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第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第309話 剣王試験編ー㉗ オレは自分の道を征く


「……まだ、立つ気なのか、貴様……!」


 ジークハルトは、目の前でフラフラになりながらも立ち上がるアルファルドを見て、戦慄した様子を見せる。


 アルファルドは額から流れる血を腕で拭うと、ギラギラとした目をジークハルトへと向けた。


「だから、言ってんだろうがよぉ……! オレ様は、四肢が残り続ける限り、意識がある限り、止まることはしねぇってなァ……!」


「意味が、分からん……! 何故、お前はそうまでして戦い続ける? とうに、お前の気力は限界のはずだ……! 血を流しすぎて、かろうじて意識を繋いでいる状態だろう!?」


「オレ様にだって、叶えたい願いがあんだよ。王宮でぬくぬくと平穏に暮らしていた王子サマには分からねぇことかもしれねぇがなぁ……!」


「なんだと!?」


「世の中、権力を持った馬鹿どものせいで、泣いている人間が多いんだよ。いい加減、誰かが、この不幸の連鎖を止めなきゃいけねぇ。テメェら王族どもが跡目争いで殺し合いをしている間も、何処かで誰かが泣いている。オレ様は……いや、オレ様の相棒は、それを止めようとしている。だったら、オレ様も従者として、命くらい賭けねぇとなぁ!!」


 そう叫んで、アルファルドは剣を上段に構え、ジークハルトへと斬りかかった。


「随分と殊勝になったものだな。私が知っているお前は、むしろ泣かしている側の人間だったと記憶しているが?」


「そうだなぁ! キヒャヒャヒャヒャ!! 違いねぇ!!」


 アルファルドが振り降ろした剣を、ジークハルトは俊敏性を強化する補助属性魔法【スピードエンハンス】を発動させ、軽やかに避けてみせる。


 そして、ジークハルトはアルファルドの横に逸れると、彼の無防備な背中に目掛け峰打ちを放った。


「ぐはっ!?」


 血を吐き出し、倒れるアルファルド。


 そんな彼に向けて、ジークハルトは声を掛ける。


「降参しろ。散り際を見極められない剣士ほど、惨めなものはないぞ」


「ゼェゼェ……惨めで結構だ……! 恰好の良さなど、どうでもいいぜ……!」


 アルファルドは、自身の肩にあった傷口に手を突っ込み、傷口をこじ開ける。


「ぐっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「!? いったい、何を……くッ!?」


 アルファルドの傷口から飛び出した血が、ジークハルトの目元に降りかかる。


 視界を奪われたジークハルトは、急いで目元を拭い、目を開けるが……既に、アルファルドは、ジークハルトに向かって飛び掛かっていた。


「姑息な真似を……!」


「キヒャヒャヒャヒャ!!!! 卑怯・姑息、結構だぜ!!!!」


「こんな不意打ち、防御力を強化する【ディフェンスエンハンス】を発動させれば……!」


 ジークハルトは魔法を唱えようとするが……アルファルドと何度も斬り合っている内に、魔力切れを起こしていた。


「なっ……!? 魔力が……!?」


「おいおい、種切れかよ、王子サマ!? キヒャヒャヒャヒャ!!!!」


「まさか貴様、これを狙って……!?」


「そうだぜ、と、言いたいところだが……そいつは単なる偶然だ。テメェの魔力の底なんざ知るか。単に、粘ったオレ様にツキが回ってきたってところだな!!!!」


 アルファルドが振り降ろした剣が、ジークハルトの頭上へと向かっていく。


 だが――――――その剣がジークハルトに届くことはなく。


 アルファルドは「カハッ」と血を吐き出し、手から剣を落として、地面に倒れ伏した。


 ハァハァと荒く息を吐くジークハルトは、目の前で倒れているアルファルドを見つめ、汗を拭う。


「体力の限界を迎えて、気絶したか。どうやら……運は私に味方したようだな」


 そう言って、ジークハルトは、ネックレスを奪おうと、倒れ伏しているアルファルドに向け手を伸ばす。


 だが……途中でその手を引っ込め、彼は、深くため息を吐いた。


「……お前には何も目標がない、お前は空っぽの人間、か。お前の言う通りだな、アルファルド。私は……最早、自分が何を成すべきなのかが分かっていない。兄という指標を失い、剣を握る意義も見えなくなった……ただの空虚な人間だ」


