表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第三章
26/35

おっさん、引っ越し前です


おっさんが寝てる間に引っ越しの準備はほとんど全て完了していたらしく、あとはもう荷物を持って出ていけば完了の段階まできていた。

各部屋はもぬけの殻も同然で、ほとんど何もない。


ってゆーか、これだけなんにもなかったら荷物はどんだけの量なんだと思ってしまう。


「見事に何もないね」

「うちには必要なものしかないからな」


その必要なものの中にリリー用の大量のおもちゃ等も入っている。


「えーと、荷物は?」

「広間に纏めてある」

「そっか」


一週間ほど(寝てる間も含めればもっとではあるが)時間を過ごしたこの住居ともおさらばか……

なんか村にいた頃よりも離れがたい気がする。


「で、どこに行くかは決まってるの?」


せっかくの引っ越しなのだから海が見えるとこがいいな。

だっておっさん、魚派だもん。


「あ」

「あ、ってなによ。決めてないの?」

「全然決めてない。でもリリーが魔力限定を覚えて人形態になれるようになったんだから候補はいくらでもあるわ」

「そっかそか。まあ、リリーが人の姿とれるなら、町とかに行っても大丈夫だもんね。それにしても、目を覚ましたらリリーがいきなりちっちゃい天使になってたからビックリしたよ」


おっさんがそう言うとジーナはこちらに顔を向け、ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「ね、ね、ね? リリーが初めてしゃべった言葉なんだと思う?」

「なんだろうな……」


リリーってばおっさんのこと大好きだし、やっぱ『パパ』かな? あ、でも『おとーさん』って呼んでるよな?

まあ、まだ人語を話せないドラゴンの時からおとーさんって呼んでた気がするからパパはないかな?


「リリーったらね……お母さんの料理美味しくないって言ったのよ?」


やたら嬉しそうに言ってるが、ちょっと待ちなさい。

その発言、ツッコミ所がいくつかありはしないか?


「いや、初めて話す言葉が長文過ぎる。あと、ジーナってば否定されてるじゃん」


否定されたのは料理だけどね。

そう言ってしまったリリーの気持ちはわかるが、初めてがそれはないでしょー。


「え、普通でしょ?」

「なにが?」

「ドラゴンは話し掛けていくとその言葉を覚えていって、ある程度の語彙が蓄積された状態になって初めて話せるようになるのよ。私だって初めてしゃべった言葉は『お姉ちゃんがご飯盗った』だし」


あぁ、そうか。

ドラゴンだもんなー。人間と同じ物差しで測ったらダメだよね。


「おとーさんおとーさん」


ずっとおっさんの傍にいて手を繋いでいたリリーがブンブンと振ることで私、聞きたいことあるのアピールをする。


「なに?」

「おとーさんはさいしょになんてしゃべったのー?」


無邪気な質問だな。

普通なら自分がなんて言ったかなんて覚えてないのだが、おっさんの場合はよくネタにされてたから記憶に残ってる。

前の世界の母曰く


「お父さんはおっぱいって言ったらしいよ」


おっさんは他の赤ん坊よりも早く言葉を話せるようになったらしいが、結局一ヶ月くらいをこの単語一つで乗り切ったみたいだ。

最初はしゃべったと大はしゃぎの両親もさすがにこれはどうなんだと息子の将来を心配したらしい。

あらゆる場所でおっぱい言うから恥ずかしかったとグチグチ言われたもんだ。

まあ、次に話した単語がママだったらしくそれが母の自慢だと言われた時には恥ずかしかったけど少し嬉しかった。

ただ、『今のお前は自慢出来ないけどね』ってオチ付けられるんだよなー。

しかも、この話を初めて聞いた十七歳の正月以来、毎っ回!

それから二十年近くおっさんは母親にとって自慢出来ない息子らしい。

あれ、なんだろ視界がぼやけてく……


「おとーさんどーしたのー?」

「リリー、これはね? 己の馬鹿さ加減を恥じてるのよ?」

「違うから。いや、親って時に残酷だよなって思っただけ」


こっちが覚えてないこと、いつまでも覚えてやがるから質が悪い。


「私は残酷じゃないっ! だってこんなにもリリーを愛してるんだから!」


そう言ってジーナはリリーをおっさんから引き離してギューッと抱きしめる。

あら、リリーの顔がジーナの胸に埋まってるじゃない。

羨ましい……おっさんもハグされたい。


「ジーナってばそんな怒鳴らなくたっていいじゃん。あと、ついでに快気祝いにおっさんも抱きしめてくんない?」

「は? なに、馬鹿なの? 死ぬの?」

「……冗談だよ。半分」


だからそんなに冷たい目で見ないで……いい意味でゾクゾクしちゃうから!

