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第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第308話 剣王試験編ー㉖ 貴方の想いはこのわたくしが受け継ぎますわ


《ルキウス 視点》



「たとえ敗北しようとも、何度でも挑み続けてやりますわ!! 敗けることなんて、怖くはありませんから!!」


 そう言って、こちらへと走ってくるルナティエ。


 その目には、一切の恐怖も迷いもない。ただまっすぐと、踏破すべき敵である僕を見据えている。


 深い覚悟が灯った薄紫色の瞳。


 先ほどの言葉から察するに、恐らく彼女は、今まで何度も敗北してきたのでしょう。


 いくら僕が特級魔法の魔道具(マジックアイテム)を持っていると脅しをかけようとも、彼女の足が止まることはない。どんな脅しにも、彼女は屈しない。あの少女は、端から、敗北というものに恐れを抱いていないのだから。


 ―――――――ええ、ええ。分かっていますとも。


 貴方にも、譲れない想いがあるのですよね。絶対に勝たなければならない理由があるのですよね。覚悟が……あるんですよね。


 ですが、それは、こちらも同じこと……!!


 僕は、ここで何としてでも、貴方に勝たなければならないのです!!!!


 アーノイック・ブルシュトロームの孫、偽りの英雄の末裔として!!!!


 僕は、貴方に勝利します!!!!!


「ぐっ……うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


 痛む右腕を無理矢理動かして、僕は、左指に嵌められていた使用済みの指輪を全て地面に落とします。


 そして、懐から、新たな魔道具(マジックアイテム)の指輪を取り出し、左手の五本の指へと装着しました。


「勝負です!!!! ルナティエ・アルトリウス・フランシア!!!!」


 魔道具(マジックアイテム)を装着した左手を、向かってくるルナティエに向けます。


 それと同時に、脳裏に、過去の情景が呼び起こされました。





 今から五年前。僕が、十六歳の時。


 王都の路地裏を歩きながら、僕は、親指でコインを弾きました。


『へへ。今日も稼がせてもらったぜ』


 当時、僕は、孤児である自分を育ててくれた村に恩返しするべく、賭博でお金を稼いでいました。


 僕は産まれ付き頭の回転が速く、手先も器用で、賭け事で相手に気付かれずにイカサマをするのが得意でした。天性の嘘吐き、と言えば良いのでしょうか。人を騙すことに長けていました。



『――――――ヘロン。あんた、また、イカサマで稼いだんだってね!』


  

 王都からフランシア領の村に戻ると、僕の前に巨大な女性が立ちはだかりました。


 彼女……僕の育ての親である龍人族(ドラグニクル)の母、エリューゲルは、僕の頭に強烈なゲンコツを落としてきます。僕は耐え切れず、頭を押さえて、その場に蹲りました。


『いだっ!? な、何すんだよ、かーちゃん!』


『何回も言っているだろう、ヘロン! 人を騙すのはいけないことだって! いけないことをしていたらね、いつか罰が当たるんだよ!』


『はぁ? 何言ってんのさ。だったら亜人族のみんなは、なんでこんな辺境の山の中で暮らしてるんだよ? 亜人族がここまで隠れて暮らさなきゃいけなくなったのは、女神様のせいだっていうのか? 違うだろ? 全部、人間たちのせいだろうが!』


 そう叫ぶと、母さんはしゃがみ込み、僕の肩を掴んでくる。


『ヘロン。私たちは、人間たちを恨んじゃいないよ。だから、私は、人族(ヒューム)であるお前さんを育てているんじゃないか。種族には隔たりはない。良いやつもいれば、悪い奴もいる。そうだろう?』


『分かってるけど……』


 口をへの字に曲げていると、背後から「ガッハッハッハ」と笑い声が聴こえてくる。


『また女将さんに怒られたのか、いたずら坊主!』


 振り返ると、そこには、店先で昼間から酒を飲んでいる農家の小鬼族(インプ)たち――――バルドとグロウドの姿があった。


 僕はそんな彼らに、悪態をつきます。


『うるせぇ! のんだくれのジジイども! 僕は将来、大金持ちになってこの村をフランシア家から買い取ってやるんだ! それで……みんなが隠れ住まなくても良いようにしてやるんだ!』