 そう口にした後。ジークハルトは自身の首からネックレスを取り、それを倒れ伏すアルファルドの身体へと放り投げた。


「お前から、どんな状態になっても諦めない信念を教わった。それを、授業料代わりにくれてやる。……今こうしている間にも、泣いている民がいる、か。今の私に、いったい何ができるというのか……ジュリアンとエステリアルの戦いに、配下もいない私が挑んだところで……そうだろう、兄上……」


 そう言い残して、ジークハルトはその場から去って行った。



 




「――――――アルファルド!」


 急いでアルファルドの元へと駆けつけたルナティエは、ボロボロになっている彼の前でしゃがみ込み、その傷の深さに絶句する。


「馬鹿! 何をやっているんですの!? 勝てそうにない相手には、ヒットアンドアウェイで距離を取りつつ逃げなさいと言っていたでしょう!? なのに、何で、こんな大怪我を……!」


「ゼェゼェ……ルキウスの奴から……ネックレスは奪えたのか? クソドリル」


「ええ……無事に、彼のネックレスは手に入れましたわ」


「だったら上等だ。ほらよ」


 アルファルドは手に握っていた三つのネックレスをルナティエへと渡す。


「奴らから手に入れておいたぜ。ひとつは、クソ王子のムカツク慈悲によるもんだが……まぁ、ネックレスはネックレスだ。これで、お前は第三次試験に進めるな。ハッ。誰よりも早いんじゃねぇのか? どうせだったら、一番に山頂を目指して来いよ」


「……! ありがとう、アルファルド……! 今、治療を……!」


 ルナティエはアルファルドからネックレスを受け取った後、治癒魔法を使用しようとする。だがそれを、アルファルドは手で押しとどめた。


「馬鹿野郎。ここで無駄な魔力を使用すんじゃねぇ。テメェはオレ様を置いて、さっさとゴールの山頂を目指しやがれ」


「何を言っているんですの!! 貴方も一緒に行くんですわよ!!」


「その三つのネックレスの内のひとつは……オレ様のモンだ。現状、ネックレスの数はお前で三つ、オレ様で二つ。オレ様はどっちみち、合格条件を満たしていねぇよ」


「なっ……!」


「奴らのうちの一人が、既にネックレスを奪われていた。だから、四人分のネックレスを手に入れることはできなかった。……ってわけだ。おまけにルキウスの仲間にはジークハルトの奴がいた。流石にあいつ相手にはオレ様の姑息な手も通用しなかったぜ。ったく、割に合わねぇ仕事だったよ」


「アルファルド……」


「だから、オレ様の働きを無駄にすんじゃねぇよ。さっさと行って、さっさと【剣王】になって来い。余った二つ分のネックレスは……無駄な敵との戦いを避ける撒き餌にでも使って、有効に使え」


 ルナティエは立ち上がると、アルファルドの肩を支え、持ち上げた。


 アルファルドはその行動に、驚きの表情を浮かべる。


「はぁ!? テメェ、何やってんだ、ブッ殺すぞ!?」


「黙っていなさい。貴方を安全なところへと運び、手当しますわ。その後に……わたくしが、ネックレスをひとつ、回収してきます」


「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、クソドリル! 第三次試験まで無駄な戦いを避けるって言ってたのは、テメェだろうが!」


「極力、弱そうな人物を選んで狙えば……無駄な消耗を抑えることは可能ですわ。それまで、リタイアは絶対に許しませんわよ。貴方には、剣王になる資格がある。こんなところで貴方を見捨てはしませんわ……絶対に」


