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第7章 第201話 夏季休暇編 水上都市マリーランド 決戦ー① クズコンビ


 ――――8月19日 PM18時50分


 俺は現在、キュリエール大橋に立っていた。


 橋は中央の辺りから、爆発物か魔法によって、綺麗に崩れ落ちている。


 向こう岸と橋の距離は、三十メートル程。


 壊れた鉄道橋の下を見下ろしてみると、そこには、荒れた海が広がっていた。


 泳いで渡ろうにも、あそこまで流れが急では、なかなか厳しい様子に見える。


 やはり、聖騎士団の救援がこの地に来るのは難しいか。


 まぁ……人目を気にする俺の立場上、それは良かったと思える部分も、あるにはあるが。


 しかし、万が一にも共和国の兵が攻めてきた時のことを考えると、味方は多い方が良いのは確かだ。


「さて……もうすぐ、日没ですね」


 俺は懐から懐中時計を取り出し、時刻を確認する。


 現在の時刻は、18時58分。もうすぐ、完全に日が沈む、約束の19時00となる。


 俺のやるべきこと。それは、ここでゴルドヴァークを倒し、続けてアーノイックを倒すこと。


 そして時間に余裕があれば、弟子たちの救援に赴く。


 ……大丈夫だ。弟子たちには、教えるだけのことは教えてきた。


 お嬢様も、グレイも、ルナティエも、きっと、目的の敵を倒すことができるはず。


 だから、俺が今すべきことは、弟子たちのことを信じて、自分の仕事をこなすこと。


 先日話して分かったが、アーノイック・ブルシュトロームは、この戦に前向きではない。


 彼は時計台の上から戦場を観察すると言っていた。


 この戦に自ら参戦したい様子ではないことは明らか。


 だから一先ず彼のことは置いておいて良い。問題は、ゴルドヴァークだ。


 ゴルドヴァークは、いくら修行を重ねた弟子三人といえども、絶対に敵わない相手。


 そしてあの男は、思考を読み辛く、破天荒な性格をしている。


 故に、弟子たちに最も近付けてはいけない男だ。俺が直接、対処する必要がある。


「……19時だ。さぁ、どこから来る? ゴルドヴァーク……!」


 懐中時計を仕舞い、山々に沈むゆく紅い夕陽を眺める。


 完全に夕陽が沈み切ったのを見届けると、俺は箒丸を構え、周囲をキョロキョロと確認してみる。


 だが――――周囲に人の気配は感じられなかった。


 荒れ狂う海の音と、風の音だけが、橋の上には轟いている。


「…………時間ぴったりには来ない……? どういうことだ……?」


 俺は戦闘態勢を止めて、顎に手を当て、思案する。


 あの漆黒の騎士、アーノイック・ブルシュトロームは、ゴルドヴァークはキュリエール大橋に現れると言っていた。


 奴らの目的は、マリーランドの各所に点在する魔法陣の解除。


 だとしたら、この場所は、敵にとって大事な要所のはずだが……。


「…………いや、違うか。魔法陣の解除は、アンデッドを使役するロシュタールという死霊術師が求めていることだ。ゴルドヴァークの性格を考えるならば、使役者の都合など、お構いなし―――」


 そこで俺は……嫌な予感を覚える。


 そしてその予感は正解だと言わんばかりに、「ヒュゥゥゥゥゥゥ」という音と共に、東の空に狼煙が打ち上がった。


 あれは、間違いなく、俺が弟子たちに渡した救援の狼煙。


 間違いなく、あそこで何かがあった、ということだ。


「……あっちは……丘の上の教会の方か……!! くそっ!!」


 俺は地面を蹴り上げ、【瞬閃脚】を使用し、急いでマリーランドの街へと戻る。


 完全に、俺の読みが外れてしまった……!!


 あいつの性格を、俺は良く知っていたはずなのに……!!


 ルナティエ……!! 無事でいてくれ……!!