『こら、ヘロン! 目上の者に対して、その口の利き方はなんだい! 常に丁寧な口調で喋るように言っているだろう!?』


『うるさい! お前らは平和ボケしすぎてるんだよ! 僕は、お前たちとは違う! 隠れ暮らすことを、肯定しない!』


 僕はそう言って、村の中を走って行きました。




 そうして辿り着いたのが、村の端にある丘。


 そこは僕のお気に入りの場所で、何かある度にいつもそこで一人、たそがれていました。


『……ヘロン。また、エリューゲルさんに怒られたんだって?』


 そう言って後ろから声を掛けてきたのは、同じ村に住む夢魔族(サキュバス)の少女……幼馴染のフレイヤでした。


 フレイヤは僕の隣に座ると、長い髪を耳にかけ、笑みを浮かべます。


『ヘロン。貴方が誰よりもこの村のことを考えているのは分かるけど、私もエリューゲルさんも、貴方には危険な目に遭って欲しくないの。お願いだから、分かって』


『僕は、亜人族のみんなが不当な扱いを受けるのが我慢ならないんだよ。フレイヤだって、こんな隠れ潜むような暮らし、嫌だろう?』


『他のみんなは、そうかもね。でも、夢魔族(サキュバス)は人間社会の中に溶け込みやすい種族から、私はそこまで困ってないよ。私たち夢魔族(サキュバス)は、子供の時に、親から額の角と腰から生えている翼を幻影魔法で隠すように教えられるの。種族柄、妨害属性魔法に適性を持っている種族だからね。結構簡単なのよ。ほら』


 そう言って、フレイヤは僕の手を掴むと、自身の見えない角へ持っていきます。


『ほら、ね?』


 そう言ってニコリと微笑むフレイヤ。


 確かに、見えない場所に、角らしきものがありました。


 手を掴み微笑む彼女の姿に、僕は思わずドキリとしてしまいます。


『? どうしたの? 顔を赤くして?』


『な、なんでもないよ』 


『ヘロン。みんな、どうにかしてこの国で暮らしていこうとしているの。貴方はまだ子供なんだから。年長者の言うことを聞きなさい。ね? お姉さんの言う通りに、今度から賭け事はやめること。ろくな大人になれないよ?』


『姉面するなよ。フレイヤと僕は、二つしか違わないじゃないか』


『あー、もう、生意気なことを言ってー』


 そう言って僕の頬を両手で引っ張ってくるフレイヤ。


 幼いながらに、僕は彼女のことが好きでした。ですが、彼女は、僕のことを可愛い弟くらいにしか思っていません。それが当時の僕にとってはとても歯がゆかったのを今でも覚えています。


『おねーちゃん。また、ヘロンのこと虐めているの? 飽きないねぇ』


 そう言って僕たちの前に現れたのは、フレイヤの妹のローリエでした。


 まだ10歳だというのに、彼女はとてもおませで、大人びた少女でした。


『ヘロンも大変だね〜。鈍感なおねーちゃんの距離感に、いちいちドギマギしちゃうんだから』


『? いったい、何を言っているの? ローリエ?』


『う、うるさい、ローリエ! 僕はもう行く!』


 フレイヤの手を振り払い、僕は、その場を後にしました。


 僕は、フレイヤやローリエ、母や他の亜人たちが住むこの村が大好きでした。


 人と亜人が住む、隠れ里。僕はいつかこの村に恩返しをしたいと、そう、考えていました。


 だから、僕は、頭を使ってお金を稼ぐことにしたのです。


 剣の腕でもあれば冒険者や傭兵としてやっていくこともできたのでしょうが、生憎、僕に剣も魔法の才もありません。あるのは、弁舌と手先の器用さのみ。


 この二つを上手く使っていくしか、僕にお金を稼ぐ道はなかったのです。




 ――――数日後。


 僕はいつものように王都の奈落の掃き溜めに赴き、違法賭博場でお金を荒稼ぎしました。


 深夜。賭博が行われていた建物から出た、その時。


 僕は、路地で、ある現場を目撃してしまいます。


 人気の無い路地裏。そこで二人の騎士が、一人の男の腕を掴み、跪かせていました。


 男の前に立っているのは、聖騎士団団長ゴーヴェンと、見慣れぬ老魔導士。

 

 ゴーヴェンは懐から黒い液体が入った試験管を取り出すと、その中身を、男性の口へと流し込みました。


『……さて。お前の魔法因子は、どのような結果を見せてくれるのか……』


『あがっ。あぐっ……ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!』


 突如、もがき、苦しみだす男。


 そして、彼は一頻り苦しんだ後、白目を剥き、瞳や口、耳、ありとあらゆる場所から黒い涙を流して……ばたりと、地面に倒れ伏しました。


 その光景を見て、僕は思わず、唖然としてしまいます。


 倒れ伏した男の首元に手を当てると、ゴーヴェンはそこから……紅い宝石を取り出しました。


『ゴイル。これは、どうだ?』


 ゴイルと呼ばれた老魔導士は、ゴーヴェンのその言葉に頷き、紅い宝石を受け取りしげしげと見つめた後……静かに口を開きます。


『低二級魔法【ファイアーボール】の魔法石ですな。ゴーヴェン様がお探しの魔法ではありませぬ』


『やはり、奈落の掃き溜めの住人から魔法石を生成するのは割に合わない、か』


『ですが、今のところ、表だってこの実験をするわけには……』


『分かっている。ただの愚痴だ』


 そう言ってため息を吐いた後、再び、ゴーヴェンは開口します。


『私が探し求めているのは、高位人族(ハイエンシェント)吸血鬼族(ヴァンパイア)をも殺せる力……古代人をも殺す超常の力だ。かの、神殺しの剣、【覇王剣】のような力を、私は求めてやまない』