「クソが……テメェのそういうところは、今後、絶対に足枷になるぜ。リューヌにも言われてただろ。テメェは甘ちゃんだと」


「だとしても……わたくしは、わたくしのために働いてくれた従者を、見捨てはしませんわ。わたくしの騎士道精神に反しますもの」


「……とことんテメェは馬鹿野郎だな……クソドリル」




 ルナティエ・アルトリウス・フランシア


 ネックレスを三つ獲得したことにより、第二次試験 合格課題を達成




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《グレイレウス 視点》



「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 鎖鎌を持って斬りかかってくるエリニュス。


 オレはその剣を、身体を逸らし、難なく避けてみせる。


「……鈍いな」


「……!? チッ! 舐めんじゃないよ、マフラー野郎!!」


 いちいち挑発に乗ってくるとは、この女、単純馬鹿だな。


 怒りに囚われた剣程、軌道を読みやすいものはない。


 連続して斬りかかってくるエリニュスの鎌を、オレは全て最小限の動きで避けてみせる。

 

 すると、背後から、踊り子の恰好をした女……エイシャが、湾曲した刀を両手に持って、舞うようにして攻撃してきた。


「ほう? 面白い動きをする奴だな」


 オレは側転をして、その斬撃を避けてみせる。


 するとエイシャは面白そうに目を細めた。


「あら? 半信半疑だったけど……本当に速いのね、貴方」


「フン。貴様のような曲芸師よりは早く動ける自負はある」


「足元がお留守だよ!!!!」


 その時。エリニュスの叫び声と共に、オレの足に鎖が巻き付いてきた。


 エイシャの剣を避けた隙に、足を狙われたか。


 やはり、多対一だと、歩法を使わずに相対するには限界があるようだな。


「ラティカ! 奴の足は拘束したぞ! 今だ、やれ!」


「はい!」


 ラティカと呼ばれた鉱山族(ドワーフ)の女は、腰を低くし、手に持っていたハンマーを構える。


 すると、奴のハンマーに、電気が漂い始めた。


「ラティカ・オーギュストハイム、か。察するに、お前は、元【剣神】ルティカ・オーギュストハイムの親族か。奴は、ハンマーで風を巻き起こすことに長けていた戦士だと聞いていたが、お前は雷、というわけか?」


「!? 貴方、お姉さまを知っているのですか……!?」


「奴に一度、喧嘩を売ったことがある。オレはいずれ、あの女を倒し、【剣神】を拝命するつもりでいた」


「……ッ!! 貴方程度の人間に、お姉さまを破れるはずがありません!! 【雷鳴乱舞】!!」


 オレに目掛け、雷を纏ったハンマーが振られる。


 単純に考えれば、魔法剣型と見えるが……あの女は詠唱を唱えなかった。恐らくあの雷は、武器による効果と見た方が良いだろう。


 足元は鎖によって縛られ、目の前には、巨大なハンマーが迫ってきている。


 絶体絶命の窮地、という奴か。


「……くだらん。この程度で、オレを倒すことができると思っているのか」


 オレは、足元にある鎖を拾い上げると、力いっぱいに、エリニュスをラティカへと向けて引っ張った。


「ふん!!!!」


「え? って、はぁ!?」


 まさか、速剣型の剣士にそんな荒業ができるとは思っていなかったのだろう。


 鎖鎌を掴んだままのエリニュスは、ハンマーを構えるラティカの前へと引っ張られる。


「ちょ……!?」


「わわわっ、エリニュスさん!?」


 突如味方が前に出て来たことで、ラティカはハンマーを途中で止める。


 そして、エリニュスとラティカはお互いに額をぶつけ、転倒した。


 その隙に、オレは即座に足首を縛っている鎖を小太刀で切断すると、背後にいるエイシャへと向かって走って行った。


 エイシャは目の前の光景を見て、困惑の声を上げる。


「なっ……!? 貴方、速剣型だけじゃなくて、剛剣型の能力も持っていたというの!? 鎖を引っ張って、人一人を動かすなんて……! まさか、闘気を使ったってこと……!?」


