第10章 二学期 第297話 剣王試験編ー⑮ バトルロイヤルタワー
赤の扉を開けて中に入ってみると、そこには、大勢の人間の姿があった。
室内に入った瞬間、全員、ギロリと俺に鋭い眼光を向けてくる。
俺はそんな参加者たちの視線の中、群衆をかき分けて進んで行った。
(まぁ、試験控室となると、参加登録会場と違ってピリピリもしてくるか)
気にせず、キョロキョロを辺りを見回してお嬢様がいないか探していると……周囲の声が耳に入ってくる。
「何だ、あいつ、メイド服を着てるぞ?」
「手に箒も持っているし……おかしんじゃねーのか?」
「ははっ、違いねぇ」
周囲に居た参加者が、俺を見て、頭がくるくるぱーだとジェスチャーをする。
俺はそんな連中を無視して、続けてお嬢様の姿を捜索する。
(お嬢様、お嬢様……いない。まさか、運悪く四分一を外したんじゃ……)
だとしたら、間抜けも良いところだ。
このままでは、お嬢様の付き添いとして参加した意味がない。
キョロキョロと周囲を伺い、辺りを探して続けていた、その時。
最奥に、青紫色の髪を見つけた。
「あ、良かった! お嬢様……っ! って、あれ?」
俺が駆け寄ると、お嬢様が、何者かと向かい合っていた。
そこにいたのは……王宮晩餐会で出会った、ロザレナに少し似た雰囲気を持っている、紫色の髪の少女だった。
俺は首を傾げながら、腕を組むお嬢様の背後に立つ。
すると、背後に初老の執事を立たせた少女は、チラリと俺に視線を向けた後、再度、ロザレナへと顔を向けた。
「ふーん? 貴方も剣王試験に使用人を連れてきたわけ。分かってるじゃない。そうよ、この試験では、人も利用価値のある武器。試験内容次第では、主人の命令通りに動く駒は、有効な一手になるわ」
「はぁ……? あたしは別に、自分のメイドを道具に使おうだなんて……」
「また再会できて良かったわ、本家のご令嬢様。そういうことで、私は貴方には絶対に負けないから。このアイリスの名を、よく覚えておきなさい。行くわよ! ボルザーク!」
そう言って、少女は、背後にいる老執事へと声を掛ける。
すると老執事は、カッと目を開き、声を張り上げた。
「お嬢様ァ!!」
「な、何よ! 急に大きな声を出して! びっくりしたじゃない!」
「ベルトにスカートが挟まって、パンツが丸だしでございますぅぅぅぅぅ!!」
「なんでよっ!?」
何故か、スカートがベルトに挟まって裏返しとなり、パンツ丸出しになっている貴族のご令嬢。
彼女はあわててスカートを元に戻すと、顔を真っ赤にして、ロザレナへとキッと鋭い目を向ける。
「これも、貴方の仕業ってわけね……! 流石は本家の狂気令嬢! やることが汚いようで!」
「はい……?」
「必ず貴方に勝って、レティキュラータス本家よりも分家であるオルベルフ家の方が優秀であることを、分からせてあげるんだから! 失礼するわ!」
そう言って、少女は執事を連れて、去って行った。
「なによ、あれ……」
意味が分からないとため息を吐くお嬢様に、俺は声を掛ける。
「お嬢様、今の方は?」
「あぁ、アネット。今のは、王宮晩餐会で出会った、レティキュラータス家の分家の子よ。何か、お父様の話によると、家督を手に入れたお婆様をずっと恨みに持っているんだって。意味分かんないわよね?」
「なるほど……それで、あの方はお嬢様に宣戦布告しに来た、というわけですか」
「そうみたい。名前は、アイリスって言うらしいわ。なーんか、あの子を見ていると、小さい頃のあたしを見ているようで嫌になるわね。恰好つけるために、ツンツンしているっていうか……よくわかんないけど、そんな感じ」
「言いたいことは分かります。そういえば、お嬢様はあの方に狂気令嬢?と呼ばれて言ましたが、どういう意味なんでしょう?」
「あぁ、それはあたしが入院していた時に周囲から呼ばれていた時のあだ名よ。入院中のあたしは、自由がないことの腹いせに、目に入るもの全てに怒りをぶちまけていたから。だから、お医者さんも看護師さんも、分家の親族も、みんなあたしのことを恐れて、気が触れた令嬢……狂気令嬢と呼んでいたわ」