『だとするのなら、特一級魔法を探し出すしかないかと。特一級魔法は、神秘の領域とされている魔法です。帝国の元老院には、時や空間といった概念に干渉する特一級魔導士もいるとか……』


『やはり目指すべきは特級魔法、か。私には、絶対的な矛が必要だ。……あとは、魔法石から魔法因子を抽出し、この身に宿す術を見つけることができれば、私は己の限界を超えることができるだろう。人間の身体から魔法石を抽出する力は、見つけることができた。もう少しだ……もう少しで、私は、父の求めていた、最強の剣士に到達することができる』


 そう言ってゴーヴェンは、口の端を吊り上げます。


 そんな彼に対して、老魔導士は口を開きました。


『特級魔法の因子を手に入れたいのでしたら……貴方の奥方様から魔法石を抽出するのが、最も手っ取り早いのではないでしょうか?』


 その言葉に、ゴーヴェンの傍に立っていた黒コートの騎士と女騎士が、声を張り上げます。


『貴様! ゴーヴェン様に、なんていうことを……!』


『口を慎め、帝国人! 我らが主に奥方を殺せと、そう言うつもりか……!』


 怒りの表情を浮かべる部下たちに対して、ゴーヴェンは手を挙げて制します。


『フォルター、リーゼロッテ、黙っていろ』


 そう言って部下を黙らせると、ゴーヴェンは老魔導士をジッと見つめ、数秒程思案した後、開口しました。


『……我が野望のためには、それも視野に入れるべき案だな。我が妻は、帝国六大貴族、氷結属性魔法の開祖とされる『氷帝』アイスクラウン家の出身。確かに奴を魔法石化すれば、特級魔法の魔法石を抽出することも可能だろう。事情を話せば……恐らくアレは、進んで魔法石になることを受け入れるであろう。アレは、そういう女だ』


『で、ですが、ゴーヴェン様! 政略結婚とはいえ、ゴーヴェン様は、奥方様のことを……!』


『リーゼロッテ。お前の言う通りだ。私は……この世界で唯一、我が妻ヘレナと、我が親友ジェスターだけには、親愛の情を抱いている。だが……私は目的のためならば、妻も友も犠牲にする男だ。私の目的は、支配者たる神を殺し、この世界を正しきものに戻すこと。覚悟はとうに決まっている。私は、己の正義に準じる』


 彼の言葉は、まるで何を言っているのか分かりません。


 ですが……僕は、直観で、理解しました。


 これは――――――絶対に、見てはいけない光景なのだということを。


『……』


 ゴーヴェンと目が合ってしまい、僕は即座にその場を離れ、逃げました。


 あんなに冷たい目をした人間がいるのかと……戦慄したのを、今でもよく覚えています。


 



『なんだよ……これ……』


 村に戻ってみると、そこに広がっていたのは……燃え盛る火に包まれ、倒壊していく家屋の姿でした。


 村の中にいるのは、亜人たちを捕らえて馬車に乗せて行く聖騎士たちの姿。


 両手に鎖に繋がれた母を見た僕は、思わず、彼らに向かって、手を伸ばしてしまいます。


『や、やめろ! みんなを……母さんを連れて行くな!』


『―――お前が、イカサマ師のヘロンか』


 その時。僕の目の前に、白銀の甲冑を着た騎士が姿を現しました。


 中性的な顔をしたその金髪の騎士は、高圧的な態度で僕を見つめ、フンと鼻を鳴らします。


『お前、随分と他人に恨まれていたようだな。賭博でお前に敗けたある人物が、お前の後をつけ、この亜人の村を見つけたそうだ。その告発を受け、この私――――ルクスの隊が、ここに駆けつけた、というわけだ』


『ぼ、僕のせいで、みんなが……聖騎士に見つかったっていうのか……?』


『お前のせい? 違うだろう? お前のおかげ(・・・)で、私たちは、異端の末裔どもを発見することができたのだ。奴ら亜人は、我ら人間の敵。お前は、奴らに脅され、ここで飼われていた……そうなのだろう?』


 その発言に、僕は、眉間に皺を寄せます。


『何を言っているんだ? 僕は、みんなに酷いことなどされていない!! みんなが何をしたって言うんだよ!? 何で、こんなことするんだ!? 村を焼く必要なんてなかっただろ!!!!』


