第10章 二学期 第316話 剣王試験編ー㉞ 第二次試験の合格者たち
「はぁはぁ……くそっ。このキールケちゃんが、ここまで苦戦するだなんて……!」
夜中の午前三時。山頂に、ボロボロのキールケが姿を現した。
キールケは、地面に走る亀裂を確認した後、座り込む俺を囲むロザレナ、グレイ、ルナティエへと声を掛けてくる。
「これ、なに? 何か、何度か山が激しく揺れてたみたいだけど。地震でもあったわけ?」
キールケのその言葉に、ロザレナは口を開いた。
「まぁ、そんなところよ。というか、あんた、随分と遅かったわね。最後の試練、そんなに大変だった?」
「あのさ、喧嘩売るなら後にしてくれないかなぁ、ロザレナちゃん? ムカツクんだけど。それで……何でお前らは、座っているメイドを囲んでいるわけ?」
「山の崩落に巻き込まれたのよ。だからみんなで、怪我がないか見ているの」
「ふーん? まぁ、お前のメイドなんて、どうでもいいけど。キールケちゃん、疲れちゃったぁ~。少し、休憩~」
そう言って、キールケはネックレスを渡すべく、遠くにいるアレフレッドの元へと歩いて行った。
グレイ、ロザレナ、ルナティエ、アルファルド。そして……キールケ。
これで、合格者は五名か。
残り、四名の合格者は、いったい誰になるのか。想像もつかないな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《アンナ 視点》
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私……アンナ・ハーネットは、山の洞窟の中を走っていく。
後ろから迫ってくるのは、アグニス。そして彼の背後をついていくメリアとジェシカ。
ここまで何とかひっそりと生き延びてきたけど、まさか、最後の最後で、あの優勝候補3人組チームと出くわしちゃうなんて……!!
私は元々、冒険者。速剣型、暗殺者タイプ。不意打ちして魔物を狩ることや地形を活用して戦うことには長けているけど、真っ向から戦うことは大の苦手。
なのに、あんな筋肉ムキムキの男に追われるだなんて……!
一人がここまで心細いとは、思いもしなかったわ……!
「ギークぅぅ~!! ミレーナぁぁ~!!」
タンク役のギークが攻撃を惹き付けて、私が物陰から不意打ち、そして、トドメのミレーナの弓矢。結局、私たち冒険者って、単騎で戦うよりも、チームで戦うことで才能を発揮する存在なんだ。
単騎で戦うことに長けている、【剣王】志望の剣士とは……端から土俵が違ったんだ……!
「でも、私だって、銀等級冒険者チームの一人なんだから……! 少しくらい、意地だってあるのよ……!」
私は足を止めると、腰から剣を取り出し、自身の元へと向かって走ってくるアグニスへ向けて構える。
「銀等級冒険者、アンナ・ハーネット! 大森林に住まう魔物を狩り、魔道具を発掘する探索者として! ここで、退くわけにはいかな―――――――――」
ドドドドドドドドと巨大な足音を立て、迫ってくるアグニス。
その姿を見て、私は引き攣った笑みを浮かべる。
「退くわけにはいかな……」
ドドドドドドドド。
「いかな……」
ドドドドドドドド。
「やっぱり無理~~~!! 怖すぎぃぃぃぃ!! オーガか、っての~~!!
「この俺がオーガだと? 失礼な女だ」
「……アグニスは角が生えているから。オーガみたいなもの」
「メリア。貴様だって、角が生えているだろう。他人事のように言うな」
二人のやり取りに、ジェシカが口を開く。
「あははは……私、逃げる子を追ってネックレスを奪わなきゃいけないなんて、ちょっと、複雑だなぁ……」
「……これも、チームが勝つため。それに、ネックレスはあと一つ。ちょうど、あの子が逃げ込んだこの山が、最終ゴール地点。あの子のネックレスを奪えば……私たちは、第三次試験に進むことができる」
「それは、そうなんだけど……」
「……ん?」
その時。メリアが足を止めた。それと同時に、アグニスとジェシカも足を止める。
私は何事かと、後ろを振り返った。
「え……?」
すると、私と3人の間に……いつの間にか、見知らぬ男が立っていた。
あれは……確か、クラウザー・トリステンっていう、受験者だったっけ……?