俺は、入院していた時代のロザレナを知らない。
出会いがしらに殴られていることを考えると……まぁ、何となく、お嬢様が今よりも暴力的だったことは想像に難くない。
「それにしても、アネットも赤グループだったのね! 一緒になれて良かったわ!」
そう言ってニコリと微笑むお嬢様に、俺も同様に微笑みを返す。
「はい。まさか、剣王試験が、ランダム配置になるとは思いもしませんでした。でもこうしてお嬢様と同じグループになることができて良かったです。お嬢様の傍にいるために参加したのに、逸れては元も子もないですからね。自分の運の良さに感謝します。いぇい」
「い、いぇい……?」
俺のテンションの高さにお嬢様が何処かドン引きした表情を浮かべた……その時。
奥にある扉が開き、そこからローズピンク色の髪のドエロいねーちゃん……もとい、巨乳のねーちゃん……もとい、【剣王】『幻惑剣』ラピス・ソレイシアが姿を現した。
「やっぴー、みんなー! 赤ブロック担当試験官、ラピス・ソレイシアちゃんだよー! これからよろぴくねー! ぶいっ!」
顎の下で可愛らしくピースをして、左手を膝の上に置き、胸の谷間を強調したポーズを作るドエロい巨乳のねーちゃんことラピス・ソレイシアちゃん。
不思議だったのが、男性の参加者はもれなく彼女に赤面していたのに対して、女性たちは何故かラピスに対して嫌悪感を抱いている様子だった点だ。
ロザレナでさえも、何故か、眉間に皺を寄せている。
「えー、ちょーちょー、みんなノリ悪いなー。まっ、いっかぁ。じゃあ、剣王試験について軽く説明するよん。剣王試験はね、第一次試験~第三次試験まであるんだよー。第一次試験で、各ブロックに配属された25~27名の内6名を選出して、第二次試験では、各色ブロックを生き残った6組×4、つまり全24名で、試験を受けて貰うことになりまーす。最終的に第三次試験では、9名選出されてー、その中から、4名の剣王を決める形になってまーす」
ラピスのその言葉に、男性の参加者が、照れながら手を挙げた。
「あ、あの。ご質問よろしいでしょうか?」
「なにかなー?」
「四つのブロックを合わせた参加者の全体数は、どのくらいなのでしょうか?」
「あー、えーとねー」
ラピスは可愛らしく顎に人差し指を載せた後、手に持っていた紙に視線を向ける。
「んーと、全体数はぁ、108名みたいだよ? この赤ブロックに所属しているのは、25名だよー」
つまり、各ブロック25人の中からたったの6人、全体数の108人の中から、たったの24人しか、第二次試験に生き残れないと言うことか。分かってはいたことだが、なかなかにシビアな試験内容のようだ。
ラピスの説明に、ザワザワと騒ぎ始める参加者たち。
その光景にラピスは特に気にした様子も見せず、手に持っている紙から視線を外し、全員に向けて口を開いた。
「じゃあ、これから第一次試験の内容について紹介するねー。みんな、私についてき――――――んんっ?」
「え?」
俺と目が合った、その瞬間。何故かラピスは硬直する。
そしてその後、彼女は、怪訝な表情を浮かべた。
「えー? んー? えぇ……?」
可愛らしい顔が歪み、まるでこの世の物ではないものを見るかのような表情を浮かべるラピス。
そして俺の傍へと近寄ると、周囲をグルグルと回り始めた。
「へ? あ、あの、剣王様……?」
「えぇ? え、えぇぇ~……? なにこれぇ……?」
ラピスは一頻り俺の周囲をグルグルと回ると、目の前に立ち、至近距離で俺の顔を見つめて来る。
「君……何?」
「え、ええと、何、とは?」
「君、めっちゃくちゃ……オス臭いんだけど……」
「は?」
言っている意味が分からず、俺は思わず瞬きしてしまう。
目の前にある彼女の瞳は、深いピンク色で、不思議な光を宿していた。
まるで、見る物を魅了するがごとく―――。
(――――――――――――魔眼か……!)
