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【コミックガルド配信中】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第8章 傲慢の悪魔ベルゼブブ

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第8章 二学期 第257話 特別任務ー㉑ 獄炎剣VS氷絶剣


「――――子リス。先ほどから気になっておったが……お主は、どうしてそこまで強い? ベルゼブブとの戦闘の連続で、聞くに聞けなかったが、今問おう。ただのメイドであるお主は、いったい何処であのような力を身に付けた? お主、普通じゃなかろう?」


 背後から迫り来るベルゼブブを一瞥した後、フランエッテはこちらに顔を向け、そう、俺に声を掛けてきた。


 背中に背負っている彼女の顔をチラリと窺って見ると、フランエッテは今までの演技がかった様子とは異なり、何処か、神妙な表情を浮かべていた。


「どうしてそこまで強いか、ですか。気になるのですか?」


「当たり前じゃろう。普通、ベルゼブブたちは、あのように簡単に対処できる相手ではないからのう。戦闘兵種との戦いで、お主の異常性を再確認した。お主はベルゼブブに物理耐性があると察すると、戦い方を即座に魔法剣に切り替え、確実なダメージを相手に与えていった。あれは、経験が成せる技と言えるじゃろう。物理が効かない以上、腕でも掴まれたら終わりだというのに、恐怖もなく戦闘兵種に詰め寄ったその姿には……正直、度肝を抜かれたぞ」


「確かに身体の一部を抑えられたら、終わりだったかもしれませんね」

 

 まぁ……恐らく、戦闘兵種も【覇王剣】で一撃で吹き飛ばせただろうが。


「ですが現状において、あれが一番の最適解でした。テンマさんは魔法を使用できない様子でしたし、威力が低いとはいえ、私の低級魔法が唯一ダメージが入る攻撃でしたしね。間合いを詰めたのは、遠距離では回避されるからです。私の魔法の射出速度よりも、相手の動きの方が早い。結果、私は魔法剣を発動させ、持ち前の剣速によって戦闘兵種を圧倒しました」


「教えてはくれぬか。その強さの秘訣を。妾は……どうしても、強くならなければならない理由があるのじゃ」


 俺の肩を強く掴み、真剣な表情でそう訴えてくるフランエッテ。


 俺はそんな彼女を一瞥した後、前を向き、口を開いた。


「……端的に申し上げるならば、私は、強くならざるを得なかったのです」


「それは、環境によるものか?」


「はい。私が幼い頃に過ごしていた『奈落の掃き溜め』という場所は、戦わなければ殺され、奪われる。そんな場所でした。そこで私は親代わりだった大切な人を失い、幼い時分に、修羅へと堕ちました。日々、己の怒りをぶつけるように剣を振るい、日々、理不尽なこの世界への憎悪を叫ぶ。そうしなければ……この国の地に立っていることすら、できなかったのです」


「そう、か……見た目からは想像もできないほど、過酷な人生を歩んできたのじゃな、お主は」


「はい。ですが私は、その後、剣の師に出会い、人として変わりました。私はその方から剣の振り方を教わり、誰かを守る強さを教わった。修羅へと堕ちた私は、暖かい師と兄弟弟子から人の情を教わって、愛娘から生きる希望を教わり、そして……今、誰よりも大切な愛すべき主人と大切な二人の弟子と出会い、再び剣の道を歩き出したのです。私の力の根源は、誰かを守りたいという強い意志。ですから、私は、ここまで強くなったのだと思います」


「そうか。ん……? 愛娘? お主、そ、その歳で、まさか子供を……?」


「あ、いや、愛娘は言い間違いでした。忘れてください」


 俺はコホンと咳払いをして頷く。するとフランエッテは、何処か辛そうな表情を浮かべ、開口した。


「誰かを守りたいと思う心、か。お主は、何処か、妾と似ているのう。大切な人を失っても尚、立ち向かい続けたところが、特にな。じゃが、決定的に異なる部分がある。それは……お主には剣の才があり、妾には剣の才が無かったことじゃ」