『馬鹿か、貴様は。亜人は、魔物の近縁とされる種族。我々と同じく人語を話すが、全ては人を惑わせるための甘言だ。セレーネ教の聖典には、亜人は見つけ次第排除せよ、との言葉もある。まぁ、この村の亜人たちは、聖騎士団長の命令で生きたまま連行せよとのお達しだったが……チッ、やはりゴーヴェンよりも、キュリエールお婆様の方が、聖騎士として何倍も騎士団長に相応しい御方だな。敬虔な神の使徒であるお婆様なら、奴らをこの場で殺すように命じたはずだ。悪しき者たちを生け捕りで済ますとは……心底腹立たしい』


 彼が何を言っているのか、まるで理解できませんでした。


 亜人たちと暮らしてきた僕には分かります。亜人たちは人間と変わらない生物だということを。それなのに、セレーネ教の教えだからって、こんな……この時、僕は、目の前の聖騎士が話の通じない得体の知れない生き物に見えました。


『ふざけるな! この村に住む亜人たちは、僕にとって家族に相応しい存在だ! みんなを解放しろ!!!!』


 ルクスに飛び掛かり、彼の肩に触れた、その瞬間。


 ルクスは怒りの形相を浮かべ、僕の腹に蹴りを叩き込みました。


『私に触れるな!!!! 下郎が!!!!』


『ぐふっ!?』


 ブーツのつま先でみぞおちを蹴られてしまった僕は、その場に蹲ります。


 そんな僕の顔に目掛け、ルクスは容赦なく蹴りを放ちました。


『亜人どもに良いように騙された馬鹿が!! 女神の信仰心無き者に、救いはない!!!!』


 そう言ってルクスは倒れ伏す僕の髪の毛を掴むと、何度も拳を叩き込んできました。


 彼の表情を見て……何となく、分かりました。


 彼は、亜人たちを強く恐れているのだと。そして、何故か、身体に触れられることを極端に嫌っているのだと。


 理由は分かりません。きっと、彼にも、何かしらの背景があるのでしょう。


 でも、だからって、僕は……このような行い、認めることができませんでした。たとえ神様が亜人たちを殺した方が良いって言ったとしても、僕を育ててくれたこの村のみんなを傷付けることだけは、許せません。


『ルクス様。亜人たちを全員拘束し、馬車へと連行し終えました』


 ボロボロになって倒れ伏す僕を見つめた後。ルクスは踵を返し、部下の元へと向かって行きます。


『行くぞ。こうして地道に亜人たちを排除していけば、きっと災厄級も産まれることなく、この王国は平和になっていくはずだ。排除すべきは、亜人と闇属性魔法因子を持つ存在。この世界に、魔に通じる者は不要だ』


『ですが……フランシア伯に何も言わずに、フランシア領の亜人を狩って良かったのでしょうか……? ルーベンス様がこのことを知ったら、お怒りになられると思いますが……』


