第10章 二学期 第298話 剣王試験編ー⑯ 強く育てすぎちゃったみたいです
試験官であるラピスの誘導で、俺たち赤ブロックの受験者は、闘技場の上へと向かって行く。
周囲から鋭い目を向けられながら、俺とロザレナも吊り橋を渡り、闘技場へと歩いて行った。
その途中、俺はそっと、お嬢様に声を掛ける。
「面倒なことになりましたね。まさか、【剣王】キリシュタットが、お嬢様に対して懸賞金を賭けて集中攻撃をしてくるとは。試験としては、公平さが損なわれる行為です。他の【剣王】の方に抗議しても良い事案だと思いますが?」
「放っておいて大丈夫よ。何も問題はないわ」
そう言って表情を変えることなく、ロザレナは歩いて行く。
俺はその横顔を見て、ニコリと、微笑みを浮かべた。
「参加者全てがお嬢様の敵となったとしても、問題はないと? お嬢様は今、窮地におられるはずですが?」
「あたしは、むしろ逆境こそ望むところよ。だって、この試験は、あたしには自分が強くなるための糧にしか見えていないもの。状況が厳しくなれば厳しいほど……燃えてくる。あの【剣王】には、逆に感謝したいところね」
流石だな。お嬢様は本気で、この状況を楽しんでおられる。
今考えると……この場所に立つまで、お嬢様は多くの経験を積んできたな。
学園に入学して、ルナティエを降し。
学級対抗戦で、シュゼットを降し。
マリーランドで、メリアを降し。
特別任務で、探索兵種のベルゼブブとキールケを降した。
数々の強敵を倒してきたからこその自信、そして、大きな壁への挑戦心が、彼女の中には常にある。
恐らく、お嬢様には既に見えてきているのかもしれない。
剣の頂に立つ、【剣聖】の後ろ姿が。
俺とロザレナが闘技場の中央に立つと、周囲を、他の参加者たちが囲み始めた。
周囲の全ては敵だらけ。なのに、お嬢様の顔に、不安の色はない。
彼女の瞳が見ているのは、周囲にいる敵ではない。ここではない何処か。
頼もしくなったものだ……御屋敷で、俺に付きまとっていた幼き日のロザレナの姿が、懐かしく感じる。
「そ、それじゃあ、試験官が笛を吹いたら、試験開始の合図にするからね。繰り返すけど、参加者を殺害することはNGよ。やったら即失格にするよ。闘技場から落ちて失格になった人は、網を伝って、すぐに砦の外に出ること。バトルロイヤルタワーに6人残ったら、試験は即座に終了となります。みんな、分かったね? 殺しちゃ、駄目だからね!」
ラピスはそう言って、吊り橋の縄を外して、闘技場の逃げ場を無くした。
チラリと周囲を確認してみると、二十メートル間隔で、他のブロックの闘技場が確認できる。赤ブロックの闘技場は、一番左端にあるようだ。
(ルナティエとグレイ、ジェシカやメリアも、他のブロックなんだろうな。みんな、怪我無く無事に試験を終えてくれると良いが……)
そう心の中で呟き、弟子や友人たちの無事を祈っていた、その時。
ピーッと、四人の試験官の笛の音が、室内に鳴り響いた。
その瞬間、怒号を上げて、受験者たちがロザレナに襲い掛かってくる。
俺はその光景を、ロザレナの背後に立ちながら、じっと見つめた。
(さて、現代の剣王志望者の実力が如何ほどのものか、拝見だな。一応、俺の時代の剣王志望者相手になら負けないように、弟子3人を鍛えてきたつもりだが……こう大勢となると、ロザレナも苦戦することだろう。どう切り抜ける? お嬢様?)