そう口にして短く息を吐くと、フランエッテは顔を上げ、天井を見上げる。


「妾には、強くならねばならぬ理由がある。妾には、冥界の邪姫フランエッテとして、最強の魔法剣士として君臨し続けなければならぬ理由がある。じゃが……お主も知っての通り、妾はただのペテン師じゃ。嘘を吐き続け、他者を欺くしか能がない女。それが、妾じゃ。誰かを助けられるような、強い力を求めても、この通り。妾は、ただの道化師(ピエロ)でしかない。誰も、救うことなどできはしない」


「どうして……どうしてそこまでして貴方は、道化を演じ続けるのですか? 私も、学園ではただのメイドを演じているから分かります。本当の自分を隠すという行為は……時に、苦痛を伴うものです。相応の力を持っていないのに、強者を演じ、【剣王】を名乗っている貴方なら、その辛さはもっとでしょう?」


「妾はのう、子リス。フランエッテを演じて、この世界を明るく照らし続けると……古き友人と約束したのじゃ。【剣王】の座をいただいたのは、たまたまの出来事じゃったが、妾の演技を見て、この時代でも『憧れている』『勇気を持つことができた』と口にしてくれた子供がおった。妾は……妾の姿を見て元気になった者たちを裏切りとうはない。妾はいつか、この嘘を真実に変えたいのじゃ。じゃから、妾は、信じてくれる者たちのためにペテン師で在り続ける。いつか本物の、最強の、魔法剣士になるまで、な……」


「この、時代……?」


「フッ。思わず、感傷に浸ってしまったのう」


 そう言って涙が浮かんでいた目を手で拭った後、フランエッテは笑みを浮かべ、俺に視線を向けて来る。


「約束じゃったな。クイーンの元へと向かうという、妾の無謀な自殺行為に協力してくれた礼じゃ。妾の過去をお主に話してやろう。とはいっても、面白くもない昔話じゃ。一人の友人を救うことができなかった愚かな少女と、自分を見失い暴走してしまった少女の……お話じゃよ」


 そうして……フランエッテは、自分の過去をひとつひとつ、語り始めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《ロザレナ 視点》