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《ルナティエ 視点》


 PM18時50分。丘の上の教会。


 わたくし……ルナティエは、教会の前に立ち、虚空を睨み付けていた。


「……何故、こんな時に、リューヌは教会に居ないんですの……」


 教会の中に居る避難民たちには、これから戦闘が始まるから外には出ないよう、釘を刺して置いた。


 本来であれば、リューヌに避難民たちの統率をお願いしたかったのだが……教会の者の話によると、リューヌは二日前から教会に姿を見せていないらしい。


 逃げたのか……とも思ったが、あの子の性格を考えるに、それはどうも違うような気がする。


 元々、リューヌは何を考えているのか分からない、得体の知れない存在だ。


 彼女の行動を真剣に考える方が、馬鹿らしいというもの。居ないなら居ないでそれで構わない。


「…………おい、成金女。言われた通り、教会の周辺に罠を張っておいたぜ」


 その時。アルファルドがスコップを片手にこちらに近寄ってきた。


 そんな彼に、わたくしは笑みを浮かべる。


「ご苦労様ですわ。これで、戦闘準備は整いました」


「まったく。テメェは本当に四大騎士公フランシアの娘なのか? 姑息な手ばかり思い浮かびやがって」


「貴方には言われたくありませんわね。わたくし、毎朝下駄箱にゴミを突っ込まれたこと、まだ許してはいませんわよ?」


「ハッ。それがオレ様の戦い方なんでな。第一、あの時のテメェは決闘に敗けて、精神的に弱っていた。あの状況下では、学級対抗戦で勝利するためにも、クラスの頭脳となるテメェを叩いた方が良いのは明白だ。オレ様は、ロザレナよりもテメェの方が厄介だと踏んでいたのさ。光栄に思いやがれ」


「ベアトリックスさんを利用したことも、貴方のやり方、なんですの?」


「当然だ。オレ様は、汚い手を使うことに躊躇はねぇ。騎士の誇りなんざ、クソ喰らえだ」


 そう言ってスコップを投げ捨て、肩を竦めるアルファルド。


 ……人としての在り方には、些か問題がありそうな人物ですが……使い勝手は悪くなさそうですわね。


 勝利するためならば汚れ仕事も辞さない。その点においては、わたくしの駒としては申し分ないもの。


 このことを理解していたからこそ、師匠は、私の元に彼を寄越したのかもしれませんわね。


 わたくしはジッとアルファルドを見つめ、彼に問いを投げた。


「貴方は何故、この地を守る戦いに参加したんですの?」


 わたくしのその問いに、アルファルドは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


「……別に。人助けだとか、贖罪だとか、そういったつもりは一切ねぇよ。オレただ、目の前でクソガキが勝手に死んじまいやがったから……ムカついちまっただけだ」


「クソガキ……?」


 そう、疑問の声を溢した……その時だった。


 雷のように、空から青い光が落ちてきくる。


 あれは、転移魔法が発動した光。わたくしとアルファルドは、剣を構え、すぐさま臨戦態勢を取った。


「…………まさか……私の相手が貴方……なんて冗談は言いませんよね?」


 光が霧散し、土気煙の中から現れたのは……【黄金剣】元剣神・キュリエール・アルトリウス・フランシア。


 彼女は、兜の隙間から出ている長い金髪の毛を手で靡くと、こちらを静かに見据えてくる。


 私は肩をビクリと震わせた後。お婆様に向けて、笑みを浮かべた。


「その通りですわ、お婆様。貴方の相手はわたくしです」


「はぁ……まさか、こうも無知蒙昧な孫だったとは。貴方と私の戦力差は、以前の戦いで既に理解したと思っていたのですが? ……呆れてものも言えません」


「以前までのわたくしだと思わない方が良いですわ! わたくしは、修行して強くなりましてよ!」


「たった二週間の修行で【剣神】に届くとでも? その剣を愚弄した行い、剣に生きた者として腹立たしい……! 我が血族は、ここまで腐ってしまったのか……!!」


 白銀の鎧を着た騎士、キュリエールが、こちらに向かって歩いて来る。


 その光景を見て、隣に立ったアルファルドが声を張り上げた。


「来るぞ! 作戦は……手筈通りで構わねぇな!?」


「ええ。お願い致しますわ。わたくしの戦い方……見せてあげます……!!」


 そう言って、レイピアを構えた……その時だった。


 ―――――――――――ドシャァァァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!!!!!!


 わたくしたちとキュリエールの間に、突如、何かが降ってくる。


 それは、大きな土煙を巻き上げ……土煙の中にいる何者かは、コキコキと首を鳴らした。


「マリーランドの民が避難するここは、謂わば最後の砦。故に戦力を集中させ、強者を配置すると思って来てみれば……なんだ、いるのはただの子供二人か。実に、つまらぬな」


 地面に産まれたクレーター。そこに立っていたのは……3メートルはあろう長身の大男。


 恐らく、ゴルドヴァークと呼ばれる、先代【剣神】の姿だった。


 わたくしは思わず目を見開き、驚きの声を上げてしまう。


「なっ……!! 何故、貴方がここに!? 貴方が来るのは、キュリエール大橋のはずでは!?」


「そんなもの知った事ではない。俺が求めるもの。それは、強者との戦いのみだ」


 腕を組み、威風堂々とそう発言するゴルドヴァーク。


 その言葉に、お婆様は呆れたため息を溢した。


「まったく……昔から貴方のその自由奔放な性格は変わりませんね。任務を無視する癖は相変わらず、ですか」


「こんなもの任務などではない。貴様こそ、よくあの死霊術師の命令を聞いているな。元【剣神】として恥ずかしくはないのか?」


「私の目的と彼の目的がたまたま一致したから、手を貸しているだけのこと。私にとって今のフランシアは粛清しなければならない対象です。全てを壊して、そして、私自らの手で再生をする……それが、私の真なる目的」