ロザレナは、向かって来る参加者を静かに見据えると、背中にある大剣を引き抜く。
そして、目を瞑り、深く深呼吸をした。
「何だ、その無防備な姿は!!!!」
「俺たちがどれだけの時間、【剣王】を目指して修行してきていると思っているんだ!!!! 馬鹿にしやがって!!!!」
「闘技場の下に落とすだけじゃ生温いわ!! その綺麗な顔に、傷を付けてやる!!」
剣を構えて、突進してくる受験者たち。
その剣が、ロザレナの頭上に向けて振り降ろされそうになった、瞬間。
ロザレナは目を見開き、闘気を纏った大剣を横薙ぎに振り放った。
「――――――邪魔よ」
剣圧により、突風が舞う。
それと同時に、向かって来ていた受験者たちが―――一斉に吹き飛ばされた。
「なっ……なんだこれ……!?」
「た、立ってられない……!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
向かって来ていた10人の参加者が一気に吹き飛ばされ、彼らは地下の壁へと叩きつけられると、闘技場の下へと落下して行った。
残されたのは、15人。剣の一振りで、一瞬にして、勝敗が決してしまった。
闘技場に立っている15人は全員、唖然とした表情でロザレナを見つめ、固まっている。
中にはロザレナを相手にせず他の受験者と戦っている人物もいたが……皆、交戦を止めて、目を丸くして硬直していた。
俺はその光景を見て、思わずあんぐりと口を開けて、呆けた声を発してしまう。
「うそ、だろ……想像よりも剣王志望者が弱すぎるんだが……?」
た、たまたま、赤ブロックの志望者たちが弱かっただけ、という説もあるか?
そ、そうでないと困る。鍛えすぎてしまったせいで、剣王試験のバランスを壊してしまったと考えると、流派・箒星が注目を浴びてしまうからだ。そうなってしまうと、俺の正体が危ぶまれる事態に発展しかねない。
俺の時代の剣王志望者は、結構、強かったんだけどな……闘気石というハンデを背負ったロザレナの大剣の一振りで、吹き飛ばされるなんてことはなかったはずだ。
いや……これ……まじか……?
ロザレナは大剣を地面へと突き刺し、柄に手を当てると、声を張り上げる。
「こんなものなのかしら!? 早くかかってきなさい!! これでは、全然満足できないわ!! もっと本気で、あたしを殺しにきなさいよ!!!!」
顔を青ざめる受験者たち。
そんな中、俺の背後にいた男が、ロザレナには勝てないと悟ったのか……別の手を実行してきた。
俺は肩越しにチラリと背後を伺いながら、心の中で呟く。
(……ったく。そういう手を使う気なら、【暗歩】くらい使えよ。足音でバレバレだろうが。まぁ、良い。少し、お嬢様がどうするのか見てみるか)
背後から迫ってきた男は、俺の手を抑えると、ロザレナに向けて口を開いた。
「お、おい! 見ろ! このメイドがどうなっても良いのか!」
俺を人質に取った男は、俺の首元に剣を刺し向け、下卑た笑みを浮かべる。
俺はその刃に怖がる、幼気なメイドのふりをする。
「いやー! こわいですぅー! 離してくださいー!」
ロザレナは振り返ると、俺の演技を見て、ドン引きした様子を見せる。
「アネット、きもい!」
きもいとは何だ、きもいとは。
どんなアネットちゃんも可愛いだるるぉうがぁ!?