『私のバックには、キュリエール様がついておられる。あの御方がご存命のうちは、平和主義の甘ちゃんであるルーベンスは私の行動に何も言えまい。問題は何も無い』


 そう言って、ルクスは聖騎士団を引き連れて、去って行くのでした。




 その後。僕は、全力でみんなの居場所を捜索しました。


 そして、僕は……バルトシュタイン領にある施設へと辿り着きます。


 守衛に眠り薬を塗った矢を放ち、気絶させた後。僕は、彼らの衣服を剥いで、聖騎士のふりをして、施設へと侵入を果たします。


 建物の中を探すこと数十分。ある牢屋の前へと辿り着きました。


 そこには……フレイヤの姿がありました。


 僕は牢に近付き、部屋にあった鍵で牢を開け、フレイヤと再会を果たします。


『フレイヤ! 無事か!』


『ヘロン……?』


 三角座りをして俯いていたフレイヤは、顔を上げると、こちらに泣きそうな顔を見せてきました。


『どうしよう、ヘロン! ローリエが……ローリエが、連れて行かれちゃった……!』


『え?』


『ローリエだけじゃない。村のみんなが……みんな、何処かに……!』


 ガタガタと震えるフレイヤの肩を掴んで、僕は、落ち着かせます。


『フレイヤ。今はとにかく、ここから逃げよう』


 僕の脳裏に、ゴーヴェンによって魔法石に変えられた男の姿が過ります。


 僕は頭を振ってそれを振り払うと、フレイヤと共に牢を出ました。


 出口へと向かって歩いて行く、その途中。僕たちは、ある部屋に辿り着きました。


 そこには――――――机の上に置かれているたくさんの瓶の姿がありました。


 その瓶の中に入っているのは、色とりどりの魔法石の数々。


 瓶のひとつひとつには名前が書かれており、その中のひとつ、紫色の魔法石が入った瓶……ローリエと名前が書かれた瓶を見つけたフレイヤは、首を傾げます。


『ど、どうして、ローリエの名前が、この瓶に……?』


『ま、まさか……!』


 僕は顔を青ざめ、机の上にある他の瓶を手に取り、ラベルを見ていきます。


 そのどれもが、見覚えのある名前ばかり。そして……僕は、母、エリューゲルの名前が張られた瓶を見つけてしまいます。


 僕は、その瓶を、思わず身体を震わせて胸に抱きます。そんな僕を見て、隣に立っているフレイヤが疑問の声を上げました。


『ヘロン……?』


『脱走者だ! 探せ!』


 その時。聖騎士の声が聴こえてきました。


 僕は手近にあった麻袋に机の上にあった瓶を全て放り入れ、フレイヤの手を掴み、部屋を出ることに決めます。


『行こう、フレイヤ!』


『う、うん……』


 みんなをこんなところに放置など、できませんでしたから……。


 その後、スムーズに事は動き、僕たちは中庭へと辿り着きました。


 僕は先に高い塀をよじ登り、上から塀の下にいるフレイヤへと手を伸ばします。


『フレイヤ! 早く! つかまれ!』


『……うん。わかっ―――――』


『脱走者を見つけたぞ!! 捕まえろ!!』


 その時。僕たちの脱走に気付いたバルトシュタインの騎士たちが、こちらへと走ってくる音が聴こえてきます。


 その音が聴こえてきたのと同時に、フレイヤは引き攣った笑みを浮かべました。


『私のことは良いから。行って、ヘロン』


『なっ……!? 何で……!?』


『このまま一緒に行っても、まず間違いなく、奴らに追いつかれる。私が囮になって引き留めるから、先に行って』


『馬鹿なことを言うな! お前を置いていけるはずが―――――』


『さっきの魔法石、村のみんな……なんだよね?』


『え……?』


『……行って。みんなをお願い。そして……あのルクスという騎士を止めて。あの騎士がいる限り、亜人に未来はない。亜人と人間の世界を繋げることができるのは、亜人と人間の間を生きる、貴方にしか……できないことよ』


『で、でも……!』


『お姉さんの言うことは聞くものだよ、ヘロン。ね?』


 そう言って、フレイヤは、施設の中へと戻って行きました。


 僕はその光景を見て、眉間に皺を寄せると……塀から飛び降ります。


 彼女の優しさを無駄にしないためにも。彼女の想いを無駄にしないためにも。僕は1人、たくさんの魔法石を持って、逃げました。




 

 数日後。整形して顔を変えた僕は、別人の名を名乗り、フレイヤの足取りを辿るべく、再びバルトシュタイン領の施設に近付きました。


 下手をしたら、フレイヤは既に、魔法石の実験で亡くなっている可能性もあり得ます。


 ですが、足を運んでみたら、施設はもぬけの殻。


 僕は次に、情報を得るために、バルトシュタインの御屋敷へと向かいます。


 旅の商人としてバルトシュタインの御屋敷に訪れた時、偶然、そこでフレイヤと再会を果たしました。


 彼女は……次女キールケのメイド……奴隷となっていました。


 以前のような明るい表情は何処にもなく、彼女は無表情で、メイドとしてキールケに仕えていました。


 僕は、キールケに交渉しました。その奴隷を売ってくれないか、と。


 そんな僕に対してキールケが提示してきたのは、金貨5000枚という、信じられない額。


 キールケ曰く、彼女は『特別』なのだそうです。


 僕は、決めました。何年かかっても、彼女を解放してみせると。


 フレイヤはキールケのことを亡くなった妹のローリエと重ねて見ている様子でしたが……そのバルトシュタインの娘が、ローリエなわけがありません。彼女が正気を失っているのだと、はっきり分かりました。




 それから僕は詐欺師として貴族を狩り、金を稼いでいきました。


 母の言葉を守り、丁寧な口調を心がけ、常に笑顔を忘れない。


 全ては、キールケからフレイヤを買い取るために。みんなの仇である、ルクスやゴーヴェンを討つために。


 僕は、詐欺師ヘロンとして、王都で暗躍していきました。


 そんな日々を送っていた、ある日のこと。


 僕の元に、こんな手紙が届きました。


『―――ヘロン・サンデルス・アダンソニア。アーノイック・ブルシュトロームの孫として、来月実地される予定の剣王試験に出場し、そこに参加するであろうアネット・イークウェスを監視しろ。第三次試験まで生き残ることができれば、キールケの奴隷、フレイヤを解放してやっても良い。ゴーヴェン・ウォルツ・バルトシュタイン』


 絶望しました。ゴーヴェンは……僕の動向など、とっくの昔に掴んでいたようでしたから。


 そこで、理解しました。


 フレイヤは、逃走した僕を釣るための餌として、生かされていたのだということが。


 そして提示された破格の額も、僕から金銭を巻き上げるための策だということを、理解しました。


 ゴーヴェンが、自身の暗部を知っている僕を簡単に逃がすはずがない。


 彼は常に、僕を殺すことができる立場にある。


 僕はどこまで行っても、ゴーヴェンからは、逃げることができないのだと――――気付きました。







「だとしても……!」


 回想を終え、今に戻ります。


 こちらに向かって来るのは、レイピアを構え走って来るルナティエの姿。

 

