倒すにはまだ、準備が足りぬ……!





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《ルナティエ 視点》



 わたくしは、闘技場の外に立ち、掲示板に貼られているトーナメント表を見つめる。


 次の試合でわたくしが勝てば……ロザレナさんと当たることは必然。


 わたくしが勝利すれば、残るのは、グレイレウス、メリアさん、ロザレナさんとわたくしの四人。


 剣王の座が、もうすぐ、見えてきましたわ。


(わたくしが、剣王……思わず笑ってしまいますわね)


 あの卑怯な手でしか勝利を掴むことができなかったわたくしが、称号を得られるだなんて、思ってもみませんでしたから。


 師匠で出会うことができなかったら、わたくしは今頃剣を握るのを諦め、ただの貴族令嬢として生きていたのでしょうか。


 マリーランド、夏の夜。心が折れそうになったあの日。


 師匠と出会うことができたのは、運命、だったのかもしれませんわね。


「これは酷い……急いで医務室に運ぶぞ」


 その時。騎士によって担架に乗せられたアルファルドが、こちらへと向かって来た。


 わたくしは、アルファルドに声を掛けることはしない。


 アルファルドも、薄っすらと目を開けてはいたが……口を開くことはしなかった。


 わたくしの横を、アルファルドが乗せられた担架が通り過ぎて行く。


 ……言葉は不要。後はわたくしが彼の分まで、勝つのみ。



「さて、続きまして―――第五試合! これで、一回戦は終了となります! ルナティエ・アルトリウス・フランシアVSヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリンー!!」



 わたくしは深く息を吐くと、闘技場の上へと上がった。


 それと同時に、向かいから、ヒルデガルトさんも闘技場の上に上がってきました。


「……」

「……」


 わたくしたちは何も喋ることはなく、一定の距離で向かい合うと、お互いを睨み付ける。


 ヒルデガルトさんがわたくしに怒る気持ちは、至極当然のもの。


 何たってわたくしは、クラスメイトを傷付けた男を従者とし、黒狼クラスに迎い入れたのですから。


 どんなにアルファルドが変わったとしても、過去にやったことは消えませんわ。


 被害者は、いつまでも、加害者を恨み続けるもの。


 アルファルドも過去の罪を認め、ヒルデガルトさんに恨まれることは当然のことだと理解して、先の戦いで現実と向き合った。結果、敗北。悪しきは破れ、正義が勝利した。


 わたくしは、ヒルデガルトさんに、アルファルドを許せとは言いませんわ。


 彼がやったことは大きな罪。それは間違いありませんもの。


(なんて……わたくしも偉そうなことは言えませんわね)


……わたくしだって、今に至るまで、散々卑怯な手を使ってきて多くの人間を泣かせてきましたわ。


 あのお馬鹿さんはもう忘れているのかもしれませんが、ロザレナさんにだって、わたくしは散々非道な行いをしてきた。


 彼女を貶めるようなことをクラスメイトたちに言わせ、精神を揺さぶり、決闘当日にアネット師匠を人質に取ろうとした。


 ロザレナさんはああいう性格ですから、もうそのことに関してわたくしに恨みは抱いていないのでしょうけど……普通の人は違う。


 アルファルドを憎むヒルデガルトさんのように、わたくしを恨んでいる人間はきっとどこかにいるはず。


 でも、わたくしは……自分の行動を間違ったものだとは思っていません。


 わたくしはどんな手を使ってでも、勝利を手に入れる。


 ルナティエ・アルトリウス・フランシアという人間は、そういう人間ですもの。


 過去。わたくしは弱く、力を持たなかった。だから、卑怯な手に固執した。


 だけど今のわたくしは、こんなわたくしを『天才』と呼んでくれた師の元で、様々な力を得ることができた。真正面から、戦うことができるようになった。


 とはいえ……勝てる目があるのならば、今でも卑怯な手を使うことは手の内に入っていますけれどね。使える力が増えたというだけで、わたくしの根本は変わりませんから。


 わたくしが目指すべき境地は―――【剣神】―――いいえ。剣の頂!


 わたくしはお父様もお婆様も超え、剣士として頂点を目指す!


 努力の天才が、本物の天才を打ち破れると、証明してやるために!!!!


 才能がない落ちこぼれでも、剣聖になれるのだと、証明してやるために!!!!


 箒星の三番弟子として……わたくしは、どんな敵だろうとも踏破して、上に登ってやりますわ!! この世に不可能はないのだと、証明してやります!!


 それが、わたくしの戦い!!