俺がロザレナの言葉に怒り心頭になっていた、その時。
男が俺の頬を剣で浅く切ってみせた。
頬からプシュッと噴き出す血。
その光景を見て―――ロザレナの雰囲気が変わった。
そんな彼女の姿を見て、効果ありだと感じたのか、男はヘラヘラと笑みを浮かべる。
「ほらほら、言うこと聞かないと、お前のメイドの顔に消えない傷ができちまうぜ? このメイドが大事なら、抵抗せずに、さっさと闘技場から落ちろ。そうすれば―――あれ?」
地面に大剣を突き刺したまま、一瞬にして、ロザレナが視界から掻き消える。
そして彼女は瞬く間に男との距離を縮めると、男の顔面に一発、膝蹴りを叩き込んだ。
「ぐはぁっ!?」
「あたしのアネットに手を出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
倒れた男に乗っかかると、闘気を拳に纏い、ロザレナは何度も拳を叩き込む。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「がはっ、ぐふっ、や、やめ……!」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ボコボコと男の顔面を何度も殴打するロザレナ。男は白目になり、気絶していた。
俺は即座にお嬢様の手を掴み、その行いを止める。
「それ以上やったら、失格になりますよ、お嬢様」
「あ」
ロザレナは理性を取り戻すと、血だらけの男の姿を見て、慌てて男から飛び降りる。
「あ、ごめん、やりすぎちゃうところだったわ。でも、こいつ、結構血が出てるから……このままここに放置しておく方が危ないわよね? アネット、こいつ、闘技場の下の落としてきてくれない?」
「畏まりました」
にしても、ロザレナの奴、少しずつ速度についても何かを掴みつつあるな。
まだ【縮地】には至っていなかったが、今の足運びはなかなかに良かった。
俺は男の襟首を掴んでズルズルと引きずると、闘技場の下へと落とした。
これで、14人。ロザレナを取り囲んでいる人数は、最早3人しか残っていなかった。
その3人はもう戦意喪失したのか、ロザレナの眼光に怯み、後退する。
そして……最後まで生き残るために、他の者と戦い始めた。
その姿を見て、ロザレナは突き刺してある大剣の元まで戻ると、大きくため息を吐く。
「はー? なにそれ。つまらないんだけどー」
そう言って大剣を引き抜き、肩に載せるロザレナ。
俺はそんなお嬢様の傍へと近寄り、小声で口を開く。
「ど、どうしましょう、お嬢様。私、お嬢様を……いや、他の箒星のみんなを、想像以上に強くしすぎてしまったかもしれません……」
「??? 今の連中が特別弱かっただけでしょ? だって、メリアやジェシカ、アグニス、キールケもいるのよ? この程度のはずなわけないわ」
恐らく、そこに挙がった名前は、参加者の中でも上澄みも上澄みの可能性があるかと……いや、もしかしたらその上澄みよりも、三弟子は遥かに強くなってしまった可能性がある。
俺…………………昔の時代に合わせた結果、修行設定をミスってしまったかもしれない。
まぁ、強くなること自体は、悪いことではないから……良いの、か?
いや、箒星の師が誰なのかと詮索されても困る。それだけは避けたい。
俺は、チラリと、他で戦闘を行っている参加者に目を向けてみる。
そこにいるのは、アイリスとその従者、初老の執事ボルザーク。
あの二人はそれなりに実力があるのか、結構目立っていた。三人を相手取り、連携して敵の一人を闘技場の下へと叩き落している。アイリスは、頻りにロザレナに視線を向けては、悔しそうに下唇を噛んでいた。
他にいるのは、踊り子の恰好をした、女剣士。
華麗に踊りながら剣を振り、隙を見て相手の腹に蹴りを入れて、闘技場の下へと落としている。身のこなしから、先ほどロザレナに向かってきた剣士たちに比べて、かなり強そうだ。昔、踊りながら戦うという部族と戦ったことがあるが……その一族の末裔だろうか? 動き的に速剣型と見える。
もう一人、目立っていたのは、ハンマーを手に持っている鉱山族の幼い少女。ハンマーを振る度に電撃が巻き起こり、敵を圧倒していた。何処かで見たような顔立ちをしているが……誰だろう、思い出せない。剛剣型か、魔法剣型か。