「フン。オレは闘気など使ってはいない。ただ、己の筋力のみでエリニュスを動かしただけのこと。オレは、生半可な鍛え方はしていないからな」


「素の筋力だけで……!? そ、そんな、馬鹿な……!?」


 オレは……ルナティエのように何でもそつなくこなせるわけでもなければ、ロザレナのように剛剣型の才と特別な魔法因子を持っているわけでもない。


 オレにあるのは、この身と一点に特化した速さのみ。


 剣速と俊敏性を上げるためには、腕と足の筋肉が必要不可欠だ。


 だが、不必要に筋肉を盛り上げるだけでは、体重が重くなるだけで、逆に速剣型の首を絞めることに繋がる。


 必要なのは、身体を守るための分厚い筋肉ではなく、細く締め上げた無駄のないしなやかな筋肉。


 だからこそオレは、師に【瞬閃脚】の習得を課された時、自身の筋肉を鍛え上げることに躍起になった。


 オレは同年代の男よりも背が小さく、華奢だ。


 アルファルドのように背もなければ、アグニスとかいう男のように体格も良くはない。他人よりも大きなハンデがある。


 幼い頃。姉に憧れ、『弧月流』の門下を叩いた時。師範に、お前には剣は向いていないからやめたほうが良いと、そう言われたことがある。


 背が低い者には、剣の道は不向きだ、と。


 オレはその時、悔しくてたまらなかった。


 何故、産まれ持った体格だけで、夢を諦めなければならないのか、と。


 だからオレは、一人で剣の修行に明け暮れた。


 どうせ誰かに剣を教わったところで、オレには剣は向かないと、そう言ってくるだけだからだ。


 だが――――――数年後。オレに、憧れの人ができた。


 誰よりも強く、誰よりも尊敬できる、神にも等しい我が師匠。


 我が師は、長年のオレのこの悩みを聞いて、こう言ってくださった。


『はぁ? 体格なんて、些末な問題にすぎねぇよ。逆にお前は、その背の低さを活かした戦い方を覚えていけ。目線が違うだけで、相手の懐に入りやすくなったり、隙を突きやすくなるもんだ。良いか、グレイ。剣の道に向いていないかどうかは、限界まで鍛えてから言え。まだ成長の余地がある時点で、体格のせいにするのは百年早えよ』


 仰る通りだと思った。オレは……過去に言われた言葉を引きずり、万が一の時のための言い訳にしていただけだった、と。


 そして師は、続けてこう仰った。


『お前は、俺が認めた、俺の弟子だ。俺の弟子である以上、けっして自信を無くすな。俺が止めても、【瞬閃脚】を会得できると思ったからこそ、お前は俺に歯向かったんだろ? なら、自分を信じて前を進んで行け。お前ならできるさ、グレイ』


師匠(せんせい)~~~!!!!』


『どわぁ~~!? 抱き着いてくんじゃねぇ!!』


 オレにとって、我が師は、誰よりも尊敬し、誰よりも崇めている人物。


 我が師=我が神だ。


 我が神の期待を、裏切るわけにはいかない。


「……!! 私は、一族の復興を夢見て、【剣王】を目指しているの……! 貴方に敗けるわけにはいかないのよ!!」


 エイシャは曲刀を宙に投げると、クルクルと一回転し、優雅に曲刀をキャッチして、両手の剣を構える。


 オレは小太刀を顔の前で構えると、マフラーを靡かせながら、走り抜ける。


「オレにも【剣王】にならなければならない理由がある……いや、違うな。【剣王】になるのは、もう既に決まっている、決定事項だ。オレが目指すべき境地は、その向こう側だ」


 オレは……姉さんの意志を受け継ぎ、姉さんの夢を叶えるために、【剣神】を志した。


 だが、それは姉さんの夢を借りただけの、借り物でしかない。


 無論、姉さんの夢を叶えたい想いはある。【剣神】は、オレにとって到達点のひとつだ。


 だが……修行の最中、師匠に言われたのだ。【剣神】になった後、お前は何を成したいのか、と。どんな人間になりたいのか、と。


 オレ自身の夢は何か。オレは何を成したいのか。


 それをずっと、オレは考えていた。


 姉の夢を叶え、母と妹を救い、その後、オレは何を成すのか。


 『私はいつでもそこにいる。貴方の首に巻かれているマフラーと共に、貴方と一緒に夢を追いかけ続ける。貴方はいつまでも私の自慢の弟だよ、グレイレウス。それだけは……忘れないで』