「……ジェシカ。今の闘気、は……」


 あたしは、大岩を剣で割ったジェシカを見つめ、ゴクリと唾を呑み込む。


 今まであたしは、剛剣型としてこの学園で最強なのは、自分だと思っていた。


 マリーランドでメリアと戦い、勝利してから、あたしは自分に大きな自信を持つようになっていた。


 メリアは、あたしが戦った同世代の剣士の中で、最も強い子だった。


 ルナティエよりも、グレイレウスよりも。さっき戦った、キールケよりも。


 そして……シュゼットよりも。


 メリアは、数十倍、強かった。


 彼女は既に、剣士として上の領域へと到達しかかっていたのは間違いない。


 同格以上の剛剣型の剣士。


 そして、彼女は、【剣聖】を目指しているライバルでもあった。


 将来、あたしとメリアが【剣聖】の座を争って戦い合うのだと、そう思っていた。


 でも……違った。メリアだけじゃなかった。


 ここにも、こんな近くにも、脅威となる存在がいた。


 先程見せたジェシカの闘気は、あたしやメリアを超えていた。


「やった! 上手く行ったよ! ねぇねぇ、見てた、ロザレ――――」


 ジェシカと目が合う。ジェシカはあたしの顔を見て、驚きの表情を浮かべた。


 ……やめろ。彼女は友達なんだ。そんな顔を、ジェシカに見せるな。


 そう、もう一人の自分は言っている。


 だけど……あたしの中にある果てなき渇望する心は、こう言っている。


 お前は、ジェシカを倒さないと、この先絶対に【剣聖】にはなれない、と。


 お前は何を一番に優先する? そんなこと、最初から分かっているだろう。


 【剣聖】になって――――アネット・イークウェスと戦うことだ。


 アネット・イークウェスを屈服させ、彼女の全てを手に入れる。


 それが、お前が何よりも最も渇望する願いだ、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。


 身体から、薄っすらと、闇のオーラがあふれ出す。


 あたしは目を伏せ、一言、言葉を放った。


「そんなことは、最初から分かっているわ。だけど、今じゃない」


 あたしは【オーバーリミット】を使用して、ラヴェレナの中にあった、闇属性魔法の使用方法、経験を、その身に宿した。


 もう、闇の意思に飲み込まれて暴走するようなことはしない。


 あたしは、あたし。ジェシカを倒すのも、アネットを手に入れるのも、全ては、あたし自身が決めること。


 何となく、分かった。あたしは、何かを強く欲した時に、自分の意思とは関係なく闇魔法が発動してしまうんだ。


 目を伏せ、ふぅと深呼吸した後、闇魔法を抑える。


 あたしは目を開けると、いつもの笑みを浮かべ、ジェシカに声を掛ける。


「ジェシカ、凄かったわね! 流石は、あたしの親友だわ!」


「ロザレナ……」


 ジェシカは一瞬、無表情でこちらを見つめていたが……彼女もすぐに、いつもの元気いっぱいの笑みを見せる。


「うん。ありがとう! ……ロザレナ。私はもう、迷わないよ。私は絶対に、【剣聖】を目指す。何年かかってでも、ジェシカ・ロックベルトとして、リト姉やお爺ちゃんを超えてみせる。そして……貴方も。私は、ロザレナも超えるつもりでいるよ」


「……ええ。そうね」


「ロザレナは、これからも私の大事な友達。だけど、目指す場所は一緒になっちゃった。ロザレナのことだから、私に遠慮する、なんてことはしないよね?」


「当然よ。悪いわね、ジェシカ。あたしは友達だろうとも、その座だけは譲れないの。あたしの邪魔立てするというのなら……貴方だろうとも、あたしは、斬るわ」


「うん、分かってる。ロザレナは誰よりも早く、剣士としての心構えができていた人だから。でも、敗けないよ! 私だって、頂点で会った時は、手加減しないんだからね!」


 お互いにニコリと微笑み合うあたしたち。


 友達なのは変わらない。でも、決定的に、何かが変わった瞬間だと思った。


「おいおいおい……まだこんな化け物がこの学年にはいたのかよ……勘弁してくれよ……!」


 額に手を当て、首を振るルーファス。


 そんな彼の背中をバシンと叩き、アグニスは盛大に笑った。


「ハハハハハハハ! 良いではないか! 強者が多い程、血沸き肉が躍るというもの!! ますますこれからの学園闘争が楽しみになるな!」


「うるせー、戦闘狂! 頭を使うこっちの身にもなりやがれ!」


 喧嘩する二人を横目に、ジークハルトはあたしたちに声を掛けてくる。


「おい、早く地上へと向かうぞ。またいつ、あのベルゼブブたちがやってくるか分からないからな」


「ええ、そうね。それじゃあ、今すぐにでも――――」


「お待ちになって!」


 ルナティエはそう言ってジークハルトを手で止めると、座り込むあたしの元へ近付き、声を掛けてくる。


 そして、誰にも聞こえないように、小声で話しかけてきた。


「……し……いえ、アネットさんはどうしているんですの? 何故、彼女はここにはいないんですの? というか、ベルゼブブって何なんですの? 何で貴方はあの級長たちと親しげになっているんですの? 全部、説明なさい!」


「あー……それはね、ルナティエ。アネットは、ベルゼブブっていう災厄級の魔物の親玉を対処しなくちゃいけなくなったのよ。だから、先に地上に逃げていて、だって。級長たちと仲良くなったのは、一緒にベルゼブブの一体を倒したからかな。特別任務が始まる前よりは……ルーファスやジークハルトに嫌悪感は無くなったかも」


「は? 災厄級の魔物を……級長たち全員で倒した? 貴方、適当なこと言ってます?」


「適当じゃないわよ! 一体だけなら、みんなで何とか倒せたの!」


「正直、とても信じ難い話ですが……まぁ、良いですわ。それよりも、師匠、変なことをわたくしに言っていたんですのよ。自分は死なないとか何とか。これ、何だと思います?」