(なんとなく……赤ブロックの勝者は、見えた、か)
まさか、ロザレナの剣の一振りで、参加者の殆どが場外に落下するとは。
随分と呆気ない終わり方で、正直、拍子抜けしてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《グレイレウス 視点》
笛の音と共に、青ブロックのバトルロイヤルタワーが始まった。
周囲の受験者たちはどうやら、称号持ち同士で手を組んだようだ。
【剣候】と【剣鬼】のグループに、即興で近くに居た者と組んだグループ、あとは誰とも組まずに自身の剣の腕を信じてソロで挑む者たち。無論、俺もその後者だ。
「おいおーい、弱虫グレイくーん? こんなところで隠れて、何してるのかなー?」
その時。試験の参加登録場で出会った、弧月流の門下生3人組が、オレの元へとやってきた。奴らは馬鹿にするような笑みを浮かべながら、オレの前に立つ。
「運良く、最初の試験で俺たちと当たって良かったねー、グレイくん?」
「そうだぞー? 俺たちのおかげで、自分がいかに無謀な挑戦をしていたのか、学ぶことができるんだ。授業料が欲しいくらいだぜー?」
「痛い目に遭いたくなかったら、自分から闘技場の外に飛び降りるんでちゅよー、泣き虫グレイくーん? ギャハハハハハ!」
オレを嘲り笑う、旧兄弟弟子たち。
以前までのオレだったら、侮辱された瞬間、怒りに任せて剣を抜いていたことだろう。
だけど、不思議だ……何とも思わない。
この一か月間の修行のおかげで精神的に成長したのか、それとも、師から貰った「力を持つ者は、正しくあらねばらない」という言葉が、胸に突き立っているのか。
いずれにしても、オレのこの力は、ただ、腹が立つ奴に向けるものではない。
オレが剣を振る理由。それは……母のような、虐げられる者がいない世界を創り出すこと。
そうなのだろう、ファレンシア。
ただ、【剣神】という称号が欲しいから、【剣神】になるのではない。
オレはファレンシアの意志を継ぎ、このマフラーを巻いている。
オレが戦う理由は、正しき行いをするためだ。
「あぁ? だんまり決めちゃって、ブルッてんのかぁ? グレイくーん?」
「首狩りにやられたお前の姉ちゃんみたくなりたくなきゃ、さっさと闘技場から降りろって言ってんだよ、泣き虫野郎! 俺たちが優しい内に、さっさと―――」
「―――――6人になるまで時間を稼ぐのも面倒だ。オレが、選別してやろう」
「は? 何、言って―――」
オレは地面を二度叩き、【縮地】を発動させる。
そして……目にも止まらぬ速さで、目の前に居た男の腹に、小太刀の柄を叩きつけた。
「ぐふっ!?」
「マルウェロ!?」
血を吐き出し、闘技場の外へと落下していく男。
オレは闘技場の隅に着地すると、即座に【縮地】を発動させ、姿を掻き消す。
そして、残っていた二人の内の一人に、蹴りを放った。
「うぐぁっ!? な、何が、起こって……!?」
「ガッザル―――!?」
最後に残った弧月流の門下生が、悲鳴を上げる。
ガッザルと呼ばれていた男を闘技場の外へと叩き落すと、俺は着地と同時に【縮地】を発動させ、近場で斬り合っていた二人に向かって小太刀の峰打ちを放つ。
「あがっ!?」「ぐえっ!?」
みぞおちに放った峰打ちで、二人は、即座に意識を失う。
続けてオレは【縮地】で移動し、人々の合間を縫うようにして、参加者たちに峰打ちを放って行った。
そうして8人程、斬り終えた後。オレは、他の参加者たちと交戦している大柄な男へと向かって走って行く。
「む―――!?」
フードを被った大柄な男は、オレの気配に気付くと、即座に振り返り……手に持っていた斧に闘気を纏い、横にして防御の構えを取ろうとする。
その姿を見て、オレは笑みを浮かべた。
(……ほう? 闘気操作ができる剛剣型がいたか。ならば―――)
峰打ちを止めて、持ち手を真剣に変える。
そして、【縮地】を発動させたまま……オレは逆手にもった小太刀を、横薙ぎに振り放った。
「【裂波斬】」
青白い斬撃が飛び、大男の斧に向かって飛んでいく。
闘気を纏おうとも、オレの剣は、【縮地】によって剣速が上がっている。
この速度に、耐えられるか……!!