俺は即座に意識を切り替え、彼女から距離を取ると、目線を合わせないように手で視界を半分遮った。
こちらの様子を見て、ラピスは感心した様子で「へぇ」と声を溢した。
「君、よく分からないけど、面白いねー。何で君からオスの臭いがするかは分からないけど……女の子なのに私の魔眼に反応するなんて、びっくり。こんなの初めてのことだよー」
「……何故、私に魔眼を使ったのですか?」
「や、違うよ? 誤解しないでね。魔眼って、加護の一部じゃない? だから、常時解放型でさー。私の意思とは関係なく発動しちゃうわけ。ほら、周囲を見てみてよ。それで、私の加護の力が分かるんじゃないかなぁ」
改めて、周囲の参加者たちを見てみる。
男性は赤面している様子で、女性に関してはやや嫌悪感を示していた。
その光景を見て、俺は、ラピスの加護について答えを導き出す。
「――――――【魅了の魔眼】」
「正解っぴー。そう。私の加護は、男性だけを虜にする【魅了の魔眼】なの。それなのに、君ってば、女の子なのに私の魔眼の効果があるみたい。それに加えて、君からは男の子の匂いもする。やーん、もうっ、ふっしぎー。ねぇー、なんでなんでぇー? ラピちゃんに教えてぇー?」
俺の腕を抱き、あざとい笑みを浮かべるラピス。
いったい……どういうカラクリだ?
まさか俺の中身が、男であることを見抜いたのか?
【魅了の魔眼】だけで説明できるものとは思えないが……。
いや、それよりも……む、胸が……さっきから胸が腕に当たっ……。
「ねぇ、さっさと試験内容の説明をしてもらえないかしら?」
隣に立っているロザレナが、苛立ちを込めてそうラピスに声を掛ける。
するとラピスは「っとと、そうだった。早く進行しないとルクスに怒られちゃう」と言って、俺から離れた。
そして再び参加者たちの前に立つと、コホンと咳払いをして、口を開く。
「それじゃあ、第一次試験会場へご案内しちゃうよー。ついてきてねー」
そう言って、ラピスは、自分がやってきた背後にある扉を開けて、通路を進んで行った。
参加者たちも、恐る恐ると言った様子で、通路を通り、ラピスの後をついていく。
「まったく、何だったのかしら、あいつ。アネットにちょっかいをかけて。……まぁ、いいわ。行きましょう、アネット」
「はい、お嬢様」
俺も、ロザレナと共に、参加者たちの流れに従い通路を進んで行く。
いったいどういう原理で俺が男であることを察したのかは分からないが、とりあえず、ラピスには気を付けておいた方が良いのかもしれないな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ラピスの案内で連れて来られた場所、そこは、地下の一室だった。
中央には正方形の巨大な闘技場が聳え立っており、周囲は、深い堀で囲まれている。
堀の下を覗いて見ると、そこには、落下しても大丈夫のように網が張り巡らされていた。
ラピスは、中央の闘技場に懸かる橋の前に立つと、振り返り、参加者たち全員に微笑みを向ける。
「第一次試験は、『バトルロイヤルタワー』。ルールは簡単。この闘技場の上で、堀の下に落とされず、6名になるまで生き残ることができたら勝利。禁止事項は、参加者を殺すことだけ。協力し合うのは自由だよ。好きに戦って、頑張って第一次試験を通過してねー」
ラピスの言葉に、参加者たちはどよめき始める。
「バ、バトルロイヤルだって!? 第一次試験から、なかなかにハードルが高いな……!」
「だが、協力し合うことができるのなら、難しくはなさそうだ! そこのお前、【剣候】『速突剣』のドレイクだろ! ここは【剣候】同士、俺と組まないか!」
協力が可能と聞くや否や、周囲の参加者たちはさっそく協力関係を結び始める。
だが、お嬢様は動かない。ただ腕を組んで、闘技場を見つめるだけだった。
「お嬢様は、他の参加者たちと協力する気はないのですか?」
「ないわね」
「それは、どうしてですか?」
「あたしは、【剣聖】を目指しているもの。こんなところで協力している奴が、【剣聖】になんてなれるわけないわ。あたしは、他人じゃなく、自分の力を信じている。だから、烏合の衆に入る気はない。通過点ですら一人で戦えない奴に、上を目指す資格はない」
ロザレナのその言葉を聞いていた周囲の参加者たちは、会話を止めて、一斉にロザレナへと鋭い視線を向ける。
「【剣聖】だって?」
「お前、イカれてんじゃねぇのか? ここにいるのは、飲んだくれの馬鹿冒険者どもじゃねぇ。殆どが、称号持ちの本物の剣士だ。その名がどれくらい重いものだってことは、みんな理解してんだぞ?」