 僕は指輪を装着した五本の指を、ルナティエへとまっすぐ差し向けます。


「フレイヤを救える手段があるのなら、僕はどんなにボロボロになったって、構わない!こちらにも譲れない想いというものがあるのですよ、ルナティエさん!!!!」


「わたくしにだって、ありますわ!! わたくしは、ここで絶対に貴方に勝つ!! 特級魔法の魔道具(マジックアイテム)を使われたって、乗り越えてみせますわ!! ネックレスを隠されたとしても、絶対に、その在処を吐かせてやりますわ!!!!」


 彼女の覚悟が決まっていることは、既に、理解しています。


 ここまで戦ってきて、わかりました。


 彼女は……僕によく似ている。


 自分の目的のために、使えるものは、何でも使う策略家。


 アダンソニア家の密偵として失敗作の烙印を付けられた僕が、四大騎士公フランシアの令嬢に勝利できる可能性など無いと思いますが……僕にだって、譲れない想いがあります。


「バルド」


 僕は指輪を装着した人差し指を、ルナティエへと向け、魔法を発動させました。


「風の刃よ、斬り裂け! 【エアブレイク】」

 

 低三級魔法【エアブレイク】。大酒喰らいの小鬼族、バルドの魔法石。


 まっすぐと飛んでいった空気の刃は、ルナティエのレイピアによって簡単に斬り裂かれ、消滅しました。


 僕は指輪を外して地面に落とすと、異なる指輪を発動させます。


「……グロウド。毒蛇よ。我が敵を融解し、喰らえ――――――――【ポイズンショット】!」


 中二級魔法【ポイズンショット】。龍人族のグロウドは、陽気でムードメーカーなバルドの飲み仲間でした。いつも、僕のことをからかっていたのを覚えています。


 まっすぐと飛んでいった毒の粘液を、ルナティエは【縮地】を発動させ、上空に飛ぶことで難なく回避してみせます。


 僕は指輪を外し、地面に落とすと、新たな魔道具を発動させます。


「アガレス!!」


 アガレスは、僕と同い年の龍人族の青年でした。彼も、フレイアに恋をしており、僕とは犬猿の仲でした。ですが……僕は、彼を嫌ってはいませんでした。


「混沌の濁流よ、我が敵を穿うがて―――――――【アクア・ショット】!」


「【水流・烈風裂波斬】!」


 水属性の低三級魔法は、それよりも威力のある水の斬撃によって消し飛ばされてしまいます。


 魔法を撃ち破って、水の斬撃が僕の腹部に直撃し、僕は血を吐き出しました。


 気絶しそうなくらいの痛み。だけど、僕は何とか足を踏み留めます。


 ただでさえまともに片手が動かないこの現状。明らかに、戦況は、こちらの不利……!


 ですが、敗けるわけには……敗けるわけには、いきません……!


「……ローリエ!」


 指輪を捨て、新たな指輪を嵌めると、空中にいるルナティエへと魔法を放ちます。


「迷いへと誘う煙よ、我が敵の視界を奪い、惑わせろ―――――――【スモーク】!」


 妨害属性中四級魔法。魔法を発動させたその瞬間、辺りに、煙が巻き起こる。


 僕は即座に懐から取り出した新しい指輪を二つ指に嵌めて、発動させます。


「ベレッド! デューク! ―――――燃やし尽くせ、【ヘルフレイム】! 凍てつく刃よ、貫け! 【アイスエッジ】!」


 低級魔法の雨を、煙の中へと放ちます。


 右側から、炎を飛ばし、左側から、氷の刃を飛ばしました。


 指輪を捨てると、続けて、僕は煙の中に魔法を発動させます。


「シンリー! クライブ! アンデルレヒト! ――――――電よ、奔れ! 【ショックウェイブ】! 舞え、火炎の渦よ【ヘルフレイム・バースト】! 穿て、酸の矢! 【ポイズンアロー】!」


 低級魔法と中級魔法の攻撃。


 僕は咆哮を上げ、次々と魔道具を捨てては、取り出し、攻撃魔法を連続して放ちました。村の家族たちを使って、ルナティエに立ち向かいました。


 ですが――――――――――――。


「なっ……!」


 煙の中から飛び出してきたルナティエは……無傷。


 彼女は剣を構えたまま、僕の元へと落下してきます。


「これで……終わりですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「いいえ……僕の勝ちです!! エリューゲル!!」


 僕はずっと親指に嵌めていた……母さん……最後の魔道具(マジックアイテム)を、宙へと掲げます。


 そして、それを、落下してくるルナティエへと向けました。


「確かに……確かに、僕は、特級魔法は持っていません! ですが、ここまで低級魔法と中級魔法しか使って来なかったのは、貴方を無防備に僕の元へと接近させるための計略だったんです!! 上一級魔法を――――――喰らうと良い!!!!」