構えた瞬間に、斧に斬撃が直撃する。
大男は、ズサーッと背後へと滑っていくが……闘技場の隅で止まり、落ちることはなかった。
フードの中から歯を見せて笑みを浮かべる大男を見て、オレも釣られて笑みを浮かべる。
「ここまで良い太刀筋の速剣型は初めて見た。我が名はアグニス。貴様の名を問おう、マフラーの剣士よ」
「『流派・箒星』のグレイレウスだ」
「武人としてその名、覚えておこう。それで……俺は貴様の御眼鏡に叶ったのか? お前は【縮地】をして、自分の剣に耐えられぬ者は不合格として捨ておいているのだろう?」
「あぁ。お前は合格だ。この第一次試験で、お前を倒すことはしない。雑魚狩りをした方が、試験を早く終わらせられるからな」
「同意だ。俺も、できることならお前とは邪魔者がない一対一で戦いたい。この場はお前に協力して、六人残るまで、敵を屠ることに集中しよう」
「フン。デカブツ、そいつらはお前に任せよう」
そう言って、オレは【縮地】を発動し、再び、参加者たちに峰打ちを当てて行った。
そうして、斬り続けて、闘技場には7人が残った。
その内の4人は、オレの剣を防ぐことはできずとも、反応できた者を残した。
結局、オレの剣を直に受け止め切ったのは、アグニスというデカブツだけだった。
オレは【縮地】を止めて地面に降り立つと、最後に残った一人へと目を向ける。
「さて、あとは……お前を倒すだけだな」
最後に残ったのは……弧月流の門下生三人の、リーダー各と思しき男だ。
奴は地面に座り込み、唖然とした様子で、オレの顔を見つめていた。
「な……何なんだよ、お前……本当に、あの泣き虫グレイなのかよ!?」
「地面に座り込み、剣も構えないとは……戦意喪失したか。試す価値もない」
オレが歩みを進めると、弧月流の男は、剣をブンブンと振り回しながら後退した。
「く、来るな……! お、俺は、この試験に勝って、【剣王】になるって、家族や他の貴族の嫡子に言ったんだ……! そ、それなのに、一次試験で落ちたなんてことになってみろ!? 俺が今まで積み上げてきた、剣士としての理想像がパァだ!! 俺は家督を継ぐ長男じゃない、次男坊だ! だから、剣一本でのし上がるしか道はないんだ!! だ、だから、頼むよ、グレイレウス。俺を……第二次試験に通過させてくれよ……!!」
オレは、リーダー各の男を闘技場の隅まで追い込むと、そこで足を止める。
そして短く息を吐き、奴に対して口を開いた。
「オレを知っているようだが……オレはお前など知らん。誰だ、お前は」
「……は?」
「先ほど、受付でお前が言っていた通り、オレは弧月流の師範に、剣士の才能がないと見放された。だが、こんなオレを拾ってくれた師がいた。そこでオレは本当の仲間、姉弟弟子と出会い、真の剣士の道を歩むことができた。だからオレは……弧月流などという流派には興味もないし、そこにいる人間の顔などいちいち覚える気がない。お前はオレを知っているようだが、オレはお前のような奴など知らん。知っているような口ぶりで話されても甚だ迷惑だ。オレの名を語るのはやめろ」
「……な……」
男は肩をプルプルと震わせた後、顔を上げ、オレに目掛け剣を振り上げた。
「泣き虫グレイがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
オレはその剣を身体を逸らすことで難なく避け、男の腹に蹴りを叩き込む。
その瞬間、男は、闘技場から落下していった。
「かはっ!? なっ!? ま、待って……!」
オレは落ちるところを見届けることはせず、踵を返し、マフラーを揺らす。
その瞬間、担当試験官である【剣王】ロドリゲスが、声を張り上げた。
「だ、第一次試験、終了だ!! 青ブロックの美しき勝者6名はたった今、決定した!!」
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《ルナティエ 視点》