「流石にそいつは笑えねぇ冗談だな。この中には、何十年も【剣王】の座を目指し続けて剣を振っている奴だっているんだ。【剣王】試験中に【剣聖】を目指しているだ? 通過点だ? てめぇ、俺たちを馬鹿にしてんのか?」
「今、調子に乗ってましたって言って頭下げて謝るのなら許してやるよ、ルーキー」
周囲にいる参加者たちが、ロザレナを取り囲む。
だがロザレナは腕を組み、不敵な笑みを浮かべたままだった。
その姿を見て、彼女が本気だということを悟った参加者たちは、全員、苛立った様子を見せる。
「……ぶっ飛ばされてぇのか、てめぇ」
「私は八年間、【剣候】のままで、ずっと【剣王】にはなれなったのよ……! これが、最後のチャンスかもしれないの! 私たち称号持ちを舐めているの、貴方……!?」
「あたしは、【剣王】をただの通過点にしか思っていないわ。あたしは、【剣聖】になる女だもの」
「てめぇ――――――!」
「ちょ、ちょーちょー、試験前に喧嘩はやめ――――」
ラピスが仲裁に入ろうとした、その時。
背後にある扉から、一人の男が姿を現した。
その男はパチパチパチと馬鹿にするように拍手を鳴らす。
「【剣王】はただの通過点にしか過ぎない、か。ハッハッハッハッ! 夢見るだけの能無しの雑魚は何人も潰してきたが、ここまでの馬鹿を見たのは初めてだ。悪くない。そうじゃなきゃこちらも面白くない」
そう言ってカツカツと革靴の音を鳴らして現れたのは……オールバックの紫色の髪の男だった。
肩に服を掛け、王のように威風堂々と歩いて来た男は、参加者たちの前に立つ。
そして、周囲を取り囲まれているロザレナに視線を向けて、口を開いた。
「女。お前に聞こう。お前は【剣聖】になると言ったが……それはつまり、この場にいる参加者だけでなく、俺たち【剣王】にも喧嘩を売ると言うことに相違ないな?」
「……あんた、誰? 【剣王】なの?」
「ほう、俺を知らないのか。珍しいな。だが、【剣聖】を目指すのなら、よく覚えておくことだな。俺は、【剣王】『餓狼剣』キリシュタット・フォン・オルベルフ。【剣王】最強にして、【剣神】へと至る者の最後の壁である男。お前が【剣聖】を目指すと言うのなら、まず、俺を超えなければ不可能だということだ」
「【剣王】最強の男……」
ロザレナが、キリシュタットを鋭く睨み付ける。
キリシュタットはその視線を受けても、笑みを浮かべたままだった。
「【剣王】最強という言葉は聞こえは良いが、ある意味では、【剣王】最強は、【剣神】に至ることができない者のことを差し示す。女、俺もお前のように、【剣聖】を目指していた時期があった。だが、長らく【剣王】の座にいると、その頂がどれほど遠いものであるかを嫌でも理解してしまう。5年も【剣王】の座に居れば、その青臭さは消えてなくなるのが世の常だ。俺は、ここが自分の頂点だと定め、挑戦者たちの夢を砕き、【剣王】の座に坐することを良しとした。これもまた、愉しみであると、受け入れたのだ」
「何? あんたが【剣聖】を諦めた理由なんて、あたし、興味ないんだけど」
ロザレナがキリシュタットに言葉を放つ度に、周囲の参加者が怯えた様子を見せる。恐らく……彼に対してタメ口で話すことに、皆、恐怖を抱いているのだろう。
だがキリシュタットは特に気にした様子は見せず、首を横に振った。
「まぁ、聞け。この俺が気持ちよく話をしてやっているんだ。ここは大人しく耳を傾けるのが、当然だろう?」
「偉そうな奴ね」
「あぁ、俺は偉い。俺は、【剣王】であり、聖王国の裏を支えるマフィア、『餓狼』の頭領でもあるからだ。俺は今まで、欲しい物は何でも力づくで奪ってきた。全ては、己が愉しむため。夢見がちな連中を潰すのもその一環だ」
キリシュタットはそう口にすると、参加者全員に向け、声を掛ける。
「聞け、雑魚ども!! この女を、バトルロイヤルタワーから落とすことができたら、俺が金貨500枚をくれてやる!! 【剣王】を侮辱した愚かな女だ!! 容赦はいらない!! 多少顔の形が分からなくなる程ボコボコにしてやるくらいは、許可してやろう!!!!」
キリシュタットのその声に、参加者たちは、声を張り上げた。
そしてキリシュタットは、ロザレナに視線を向けると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「【剣聖】になるのだろう? このくらいの通過点、一人で乗り越えられるのだろう? だったらその結果を見せてみるのだな。ハッハッハッッハッ!!!!」