おっさん、興奮してマジでヘラクレする五秒前だよ!


「リリーがしたげるー」


抱きしめるジーナから逃げるようにしてリリーがおっさんの腰辺りに抱き着く。

なんかほんわかして、邪な感情が霧散しちゃったよ。


「よっこいしょういち」

「しょーいちー」


リリーの脇に手を入れて持ち上げ、右腕でだっこする。

リリーの程よい重さが腕にかかって、なんかいい。だっこするのが癖になりそうだ。


「ず、ずるい」


ジーナがすごく悔しそうにリリーを見ている。

大方、リリーを取られたとか思ってんだろうな。


「はあ」


溜め息を一つ吐く。


「ジーナ」


そして呼びかけた。

ジーナはその声に反応して視線をおっさんへと移し、リリーを抱きしめるために屈めていた腰を上げた。


おっさんはそんなジーナへと近付き、あたかもリリーを渡すように見せかけておいて、空いてる左腕でジーナの腰を抱き寄せた。

ついで軽く尻にタッチ。うむ、よし。


「なっ……」


言葉を失うとはこの事か、とばかりに絶句しジーナは顔を真っ赤にしていく。

あまり耐性はないのかもしれないな。

それにしてもこの尻の弾力たまらん。


「は、離せ馬鹿っ」

「えー、やだー」

「子供かっ!?」

「リリーも三人の方がいいよねー?」

「うん」


この場合、子供を味方につけたおっさんの勝利と言えるだろう。

リリーの言葉ならジーナもおいそれとは抗えまい。

実際、ジーナも不服そうにしながらも甘んじておっさんの行為を受け入れてくれている。

ならもうちょっと大胆に……


軽いタッチ程度の動きだった左手が撫でる動きへとシフトする。

うん、ナイスフォルム!


「いたっ!」


不意にその左手に猛烈な痛みを感じた。

見てみればジーナの左手の指の爪がおっさんの手の甲へと刺さっていた。


「調子乗ってると殺す」


表情はすっごい爽やかな笑顔ではあるのだが、おっさんにしか聞こえない声でジーナは殺意をあらわにする。

はいはいおっさんが悪かったです。


「いいケツだったZE。ジーナは安産型だな」


ジーナから離した左手でサムズアップして見せる。

ほんっといい尻だった。

まだ少し物足りないけど概ね満足した。


「お前は少しも反省しないのか……」

「してるしてる。なんならお仕置きする?」


鞭とか蝋燭希望です。

三角木馬もあながち嫌いじゃない。

あとは鼻フックとかギャグボールとか?

うーん、ギャグボールはいいんだけど鼻フックは鼻毛が気になるからNGだわ。


「なんか喜んでるからお仕置きはしないぞ」

「放置プレイとはまた高度な……」


なるほど。ジーナは高みに至った女なのか。

と感心していたその時、視界の端になんだか気持ち悪いものが見えてしまった。


「お前と話してると無駄に疲れる……」

「あ、ひどい。ところで……あいつどうすんの?」


おっさんの指が先ほど視界に入った気持ち悪い物体を指し示す。


「ハァハァ、リリーたんカワイイ……マジ萌えだよー」


そこにいたのは未だに縄で縛られながら鼻息が荒くリリーを凝視するロリコンの姿があった。

とゆーか萌えの感性はこの世界にもあるのか!?


「あれは捨てていく」


スッパリはっきりとジーナが断言する。

まあ、確かにあれはなんだか危ないからね。

だが、一応おっさんの命の恩人なわけだし、捨てていくってのはちょっとアレだ。


「せめて生かしてあげたいんだけど」

「まあ、お前の気持ちもわからなくはないが、なんかあの様子を見てるとリリーに粘着しそうで嫌なのよ。あぁ、リリー……あなたの愛らしさは早速人を狂わせるのね」


リリーの頬を撫でながら陶酔したようにジーナが言う。

それにリリーはくすぐったそうにしながらも屈託なく笑ってそれを受け入れていた。


「うーん……とりあえず本人の意見を聞いてみないか?」

「ああ、リリー可愛いわ」


聞いてねーな。

いいもん。勝手に行っちゃうからね。


「動くな馬鹿」

「はいはい、ごめんなさいよっと。なあ、ロリ……ザラ君、君はこれからどうしたい?」


ロリコンの前に立ったおっさんはロリコンへと問い掛ける。

それまではリリーを見つめて悦に浸って緩んでいたロリコンの表情がおっさんへと向けられると急に真面目になった。


「出来れば旦那達についていきたいです」

「リリーの間違いじゃないの?」

「正直、今は拮抗しかけてますけど、一応旦那にという方が大きいですかね?」


なんの意味があっておっさんなんかに……

はっ!? まさか!!