私が困惑した様子で彼の背中を見つめていると、クラウザーは両手を広げ、メリアに話しかけた。
「龍人族! 我らが眷属よ! 大人しく、我輩にネックレスを渡せ。これは、命令である」
「……何、君。渡せと言われて、大人しく渡すはずがないと思うんだけど」
「いいや、お前は我輩にネックレスを渡すしかない。子は、祖には敵わないからだ」
「……いったい、何を言って……うぐっ!?」
突如、メリアが胸を抑えて、苦しみだす。
その姿を見て、ジェシカは慌てて彼女の背中を摩った。
「メ、メリア!? どうしたの!?」
「……わ、わからない……だけど、あの男の言葉に逆らった瞬間、身体に激痛が……」
「我輩は貴様ら、魔族……いや、今の世では亜人というのか。亜人を創り出し祖たる吸血鬼。原初の種族である。故に、貴様ら眷属どもは、祖の命令には逆らえぬ。これが、この世の定め、である」
「……言っている意味が……分からない……!!」
メリアは大量の汗をかきながら、戦斧を持つ手に力を込めて、戦闘態勢を取る。
その姿を見て、クラウザーは「ほう」と目を細めた。
「我輩の言霊に逆えるのか。なかなかに強き魔族だ。流石は高貴なる姫君が創り出した眷属たちといえる……ふふっ、グハハハハハハハハハハ!!!! 吸血鬼の姫君、フランエッテ・フォン・ブラックアリア!!!! 彼女こそが、この世を統べるに等しい王の中の王!!!! あぁ、我が君よ、今いずこに……」
「なかなかに……イカれた奴のようだな。言っている言葉は分からぬが、ようするに、我らのネックレスを欲している、ということか」
「フランエッテって……満月亭にいる……【剣神】フランエッテのこと?」
ジェシカのその言葉に、クラウザーはギョロリと、血走った目を彼女へと向けた。
「け、けんしん、フランエッテ……だとぉぉぉ!? ふざけたことを言うな、高位人族の眷属どもめがぁぁぁぁッッ!!!!! あ、あのような、人族の身でありながら、我らが姫君の名を騙り愚弄する者を、ひ、姫君と間違えようとは……許し難しィ!! 許し難し許し難し許し難しィィィィ!!!!!」
クラウザーは突如、徒手空拳で、ジェシカへと襲い掛かった。
ジェシカは「わわっ」と驚きの声を上げながらも、クラウザーの拳を難なく避けてみせる。
「い、いきなり、なんなの!?」
「うごぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!(許し難しィィィィ!!) ぬごぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!(許し難しァァァァ) あばばばばばばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!(ユルシュアァァァ) ふんごぞぞぞぞぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!(許し難しです)」
ぶんぶんと拳を振り回し、ジェシカに襲い掛かるクラウザー。
その動きは私から見ても素人丸出しで、ジェシカも、簡単に避けてみせていた。
「ちょ、ちょっと、なんなの!?」
「何故だぁぁぁぁぁぁ!! 何故、我が怒りの拳が当たらぬぅぅぅぅぅ!!!!! んごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 許し難し許し難し許し難しィィィィ!!!!!―――――――――あ。我輩、そもそも拳で戦うことを不得手としている、魔術師だった」
「退いてろ」
「ぼがっ!?」
クラウザーはアグニスに殴り飛ばされ、壁へと激突する。
アグニスはため息を吐くと、手斧を肩に載せ、口を開いた。
「このわけのわからん奴からネックレスを奪えば、俺たちチームの合格は確定する。アンナ・ハーネット。運が良かったな。貴様は、見逃してやろう」
「い、いったい、何だったわけ? その男は……」
私が、壁際で巻き上がっている土煙へと視線を向けると、アグニスは首を横に振った。
「さてな。大方、薬か何かを服用して、脳みそが壊れてしまっている輩のように思えるが……ぬぅ!?」
突如、アグニスの脇腹から鮮血が舞い、手が突き出してきた。
背後に視線を向けると、そこには、吹き飛ばされていたはずのクラウザーが立っていた。
「――――――などと、怒ってしまったが、我輩は吸血鬼。闇の中において、最強を誇る種族である。下等な眷属風情に遅れを取ることなど、ありはしない」
「なっ……!? い、いつの間に……!!」
アグニスは手斧を振り、背後にいるクラウザーへ向けて攻撃を放つ。