 まっすぐと手を伸ばし、僕は、ルナティエへと照準を定めます。


 そして――――――。


「龍の息吹よ!! 全てを燃やし尽くせ!!――――【ドラゴニックブレス】!!」


 僕の手の先から現れた巨大な炎の龍が、無防備に剣を構えるルナティエへと襲い掛かります。


 そして龍はパクリと、ルナティエを飲み込んで、その身体を燃やし尽くしました。


 この魔法は、殺傷力が高いため、あまり使用したくはなかったのですが……僕の任務は、第三次試験に生き残ること。


 殺人はルール違反となり受験資格を剥奪される行為ですが、現場を誰かに見られなければ、問題にはなりません。その罪は、適当な証拠をでっちあげて、他の誰かにでも押し付ければ良い。


 この場を生き残ることが、何よりも優先すべき、僕の使命……!


「ゼェゼェ……勝った! これで、僕は、第三次試験に……!」


「――――――お馬鹿さん。騙し合いでわたくしに勝てると思っていたんですの?」


「は?」


 突如、【縮地】を使って背後に現れたルナティエが、僕の首に手刀を打ち込んできました。


 僕はバタリと倒れ、背後に立つルナティエを見上げます。


「な……なん、で……? どうし、て……?」


「貴方が魔法で煙を起こした隙に、中三級妨害属性魔法【幻影体(ファントムベイト)】を発動させ、囮にさせましたわ。さっき、炎に飲み込まれたのは、幻影体。わたくし本体は、藪に身を潜め、背後に接近していましたの。せっかく妨害属性魔法因子があるのだから、師匠に何か習得した方が良いと言われ、この一か月で早急にこの魔法を習得してみせましたが……案外、使い勝手が良いですわね。水属性、妨害属性、情報属性……わたくしの身体に宿っている魔法因子自体は少ないですが、わたくしにぴったりの魔法の数々と言えますわね。オーホッホッホッホッホッ!!」


「まさか……警戒、していたのですか……!? 無鉄砲にこちらに突っ込んできていたのは、演技、だったと……!?」


「当然ですわ。わたくし、特級魔法の魔道具(マジックアイテム)を持っていると宣言した人間に対して、そんなものは関係ないと、気合いだけで突っ込むような馬鹿ではありませんもの。そういうのは、どこぞのゴリラ女だけで十分ですわ。常に計算して……好機となった状態で、策を打つ。それが、わたくしの戦い方」


 そう言って、髪を靡いた後、ルナティエはレイピアを首元に突きつけてきました。


「さぁ、わたくしのネックレスの在処を吐きなさい。これから貴方が所在を吐くまで、死なない程度に、剣を刺していきますわ。ネックレスがゼロになっても、リタイアにはなりません……ですから、まだ第二次試験に挑む気概があるのなら、拷問される前に、口を割ることをお勧めしますわ。わたくし……勝つと決めた以上、容赦はしませんわよ」


「……」


 完全な敗北。僕は目を伏せました。


 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《ルナティエ 視点》



「さぁ、わたくしのネックレスの在処を吐きなさい。これから貴方が所在を吐くまで、死なない程度に、剣を刺していきますわ。ネックレスがゼロになっても、リタイアにはなりません……ですから、まだ第二次試験に挑む気概があるのなら、拷問される前に、口を割ることをお勧めしますわ。わたくし……勝つと決めた以上、容赦はしませんわよ」


 無事、ルキウスを倒すことができましたわ。


 ですが、問題はここからですわ……!


 先程の戦闘から察するに、彼が強い使命を持ってこの剣王試験に挑んでいたのは明白。


 もし、わたくしの拷問に耐え、ネックレスの在処を吐くことをしなければ……わたくしに、打つ手はもうありませんわ……!


 ここからは、どちらが精神を折るかの、勝負といえます……!


 そう、頭の中で考えていた、その時。


 ルキウスが目を開け、笑みを浮かべました。


「……ルナティエさん。ひとつ、質問をしても良いですか?」


「なんですの?」


「貴方は、参加登録会場で、ルクスに嬲られている小鬼族(インプ)の少年を助けようとしましたよね? その時、貴方はこう言った。……『わたくしが目指すフランシア家当主としての在り方は、立場や地位など関係なく、自由を追い求めることができる世界。子供の夢を奪う世界ではありませんわ』と。それ、本気で言っていたんですか?」


 ヘラッと馬鹿にしたような笑みを浮かべ、こちらを見つめてくるルキウス。


 ですが、彼の瞳は、こちらを見定めるような……真摯な想いが宿っていました。


「本気ですわ」


「亜人は、人間たちにとって悪しき存在ですよね? 何故ですか?」


「数年前のわたくしでしたら、セレーネ教の教え通り、亜人は悪いものと決めつけていたと思います。ですが……今は違います。わたくしは、自分の目で見てきたものを信じると決めたのです。他者に考えを委ねることなどはしない。自分の目で見て、自分の足で立って考えろと、我が師に教わりましたから。ですから、わたくしは亜人を差別しない」