 砂となって消える間際の、ファレンシアの言葉が脳裏に浮かぶ。


 ……そうだな。オレは、姉や師匠(せんせい)に恥じない生き方をしたい。


 姉の夢を叶えた後は、オレ自身の夢へと向かって、走って行きたい。


「【黒影・烈波斬】」


 黒い影を刀身に纏い、高速で小太刀を横に振り、斬撃を飛ばす。


 エイシャはその斬撃を防ごうとするが……瞬きの間の速度で放たれた斬撃に対処することができず、胸に受け、吹き飛ばされた。


 背後にある大木に激突した後、彼女は目を剥き、血を吐き出した。


「カハッ!? な……何、今の、剣技、は……?」


「まだ意識があるのか。やるな。やはり、オレの弱点は、剣の威力がない点か。それなりに鍛錬を積んでいる相手では、オレの【烈波斬】では威力が伴わない。その点は、純粋な剛剣型であるロザレナを羨ましくも思えるな」


「エイシャ!? くそ……!!」


 次に、エリニュスが、鎖鎌を持って突進して来る。


 オレはその光景を見て、フンと鼻を鳴らした。


「歩法を使わずに一人目を倒すことには成功した。これで、自分に課した一つ目のノルマは達成できたな」


「ノルマだって!? 小太刀一本で戦っているところと言い、あんた、まさか私たちを使って、修行でもしているつもりだったの!?」


「あぁ。オレが本気で戦うのは、箒星の門下生のみ。それ以外の連中に、無駄な力を割くつもりは毛頭ない」


「ば……馬鹿にしてぇぇぇ!!」


 エリニュスは鎖鎌をこちらへと投擲してくる。


 オレはそれを、身体を逸らし、軽く避けてみせた。


「ひとつ、アドバイスをしてやろう。戦いの最中、感情を動かすな。怒りは攻撃の軌道を単調にする。……フッ。以前まで、激しく感情を動かしていたオレが言うべきことではないのかもしれないがな」


 ロザレナの薬草を獲りに大森林に行ったとき、オレは何度も感情を激しく動かしては、師匠(せんせい)に注意されていたな。


 ハインラインとその孫アレフレッドを挑発し、ルティカに激怒し、ジェネディクトへ不用意に敵意を向けた。


 今思えば、全て己の未熟さが招いた結果だ。


 あの時のオレがハインラインやルティカ、ジェネディクトに挑んでも、勝てるわけがないというのに。


(今のオレでも、奴らにはまだ届いていないだろう。だが……もう少しだ。きっと、奴らの背中は、見えてきている)


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 エリニュスは鎖を操り、連続して、オレに鎌を投擲してくる。


 オレは短く息を吐き、意識を集中させた。


「【明鏡止水】」


 この技は、ロザレナが使用する【心眼】と似たような能力といえる。


 【心眼】は相手の闘気や魔力の流れを読むのに対して、【明鏡止水】は相手の動き……空気の流れを読む。


 師匠(せんせい)曰く、【心眼】は剛剣型向きで、【明鏡止水】は速剣型向きらしい。


 オレは、エリニュスが放った攻撃を全て、最小限の動きだけで回避してみせた。


 歩法を使用せずに避けてみせたオレに対して、エリニュスは口を大きく開け、唖然とした表情を見せる。


「うそ……だろ……?」


「敵を前にして隙を見せるな。……これも、師匠(せんせい)に教わったことだな」


 オレはエリニュスに向けて、小太刀を投擲する。


 エリニュスはその不意打ちに驚くが、器用に鎖を手繰り寄せ、鎖の穴で小太刀を防いでみせた。


 だが……オレは小太刀を投げるのと同時に、エリニュスへと接近していた。


 投擲した武器に敵の視線を集めさせて、オレは姿勢を低くして相手に迫る戦方。背が低い者ならではの戦い方といえるだろう。どちらかというと、暗殺者の近い戦い方のように思える。