クラウザーはそれを軽やかに避けると、爪を使って一閃、アグニスを斬り裂いてみせた。
血を吐き出し、地面に膝をつくアグニス。
ヒュンと爪で空を切ると、クラウザーは、メリアへと視線を向ける。
「さぁ……ネックレスを我輩に渡せ、龍人族」
「あぐぅ!!」
クラウザーの言葉を聞いて、再び苦しみだすメリア。
ジェシカはそんな彼女を庇い、背中にある青龍刀を抜いて、構えた。
だが――――――その時。アグニスは立ち上がり、大きく口を開いた。
「アンナのネックレスを奪い……メリアを連れて山頂に行け!! ジェシカ!!」
「で、でも、アグニスくんは!?」
「こいつの目的は、ネックレスだ……! 見たところ、メリアは体調が優れぬ様子……! 俺が囮となれば、お前らを追うことはしないだろう……! だからお前が先陣を切り、チームを勝利に導け、ジェシカ・ロックベルト!!」
「……で、でも……!!」
「大丈夫だ。俺も、さっさとこの男を倒して、山頂へと向かう。だが、万が一敗北した時は……お前たちに俺の想いを……ロザレナへのリベンジを託す。頼んだぞ」
「……ッ!!」
ジェシカは目元を拭うと、覚悟を決めた表情でコクリと頷く。
そして顔色の悪いメリアの手を引っ張り、私の元へと向かって走ってきた。
「……!! 結局、こうなるわけね……!! ホントに、運のない……!!
私は即座に足を動かし、洞窟の奥へと向かって走っていく。
そして、そんな私の背後を、ジェシカとメリアがついてきた。
「……お前たちなら……良い剣王になれる。やってやれ、ジェシカ、メリア」
そんなアグニスの言葉が聞こえてきたが……それどころじゃない私は、その言葉を無視した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《ヒルデガルト 視点》
――――あーしは、今まで、適当に人生を生きてきた。
好きなことをして、ただダラダラと生きる、そんな人生。
あーしは、何かに本気で打ち込む人間のことを、何処か冷めた目で見ていたのかもしれない。
どうせ何かを本気でやったところで、人一人が何かを変えられるわけじゃない。
努力なんてするのは格好悪い。人が生きる時間は有限なんだから、時間の無駄。
だったら、好きなことをしていた方がマシじゃない?
お友達とダベッて、服やバックでも買って、お菓子でも食べて。
分家の分家だし、次女だから、別に、次期当主として期待して育てられたわけでもないし。親も、あーしが何をしたって、何も言ってこないし。
今まで親に強制されたことは、貴族の息女の体裁を保つために騎士学校に入れって言われたこと。それくらい。
騎士学校でも適当にやるつもりでいた。だって、聖騎士なんてあーしは目指してないもん。むしろ、騎士になんか誰がなるかってーの、ってカンジ? 面倒臭い。
騎士学校でも適当にやって、尚且つ、親に見放されないようにある程度は成績を保って。
そしたら、案の定、成績最下位のクラスの黒狼クラスに配属されちゃった。まぁ、むしろ、好都合だったけど。
まっ、そんなカンジで? あーしは今まで、そんな風に、のらりくらりと生きてきたってわけ。
だけど……ある子と出会って、あーしは、気付いてしまった。
自分が、いかに恵まれた境遇にいたのか、ってことを。
『まぁ、そうですね。両国の歴史を鑑みれば、過去の戦争で帝国領土を蹂躙した貴方がた王国の人間を、あまり好きになれないのは事実です。ですが、それとは関係なく、私は単に怠け者が嫌いなだけなんです。前にも言いましたが、帝国では魔法の研鑽を怠る貴族の嫡子は家から追い出されるのが当然の世界なんです。それなのに、貴方がたは剣も魔法もろくに努力せずに、貴族という位で胡坐をかいて苦悩もなくのうのうと生きている。私はそれが許せないのです』
最初は、嫌味臭い子だなと、思った。
ベアトリっちゃんは、すぐに人に嫌なことを言うんだなって。
その時、あーしは、役立たずだと言って魔法兵部隊からアネットっちを排除しようとしたベアトリっちゃんに、すごく怒ってしまった。
王国の人間を羨んでいるから、あーしたちに当たっているんでしょ、って。
今思うと、あーしって、何も見えていなかったなって思う。
ベアトリっちゃんがどれだけの想いで今まで過ごしてきていたのか、アルファルドやダースウェリン本家に、どれだけ苦しんできたのか、理解できていなかった。
あの時、全部見えていたのは……アネットっちくらいだね、多分。
アネットっちは、ベアトリっちゃんが魔法の杖を壊した時だって、あーしみたいにただ激昂するだけじゃなく、ちゃんと、ベアトリっちゃんの内面を見て、あの子の行動がおかしいことに気付いていた。