「―――なんか、ムカつく」



 その時。わたくしの顔を見て、ヒルデガルトさんが口を開いた。


 わたくしは首を傾げ、そんな彼女に言葉を投げる。


「貴方がわたくしに苛立つのも無理ありませんわ。お友達を傷付けられたんですものね。ですが、わたくしは言ったはず。黒狼(フェンリル)クラスの勝利のためには、アルファルドは必要不可欠だと。貴方はそれに対して、感情論で戦ってきた。わたくしはその意見に、なら黒狼(フェンリル)クラスを勝利させる他の策を出してみなさい、と、言いましたわよね。あの時の答えは……出せたんですの?」


「勿論、答えは出せたよ。だけど、あーしがムカついているのは……そこじゃない」


「は?」


「あーしは、あれだけ頑張って戦ったアルファルドを特に気にした様子も見せず、ただ自分のためだけに戦おうとしている今のあんたにムカついてんの。あんた、担架で運ばれてるアルファルドに顔も向けず、声もかけなかったでしょ。あんた、今、あーしとかアルファルドとかよりも、さらに先のこと……考えてたでしょ? 剣王になった後のこと、考えてたでしょ」


 あぁ、なるほど。よく見ていますわね。


 わたくしが口を閉ざし、ヒルデガルトさんと向かい合っていると……司会者がカウントを開始し始めた。


「さぁ、第五試合、カウントを開始します! 30! 29! 28―――」


「アルファルドは、あんたのために、戦い続けてたんじゃないの? あーしの手の内を明かすために、ボロボロになっても、戦い続けたんじゃないの?」


 ええ、その通りですわ。


「なのに、声も掛けないなんて、どういうつもり? なんであんたは、この場において先のことを考えてるの? あーしもアルファルドも、まるで眼中にないみたいじゃない」


「―――貴方、アルファルドのことを憎んでいたんじゃないんですの? まさか、彼が可哀想だとでも思ったのですか? 同情、しているんですの?」


「違う! やっぱりあんたって、ロザレナ級長を虐めてた時と変わらないんだなって、そう思っただけ! そんなに勝つことが大事なわけ?」


「勿論。大事ですわ」


「理解……できない……!」


 理解できなくて結構ですわ。


 わたくしがアルファルドに声を掛ける? 心配する素振りを見せる?


 そんなことをしたら、彼の覚悟に泥を塗ることになりますわ。


 アルファルドはわたくしに、ロザレナさんに勝てと、そう言った。


 わたくしはそれに応えた。


 なら―――言葉は不要。


 わたくしは、勝利だけを追い求め、剣を振る。


 ルキウスの想いも、アルファルドの想いも、この剣に全て載せて。


「あーしはね、答え、決めたよ。あーしは黒狼(フェンリル)クラスの副級長になる。副級長になって、今のクラスメイトだけで勝てる方法を探していく」


「そうですの」


「驚かないんだね」


「ええ。貴方がこの試験に現れたことで、何となく、そうではないかと思っていましたから。わたくしも……この剣王試験であることを決めようと思っています」


「あること……?」


黒狼(フェンリル)クラスの副級長のままでいるか、それとも天馬(ペガサス)クラスの級長になるのか……どちらかを」


「え……?」


「―――0! 試合開始です!」


 わたくしは腰にある鞘からレイピアを抜くと、ヒュンと空を切り……眼前に真っすぐと構える。


「箒星、三番弟子。ルナティエ・アルトリウス・フランシア。騎士の礼に則り、貴方をここで倒しますわ、ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン」


「……!! 絶対に……あんたを剣王にはさせないから……勝つのは、あーし!! あーしは剣王になって、黒狼(フェンリル)クラスの副級長になって……ベアトリっちゃんや弱い立場の人たちを泣かせない世界を創る!!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「フフフ……さて……あの化け物の弟子相手に、あの子がどこまでやれるのか……見物ねぇ」


 そう言ってジェネディクトは足を組んで、笑みを浮かべる。


 そんな彼を一瞥した後、ジャストラムは、ハインラインに声を掛けた。


「……ハインライン。アレスの弟子って、私とアーノイックとハインラインの他にいたっけ?」


「アーノイックが入門してすぐの時は、それなりにおったぞ。まぁ、アーノイックの強さを見て、ワシとお前以外は辞めてしまったがな」


「そっか。じゃあ、その辞めていった弟子の中で、剣の門下を開いている奴はいる?」


「いいや……いないんじゃないか? ワシは聞いたこともないが。というか、みんな高齢すぎて剣なんて持っておらんじゃろ」


「ハインラインはまだ剣を持ってる」


「アホ。ワシは特別なんじゃ」


「ふーん。じゃあ……【箒星】の師匠が、辞めていったアレスの門下ってことはないのかな……」


「……まぁ、確かに、お主の言いたいことも分かる。じゃが、ロザレナとかいう娘の剣技が、アーノイックの【覇王剣】に似ていたからといって、その考えはどうなのかと思うぞ。【覇王剣】はアレスが教えた剣じゃない。あれは、アーノイック自身が産み出した、わけのわからない技じゃからな」