ピーッという笛の音と共に、黄色ブロックのバトルロイヤルタワーが始まります。
わたくしは生憎、アルファルドとは別のブロックになったみたいですわ。
せっかく連れて来たのですから、あの男にもせめて第一次試験は突破して欲しいですわね。
「さて……わたくしはオールラウンダー。第一次試験では、体力も闘気も魔力も、極力、使いたくはありませんわね」
「とりゃあぁぁぁぁぁっ!!」
背後から振り降ろされた剣を、わたくしは横に逸れ、寸前で回避してみせる。
男はその光景に怯むも、ヒュンヒュンと、連続して剣を振って来る。
その攻撃も、わたくしは顔を逸らし、身体を逸らし、全て最小限の動きで回避していく。
「この試験は、最後まで生き残れば勝利できるというもの。つまり、全力を出して戦う必要はないということですわ」
「ゼェゼェ……な、なんだ、こいつ!? 攻撃が全然当たらな―――うわっ!?」
わたくしは、疲れて足が止まった男の膝を蹴り、転倒させる。
それと同時に、他の受験者が突進してきて、横から剣を突かれましたが……それも、屈むことで回避してみせた。
「なっ!?」
そして、頭上に伸びる腕を掴むと、わたくしはそのまま襲撃者を……背負い投げをして、地面に叩きつけた。
攻撃を受け流し、カウンターの型を取る格闘術――『心月無刀流』。
師匠から教わった『見切り』と『心月無刀流』を合わせることで、このレベルの相手でしたら、剣を使う必要もないというわけですわ。
「な……なんだ、こいつ……? さっきから一度も剣を使ってないぞ……?」
「な、舐めやがって……! お前ら! 一時共闘と行くぞ! こいつを全員で倒すんだ!」
地面に転倒した男が、そう言って、他で交戦していた仲間を呼び始めました。
あら? 少し、目立ちすぎてしまいましたか?
目立たず、ひっそりと勝利を収めようと思っていましたのに……まったく、面倒臭いですわね。
周囲を、【剣候】で徒党を組んだ5人組が、取り囲む。
わたくしはツインテールに結んだ髪を靡き、口を開く。
「かよわい美少女を取り囲んで叩くなんて、マナーがなっていませんわよ?」
「うるせぇ! 勝つのは俺たちだって、決まっているんだよ!」
「根拠がない言葉ですわね。いくらお仲間を集めたところで、真の天才には勝てなくってよ? オーホッホッホッホッホッ!」
「ほざけ! 無称号のガキが!」
一斉に、わたくしに目掛け、5人が向かってくる。
だけど、その動きは……全て、見える。
師匠は言っていましたわ。剣士は、足運びを見て、次の動作を予測すると。
最初に剣を振ってきたのは、正面の男。わたくしはその剣を、胸を逸らして回避する。次に、右側にいた男が、肩に向けての突きを放つ。お馬鹿さん。この位置では、外した時のことを何も考えていませんわね。
わたくしが身体を逸らしてその突きを避けると、背後で剣を振ろうとしていた男の腕に、横を通っていった剣が突き刺さった。
「ぐはぁ!?」
「なっ!? す、すまねぇ!?」
仲間に剣を刺してしまったことに動揺する男。
わたくしはすかさず拳に闘気を纏い、左斜めからの袈裟斬りを、右手の甲で払いのける。
「こ、拳で、剣を!?」
そして即座に拳の闘気を解除し、今度は腰の鞘からレイピアを引き抜くと、同士打ちをして困惑している男の腹に目掛け、闘気を纏ったレイピアの柄を叩き込んだ。
白目になり、気絶する男。
身体によりかかってきた男を蹴り倒し、地面に叩きつける。
続いて、正面の男に足払いをして、転倒させる。
その光景にハッとした左斜めにいた男は、わたくしに目掛け再び剣を振ってくるが……その動きも読めていますわ。
左斜めにいる男の腹に目掛け、レイピアの柄を叩き込む。
残った男が動揺した様子で剣を振ってきますが、わたくしは【縮地】を発動させて空中に飛び上がり、その剣を避けてみせる。