その後、あーしたち魔法兵部隊は、ベアトリっちゃんと和解したけど……その時のあーしの態度を今思い返すと、偉そうで腹が立つ。
『いつも仏頂面で何考えているか分からなかったけど……今の感情むき出しのあ
んたの言葉なら、信じるよ。ベアトリっちゃんが、アネットっちに対して申し訳ないっていう気持ちがあることは理解した』
『頰、ぶっちゃってごめんね? でも、ベアトリっちゃんもあーしたちを信用して相談しなかったのはずるいよ? そんな背景があったなんて、フツー、想像付かないし!』
何が、信用して相談しなかったのはずるいよ、よ。
あの子は、誰にも相談できなかったから、抱えていたんでしょうが。
あの時の敵意向きだしのあーしに……相談なんて、できるわけなかったのに……。
「だから、あーしは、もう、間違えたくないの。ミホッちにも……託されたから」
あーしは洞窟の中を走りながら、ギュッと、手のひらの中にある三つのネックレスを握りしめる。
そして目を伏せ、この洞窟に至る前のことを思い返した。
『……ヒ、ヒルデガルトお嬢様……良かった、で、あります……』
『……え? ミ、ミホッち……?』
4時間前。森の中。
偶然、岩に寄りかかり、ボロボロになっているミフォーリア……ミホっちを見つけた。
あーしは身体を震わせ、彼女の元へと駆け寄り、背中を抱きかかえる。
『ミホっち、どうしたの!? な、何で、こんな傷……!』
『他の受験者に……襲われたであります……で、でも、ちゃんと守り抜きました……これを……』
『え……?』
ミホっちは、自分の分のネックレスと、もうひとつのネックレスをあーしに手渡してきた。
『な……なんで?』
『倒れている、ラティカ殿からネックレスを拝借したであります。でも……その途中で、ラティカ殿を介抱しているエリニュス殿とエイシャ殿に気付かれてしまい……こうなってしまったであります。でも、気合いで頑張りました。ヒルダお嬢様に、【剣王】になって欲しいでありますから……』
『ミホッち……!』
あーしは瞳を潤ませると、ミホっちの手をギュッと握りしめる。
『ごめん……ごめんね、ミホっち。あーしに付き合わせて、こんなところまで連れてきちゃって……! 挙句の果てに、貴方にこんな怪我を負わせてしまうとか……主人、失格だよね……』
『何を言っているでありますか。ヒルダお嬢様は、やっと、やりたいことを見つけられたのです。従者として、主人のやりたいことを応援するのは、当然であります。今のお嬢様は、本気で……【剣王】の座を目指しておられるのですよね?』
『うん……あーしは……ルナティエに勝って、アルファルドをクラスから追放して、ベアトリっちゃんのお母さんの治療のために、試験に合格して賞金を……違う。あーしは、友達が泣かないで良い世界を創るために、剣を執りたいの。この国の惨状で、友達が苦しんでいたのを知った以上、もう、見て見ぬふりはしたくない……! あーしは、誰かを守れるくらいに、強くなりたい……!』
『某は知っております。ヒルダお嬢様が本気を出したら、誰よりも才能がある人であることを。ご両親は、お嬢様に興味がないと、お嬢様はそう仰られるのでしょうが……某は、ちゃんと、お嬢様のことをお傍で見てきていますから、分かりますよ。ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリンは、【剣王】に足る才覚を持った、剣士であることを』
『ミホっち……!』
その時。ミホっちを探すエリニュスさんの声が、森の奥から聞こえてくる。
その声を聞いたミホっちは、あーしの肩を押して、ニコリと微笑んだ。
『行ってください、ヒルダお嬢様。ここで余計な体力は使わずに、第三次試験でルナティエ様を倒してきてください』
『で、でも、ミホっちを置いていくわけには……!』
『行ってください。ここで行かなきゃ、一生、恨むでありますよ』
あーしは涙を拭い、立ち上がる。
そして、ミホっちに力強く頷いた後、ゴール地点である山へと向かって走り出した。
回想を終え、今に戻る。
あーしは握りしめたネックレスをスカートのポケットに戻すと、次の試練の部屋へ向けて駆け抜けて行く。
さっきから何度か地震が有ったけど……足を止めるわけにはいかない。
この山に入って4時間。ロザレナっちやアネットっち、グレイレウス先輩、キールケ……ルナティエ、アルファルドたちは、既に頂上についたのかな。
だとしたら、6名合格で、残り3名。時間がない。
早く、この山をクリアして、第二次試験を合格しなきゃ……!
