65.脳筋少女、魔王城を目指す。
「お嬢、魔物だったのか……」
「なんでよ」
バチン!
何故か納得したようにぽつりと呟いた盗賊Cは、少女に言葉と手で同時に突っ込まれました。「痛い……」と言いながら肩を撫でる盗賊Cですが、これは自業自得です。
そのやりとりを涙目で見ていた青い髪の青年は、首を傾げました。
「その、食事をしたので元気が出たとかいう話ではなく?」
最もな疑問でしたが、少女は首を横に振りました。
手を握ったり開いたりしながら自分の調子を確認しているようです。
「違うわね。こう……グツグツと体の底から力が湧いてくるのよ」
「なにそれ怖い」
またしても少女にいらない一言を呟いた盗賊Cは地面と仲良くなりました。
「あれ、それじゃあ何で俺は無事なんだ?」
「なにが?」
「お嬢の力が上がったなら、俺の体なんてバラバラになってもおかしくない気がするんだが」
言っていることは怖いですが正論です。普段でさえ少女の力は強いので、盗賊Cが無事なのは奇跡です。無言で話を聞いていたクロもコクリと頷きます。
少女は盗賊Cを見て、呆れたように言いました。
「もちろん加減してるからに決まってるでしょう」
「え、あれで?」
それほど力強かったようです。
盗賊Cは、もう一度自分の肩を撫でました。
少女はその様子を見てにっこり微笑むと拳を握ります。
「……わかったわ。見てなさい」
少女は近くにあった大岩に近づくと、おもむろに殴りました。
ゴガッ!!! ザラアアァァァ……
もの凄い音が辺りに響きます。
そして少女の拳が当たった岩が脆くも崩れ去りました。
「マジか」
『凄いな主!』
『──凄まじいワネ』
「ひいぃっ」
盗賊Cは限界まで目を見開き、クロは瞳をキラキラさせながら喚声をあげます。火竜の長は呆れたような声をこぼし、青い髪の青年は涙目で後ずさりしました。
一同が様々な反応をしつつ少女を見ます。その視線を受けて、少女は一つ頷きました。
「これでも加減しているわ」
「マジか」
「えぇ。それにしても……時間が経つごとに力が上がってる気がするわね」
「マジか」
「今なら世界も壊せそうな気がするわ」
「それは今さらじゃないか?」
地面と親友になった盗賊Cは学習能力がないのかもしれません。
「ちなみにクロと火竜の長はどうなんだ? 力が上がってるのか?」
なんとか復活した盗賊Cは人外二匹に訊いてみます。
『そうだな……少しは上がってる気がするが、主ほどではないと思う』
『ワタシもそうね』
「個人差なのかな? それとも食べた量?」
『どうかしらね……どちらもありそうだけど』
どうやらクロと火竜の長は少女ほどには力が上がらなかったようです。
それでもクロの動きは素早く力強くなりましたし、火竜の長は炎の温度が上がったようです。空に向かって吐いた炎がいつもの赤色じゃなくて、青白いです。
しばらくどれくらい力が上がったのか実験していると、少女が唐突に言いました。
「あら、元に戻ったわ」
「もう?」
『確かに……我も普段通りだ』
『そんなに長続きしなかったわネェ。でも……キノコを食べただけであんなに力が上がるなんて、怖いわネ』
「結構早く元に戻っちゃったな」
「そうですね……料理に入れた数がそんなに多くなかったので早く戻った、とかですかね?」
「あぁ、ありそうだな。まぁいずれにせよ元に戻ってよかったよかった」
盗賊Cが心なしかホッとした顔をしています。
やはり内心では少女の力が上がっていたことにビビっていたのでしょう。
少女は終わったことには興味がないのか、あっさりとした態度で立っています。
「まぁいいわ。そろそろ出発するわよ」
「ちょっと待てお嬢。今片づけと準備するから」
盗賊Cは慌てて片づけを始めました。
「……あの、よかったんですか?」
調理器具の片づけを手伝ってる青い髪の青年が、おずおずと少女に尋ねます。
片づけが終わるのをクロを撫でながら待っていた少女は首を傾げました。
「何が?」
「その、これから魔王のところへ行くんですよね? なら、強い魔物がいっぱいいると思いますし、活力のキノコをたくさん食べておいた方が──」
「いらないわ」
「でも……」
心配そうに少女を見る涙目の青年。少女は真っ直ぐに見つめて力強く言い切ります。
「私は強い」
無言で目を見開く青年に、少女は綺麗な笑顔を向けました。
「だから、そのキノコの力を借りなくても大丈夫なのよ」
「……そう、ですか」
『うむ。それに心配せずとも、主は我々より強いぞ?』
「えっ」
クロの一言に青い髪の青年は呆然としています。
「お嬢ー、準備終わったぞ」
会話が途切れたところで、盗賊Cがまとめ終わった荷物を持って少女に声をかけました。
「さあ、魔王のもとへ行きましょう」
少女は一同を見回し、宣言しました。
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