63.脳筋少女、○○に会いに行くことにする。
『オ、俺ハ何モ知ラナイ!!』
クロに踏まれながら叫ぶ魔物に、火竜の長は冷たい眼差しを向けました。
『シラを切ろうって言うノ?』
『何ノ事ダカ分カランナ!』
『……我は気が短いのだ。とっとと吐いてもらおうか』
クロが苛立たし気に問います。ですが、緑色の魔物は冷や汗をダラダラと流しながらも口を割りません。
『フン。ソモソモ黒狼族のオ前ガ────グエッ』
クロは踏みつける力を強くしました。カエルが潰れたような声を出す魔物をさらに踏みつけます。ぐりぐり踏みつけられた緑色の魔物は、なんとか抜け出そうともがきますが、しばらくすると力尽きたようにぐったりとしました。
『余計なことはいい。我の訊いたことにだけ答えろ。まず、お前はこの“活力のキノコ”を魔王の命令で採りにきた。そうだな?』
『ググゥ…………ソウダ』
観念したように唸りながら返事をしました。クロは踏みつけを少し緩めて二つ目の質問に移ります。
『次に、このキノコの効能をどこで知ったんだ? 我はこんなキノコがあるなんて知らなかったぞ?』
『ワタシも知らなかったワァ』
『……魔王サマガ、ゴ存知ダッタノダ』
少し間が空きましたが、正直に答えた緑色の魔物にクロは一つ頷きました。
『では、“活力のキノコ”を食べて何をするつもりだった?』
『…………』
『ウフフ、黙りは認めないワヨ。素直に話してちょうだい?』
『グッ……勇者ガ、近クマデ来テイルト情報ガ入ッタノデ、戦力ヲ増強シヨウトシタノダ』
目的を訊いた途端に口が重くなった魔物に、火竜の長が自慢の爪を見せてあげました。美しく煌めく竜の爪。緑色の魔物は息を呑み、すぐに話してくれました。火竜の長は自慢の爪を引っ込めます。
その様子を見て、静かにクロが口を開きました。
『ふむ。……では最後の質問をしよう。前魔王と戦ったときに、このキノコの力を使っただろう』
『ソ、ソレハ……』
ザッと血の気が引き青ざめる魔物。
顔色が悪くなりすぎて青緑色になった魔物は、答えを口に出してはいませんが、態度で肯定してしまっています。
な、なんということでしょう!
本来なら一対一で戦う魔王の代替わりに四天王と一緒に不意討ちしただけでも許されないのに、“活力のキノコ”を使って能力を強化した上で戦ったのです。
クロの足にギリギリと力が加わっていきます。
『ツ、ツブレル!! ヤメテクレ!!!』
『代替わりに際し、複数で不意討ちをする卑怯者なお前たちが、さらに能力強化までしていた……と。そういうことなのだな?』
低い低いクロの声が辺りに響きました。低い声には怒りが込められているようです。重苦しい圧が周囲に広がりました。
盗賊Cと青い髪の青年が、顔を歪めます。それに気づいた火竜の長がクロを制止する前に、凛とした声が響きました。
「クロ、落ち着きなさい」
『主……』
少女は、力強い眼差しでクロを見つめました。
重圧が霧散します。盗賊Cと青い髪の青年はホッと息を吐きました。
クロの鼻先を撫でてあげながら、少女はゆったりと声を出します。
「許せないのね」
『主?』
「だから、怒っていたのでしょう?」
『……そうだ』
クロの言葉を聞き、少女は鮮やかに笑いました。
「決めたわ」
「……なにを?」
唐突な少女の宣言に、慣れてきた嫌な予感がしつつも盗賊Cは恐る恐る尋ねます。
「魔王に会いに行くわ」
青い髪の青年が気絶しました。