「―――――――そんなに早く走って、何処に向かわれるのかな」
その時。あーしの目の前に、髭を生やした初老のおじさんが現れる。
あーしは足を止めると、即座に、腰の鞘からサーベルを取り出した。
「何。邪魔なんだけど」
「そう邪見にしなさるな。私の名前は、ボルザーク。この山に潜伏して、ネックレスを三つ集めている受験者に会うために、ここで待っていたのですよ」
「ふーん。つまり、合格条件を満たしている受験者を狩るために、待ち伏せしていたってわけ」
「左様。我が主、アイリス様は既に戦意を無くされておりますが……私は執事として、彼女には第三次試験に進んでいただきたい。アイリス様は、強くなった自分を見て貰うために、兄君との再会を心待ちにしておられた。故に……貴方を倒し、私が、アイリス様を第三次試験の会場へと連れていきまする」
「それで連れて行っても、あんたのご主人様は喜ばないんじゃないの?」
「そうですな。ですが、従者としては、諦めるわけにはいきますまい」
「……そうだね。従者ってのは、そういう人たちだよね」
あーしは短く息を吐くと、サーベル剣に手を当て、構える。
「悪いけど、さっさと終わらせてもらうよ。あーしも、自分の従者と約束したから。【剣王】になるって」
「なるほど。どちらも譲れない願いがあるということですねな。では――――!!」
ボルザークも、剣を抜き、構える。
あーしたちはお互いに剣を構えて、睨み合う。
……おじさんから教わった剣。
さっさと終わらせるために……ここで使わせてもらう……!
雷属性魔法を使う者にとって、速度こそが、正義だ……!
「――――――――――――【雷鳴斬り】」
サーベル剣に雷を纏う。
そしてあーしは、瞬く間の一瞬で、ボルザークの背後へと移動した。
「かはっ!?」
胸を斬り裂かれ、地面に倒れるボルザーク。
傷自体は、浅くしたから、多分、大丈夫だと思う。
あーしは鞘に剣を納めると、そのまま地面を蹴り上げ、山頂を目指して走って行った。
ミホっち。ベアトリっちゃん。あーし、絶対に【剣王】になるよ。
そして、ルナティエに、あんたは間違っているって、分からせてやる。
勝つために何でもする、っていう、あの子の考え方も分かるよ。
だけど……友達を傷付けた奴を、クラスメイトだなんて認めることはできない。
あーしは、もう、間違わない。
適当人生はもう終わり。本気を出して……大事な人を守ることができる、剣士になる。
あの時、自分と引き換えにベアトリっちゃんを守った、アネットっちみたいに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《アネット 視点》
午前四時。空が、青み始めてきた頃。
崩落の確認をし終えて問題がなかったのか、剣王たちは全員、山頂で待機していた。
彼らが見つめるのは、山頂へと繋がる洞窟の入り口。
今か今かと、次の合格者を待っている様子だった。
そんな剣王たちの姿を、俺たち箒星の門下生は、俺が座る木の傍に集まり……静かに見つめていた。
「そろそろ、朝になりますわね」
ルナティエの言葉に、グレイはコクリと頷く。
「そうだな」
「現在の合格者は、ここにいるわたくしたち箒星の門下生と、テントで眠っているアルファルド、そして、同じくテントで休んでいるキールケの5人。残りの合格者の枠は、4人。いったい、次は誰が来ると思います?」
「あたしは、ジェシカとメリア、アグニス辺りは来ると思っているわ」
「フン。確かに、あのアホ女にはポテンシャルがある。だが、あいつはここぞという時に、力を発揮できるタイプではないと見ている。オレは……ラティカに期待している。いや、ルティカを復活させようとしているあいつに第三次試験に進んで欲しいと、そう思っている」