「ロリコンの癖に男色でもあるの? なんだか倒錯してんなー。つまりはバイセクシャルってことだろ。つーかお前はどんだけ重い十字架を背負って生まれてきたんだよ」


おっさん、体の大きさは大人だし精神的にもそこそこな年齢だけど、実際のこの体の年齢は一歳かそこらだもんな。

あいつのストライクゾーンに入っちゃったかー。

なんて鋭い嗅覚してんだ……

恐ろしい奴だ。


「いえ、尻の穴は好きですけど男のは嫌です。そうじゃなくて、旦那の男気に惚れたんですよ!」

「さらっと変態発言したぞこいつ……とゆーかこの豚に男気? そんなのないだろ」


傷付くわー。


「クラベジーナの姐さん、もう忘れたんですか? 旦那ってば体張って姐さんを守ったじゃないですか!」

「む、うぅ……」


そうだよ!

ザラ君もっと言ってやって!


「あとは、お姫様がここに入らないように扉の前に立ってここから先は通さないとか言っちゃったりして」


あ、逆に恥ずかしっ!

おっさんってばそんなこと言ってたっけ?

記憶にないなー。


「まさに男の中の男ですよ」


褒められ慣れてないからむず痒い。

ま、悪い気はしないけど?


「いい奴じゃないか。連れてってやろうよ」

「待て。あいつは人間で、私とリリーがドラゴンだってことを知ってるんだぞ? 一万歩譲って殺さないのは構わないが、連れてくなんて正気の沙汰じゃない。絶対無理」

「姐さん、お願いします。この通りです!」

「どの通りだよ!」


縄で縛られてなければ土下座でもしそうな勢いだが、生憎ザラの体は縄で縛られたままなので顔を下に向けるくらいしか出来なかった。


それから二人による必死の説得もジーナの心を動かすには至らない。

なので最終兵器に出てもらうしかないようだ。


「リリーはどうした方がいいと思う?」


対ジーナの最終兵器であるリリーが味方につくならば一万の兵士を味方につけるよりも心強い。

もし、ジーナの味方につくならばその時は諦めよう。

おっさんはわりと切り替え早いタイプなのだ。


「リリーはね、みんないっしょがたのしいとおもう!」

「……だって?」


どうやらリリーはこちらの味方についたようだ。

まあ、味方っつーかよくわかってないんだろうけどな。


「ぐっ、リリーをダシにして……でも私はリリーのために……」


悩んでるな。

まあ、ぶっちゃけドラゴンの親という立場からすればジーナの方が正しいのだろう。

おっさんもこいつが命の恩人でなければ提案を一蹴したのだろうが、命の恩人ってわりと重い。


「おかーさんだいじょーぶ?」

「……うん、大丈夫よ。おい、犬」

「おれのことですか?」

「それ以外に誰がいるのよ。いい? 裏切ったら死よりも恐ろしい目に合わせると共に罪もない人間が死ぬと思いなさい」


やる。彼女はザラが裏切ったら宣言通りに罪もない人間を殺すつもりだ。

だって目が本気過ぎるもん。


「あと、豚。あんたは命に代えてもリリーを守ると誓いなさい。でなければ……」

「問題ないよ。リリーとジーナはおっさんが守るからね」


今更な話だ。

アイリス達と対峙した時にその覚悟は既に決めていたんだから。


「わ、私のことは別にどうでもいいから! とにかくリリーだけはしっかり守りなさい」

「姐さん、もしかして照れてます?」

「だ、黙れ。とにかく、お前が一緒に行くことはとりあえず許可する。だが、こちらの提示する条件を全て呑んだ上で、それに抵触するならば即座にデスorダイするからなっ!」

「お、お手柔らかに……」


そうしてザラがおっさん達について来るための条件が決められた。


その条件とは


一、リリーと二人きりにはならない


ニ、リリーに手を出さない


三、誰にも正体がドラゴンであることを告げない


四、裏切らない



半分がリリーのことというのがなんともジーナらしい条件だと思うね。



世間ではもうクリスマスですね。

クリスマスネタをやりたかったんですけど、話の流れ的に無理かな?

気が向いたら短編として活報にでも書きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