そう言って去って行くキリシュタットの背中に、アイリスが群衆から出て、声を掛ける。
「に、兄さん!!!!」
アイリスの声に足を止め、振り返るキリシュタット。
だが、彼はつまらなさそうな目でアイリスを一瞥すると、そのまま歩き出した。
「オルベルフ家の正当なる娘が、不義の子を始末しにでも来たか? お前もせいぜい俺を愉しませてみるんだな、アイリス」
「兄さん……」
そう言葉を残し、キリシュタットは去って行った。
兄さん、ということは……キリシュタットとアイリスは兄妹……つまり、ロザレナの親戚、分家の出だということか。
まさかレティキュラータス家の因縁が、この剣王試験に揃うとはな。
流石に俺も予想できなかった。
「えー……勝手に試験のルール変更して去って行ったよ、あの男……はぁ、ルクスに何て説明したら……」
ラピスはそう言って、ため息を吐くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
地下の一室を一望できるガラス窓から、ルクスは、上階から闘技場を眺めていた。
剣王試験のために地下に造られたバトルロイヤルタワーは四つ。
上階から四つのバトルロイヤルタワーを見つめていたルクスに、背後から声を掛けられる。
「目ぼしい参加者でもいたか、ルクス?」
ルクスは振り返り、扉の前に立っているキリシュタットを見て、ため息を吐く。
「来ていたのか……キリシュタット」
「あからさまに嫌そうな顔をするな。それで? お前のお気に入りでもいたか?」
そう言ってルクスの隣に立つキリシュタット。
ルクスはガラス窓を見つめると、静かに口を開く。
「公正な試験において、贔屓はしない。ただ……フランシア家の令嬢という、目立つ存在はいたが」
「何だ? 本家の女に惚れでもしたのか?」
「……ふざけたことを言うのなら、この場で貴様を斬り捨てるぞ」
ルクスの鋭い眼光を受けて、キリシュタットは口の端を吊り上げる。
「ほう、この俺に剣を向けるか? それも面白いが……今は、試験の方を愉しみたい。後にしろ」
ルクスはチッと舌打ちを放つと、闘技場へと視線を向ける。
「参加者には、フランシア家の令嬢だけでなく、レティキュラータス家の令嬢もいたぞ。お前も私と同じで何か感じるのではないか? 分家の者同士な」
「は? レティキュラータス? へぇ? そうか? 噂の狂気令嬢様が来ていたのか。それは気付かなかった」
「確か、フランシア家の令嬢とレティキュラータス家の令嬢、あと、グレ何とかという奴が……同じ流派だったな。名は……そう、【箒星】だったか。聞いたことはあるか?」
「いいや、聞いたことはない。何だそれは? 四大騎士公の嫡子が門下入りするには、無名すぎる流派じゃないか?」
「私もそう思った。……フン。フランシア家も血迷ったということか。無能の娘を、無名の流派に入門させるとは。 やはり、お婆様の言っていた通り、今のフランシア家は低能のようだ」
「それで? レティキュラータス家の狂気令嬢様はどこにいるんだ?」
「あぁ、それなら確か、赤の闘技場に……って、おい! 闘技場が始まってもないのに、配置の時点で、あの娘、囲まれているぞ!? どういうことだ!?」
「ハッハッハッ! あれは、俺が発破をかけてやった連中だ! 生意気な女がいたからな。少しお灸を据えてやろうと思ったまでのこと」
「き、貴様……! 公正な剣王試験を穢したな……!」
「公正だと? お前は何を言っている? 聞いたぞ、お前も参加登録会場で、亜人のガキをリンチしたそうじゃないか。これの何処が公正なんだ? 教えてくれよ、聖騎士様」
「私は、セレーネ教の教えに従ったまでのことだ! お前のように、好き放題やっているわけではない!」
「ハッハッハッ! 相変わらずお前は歪んでいるようだな、ルクス! お前は見ていて飽きない奴だ。この俺のお気に入りだ。光栄に思うことだな、俺が傍で愛でたいと思う奴は、なかなかいない」
「何を―――」
ルクスがキリシュタットに反論しようとした、その時。
試験開始の笛の音が鳴り響く。
それと同時に、試験会場へと視線を向けたルクスは……驚きの声を上げた。
「は……? なん、だ、これは……?」
読んでくださってありがとうございました。
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