「ラティカ? 意外なところを推すのね。ルナティエ、そういうあんたは、誰が上がってくると思うの?」
「わたくしは……そうですわね。順当に考えれば、ロザレナさんの言っていた剛剣型3人組が、最も有力候補だと思いますわ。ですが、一人、もしかしたらと思う人物はいます」
「誰よ?」
「それは、ここに来る際に出会った―――――」
「はぁはぁ……山頂……! これで、第二次試験、合格ってカンジ……?」
その時。山頂に現れたのは、意外や意外、ヒルデガルトだった。
驚くロザレナとは反対に、ルナティエは、意味深に目を細めていた。
「ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン。ネックレスは三つ、集めているな?」
ルクスが近寄り、そう、ヒルデガルトに声を掛ける。
ヒルデガルトは荒く息を吐きながらも頷き、ポケットの中からネックレスを三つ取り出した。
「はい。これで、あーしは、第二次試験を合格したことになるんですよね?」
「あぁ。ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン。第二次試験、合格だ」
ふぅと深く息を吐き、ヒルデガルトは額の汗を拭う。
そして彼女は顔を上げると、ルナティエに鋭い目を向けた。
そんな彼女に対して、ルナティエも鋭い目を向ける。
「常に誰かに挑む側だったわたくしが、誰かに挑まれるというのは……なかなか、新鮮な経験ですわね。良いですわよ、ヒルデガルトさん。勝負といきましょう」
「ヒルデガルトさんが合格するとか……あたし的には、かなり、驚きなんだけど。あの子、黒狼クラスでも、そんなに目立った成績を持っていなかったわよね、ルナティエ?」
「そうですわね。ですが、ヒルデガルトさんは常に、授業を適当に済ませているような……そんな気配がありましたわ。わたくしたちが本当の彼女を知らなかったとしたら、相当な腕前を持っている可能性もあり得ますわよ」
「確か、あの子、魔術師だったよね? 剣なんて……使えるの?」
「剣王試験に出ているのですから、使えるのでしょう。恐らく、魔法剣型ですわね」
ロザレナとルナティエは、ヒルデガルトを見て、そんな会話を交わしている。
それにしても、ヒルデガルトが、剣王試験の第三次試験に進出か……この中で一番彼女と近い立ち位置にいた俺にとっても、かなり、驚くべき結果だな。
彼女は友達思いの良い子だが、積極的に剣を学ぶような性格ではないと思いっていたからだ。
やはり、ルナティエがクラスにアルファルドを連れてきたことが、彼女を変えたのだろうか。
「とうちゃーく!!!! メリア、大丈夫?」
「ゼェゼェ……ジェシカ、体力、ありすぎ……」
その時。ジェシカとメリアの二人が、山頂に現れた。
二人の姿を見て、ロザレナは顔を輝かせる。
「ジェシカ、メリア! やっぱり、あんたたちは合格するわよね! ……って、あれ? アグニスはどうしたの?」
「それは……」
ロザレナの言葉に、二人とも、不安そうな表情を浮かべて顔を合わせる。
そんな二人に、ルクスが近寄り、声を掛けた。
「ジェシカ・ロックベルトと……まさか、お前がここまでやってくるとはな、亜人。ネックレスはちゃんと、集め終わっているのだろうな?」
「……はい」
ジェシカとメリアが、六つのネックレスを渡す。
それを受け取ったルクスは、不愉快そうに眉を顰めると、フンと鼻を鳴らし去って行った。
俯き暗くなるメリアを見て、ジェシカが話題を変える。
「い、いやー、アンナさんの逃げ足、すごかったよねー! 流石冒険者っていうか、私たちよりも地形を理解しているっていうか! 途中で見失っちゃった時は、どうしようかと思ったけど……怪我を負って倒れているボルザークさんが私たちにネックレスをくれて、良かったよね! これで、私とメリアも、合格できたわけだし!」