「……同じフランシアの一族だというのに……ルクスとは、正反対の考えをしているのですね……」


「え?」


「いいえ、何でもありません。分かりました。ルナティエさん。貴方に、ネックレスを渡します」


 そう言って、ルキウスは懐から二つのネックレスを取り出し、わたくしに向けて掲げてきました。


 彼は腕を震わせながら、再度、開口します。


「ルナティエさん。貴方は、何を目指しているのですか?」


「何を、とは?」


「貴方は、何のために、【剣王】になろうとしているのですか?」


「別に、わたくしにとって、【剣王】がゴールではありませんわよ。わたくしは、フランシア家当主となり、【剣神】となるのが目標です。わたくしが目指す世界は、差別も貧困もない世界。わたくしはいつか四大騎士公となり、剣神となり、この世界を変えてみせます。これが、わたくしが目指すべき境地」


 わたくしのその言葉を聞いて、ルキウスは笑みを浮かべたまま、静かに涙を流し始めました。


「もう少し、早く、貴方に会いたかった……」


「? それは、どういう……?」


「どうか頼みます、ルナティエさん。ルクスを……【剣王】の座から引きずり降ろしてください。僕は、彼に、大切な人を彼に奪われたんです。僕の家族は、亜人でしたが……大切な人たち……だったんです……無暗に殺されて良い存在ではなかった……異端審問官執行隊長である彼がいる限り、この悲しみの連鎖は止まらない……」


「……そう、でしたの」


「できることなら、ルナティエさんには【剣神】などではなく、【剣聖】や聖騎士団長になって欲しいです。僕の全てを奪ったのは、ルクスですが……その後ろにいる元凶は、聖騎士団そのものですから。今の聖騎士団のままでは、亜人が真に救われることはない。聖騎士団団長を権力の座から引きずり降ろすとなると、【剣聖】クラスでないと不可能です。ですから貴方には【剣聖】相当の実力者に……って、僕は何を言っているのでしょうかね。貴方とはほぼ初対面で、僕の事情なんて、何も知らないのに……勝手を言ってしまい、すみません……」


「良いですわよ。わたくしが代わりに、貴方の願いを叶えてさしあげますわ」


「え……? じょ、冗談でしょう……? 何で、見ず知らずの僕の願いを、貴方が……?」


 目を丸くさせて、驚きの表情を浮かべるルキウス。


 わたくしはレイピアを引くと、髪を靡き、不敵な笑みを浮かべる。


「当初わたくしは、才能のない自分を乗り越えたくて、剣を握りましたわ。ですが……これまで剣を振ってきて、多くの強者に虐げらる者たちを見てきました。マリーランドではリューヌに虐げられる下層民たちを目撃しましたし、特別任務ではキールケに虐げられた小領貴族たちを見てきました。そして貴方も、わたくしに助けを求めてきた。貴族として……助けを求めてきた民を助けるのは、当然のこと。ノブレスオブリージュ、という奴ですわぁ! 大船に乗ったつもりでいなさい! オーホッホッホッホッホッ!」


 そう口にして、わたくしは、ルキウスのネックレスを受け取ります。


 するとルキウスは手のひらで目元を覆い隠し、震えた声を発しました。


「……僕の想いを、貴方に託します。どうか……どうか、亜人たちの未来を……お願いします……!」


「【剣聖】になり、聖騎士団長となる……言葉にすると困難な道に見えますが、わたくしは正真正銘の、天才、ですから。わたくしに不可能はありませんわ! 任せておきなさい!」


 そう言って、わたくしは踵を返し、ルキウスに背中を見せます。


 今まで、わたくしは、お婆様に対抗して【剣神】という座を目指してきました。


 ですが……わたくしはもう、お婆様に縛られてなどはいない。


 わたくしは、自分の足で立っている。わたくしは、自分の意志で剣を握っている。


 ルクス。いつまでもお婆様に縛られている、貴方とは違いますわ。


 ロザレナさん。もう、貴方に遠慮することは、しませんわ。


 わたくしだって、欲しいものは欲しいと、はっきりと言いたい。


 わたくしだって、剣の頂点を目指してみたい! フランシア家の当主になりたい! 聖騎士団長になりたい! 


 ――――――――――――アネット・イークウェスを、自分のものにしたい!


 わたくしは師匠が大好きですわ! この想いを我慢し続けるのなんて、無理ですわ!


 だから――――――だからこそ、わたくしは、全てを手に入れてみせます。


 傲慢で高飛車で我儘なお嬢様。それが、ルナティエ・アルトリウス・フランシアの在り方ですから。


 わたくしは、わたくしが理想としていた自分になってみせる。


 努力と策略で……本物の天才になってみせますわ!!

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