そして上空でクルクルと旋回すると、男の背後に降り立ち、闘気を纏った手刀を男の首へと叩き込んだ。
「かはっ……!」
そして、足元で倒れている男の首にレイピアを突き付け、わたくしは口を開く。
「まぁ、ざっと、こんなものですわね」
「う、嘘……だろ……? 本当に剣を使わずに、【剣候】5人を倒した、だと……? 俺たちは、『聖剣』ルクス様の弟子なんだぞ……? そ、そんな、馬鹿な……?」
「言ったではありませんの。わたくしは、天才美少女剣士だと。オーホッホッホッホッホッ! わたくしに不可能はないのですわぁ!! ……って、ルクスの弟子? あら、貴方たち、そうでしたの?」
「あいつだ! あいつをみんなでやるんだ!」
そう言って、他の参加者たちが、わたくしに敵意を向けてきます。
少々、目立ちすぎてしまいましたか。
「……っと、キリがありませんわね」
恐らく、この程度の実力者相手なら、問題なく生き残ることは可能でしょう。
ですが、わたくしはオールラウンダーの剣士。
体力、闘気、魔力の底は、常人の剣士より少ないのが弱点。
広く浅く多種多様な技が使用できる分、基礎能力が少ないため……第二次、第三次試験までには、何とか余力を残しておきたいところ。
「ここは、他と同様に、チームを組んだ方が滞りなく事が進みそうですわね」
わたくしは周囲をキョロキョロと見渡してみる。
すると、わたくしと同様、実力があるせいか変に目立ち、他の参加者から狙われている人物を見つけることができました。
わたくしは即座に【縮地】を使用して、目的の人物の元へと急ぎます。
その人物は、今まさに、背後から剣を振り降ろされようとしていましたが……わたくしはその間に入り込み、レイピアに闘気を纏って、その剣を叩き折りました。
そして、窮地を助けたその人物の前に立ち、声を掛ける。
「―――メリアさん。ここは、マリーランド出身者のよしみとして、わたくしと同盟を組みませんこと?」
「……私は、別に、マリーランド出身ってわけじゃないんだけど?」
「あら、今、助けてさしあげましたでしょう? その恩を返すつもりで、わたくしの手足となりなさぁい! オーホッホッホッホッホッ!!」
そう高笑いした瞬間、他の受験者が、わたくしに目掛け炎の斬撃を飛ばしてきました。
その斬撃は、軽く避けることができるものでしたが、メリアさんが一言、わたくしに声を掛けます。
「……しゃがんで」
その言葉と同時に、屈むと、頭上を巨大な戦斧が通っていき……その戦斧は、炎の斬撃を消し飛ばしました。
そしてメリアさんは戦斧をブンブンと回し、地面に置くと、ニヤリと笑みを浮かべます。
「……これで、貸し借りは無し」
「ちょ……危ないでしょうがぁ!! 剛剣型の貴方の攻撃がわたくしの身体に当たったら、かよわいわたくしではひとたまりもありませんわよぉ!!」
「……でも、ちゃんと避けた。いや、私が言わなくても避けることができたんじゃないのかな。君なら」
…………ちゃんと、わたくしが戦っているところを見て、実力を精査していたというわけですか。流石は、ロザレナさんが認めた相手。彼女も相当な実力者だと見えます。
わたくしは立ち上がると、メリアさんと背中合わせで立ち、髪を靡きます。
「オーホッホッホッホッホッ! メリア・ドラセナベル! 一時共闘といきましょう! 貴方はそちら側の相手を、わたくしはこちら側の相手をしますわ。お互い、第二次試験まで、余力を残しておきたいところでしょう? 悪くない提案なのではなくって?」
「……良いよ。私も、早く第一次試験を終わらせたいし。どうせ、君と私が生き残ることはもう決まってる。さっさと終わらせよう」
「どうして、わたくしたちが生き残ることが決まっていますの? その根拠は?」
肩越しに、チラリと、メリアさんがこちらを見つめてくる。
「……強いから」