「なっ……!?」


「眠っていろ」


 オレはエリニュスの顔を掴むと、地面に叩きつけた。


 脳震盪を起こし、気絶するエリニュス。


 これが闘気を持っていた剛剣型の剣士なら、この程度で気絶などしないだろうが……速剣型相手なら、オレのこの戦い方も通用するな。


「ノルマ2、新しい戦い方の実戦に成功。次、ノルマ3。双剣に慣れているオレが、小太刀一本で3人の敵を倒すこと、だ」


 オレは小太刀を、奥に立っているラティカへと向ける。


 するとラティカは眉間に皺を寄せ、下唇を噛んだ。


「何なのですか、貴方は……! 何で、たった一人で、あの二人を倒すことができたのですか……! 私は、ルティカお姉さまを再び【剣神】の座に戻すために、ここにいるのです!! 妹である私が戦士として成長すれば、きっとお姉さまも再び立ち上がる気になるはず……! だから……!」


「ほう? お前が生き残れば、ルティカが復活するかもしれないのか? それは面白そうな話だが……オレには関係のない話だな。お前をここで降し、オレは先に第二次試験を終わらせてやる」


鉱山族(ドワーフ)の姫、【風神】ルティカの双子の妹、【雷神】ラティカ!! いざ参る!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 【雷鳴乱舞】!!!!」


 再び巨大なハンマーに電気を纏うラティカ。


 ……見たところ、ラティカはルティカ同様、剛剣型、か。


 一撃でも当たれば、闘気を持たないオレは終わりだな。


 だが……当たらなければ、どうということでもない。

 

「うりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」


 無我夢中でハンマーを振り回すラティカ。


 すると、ハンマーが振られる度に、周囲に電気の渦が舞い起こる。


 実力的に、エリニュスやエイシャよりもラティカの方が強そうだな。


 元【剣神】ルティカは、ハンマーを振り回すことで天候を操り、嵐を呼び起こすと言われているが……まだ、その域には達していないようだな。


「【縮地】」


 オレはつま先で地面を二度叩き、【縮地】を発動させる。


 そして、続けて、分身を発生させた。


「【影分身】」


 ラティカの周囲を駆け回りながら、影分身が飛んで行く。


 その光景を見て、ラティカは、ハンマーを振り上げた。


「ぶ、分身を作ったところで!! 全て潰してやれば同じこと、です!!」


「剛剣型はどいつもこいつも脳筋しかいないようだな」


 剛剣型の剣士は闘気を纏い、攻撃をガードすることができるが……当然、常時全身に纏うことはできない。


 速剣型は、スピードで翻弄することで、剛剣型の闘気ガードの隙を突くことができる。だからこそ、速剣型は剛剣型の弱点とされている。


「お前の敗けだ。ラティカ・オーギュストハイム」


 オレはラティカの背後に現れ、背中を斬りつけた。


「ぐっ!?」


「流石に剛剣型相手では、一撃では倒れないか。なら……」


 オレは瞬時にラティカの周囲を往復して、その身体中を斬りつけていった。


 全身傷だらけになり血だらけになったラティカは、ハンマーを杖にして、身体を支える。ゼェゼェと荒く息を吐いていることから、その体力は尽きかけていた。


「はぁはぁ……! わ、私は……ま、敗けるわけに、は……! お姉さまの、ため、に……! ぐはっ!!」


 血を吐き出し、ラティカはその場に倒れ込む。


 オレは【縮地】を止めてラティカの前に現れると、彼女を見下ろし、口を開いた。


「姉のため、か。その気持ちは分からないでもないな」


 そうしてオレは、襲撃者3人を撃破してみせた。


 その後、3人の懐を漁り、ネックレスを回収する。


「……ん?」


 どうやらエイシャは先に他の受験者を倒していたのか、ネックレスを二つ持っていた。


 チームを組んでいないオレに必要なネックレスは、三つだけだ。


 エイシャの二つ、ラティカ、エリニュスの分を含めると、ネックレス四つ。


 一つ、余分だな。


「……お前がルティカを復帰させられるのなら、期待したいところだが……」


 オレはチラリと倒れ伏すラティカを見下ろす。


 ルティカは、いずれ、オレが倒したいと思っていた相手。なら、このネックレスをラティカにやるのも手ではあるが……。


「……フン。姉という言葉に、感化でもされたか。オレもまだまだ甘いな」


 オレはネックレスのひとつをラティカへと放り捨て、その場を去って行った。


「オレは【剣神】になった後、自分の夢を追いかける。【剣聖】を……目指す。我が偉大なる師と姉に、恥じない人間になるために」


 


 グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロス


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