62.脳筋少女、四天王に事情を聞く。
ゴッと鈍い音が辺りに響きました。
反射的に盗賊Cが頭を押さえます。どうやら音だけで痛くなったようです。
『グギャア!!』
そして、実際に殴られた緑色の魔物も頭を押さえて地面をゴロゴロと転がりました。とても痛そうです。
「起きた?」
『グ……オ前ハ……』
緑色の魔物は混乱しているようでした。
少女はにっこりと笑いながら、魔物の前にしゃがみこみます。
「生きていてよかったわ。早速だけど、なぜここにいるのか教えてくれる?」
「誰ガ人間ナドノ言ウコトヲ聞クカ!」
「そう。困ったわね……」
少女は首を傾げながら、先ほどと同じ場所に拳を降り下ろしました。
ゴツンッ!!
『ウグァッ』
「素直に教えてほしいわね? でないと……」
『マァ待テ、早マルナ! 今言ウトコロダッタンダ!!』
ため息を吐きながら再度拳を固める少女に、緑色の魔物は慌てて答えます。
少女の拳骨が効いたようで、今度は素直に喋りだしました。
『俺ハ、魔王様の命令デ“活力ノキノコ”ヲ探シニキタノダ』
「へぇ……なぜそのキノコが必要なの?」
『ソレハ…………』
緑色の魔物が言い淀みます。何か魔物側の事情があるようでした。言いたくなさそうです。しかし少女が手の運動を始めると、辺りをキョロキョロ見回した後で、観念したのか口を開きました。
『ソノ“活力ノキノコ”ヲ食ベルト、能力ガ一時的ニ上ガルンダ』
「能力?」
『身体能力ヤ魔力ガ向上スル』
「ふぅん」
少女は普通の顔で頷きましたが、近くで聞いていた青髪の青年は、「え、そんな効力がありましたっけ?」と呟いています。
青年の横にいた盗賊Cがその呟きを拾いました。
「普通はそんな効果がないのか?」
「は、はい。確かに食べると元気になるような気はしますが……。物凄く美味しいただのキノコだと思っていました」
「物凄く美味しい?」
少女が素早く反応していました。あまりの勢いにビクッとしつつも青髪の青年は大きく頷きました。
「このキノコはとても美味しいですよ」
青髪の青年の言葉に、少女は重々しく頷きます。
「そう。なら、この魔物が言うことが本当か、検証してみましょう」
真顔で提案する少女に、盗賊Cたちは“ただ食べたいだけだろう”と思いましたが、検証してみるのは悪くないと考えたので口には出しませんでした。
『マ、待テ! 全部話シタンダカラ、俺ハモウ用済ミダロ!? 逃ガシテクレナイカ』
『そもそも、四天王であるお前が、何故自分だけでこんな場所にキノコを採りにきてるんだ。普段は手下を使ってるだろう?』
『それ、ワタシも気になるワァ』
『…………』
図々しく逃がしてくれとわめきだした魔物に、クロと火竜の長が気になっていたことを訊きます。すると、突っ込まれたくない部分だったのか、とたんに口を閉じてしまいました。
そのいかにも何かあるという態度に、クロと火竜の長が目を合わせます。
『確か、魔王に命令されたと言ったな……まさか』
『エ、それって……』
クロがハッと何かに気がついたように目を見開きます。そして火竜の長も気がついたのか、同じように目を開き、少し顔色が悪くなりました。
その様子に焦ったのは緑色の魔物です。
『ナ、何ダ。何ガ分カッタト言ウノダ。ソモソモオ前タチ誰ダ』
『ほぉ……我らの顔を見忘れたか?』
『あらまぁ、酷いわネェ』
クロと火竜の長は意地の悪い表情で笑いました。確認のため、少女の方を見ると、イイ笑顔で頷かれます。二匹は子犬と蜥蜴の状態からぐんぐん大きくなり、元の姿に戻りました。
『オ、オ前タチハ……!』
緑色の魔物の前には、黒い毛並みの美しい魔狼と炎の赤に彩られた火竜がいました。呆然と見上げている緑色の魔物をクロがその巨大な足で踏みつけました。
『グゥ!!!』
『さぁ、すべてを吐いてもらおうか?』
クロが歯を剥き出しにして笑うと、緑色の魔物はブルリと震えました。