「じゃあ、アーノイックの弟子の可能性は……」


「それこそあり得んじゃろ。あやつの弟子は、リトリシアだけじゃ。そしてリトリシアは貴族の嫡子に剣の稽古を付けても、本気で弟子を取ってはいない。アーノイックとリトリシアの弟子である可能性は低いじゃろ」


「うーん」


 ジャストラムは腕を組み、首を傾げる。


 そんな彼女に対して、ハインラインは髭を撫でた。


「まぁ、箒星とかいう弟子は、あのドリル髪の嬢ちゃんも同じじゃ。あと、あの生意気なマフラー小僧もな。奴らの剣を見て、誰の弟子であるか予想するのも手じゃろう」


「そうだね」

 

 そんな会話を交わす二人の横で、リトリシアは眉間に皺を寄せてルナティエを見つめていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《フランエッテ 視点》





「はぁはぁ……!」


 妾は再び細い路地に入り、道を疾走していく。


 生憎、アルザードは、足の速度は遅いみたいじゃ。


 曲がり角が多いこの路地を使えば、あやつは妾の姿を少しの間、見失うことになる。狭い路地故、あの巨大な拳の魔法も使用できぬじゃろう。自分が瓦礫に埋もれてしまうことになってしまうからのう。


 妾は角を曲がると、足元にある亀裂に、薔薇を差し込んだ。


「よし。これで、あとは……!」


「死ねぇぇぇぇ異端者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「え? ……って、ぬぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 その時。妾の背後から大量に、血の槍が飛んできた。


 妾は咄嗟にそれを避けようとするが、肩や横腹などに血の槍が刺さり、妾はその場に倒れて、のたうち回ってしまう。


「い……痛いのじゃぁぁぁぁぁぁ!!!! 嫌じゃぁぁぁぁぁぁ!!!! 痛いのは嫌なのじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「フフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 良き鳴き声だ、異端者!!!! さぁ、鬼ごっこは終わりだ!! 我輩に見せてみろ、貴様の変化属性魔法を!!!! 死者の領域に足を踏み入れし者の力を!!!!」


 妾は上体を起こすと、後ろへと後退する。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!! 来るなぁぁぁぁぁ!!」


 妾は袖の中にある薔薇を取り出すと、それをアルザードへと投擲した。


「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】!」


 アルザードに向けて飛ばした薔薇に向けて指をパチンと鳴らすと、薔薇はナイフへと姿を取り出す。


 アルザードはその光景に別段驚くこともなく。投擲されたナイフを難なく避けると、チッと舌打ちをした。


「その力は既に見ている……! そのような攻撃、我輩に効くとでも思っているのか? この我輩を馬鹿にしているのか、異端者ァ!!!!」


「妾がいったい何をしたと言うのじゃぁぁぁぁぁ!! 痛いのはもう、嫌なのじゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 みっともなく鳴き喚きながら、ブンブンと傘を振り回すと、アルザードは不愉快そうに目を細めた。


「姫君の名を騙っただけでなく、我ら吸血鬼の魔法を使用した挙句、そのような無様な最期を見せるとは……! 貴様は地獄の苦しみを与えた後に、我輩自らがその頭部をねじ切り、王都の中心にでも飾ってやろう……!! 死ね!! 異端者ァ!!!!」


 妾の元に向かって走って来るアルザード。


 妾は演技を止め……真顔になると、立ち上がる。


 そして、まっすぐと手を伸ばし、指をパチンと鳴らした。


「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】」


「あぐぁ!?」


 その瞬間、地面に仕込んでいた薔薇が真実の姿……ロングソードの姿となり、アルザードの股間に突き刺さり、胸、顎まで貫通した。


 串刺しになったアルザードは、いったい何が起こったのか分からない様子で、唖然としていた。


(グ、グロイ!!!! 普通の人間だったら死んでいるのじゃ!!!! 痛そうなのじゃ!!!! ち〇こは結構痛そうなのじゃ!!!! そこは狙ってやったわけじゃないのじゃぁぁぁぁ!!!!)


 だけど、当然、奴は普通の人間ではなかった。


 串刺しになっている状態でも、アルザードの手足は、ビクビクと動いていた。


 アルザードは妾の方にギョロリと目を向けると、鋭い眼光で睨んでくる。


「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「や、やっぱり死なない……! な、ならばッ!!」


 妾は、アルザードの頭上に向けて、大量の薔薇を宙に向け鳴きり投げる。


 そして、パチンと、指を鳴らした。


「我が魔法よ、真実の姿を取り戻せ―――――――【解放(リリース)】」


 その瞬間、先ほど通りで薔薇に変えたものが、大量に姿を取り戻した。


 脚立、林檎の入った樽、剣聖リトリシアの石像、宝箱……などなど。


 それはアルザードへと、容赦なく降っていく。


「なっ……!!!!」


「言ったであろう。妾は、貴様を討つ……と」


 そうして、ドッシャァァァァンと盛大な音を鳴らしながら、アルザードは押し潰されていった。

読んでくださってありがとうございました。

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