「へぇ? そういえば、何か、あたしにも似たようなことを言っていたわね? 単純に、心配させたくなくてそう言っただけなんじゃないの?」


「まぁ……そうですわね。そうかもしれませんわね」


 何処か納得がいっていない様子で首を傾げるルナティエ。


 そんな彼女に、あたしは、声を掛ける。


「さっ、考えるのは後にして、さっさと地上に戻りましょう、ルナティエ。そこで、アネットが戻って来るのを一緒に待ちましょう」


「そうですわね。幾分か体力も戻りましたし……ジェシカさんも疲れたでしょう。わたくしが貴方に肩を貸してさしあげますわ。光栄に思いなさい。オーホッホッホッ!」


「……久しぶりにその高笑いを聞くと、頭に響くわね。こっちはベルゼブブに頭を地面に叩きつけられ、キールケに身体中、穴だらけにされたのよ。少しは労りなさいよ、ドリル女!」


「むしろ、こっちがドン引きですわよ。そんな連戦して大怪我負っていて、何故、貴方は意識があってピンピンしているんですの! あのシュゼットは意識を失っているというのに、化け物じみてますわね、貴方の馬鹿頑丈さは! このゴリラ女!」


 そう言ってルナティエはあたしに肩を貸すと、立ち上がる。


「あんたは、リューヌと戦っていたのよね? あの腹黒女に、一撃、かましてやったの?」


「ええ、当然ですわ! まぁ……わたくしのミスで、逃がしてしまいましたけど。そっちは、ちゃんとキールケをぶっ飛ばせたんですの?」


「当然。完膚なきまでにボコボコにしてやったわ!」


「敵とはいえ、馬鹿力のロザレナさんにボコボコにされるとは……可哀想ですわね、あの子も。まぁ、一切、同情なんてしませんけど? 自業自得の結果ですわ~!」


 あたしたちはお互いの顔を見合わせ、クスリと笑みを溢す。


 あたしたちアネットの弟子たちは、無事、倒すべき相手を倒すことができた。


 あとは……倒すべき相手を倒して帰って来るのは、あたしたちの師である貴方だけよ、アネット。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……さて、後は死に化粧の根(マンドラゴラ)の保管庫を探したいところだが……この広い大聖堂の中を隈なく探しても一向に見つからないな……いったい、何処にあるのか……」


 ヴィンセントは、ミレーナを脇に抱えながら、大聖堂の廊下の中を疾走する。

 

 そんな最中。彼の後を追っていたオリヴィアが足を止め、窓に指を差した。

 

「お、お兄様! あれを見てください!」


「どうした、オリヴィア? む……?」


 ヴィンセントは足を止め、窓の向こうに広がる王都へと視線を向ける。


 聖騎士駐屯区の向こう岸、市街地からは煙が上がり、不気味に赤く染まった夕焼け空には、無数に飛ぶ何かの影があった。


 その影に向かって、青白い剣閃が飛んでいく。


 空中で無数の影と戦っていたのは……ハインラインだった。


「ハインライン殿? 何だ? 王都でいったい何が起こっている?」


「……どうやら、王都に多くの魔物が出現したご様子ですね。見たところ、蠅のような魔物と剣神ハインライン様が戦っておられます」


「そうか……って、誰だ、貴様は!?」


 いつの間にかヴィンセントの隣に、望遠鏡を覗いて王都を眺めている……目元だけを仮面で覆った、ツインテールのメイドの姿があった。


 腰の剣に手を当て、戦闘態勢を取るヴィンセントに、メイドは顔を向け、静かに口を開く。


「私は、主からのご命令によりヴィンセント様のサポートをするように仰せつかった、メイドでございます。貴方様の後にこの大聖堂へと侵入し、御三方がフードの男と交戦している最中、密かに『死に化粧の根(マンドラゴラ)』の保管庫が何処にあるのかを探っておりました。今しがた、目星の場所を見つけましたので、ご案内いたします。ついてきてください」