「フン。【服従の呪い】で反抗できぬから、いいように使われているだけでないのか?」


「私を舐めているのですか、貴方は。【服従の呪い】を発動するには、口頭での呪文詠唱が必須となる。故に、詠唱よりも素早く剣を振れば良いだけのこと。ロシュタールなど、私はいつでも殺せるのですよ。今は利用価値があるから泳がせているだけです」


 そう言ってキュリエールは歩みを再開させ、こちらに向かって歩いて来る。


 それに続いて、ゴルドヴァークも歩いてきた。


 その光景にギリッと奥歯を噛んでいると……隣にいるアルファルドが、ゴルドヴァークに言葉を投げた。


「おい、コラ、デカブツ! テメェには言いたいことがある!」


「何だ、小僧」


 声を発するだけでも、大地が震えるような威圧感を覚える。


 一目見ただけでも分かる。あの大男は……キュリエールとはレベルが違う。暴力の化身だ。


 そんなゴルドヴァークの様子に気圧されながらも、アルファルドは続けて口を開く。


「テメェは……戦いで見ず知らずの奴が死んでも、何も思わねぇのか? 先日、テメェが広場で暴れたせいで、うちの孤児院のガキが一人死んじまった。さっきまで笑っていたのに、一瞬でガレキの下敷きになって、ボロ雑巾みてぇになっちまってよぉ。元【剣神】として、民の命を奪ったことに、何とも思わねぇのか?」


「何も思わん」


「なっ……!?」


「児戯の如き質問をするな、小僧。この世界は『弱肉強食』の摂理で動いている。俺は強者には敬意を示すが、弱者の命など興味の欠片もない。……その紅き髪。見たところ、分家ダースウェリンの者と見えるが……まさか、我が一族からそのような戯言を吐く者が現れるとは。キュリエールの気持ちも、少しは分からんでもない」


「……今、分かったぜ。テメェが……バルトシュタイン家とダースウェリン家の『悪』を産んだ元凶だということがなぁ! ハッ、オレ様もテメェの思想にどっぷりと浸かった『悪』側の人間だ! 言い訳はしねぇ! だが……テメェのせいで運命を蔑ろにされたガキがいるってことに、ムカついて仕方がねぇぜ!!」


 アルファルドはそう言ってロングソードを構える。


 並んで、敵二人を見据えるわたくしとアルファルド。


 ゴルドヴァークとキュリエールはそのまま歩みを進めて、6、7メートル程の距離にまでやってくる。


 ――――その時だった。


 事前にアルファルドに作らせていた落とし穴が発動し、ゴルドヴァークとキュリエールは、落とし穴の中に落下して行った。


 その光景を見て、わたくしとアルファルドは高らかに笑い声を上げる。


「オーホッホッホッホッホッホッホッ!!!!! 流石の【剣神】といえども、古典的な罠に引っかかるものですわねぇ!!!! 間抜けすぎて思わず大笑いしてしまいますわぁ!!!!」


「キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!! 馬鹿どもが!!!! 事前に中には、オレ様特性の火付け油をたっぷりと注いであるぜ!!!! これでお終いだ、クソ【剣神】ども!!!!」


 アルファルドがマッチに火を点けて、それを落とし穴へと放り投げた。


 すると瞬く間に火が燃え上がり、落とし穴の中から、火柱が舞い上がった。


 燃え上がる炎を見て、わたくしはフンと鼻を鳴らす。


「本来であれば、わたくしの実力をお披露目して、お婆様を華麗に倒したかったのですが……この戦、失敗は許されない。勝利こそが最も重要なもの。わたくしの策略が光りましたわね」


「やるじゃねぇか、成金女。これで、流石の【剣神】どもも、焼け焦げて――――」


 その時。落とし穴から、二つの影が飛び上がってきた。


 それは……ゴルドヴァークとキュリエールだった。


 二人は炎の中でも、特にダメージを負った様子を見せず。そのまま、何事もなくこちらへと歩いてきた。


 わたくしとアルファルドは、その光景を見て、思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「…………おい、成金女。他の手はあるのか?」


「…………」


「……おい」


 わたくしは懐から発煙筒を取り出し、それを、空に向けて撃った。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの展開、、! アネットは間に合うのか、、、、! 続きが、続きが気になりますーー!!
[一言] 火葬...ならず!ただ鬱陶しい意味で火に油を注ぐ形に
[良い点] キュリエールは性格やルナティエとの関係もあって隙が多いから一番倒しやすい気がする ゴルドヴァークは根本的に相性が悪い、格下に絶対に負けないのが特性って言ってもいいタイプだよこれ
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