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64.脳筋少女、キノコを食べる。


「あぁぁっ! 倒れた!」

「あら、どうしたのかしら?」

「まぁ……クロたちが大きくなった時から涙目だったけどなぁ。トドメは……」


 盗賊Cは、ちらりと少女を見ます。

 どうやら少女の発言が衝撃的で気絶してしまったようです。しかし、盗賊Cと目があった少女は不思議そうな顔をするのみでした。自覚は無いみたいです。

 青い髪の青年から視線を外した少女は、緑色の魔物を指差しました。

 どうやら先ほどのクロの威圧で緑色の魔物は気絶していたようです。ぐったりとうつぶせになっています。


「こっちはどうするの? 起こす?」

「いや、面倒だからこのままでいいと思う。……とりあえず、起きても暴れないように縛っておくか」


 拳に息を吹きかけながら聞いてくる少女に、微妙な顔をした盗賊Cは、荷物に入っていた縄でさっさと緑色の魔物を縛り始めました。




 盗賊Cが緑色の魔物を縛っているのを横目に、クロと火竜の長は青い髪の青年を心配そうに見ていました。


『びっくりさせちゃって可哀想なことをしちゃったかしらぁ』

『うむ、そうだな。起こして謝るか』


 頷いたクロが大きな前足でそっと青い髪の青年を揺すります。


「ちょっ、クロ!?」

「うぅ……ん」


 その光景が見えた盗賊Cは、止めようとしましたが、間に合いませんでした。

 揺すられる感覚に意識が浮上した青年がうっすらと目を開くと、クロの笑顔が映ります。


『起きたか? よかっ──』


 青い髪の青年は、そのまま目を閉じました。



***



『すまなかった』

『ごめんなさいね』


 しゅんと項垂れるクロと苦笑しながら謝る火竜の長。

 あのあと、青い髪の青年は二度気絶して、三度目にしてやっと現実を受け入れました。早い方です。

 まだちょっと涙目ではありますが、謝る二匹に「だ、大丈夫ですから。こちらこそすみません」と言ってペコペコ謝っています。


 “なんだかんだで結構根性あるよなー”と盗賊Cは考えつつ、ずっと謝りあっている両者を止めました。




「さて、お腹が空いたわね」

「お嬢……」

「だって、動くとお腹が空くでしょう?」

「まぁそうだけど」


 青い髪の青年の悲鳴を聞いてからここまで、それなりの運動量がありましたから、少女がお腹が空いても仕方ありません。

 盗賊Cが“さてどのくらい食料を出そうか”と考えていると、「あの……」と声がかかりました。


「どうした?」

「その、助けていただいたお礼に僕に食事を作らせてもらえませんか?」

「え?」

「お願いするわ」

「え?」

「ありがとうございます!」


 盗賊Cが戸惑っている間に、少女が返事をしてしまいました。




 青い髪の青年は、“黄金の筋肉亭”で働いているだけあって、料理が得意なようでした。

 簡易的な調理器具で作っているのですが、先ほどからジュウジュウじゅわじゅわと、いい匂いと音がしています。

 少女がそばにいると、すぐつまみ食いをしようとするので、盗賊Cは少女とクロに「新鮮なお肉を狩ってきてほしい」と頼みました。

 そうして狩ってきた巨大な“大牙猪”を見て、青年が半泣きになった場面などもありましたが、無事に料理が出来上がりました。

 さて食べようというところで、少女が待ったをかけます。

 見たことがないくらい真剣な表情で、少女は口を開きました。


「クロ、火竜の長」

『なんだ主』

『なぁに?』

「小さくなりなさい」


 少女の言葉に首を傾げつつも二匹は言われた通りにします。

 小さくなった二匹を優しい手つきで撫でながら、少女は綺麗に笑いました。

 思わず見とれてしまうような微笑みです。


『どうしたんだ?』

「クロ、知ってる?」

『……?』

「ご飯はね、小さくなった方がいっぱい食べられるのよ」

『!!!』


 クロは衝撃を受けた表情になりました。

 盗賊Cたちは真剣に聞いていた分ガクッとしましたが、クロは『本当だ……』と呟いているので感動したみたいです。瞳をキラキラさせています。

 少女は満足そうに一つ頷きました。


「さぁみんな、冷めないうちに食べましょう」

『うむ!』

「あぁ……食べるか」

『そうね。食べましょう』

「はい。食べてください」


 なんだか脱力しながらも料理を口に入れた瞬間、少女一行は目を見開きました。


「美味しいわ!」


 と言うなり、少女の手の動きが五倍になりました。


「おかわり」

「早っ!! お嬢、ちゃんと噛むんだぞ?!」


 オカンのようなことを言いながらも、盗賊Cはおかわりをよそってあげます。少女が食べ尽くす前に、と盗賊Cも食べる速度を上げます。


『これは美味いな』

『ホントね! なんだか力が湧いてくるワァ』

「ありがとうございます。あ、皆さんに食べてもらおうと“活力のキノコ”を入れたので、そのせいかもしれません」

『これが“活力のキノコ”の効果か……』


 青い髪の青年に向かって尻尾を振るクロに、頬に前足を当てながら味わう火竜の長。

 青年とクロたちが食べながら会話している間も「おかわり」「だから早いって」「おかわり」「噛んでるの!?」という、よくあるやりとりをする二人。

 料理は瞬く間に平らげられました。


 最後の一口まで綺麗に食べたあと、少女は満足そうな表情でお腹を撫でます。そして首を傾げながら言いました。


「なんだか力がみなぎってくるわ」


 周囲の時が止まりました。



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