「……お前は……もしや、アレスの手の者、か?」


「え? アネットちゃ……じゃなかった、アレスくんの?」


 メイドは何も言わずに、前を歩いて行く。


 そんな彼女の後を、ヴィンセント、ミレーナ、オリヴィアは、困惑しながらもついて行った。


「……お兄様。どうして、あの子がアレスくんの手の者だと思ったのですか?」


「単純な話だ。俺の本質を理解し、手を貸してくれる者など、奴しかいない。……自分で言っていて、悲しくはなるがな」


「あ、あぁ。なるほど。お兄様は、怖がられていますからね……」


「それと、最初から不思議に思っていたのだ。何故、俺と交流のないフランシアの息女が、大聖堂にある『死に化粧の根(マンドラゴラ)』の一件を俺に伝えてきたのかとな。考えれば簡単な話だ。恐らく、俺とフランシアの息女を繋げてきたのは、アレスなのだろう。俺は、ミレーナを王女にしたてあげるための実績を欲していた。フランシアの息女は、後継者候補であるリューヌの悪事を暴き、失墜させたかった。どちらの考えも把握していたアレスが、二人を繋げた。双方、利害が一致していたということだ」


「……そっか。アネットちゃんが、ルナティエちゃんとお兄様を……」


「何か言ったか?」


「あ、い、いえ。ですが、ということは、あのメイドさんは……」


「あぁ。恐らくは、オフィアーヌのメイドなのだろう。それも、先代一族にだけ、忠誠を誓った者。よもやそんな者がまだ、生き残っていたとはな」


 ヴィンセントとオリヴィアは、神妙な様子で、謎のツインテールメイドの背中を見つめる。


 話についていけていないミレーナは、呆けた顔で首を傾げた。


「アレス? アネット? オフィアーヌ? ん? んん~? ミレーナさんにはまるで意味が分からないですぅ……早くおうちに帰りたいですぅ……さっきのゴリゴリマッチョがまた現れたらと考えると、流石にもう生きた心地がしないですぅ……」


「着きました。ここです」


 ツインテールのメイド……コルルシュカは、階段を降り……一階にある階段下の何もない空間を指さす。


 その光景を見て、オリヴィアは、首を傾げた。


「えっと……何もないようですが……?」


「書斎にある日記帳を読みましたが、以前、この大聖堂に侵入者が入った際に、『死に化粧の根(マンドラゴラ)』の置き場所を念のために司教リューヌが変えたそうです。この階段の手すりの裏にあるボタンを押すことで、地下に続く階段が現れる仕組みとなっています」


 そう言って、コルルシュカは、手すりの下にあるボタンを押す。


 すると床が持ち上がり、隠し階段が姿を現した。


 その階段を、コルルシュカは降りていく。


 そんな彼女の後を、三人も、ついて行った。




「――――ヒィ!? な……なんですか!? これ、は……!?」


 オリヴィアは、その光景に、思わず悲鳴を上げる。


 地下に広がっていたのは……テーブルに並べられている、全身木質化した、『死に化粧の根(マンドラゴラ)』と化した人々の姿だった。


 中には手足を切断され、その手足をバケツに入れられ、『死に化粧の根(マンドラゴラ)』として出荷前の状態のものもある。


 オリヴィアはその光景を見て地面に手を突きえずき、ミレーナは顔を青白くさせ、「あわわわわ」と声を震わせる。


「オリヴィア、無理をするな。お前は上で待っていろ」


「これが……これが、この国の現状なのですか……!? 神を崇める神聖な大聖堂の地下で、こんなことを……! 薬物を使用した人間が薬物そのものとなり、その薬物を、また別の人間が使用する……! 地獄ですか、この国は……! 救いはないのですか……!」