その単純明快な答えに、わたくしは思わず微笑みを浮かべてしまった。
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《ジェシカ 視点》
笛が鳴って、緑ブロックのバトルロイヤルタワーが始まって数分。
私は、目の前に広がるこのカオスな光景に、目をグルグルと回してしまった。
「ほらほら、豚ちゃんたちぃ? ブーブー鳴いてないでぇ、近付けるものなら近付いてみなよぉ? 雑魚すぎてお話にならないんですケドー?」
キールケが影の領域を展開して、参加者たちを煽り。
「キヒャヒャヒャヒャ!! おいおいおい、どうしたどうしたァ!? 仲間を人質に取られて、ビビッってんのかぁ!? だからテメェらは徒党を組むしか能がねぇんだよ!! キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
参加者の一人を羽交い絞めにして盾にすることで、生き残ろうとするアルファルド。
「……リューヌ様のために。リューヌ様のために。リューヌ様のために」
小声で何かを呟き、敵を倒すキャスケット帽を被った黒髪の男。
何というか……この緑ブロックは、すごく、ガラの悪い人たちが集まっていた。
あの三人がヘイトを集めてくれているおかげか、私の周りには全然、受験者たちが剣を向けて来ない。何だか……このままいけば、普通に不戦勝で勝っちゃいそうな雰囲気。私、すっごく頑張ってお爺ちゃんと修行してきたんだけどなぁ……。
「まぁ、でも、第一次試験でわざわざキールケとアルファルドに挑むメリットもないから、このまま静観で良いのかな。本番は第二次試験ということで……」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
その時だった。群衆の中で、叫び声が響き渡った。
何事かと目を向けてみると、そこには、腕があらぬ方向に折れ曲がった参加者の姿があった。
そんな彼の前には……目の焦点が定まっていない、何処にでもいそうな普通な様相の男の人が立っていた。
その光景を見て、試験官のお兄ちゃん……じゃなかった、【剣王】アレフレッドが、闘技場の外で声を張り上げる。
「そこの貴様! 何をやっている! バトルロイヤルタワーのルール上、他者を殺めるのは、ご法度だぞ!!」
男の人はアレフレッドに顔を向けると、笑みを浮かべ、口を開いた。
「殺してなどいな、いな、いませぬよ? ただ、この人がしつこく私に声を掛けてくるもので。飲み代の借金をチャラにしてやるから、闘技場の外へと落ちろと、そう言ってきましてねぇ。フフ、こ、この顔の持ち主の知り合いなのだろうが、フ、フフ、しつこかったからなぁ。思わず手を出してしまいましたよお母さん。フフ……」
「お、俺はお前のお母さんではない!」
いや、そんなことは誰でも分かっているよ、お兄ちゃん。
それよりも、あの人……何かおかしい気がする。
何か、他の人と雰囲気が異なってるというか……やばい気配というか……。
そう、特別任務の時にいた、ベルゼブブと少し似た雰囲気を感じるんだ。
それにしても、どうやって、あんなふうに腕を捻じ曲げたんだろう? そんなすごい闘気の気配は、感じなかったんだけど……?
「……ルール上、問題はない、か……。参加者の諸君、そこの腕が折れ曲がっている男を、闘技場の外へと降ろせ。俺が責任もって保護しよう。それと、参加者ナンバー57番、クラウザー。今後は必要以上で敵を痛めつけないように。以上!」
そう言って、アレフレッドは、クラウザーと呼ばれる男を注意した。
何となく、緑ブロックの勝者は……私、アルファルド、キールケ、謎のキャスケット帽の男、クラウザーの五人で確定するのかなと、そう思った。
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