「……そう……だね。あとはアグニスが戻ってくれば、彼も私たちのチームとして、一緒に第三次試験に進むことが―――――」
メリアがそう口にした瞬間、新たな人物が、山頂に現れる。
「これで……我輩は第二次試験を合格した、ということになるのか?」
「う、嘘……!」
そこに現れたのは、見知らぬ男。
確か……クラウザー・トリステンという名の男だったか。
彼は首をコキコキと鳴らし、不気味な笑みを浮かべる。
クラウザーの衣服は……血で真っ赤に染まっていた。
「――――――クラウザー・トリステン。ネックレスは、持っているな?」
「ええ、ええ。持っていますとも。こちらでよろしいのかね?」
そう言って、クラウザーは血まみれのネックレスを、ルクスの手のひらの上に置く。
ルクスはそれを見て眉をひそめると、彼に鋭い視線を向け、口を開いた。
「お前……まさか、受験者を殺してはいないな?」
「興が乗り、多少、遊んでしまったが……ええ、ええ。殺してなどいな……いませんよ。何だったら、確認して見てきても良いですよ? 我輩がネックレスを奪った、獣人族は、6階辺りで倒れていますから」
ルクスはその言葉を聞き終えた後、アレフレッドとロドリゲスに視線を向ける。
二人は頷くと、クラウザーの言葉が真実かどうか確認するため、そのまま洞窟の中へと入って行った。
「これでお前が人を殺していない確証が取れたのなら、クラウザー・トリステン。お前を第二次試験合格者と認めよう」
「人間如きが、夜の支配者たる我輩を見定めるというのか。フフフ……高位人族の眷属どもがぁ……許し難しィ!! おっと。怒りで我を忘れるところであった。いかんいかん。これではバド殿に叱られてしまうではないか」
何やら一人でブツブツ呟いているクラウザー。
何だ……あの男……何か、やばそうな奴だな……薬でもやっているのか……?
俺がドン引きしている様子でクラウザーを見つめていると、ジェシカがクラウザーに詰め寄り、大きく口を開いた。
「君……もしかして、アグニスくんを倒したの!?」
「アグニスくんとはいったい誰なのか、我輩には分かりかねるが……もしや、あの獣人族のことか? 高位人族の眷属よ。我輩は確かに、あの獣人族を始末した。だが、これはそういった、遊び、なのであろう? ならば何も問題はないはずだが? 我輩はルールを逸脱してはいない。うむ。半殺しにはしたな。我輩は牛肉が好きです」
「は、半殺し!? そんなに服を血だらけにしているってことは……彼を、必要以上に痛めつけたってことだよね!? 何で、そんなことするの!?」
「何だ、貴様は。この我輩に、邪魔な蠅を加減して殺すなと、そう言いたいのか?」
クラウザーの目が妖しく光り、細くなる。
そして奴は……右腕を上げた。
その腕には、何か、嫌な気配が宿っていた。
俺と同様にその気配に気付いたロザレナとメリアが、ジェシカを守ろうと、動き出す。
「ジェシカ!!」
だが――――――クラウザーが何かする前に、洞窟から、アレフレッドとロドリゲスが出てきた。
彼らの肩には、血まみれになって気絶している、巨大な大男……アグニスの姿があった。
その光景を捉えたクラウザーから、殺気が消え失せる。
ルクスはアグニスに近寄り、呼吸を確認すると……クラウザーに顔を向けて、口を開いた。
「クラウザー・トリステン。お前を、第二次試験合格者と認めよう」
「フフフ、どうも」
「これで、この場に、第三次試験へと進む9人の受験者が揃った! ただいまを持って……第二次試験は終了とする!!!!」
こうして――――――第二次試験は幕を下ろした。
俺はチラリと、クラウザーへと視線を向ける。
奴はヘラヘラとした表情で、ルクスを見つめていた。
さっき感じた、異様な殺気。
恐らく、あの男……ただ者ではない。