「地獄、か。その通りだ。そして……その『死に化粧の根(マンドラゴラ)』をこの国に持って来て、蔓延させたのが……我らがバルトシュタイン家だ。先々代当主ゴルドヴァークが大森林から『死に化粧の根(マンドラゴラ)』と化した動物の死体を持ち帰り、これを他国を倒す武器に活用できるのではと考え、実験に、スラム『奈落の掃き溜め』へと投下した。スラムの人間を実験に使った結果、王国には、この悪魔の薬が広まってしまったのだよ」


「私たちの……祖父のせいで……私は、今ほどこの身体に流れる血を憎いと思ったことがありません。『死に化粧の根(マンドラゴラ)』は、ただの薬物ではない。これは……魔物です……! 人類を滅ぼす可能性がある、怪物です……!」


「あぁ。俺は、この国から『死に化粧の根(マンドラゴラ)』を一掃するつもりでいる。バルトシュタインの罪は、バルトシュタインの者が償わなければならない。この国を……強者が弱者から搾り取る国ではなく、強者と弱者の溝を無くす国にしなければならない。弱肉強食など、間違っている」


 ヴィンセントのその言葉に、突如、地下室の奥で不気味な笑い声が鳴り響く。


 ヴィンセントはその瞬間、腰の剣を抜き、戦闘態勢を取った。


「誰だ!」


「――――バルトシュタインの罪は、その程度で償うことなどできはしない。貴様たちは、畜生の子。死を以ってでしか、貴様らの中にある悪の血は浄化できない」


 カツカツと革靴を鳴らして……暗闇の中から、仮面の男が姿を現した。


 その姿を見て、コルルシュカは、ビクリと肩を震わせる。


 そんな彼女に対して、仮面の男は嘲笑の声を溢した。


「お前がここにいるということは……奴は、ヴィンセントの側に付いたということか。まったく、愚かな妹が。バルトシュタインの悪魔どもに騙されていることに未だに気付かないとはな。父と母の顔に泥を塗るとは、後でキツく言っておかねばならないだろう」


「……お前は……何者だ? ここにいるということは、リューヌ司教の手下か?」


「世迷言を。私は、王族に仕える騎士。きたる巡礼の儀のために、私が仕える王の支持を得るべく、この大聖堂の闇を暴きに来た。だが……一歩遅かったようだな。同じ策を描いていた貴様が、先にここに到着してしまったようだ。もっとも、地下室を見つけたのは、私の方が早かったようだが」


「貴方は……確か、夜の学校に居た……?」


 オリヴィアは首を傾げ、仮面の男を見つめる。


 仮面の男はその視線にフンと鼻を鳴らした後、腰の鞘から剣を抜き、ヴィンセントに視線を戻す。


「お前たち兄妹のその顔を見る度に、私の仮面の奥にある傷が疼く。ヴィンセント、オリヴィア。何故、貴様らはのうのうと生きている? 私は15年前のあの日、全てを奪われたと言うのに……何故、貴様らは……」


「15年前、だと?」


「何が、罪を償うだ。この『死に化粧の根(マンドラゴラ)』に侵された人々の惨状を見て、心を痛めるだと? 心にもないことを言うな!! 貴様らは、バルトシュタインの、ゴーヴェンの子供!! そのような発言をすること自体、排斥されてきた者たちに対する冒涜だ!! 万死に値するに等しい!!」


 仮面の男は額を……マスクを右手で抑えると、血走った目を仮面の奥から覗かせ、歯を剥き出しにして、笑みを浮かべる。


「私は未だにずっと、あの焼けた森の中にいる!! 泣き叫ぶメイドの声!! 父の断末魔!! 私に優しくしてくれた使用人たちの死体の数々!! 私の火傷の奥には、あの地獄の中の痛みが残り続けている!! ハハハハハハハハ!! 殺してやるぞ!! ヴィンセントォッ!!!! 貴様ら兄妹の首を持って、ゴーヴェンへの手土産にしてくれる!!」


 その瞬間、仮面の男……ギルフォードの周囲に、ゴウッと、炎が撒き上がる。


 そして、ギルフォードは剣に炎を纏い、構える。


「――――【獄炎剣】。我が憎悪の炎によって、貴様らをここで断罪してやろう」


「まさか……まさか、貴様は……!」


「死ね!! ヴィンセント!!」


 炎を身に纏い……否、自身をも焦がしながら、ギルフォードはヴィンセントに向かって突進して行く。


「下がれ、オリヴィア! ミレーナ! 奴とは……俺がやる!」


「と、当然ですよぉう! オッサンが戦ってくださいぃ! あんな目がイカれている人、ミレーナさんではどうしようもないですよぉう! ぴぎゃあ!? あちちっ!? 火が、こんなところにもぉ!!」


「ミレーナちゃん? って、あれ? これ……あの人が出している火じゃない……?」


 オリヴィアは、服が燃えて慌てて火消しをするミレーナを一瞥した後、背後を振り返る。

 

 すると、入り口付近に……火の手が回っていた。


「お、お兄様! 大聖堂が燃えています! 誰かが、火を放ったんです!」


「――――【氷絶剣】!」


 ヴィンセントは剣に氷を纏うと、ギルフォードの元へと走って行く。


 キィィィンと音が鳴り響いたのと同時に、氷の剣と炎の剣が交差する。


 その瞬間、辺りに、衝撃波が舞っていった。


「ヴィンセントォ……!」


「以前までの俺であったなら、罪を償うために、貴様に殺される道を選んでいただろう。だが……! 俺は、あいつと約束したのだ! 逃げることはしないと!! 俺はお前に何と言われようとも、この国を変えてみせる!! それが……幼き日、お前と約束した夢だったからだ!!」


「貴様らの罪は、死でしか償われない!! 死ね、死ね、死ね!!!!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



《アネット 視点》



「――――というわけなのじゃ。妾は、ベルゼブブ・クイーンと……いや、エルルゥと決着を付けねばならん。妾は、あやつに、フランエッテ・フォン・ブラックアリアを演じ続けろと言われたのじゃ。だから……たとえ、一撃で殺されようとも。無理な戦いだと分かっていようとも。あやつが憧れていたフランエッテだったら、どんな強者相手にもけっして逃げることはしないから。フランエッテは、不敵な笑みを浮かべて、対峙する。じゃから、妾は、妾は……!」


「……」


 背中の上で、必死に涙を抑えるフランエッテ。


 正直……その話の全てを素直に飲み込むことは、難しい。


 元はサーカスの旅芸人で、フランエッテというのは、芸名だったこと。


 エルルゥという少女と出会い、親友になったこと。


 彼女が、闇属性魔法を覚醒し、災厄級の魔物ベルゼブブ・クイーンとなったこと。


 ベルゼブブ・クイーンの魔法によって心臓を抜き取られ、不死となり、60年近く生きていたこと。


 その全てが、まるで絵物語の出来事のように思える。


 だけど……きっと、嘘じゃないのだろう。彼女の涙が、そう、訴えていた。


「一番驚きだったのは、エルルゥという闇森妖精族(ダークエルフ)の少女の言葉ですね。人間は、本来四種族ではなく、八種族だった。そして……災厄級の魔物は、その八種族の中から一体ずつ産まれる。この真実を知っている人は、恐らく、王国では殆どいないでしょう。セレーネ教が情報を改竄、統制し、長年秘匿にしてきた世界の真実です」


 長年亜人と言って差別してきた、他の四種族への排斥の理由も、その情報統制のせいなのだろうか? アレスの過去の出来事と言い、ますます、セレーネ教がうさんくさく感じるな。


 そうこう考えている内に……巣穴の最奥が見えてくる。


 その入り口横には、今までに見たことが無い、屈強で巨大なベルゼブブが立っていた。恐らく、門番なのだろう。


 俺は壁の隅に身を隠し、その巣穴の最奥……巨大な部屋の入り口に視線を向ける。


「あれがベルゼブブ・クイーンがいる部屋で間違いなさそうですね」


 3人で身を隠してその入り口をジッと見つめていると、フランエッテは背中から飛び降り、俺に、微笑を向けてきた。


「ここまでで良い。案内、ご苦労であったな、子リス」


「フランエッテさん?」


「妾は……奴と決着を付けに行く。お主らはこのまま逃げよ。お主らが強いのは分かったが、絶対に、ベルゼブブ・クイーンには勝つことはできない。地上へ行き、【剣聖】と【剣神】を呼んでく来るが良い」


 フランエッテのその言葉に、テンマさんはハンと鼻を鳴らす。


「足、震えている癖に。かっこ付けてんの、丸わかりなんだけど? キャハハハ!」


 フランエッテの足は、大きくガクガクと震えていた。


 馬鹿にするテンマさんに、フランエッテは、怒った表情を浮かべる。


「そりゃあ、怖いに決まってるじゃろ!! 妾は、一度、ベルゼブブ・クイーンと対峙したことがあるのじゃから!! はっきり言おう!! 今までお主たちの実力を見て来たが……お主たちの実力じゃ、あのベルゼブブ・クイーンには絶対に勝てない!! あれは……複数人の【剣神】でも、封印するのが精一杯だった、正真正銘の化け物なんじゃ!!」


「別に、馬鹿になんかしてないんだけど? アタシも伝記を読んだから、分かるよ。ベルゼブブ・クイーンは……アタシたち二人じゃ、間違いなく無理だろうね。即死魔法を撃たれたら即終わり。まぁ、雑魚の癖に立ち向かおうとするあんたのその気概は、武人として褒めてあげても良いよ、ゴスロリ女。じゃあね、アタシは帰る道探すから。せいぜい、派手に死ねば? キャハハハハ!」


 そう言ってテンマさんは、手を挙げて去って行く。


 だが……途中で足を止めて、こちらを振り返った。


「何してんだよ、メイド。あんたもアタシと一緒にさっさと逃げ道探しに……」


「私は、残ります」


「は?」「はぁ?」


 俺の一言に、フランエッテとテンマさんはそれぞれ、驚きの表情を浮かべる。


 俺はそんな二人に、続けて言葉を投げた。


「まず、私は、最初からクイーンを倒すためにここまでフランエッテさんを連れてきました。私は、お嬢様に……倒せと、そう命令されましたから」


 俺のその言葉に、テンマさんはこちらに近寄ると……俺の胸倉をつかんできた。


「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、メイド!! あんたは、アタシの獲物だ!! アタシの許可なく死ぬな!! 自殺するつもりなら、今すぐにお前をここでぶっ殺してやる!!」


「貴方が、今、私をここで殺せるとでも思っているのですか?」


 俺の鋭い眼光に、テンマさんはビクリと肩を震わせると、手を離した。


「確かに、メイド、お前は強い! アタシが今まで見てきたどんな奴よりも強かった! だがな、クイーンは闇属性魔法で最強の魔法、即死魔法が使えるって話だ! 即死魔法というものは、どんな強者であろうとも一撃で殺すことのできる、化け物じみた魔法だ! お前には、即死魔法に対する信仰系の加護があるのか!?」


「ないですね」


「だったら、お前は一撃で殺されて死ぬ!! これは、確定事項だ!! 分かっただろ!! 死にたがりのそこのゴスロリには死ぬ理由があるが、お前にはわざわざクイーンに会いに行く理由が無い!! アタシはお前がアタシ以外に殺されるのが嫌だ!! 分かったか!! お前は逃げるんだよ!!」


「逃げません」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 心底訳が分からないと言った表情を浮かべるテンマさん。


 俺はそんな彼女から視線を外して、フランエッテへと視線を向ける。


「よろしいですね? フランエッテさん?」


 俺のその言葉に、フランエッテは唖然とし、魚のように口をパクパクと開けた。

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― 新着の感想 ―
新刊買いました!頑張ってください☺️
猛者揃い(の濃ゆいキャラ)の同期って肩身狭そうな気がするw
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